クローン病のベテランオストメイトが語る「ストーマちゃんとの上手な付き合い方」

ライフ・はたらく2022/9/28

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事故や病気でおなかに排泄するための「ストーマ(人工肛門・人工膀胱)」を造設した人たちのことを「オストメイト」と呼びます。炎症性腸疾患(IBD)患者さんにも、痔瘻などによる肛門機能低下や、腸管を休める目的でストーマを造設したオストメイトの方や、ストーマにするか検討中という方がたくさんおられます。そこで今回、女性オストメイトの方が集う患者会「ブーケ(若い女性オストメイトの会)」の協力を得て、クローン病歴31年のベテラン患者さんでオストメイト、声優や女優としても活躍中の真山亜子さんに、ご自身の経験から得た「ストーマと上手に付き合うコツ」を伺いました。

ブーケ(若い女性オストメイトの会)

若い年代の女性オストメイトの「恋愛・結婚・妊娠・出産・日常生活」といった悩みを相談できる場の提供を目指し、1999年に発足。2022年現在、全国に400人を超える会員がいる。年に数回会報を発行、会員専用メーリングリスト、会員対象アンケート(実施翌年に冊子として発行)などを行う。コロナ流行前は東京を中心に、名古屋、京都、神戸など、各地で座談会や食事会などのイベントも実施していたが、コロナ禍においてはオンラインにて交流会を開催している。会員随時募集中。

ある日突然、ストーマに…。身にしみて感じた「ストーマ外来」の重要性

――クローン病である真山さんが、ストーマ造設に至った経緯を教えてください

クローン病と診断されて10年くらい経った頃でしょうか。ひどい下痢が続いて入院していたのですが、数日経って、ものすごくおなかが痛くなってCT検査をしたところ、腹膜炎を起こしていることがわかり、すぐに手術をすることになったんです。その時に「人工肛門になるかもしれない」という話はあったのですが、そうはならずに手術は終わりました。

しかし、安心したのも束の間、意識が戻ってICU(集中治療室)でしばらく過ごしていると手足がしびれてきて…意識はまだあったのですが、看護師さんが先生に「血圧触診で測れません!」と叫ぶ声が聞こえました。その頃、「ER緊急救命室」という海外医療ドラマの黒人看護師ヘレエ・アダムスの吹き替えを担当していたのですが、命に危険のある患者さんに対してヘレエが「血圧触診で測れません!」って言うセリフがあったんですよ。だから「なにー!? ヤバいじゃん!」って思いましたね(笑)。先生が「麻酔科呼んで!」と叫び、また全身麻酔をされて、2度目の緊急手術となり、目が覚めたらストーマになっていました。

計画的な手術の場合は、あらかじめストーマの説明や、そしてストーマの「位置決め」が行われるそうですが、私の場合は緊急手術だったので、位置などは決められませんでした。そのため、大腸と小腸のストーマを造設したのですが、ストーマ同士の間が狭くてパウチがきちんと貼れず、最初の頃は大変でした。思い通りにいかなくて、ストーマという2人の子どもの育児をしているような感じでしたね。

――「ストーマ外来」に通うようになってから、状況がかなり変わったそうですね

ストーマになったのは今から20年くらい前ですが、当時私の入院していた病院にはストーマ外来がなくて、医師や看護師さんもイレギュラーのストーマケアの仕方がわからず、手探りでやっているような状態でした。その後しばらくして、病院に出入りしている装具の業者さんにETナース(ストーマケアを専門とする認定看護師)を派遣してもらえることになり、パウチの貼り方など、基本的なストーマケアについて教わりました。

でも、ストーマに関する悩みが一気に解消されたのは、数年前に通院している病院に「ストーマ外来」ができてからですね。それまでは漏れるのが当たり前だったのですが、WOCナース(Wound(創傷)、Ostomy(オストミー)、Continence(失禁)などの排泄管理や患者・家族のセルフケア支援に関する専門知識を持つ認定看護師)さんが、熱心に指導してくれるようになりました。

私の場合、ストーマ付近にずっと潰瘍ができていて、そこが溝のようになっていました。そのため、溝も含めて大きく穴をあけて装具をつけていたんです。ところが、そのWOCナースさんからは「ピッタリのサイズにして、ギュッと5分くらい押さえつけるように装着して」と指導されました。その通りにやったら、それまでストーマの周りにドーナツ状にできていた溝が、3分の1くらいに塞がったんです。おそらく、それまでは常にストーマから排出される酸性の便に溝がさらされているような状態だったのに対し、ピッタリのサイズにして周辺を皮膚保護剤で埋めることで、便が溝に直接触れなくなり、治ってきたんだと思います。

また、ストーマ外来にはいろいろな装具が揃っており、その中から合いそうなものを選んでもらうことができ、実際に試すことができます。私もWOCナースさんのアドバイスを受けながら、自分にピッタリの装具を見つけることができました。それまでは「右向きに寝たら漏れるかもしれない」と、常にどこかで気にしているような状況でしたが、今は自分に合った装具と装着方法が見つかったので、快適に眠ることができています。また、イレオストミー(回腸ストーマ)水様便となり、漏れやすいので、WOCナースさんに便を固める薬を提案してもらい、ドクターに処方してもらっています。

ストーマを造設したばかりの方はもちろん、ストーマに関する悩みが解消できずにいる方は、一度「ストーマ外来」を受診してみることをお勧めします。

食事で気を付けるべきポイントやファッションを楽しむコツは?

――普段の食生活で工夫していることがあれば教えてください

食べられるものは人それぞれ違うと思うので、まずは自分に合わないものをきちんと把握しておくことですね。例えば、私はインスタント食品なども食べますが、大丈夫なものとダメなものがあるので、それらは経験の中で覚えていきました。

あとは、コース料理など、どんどん美味しいものが出てくると、ついつい全部食べてしまい、パウチがパンパンになってきてしまって、途中で席を立ったこともあります。なので、私はできるだけワンプレートや定食のように、何がどれくらいの量あるのか、一目でわかるようなものにしています。コース料理なども、自分の適量をわかって間引きながら食べれば良いかと思います。ストーマの種類によっては、たくさん食べても大丈夫という方はいると思います。

それと、これはWOCナースさんに教わったんですが、調子が悪いときにおかゆを食べることがありますが、実はおかゆで下痢をしやすいこともあるそうです。私はまさにこのタイプだったようで、普通のご飯をよく噛んで食べた方が下痢をしにくくなりました。あとは、具合が悪い時でいうと、「低残渣(食物繊維が少ない)」も意識した方がいいかもしれませんね。やはり残渣が多いものは、出る量も多いですから。

「食べる量」も重要です。私が舞台に立つ時は、本番の前は、おにぎりやゼリー飲料だけにしています。外食でも、普通の人が10食べるとしたら、7くらいに抑えるイメージですかね。夫と一緒の時は分けられるので問題ありませんが、1人だと残さざるを得ないので、できるだけ馴染みのお店に行って、最初から量を減らしてもらうようにしています。あとは、一度に食べる量にも注意が必要です。ついドカ食いしてしまうと漏れてしまうことが多いので…。「もう食べたけど、食べずにはいられない!」という時は、エレンタールで調整する時もあります。

「食べる時間」も意識しています。家にいるときは17時頃までには夕飯を食べるようにしていますね。それでも早朝の5時くらいには、わりと溜まっていることがあります。今は体力が戻ってきているので目が覚めますが、体力がない頃は漏らしてしまってから目が覚める…なんていうこともあったので、介護シーツを敷いたり、慣れるまでは掛布団が汚れないよう、おなかにタオルケットを巻いたりして寝ていました。

――水分やアルコールに関してはいかがでしょうか

イレオストミー(小腸の一部である回腸のストーマ)は、水分を取っていても脱水になってしまうことが多々あります。ですから、水分は特に意識して摂取するのが良いと思います。また、私はお酒を飲めないのでわかりませんが、アルコールは脱水になりやすいと聞いているので、飲み過ぎには注意した方が良いと思います。また、ビールは飲み過ぎるとパウチがパンパンになってしまうそうなので、気を付けてくださいね。そうは言っても、お酒が好きな方は多いですし、仕事柄飲みに行く機会が多いという方もいらっしゃいますよね。居酒屋は、お酒に加えてメニューも脂っこいものが多いので、食べる物にも気を付けるといいですね。荷物が増えて嫌かもしれませんが、いざという時のために「ストーマ装具一式、ティッシュ、下着、ビニール袋等」は絶対に持って行くようにしましょう。

――初心者にオススメのファッションがあれば教えてください

女性の方なら、ふわっとしたチュニックみたいなワンピースをお勧めします。その下にレギンスやパンツを履いておけば、失敗してしまっても下を脱ぐだけで良いので、安心だと思います。

――真山さんは、どのようにおしゃれを楽しまれていますか

私は着物を着て舞台に立っていますが、ストーマになりたての頃、洗えるベルト1本で着られる着物を見つけて、最初はそれを着ていました。でも、慣れてきてからは、休憩中に一度脱いだり、帯の位置を変えたりと、楽しむ工夫をすることで普通の着物も着られるようになりました。

性格上、「もう着物は着られないんだ」とは考えませんでしたね。劇団員の頃、とても貧乏だったので、「なければどうする?」という風に考える癖がついているんです(笑)。「こうしたら食べられる」とか、「こうすれば着られる」とか、工夫してできるように考えています。「泣き笑いストーマ物語」という紙芝居仕立ての講演を聞いた方から、「ストーマになって着物を諦めていたけど、また着物を着て三味線が弾きたくなった」と言ってもらえた時は、本当にうれしかったですね。

ストーマ紙芝居

真山さんのストーマ体験をストーリー仕立てにした紙芝居「泣き笑いストーマ物語」絵・構成 岡田潤

自分だけの「法則」と「理解者」を見つけることが大切

――ストーマ初心者の方へ、アドバイスをお願いします

ストーマになりたての頃は不安なことも多いですよね。私が個人的に知っておいた方がいいと思うことを、いくつかご紹介します。

真山流 ストーマ初心者が知っておくべき5か条

  • 入院中にいろいろ食べてみて、合うもの・合わないもの・食べても大丈夫な量など、自分なりの法則を覚える
  • 「ストーマ装具一式、ティッシュ、下着、ビニール袋等」は常に持ち歩く
  • 電車通勤している人は慣れるまで満員電車は避ける(漏れる恐れがあるため)
  • 大事な場面では食べる量を少し控える
  • 一部の人にカミングアウトしておくといざという時に助けてもらえる
とは言え、どんなに気を付けていても漏らしてしまうことがあるかもしれません。私もそうでした。とてもビックリしますし、ストーマであることを知らない人の前や会社で漏らしてしまったりすると、とても傷付くと思います。でも、そんな人たちに言ってあげたい。「大丈夫、あなただけじゃないよ!仲間はいっぱいいるぞ!」って。

あなたを丸ごと受け入れてくれる仲間は必ず見つかる

――最後に、IBD患者さんへメッセージをお願いいたします

私の記事を読んで「私とあなたは違う。あなたはできても私はできない」と思う人もいると思います。実は私もそうで、弱っている時に元気な友達に「頑張れ!」とか言われても「無理…」となってしまいます。弱っている時は、頑張っている人を見て「あの人みたくにならなくちゃ」なんて思う必要はありません。今輝いている人も、すごく落ち込んで弱っている時期があったはずです。だから、「私は今弱っているだけなんだ」と丸ごと受け入れて、弱っている自分をたくさん可愛がってあげてください。

私もどん底時代が長かったけど、人間って忘れちゃうものなんですよね。周りの人は「もうダメかと思ってたけど、戻ってきてくれてよかった!」とか言ってくれるんですけど、「え~!もうダメかと思ってたの?」って言えるくらい忘れてるんです(笑)。だからつらいときは、「こんなに汚い部屋のままでは死ねない!」とか「この先元気にならなくても、1つくらいいことあるかも?」くらいの気持ちが持てれば十分だと思います。

役者や声優の仕事をしていますが、普段は自分を「ただの病人」と思ってしまいがちです。入院中であればまだしも、何もせずに家にいる時は「ただのグータラ」って、自分を蔑んでしまう時もあります。でも、お仕事が入れば途端に「おはようございます~!」と、別人のように元気になれるんです。人は、外圧がかかるからこそ動けるという面もあると思います。だから、病気で誰にも会いたくない気分でも、本当に「独りぼっち」にだけはならないでください。近くに病気のことを理解してくれる人がいなければ、IBDプラスのようなサイトを利用して、誰かとつながってみてください。あなたを丸ごと受け入れてくれる仲間が、必ず見つかると思います。

(IBDプラス編集部)

真山亜子さん
真山亜子さん(クローン病歴/31年)
声優、舞台女優、若い女性オストメイトの会 ブーケ サブスタッフ。32歳でクローン病・ベーチェット病との診断を受け、42歳でオストメイトとなる。ハスキーな声を活かし、アニメ「ちびまる子ちゃん」杉山くん、「ワンピース」ココロ・ニョン婆、「忍たま乱太郎」乱太郎のかあちゃん、「美味しんぼ」田端絹江、「精霊の守り人」トロガイ、「やくならマグカップも」土岐川幸恵などの声や、「E.T.」(2代目)、「ER緊急救命室」看護師ヘレエ、「スタンド・バイ・ミー」テディなど、洋画や海外ドラマの吹き替えを多数担当。2004年に水墨画家の岡田潤氏(水墨画家・児童文学作家)と「あッこりゃまた一座」を旗揚げ。岡田潤氏の脚本、絵で創作紙芝居も不定期に行い、座長として、クローン病やオストメイトになった自身の体験をもとにした紙芝居「泣き笑いストーマ物語」をはじめ、講演や朗読劇を開催。譚倶楽部で時代小説語りの公演も行っている。

Twitter: https://twitter.com/akomayama
ブログ:https://blog.goo.ne.jp/sutomachan

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