潰瘍性大腸炎の発症後、資格を取って「司書」に-本を通じて人とつながる仕事の楽しさ
ライフ・はたらく | 2022/1/31
念願だった、海外での日本語教師デビューから約1年半後、突如、潰瘍性大腸炎を発症したランさん。現在は、日本の医療施設の司書として働いています。司書としてキャリアのスタートは約7年前。きっかけは、ある図書館館長との出会いからだったそう。発症後の体調を考えながら、通勤や仕事内容、シフトを工夫するなどし、少しずつ自信をつけてきました。そんなランさんのこれまでをお聞きしました。
ランさん(潰瘍性大腸炎歴8年/34歳)
このストーリーのあらすじ
医療系施設の司書、仕事の7割はデスクワーク
――医療系の施設で司書さんとして働いているそうですね
ランさん: 病院と研究施設のある医療機関で週4日ほど、非常勤で働いています。研究施設の司書として、全国の大学や病院などと連絡を取り合って資料を入手したり、電子ジャーナルの管理、冊子体雑誌の登録など、パソコンを使った業務が多いです。病院の患者さんと付き添いの方が利用できる「患者図書室」の本の管理も行っています。
――司書の資格は、学生の時に取得されたのですか?
ランさん:: 司書の資格は、潰瘍性大腸炎発症後に取得しました。通信制大学の授業を受け、レポート提出などをがんばって単位を取得し、2年ほどかかると言われているところを、なんとか1年で取得しました。
――本棚の整理など、司書さんは立ち仕事が多いイメージですが?
ランさん: 今の職場(医療施設)の前は、公共図書館に勤めていました。そこでは、本の整理などの立ち仕事や、幼児向けの絵本の読み聞かせなども担当していました。一方、現在の職場は7割近くがデスクワークです。
タイ・バンコクで発症、治療に専念するために離職し帰国
――潰瘍性大腸炎発症前はどんな仕事をされていましたか?
ランさん: タイのバンコクで日本語教師をしていました。大学院で日本語教育を学んで、2012年の4月に念願かなって現地に着任、いざこれから、という心境でした。職場の学生たち、先輩方にもよくしていただきました。
――潰瘍性大腸炎を発症した頃の様子を教えてください。
ランさん: 着任の翌年、2013年の9月頃からお腹の不調があり、病院で診てもらっても良くはならず。そのうち、発熱や粘血便、体重減少、貧血などの症状も出てきたので、11月にタイの病院で胃カメラ、大腸内視鏡などの検査を受けました。その結果、中等症の潰瘍性大腸炎と診断されました。
――診断後、どのような経過でしたか?
ランさん: 経口ステロイド、免疫調整薬、5-ASA製剤などの治療を受けましたが、良くなる兆しがなく、治療が進むにつれてステロイド抵抗性の難治性かもしれないことがわかりました。その際に医師から、「生物学的製剤での治療が必要となる可能性がある。治療費やタイで生物学的製剤の治療を行うリスクも考慮すると、再検査を含め、日本で行った方が良いだろう」と、提案されました。
日本で治療を受けるということは、休職か離職かを選択しなければなりませんでした。夢かなって就けた仕事で、やりたいことはたくさんあったので、とても悩みました。休職となれば1か月程度と言われたのですが、1か月で復職できるようになるかはわかりません。家族とも相談して、治療に専念することを優先し、離職する道を選び、日本に帰国しました。
――日本に帰国後はどのように過ごされましたか?
ランさん: 12月に帰国し、改めて検査を受け、入院治療が始まりました。日本に戻ってからは意外にも短期間で症状が改善して退院できたので、お正月は自宅で過ごすことができました。
その後、体調が安定してきたので、恩師の紹介で外国語教育関連の団体での事務職のアルバイトを始めたのですが、再び体調を崩して入院となりました…。実は、この入院中に参加した臨床研究の治験薬が効いて退院できたのですが、その後、副作用で腎障害を起こしてしまい、再入院しました。
この時はさすがにメンタル的にもきつく、どうして私はお腹のことばかり考えているんだろう、と落ち込みました。周囲には、結婚したり、新たな目標に向かって進み始めた人もいて、つらい日々でした。
とある図書館の館長さんとの出会いから、司書に
――司書資格をとることになったきっかけを教えてください。
ランさん: その後の治療により少し症状が落ち着いてきた2015年の夏頃、ハローワークの難病患者就職サポーターに相談しました。何か仕事をしたいけど、ここ数年は治療優先で仕事に対する不安が大きく、誰かに相談しないと、という気持ちからでした。
難病患者就職サポーターさんが、「図書館で働ける人を探している館長さんがいるので、よかったら、話をしてみる?」と、ある図書館の館長さんを紹介してくれました。
館長さんは車いすユーザーの方で、病気に対して理解のある方でした。私の病気に対する不安をじっくり聞いてくださり、最後に、「あなたが働く上で、私たちはどのように支援をしたらいいですか?」と聞いてくださいました。
その言葉がものすごく、素直にうれしくて。「この方となら一緒に働きたい!」と気持ちが動きました。まずは契約社員として働き始め、並行して司書資格をとるための勉強をし、司書になりました。
――図書館での働き方で、病気に配慮して工夫されたことがあれば教えてください。
ランさん: 勤務する図書館は、自宅から電車で片道1時間ほどの場所にありました。私の場合、潰瘍性大腸炎による倦怠感があるため、通勤時間を調整してラッシュの時間を避けたり、バスでの通勤を受け入れていただいたりして、体力の温存に努めました。
また、2か月に1度の通院が必要であることを伝えたほか、規則正しい生活をして再燃を予防するため昼間のシフトに固定してもらったり、立ち仕事が長くならないように配慮していただきました。その分、主婦のパートさんなどが入りにくい土・日のシフトに進んで入る、イベント開催時は積極的に担当になるようにしていました。
今の職場は医療機関ですが、採用面接の時、面接担当者だった今の上司から「(自分は健康そのものだから)病人の気持ちがわかる人はすごくありがたい」と言われました。病気はつらいことが多かったけれど、病気の経験を生かして誰かの役に立てるのだ、と自信につながりました。
周囲に配慮を求める時は、自分に何ができるかを提示して、できることは積極的に取り組む姿勢が大事だと思っています。無理なく働けるような仕組みを、できるだけ周囲の方にも納得していただける形で作り、就労が続けられたことで、私は少しずつ自信を持てるようになりました。
IBD患者さんにお勧めの1冊は?
――司書さんであり、IBD患者さんでもあるランさんが、印象に残っている本がありましたら紹介していただけますか?
ランさん: 頭木弘樹さんの『食べることと出すこと』です。ご自身も潰瘍性大腸炎の患者さんで、食事と排泄に苦しむ様子が赤裸々に描かれています。「私に向けて書かれたんじゃないか」と思ったほど、共感するポイントが盛りだくさんです。途中、泣いちゃうところもありましたが、私は読み終えた時に、救われた気持ちになりました。一度読んでみてほしいなと思います。
今後はフルタイムも視野にステップアップ
――最後に、同じIBDの患者さんへ一言お願いします。
ランさん: 本を通じて、人とつながれる今の仕事はとても充実しています。今後は、勤務時間を増やし、フルタイム勤務も視野に入れてステップアップしていきたいと思っています。
病気の経験を話すことは、暗くなりがちだけど、私はあえて楽しく話をするように意識しています。つらいことだったとしても、その中にも楽しいことや面白いことはあるはずです。自分が楽しく伝えれば、自分もつらくならないし相手にも興味を持って聞いてもらえるかなと。新たな始まりにつながるきっかけも、そんな中から生まれてくるのかなと思います。
(IBDプラス編集部)
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