仕事はもっと自由でいい。僕が見つけた「理容師配達員」という働き方
ライフ・はたらく | 2023/2/15 更新
今回の「仕事・はたらく」でご紹介するのは、フリーランス理容師のタカさんです。かつてはメンズ専門ヘアサロンの理容師として働いていましたが、潰瘍性大腸炎発病後、思い切ってフリーランスの道を選び、副業でUber Eats(ウーバーイーツ)配達員(以下、ウーバー配達員)もしています。一度は理容師を辞め、別の道を模索したこともあるというタカさんが「自分に合った働き方」を見つけるまでの道のりを、詳しく伺いました。
タカさん(26歳/潰瘍性大腸炎歴4年)
このストーリーのあらすじ
ある日突然、潰瘍性大腸炎に…泣く泣く理容師を辞めることを決意
――理容師を目指したきっかけを教えてください
中学3年生の頃から周りの友達の影響もあって髪の毛をいじるのが好きになり、毎朝30分以上かけてセットするのが日課になりました。自分のヘアスタイルが決まってカッコ良くなるのが本当に嬉しかったですね。高校は情報処理科だったのですが、一貫して「理容・美容業界」の進路ガイダンスに参加していました。
――高校卒業後は理容・美容専門学校に進まれたのでしょうか?
その道に進みたいという気持ちは全く変わらなかったのですが、親から「うちは大学も専門学校も行かせられない」と言われていたので、半ば諦めていました。そんなある日、いつも行っているヘアサロンで、「こういう仕事に就きたいけど専門学校には行かせられないと親に言われてるし、進路をどうしようか困ってるんですよね~」という話を軽い気持ちでしたところ、いきなり「じゃあ、うちで働きなよ!理容師の資格は通信教育で取れるよ」と言われたんです。通信教育なので学校に行くのは年に数回で、それ以外の日はお店で働きながら、家で勉強するというシステムでした。理容師免許がある同期に比べると安いけど、お給料ももらえるということでした。すごく嬉しくて、すぐに入社を決めました。働き始めてからは、昼間はアシスタントとして雑用をこなし、閉店後に友達を呼んで髪を切る練習という日々が続きました。その後、晴れて理容師免許を取得し、夢にまで見た理容師としてデビューしました。
――潰瘍性大腸炎と診断されるまでの経緯を教えてください
2018年、何の前触れもなく突然血便が出たんです。すぐに近所の総合病院で内視鏡検査を受けたのですが「腸に炎症があるね。潰瘍性大腸炎という病気もあるけど、まだわからない。おなかに優しいもの食べて様子を見て」と言われただけで、薬も出されませんでした。食事に気を付けて3週間くらいで症状は治まりましたが、その後も3か月周期くらいで血便が出ることがありました。そのうちトイレの回数が増え、腹痛も起こるようになりました。症状が出るたびに病院に行きましたが整腸剤を渡されるだけで、しばらくすると症状も治まったので、3回目くらいからは病院に行かなくなりました。
しかし、2019年の7月に体調が急激に悪化。食事をほとんど取れず、15分ごとにトイレに駆け込むような状態でした。その日は土曜日だったので休めず何とか出勤しましたが、接客中もトイレに駆け込むような状態で、全く仕事になりませんでした。何とか閉店まで耐えてすぐ病院に電話をかけ、唯一受け入れてくれた大学病院にタクシーで向かいました。そのまま入院することになり、8日間絶食。内視鏡検査をして数日後に、両親立ち会いのもと、潰瘍性大腸炎だと告げられました。
――確定診断がついて、どのようなお気持ちでしたか?
仕事が続けられるのかどうかが一番不安でしたね。母は病気や薬が寿命に影響しないのか、などと質問していました。その後、3週間入院しました。本当はもっと長く入院しなければならなかったのですが、新店をオーナーと2人で1年間担当することが決まっていたので、無理を言って退院させてもらいました。その後は2週に1回の通院と、ステロイド、リアルダ、ミヤBMを服用することになりました。オーナーに病気の説明をしましたが、「難病とか言っても、最後は気持ちでしょ!」という感じで、あまり理解していませんでしたね(笑)。最初はそんな雰囲気でしたが、退院後にもすぐに何回か症状が出たため、その状態を見ていくうちに、徐々に病状を理解しようとしてくれるようになりました。
遠回りをしたら見えてきた「働き方を変える」という選択肢
――潰瘍性大腸炎になって、一度理容師を辞めたと伺いましたが…
最初に入院した2019年の12月に、再び具合が悪くなって入院してしまったんです。年明けに復帰しましたが続けられるようなメンタルではなく、オーナーに「理容師を辞めようと思います」と伝えました。身体がつらすぎて、立ち仕事はもう無理だという気がしたんです。
そこから1年半くらい、いろいろなことをやりました。オリジナルの服のデザインをしたり、人と関わるのが好きなので、アパレル販売員や介護のアルバイトもやりました。とにかく興味があるものは何でも体験してみようと思ったんです。アルバイトの面接では潰瘍性大腸炎であることを毎回伝えていましたが、体調不良で欠勤が続くと気まずくなって辞めてしまうこともありました。そのうち、人間関係のストレスで具合が悪くなるように感じ始めました。ストレスを極力減らそうと、親友がやっている外壁工事の会社に入りましたが、数か月後にまた血便が出始め、2021年の8月にまた入院してしまいました。その時、親友から「もう25歳だし、そろそろ自分の道を決めた方がいいと思うよ」と言われ、やっぱり理容師がやりたいと思ったんです。
大好きな理容師という仕事を今度こそ長く続けたいと思い、フリーランスの理容師として働く方法を探しました。その結果、シェアサロンという形で、自分の店舗を構えず、場所をレンタルして、サービスを提供していくことにしました。固定客がつくまでは収入が厳しいと思ったので、理容師をやりながらできる副業も探しました。それがウーバー配達員だったんです。
理容師とウーバー配達員、無理なく両立するコツは?
――理容師とウーバー配達員との両立について、不安を感じませんでしたか?
副業でウーバー配達員をしている友達にいろいろ聞いていたので不安はありませんでした。僕の場合は、床屋の予約が入っていない時間に注文が入る状態にしておき、原付で配達しています。配達は近所のみにして床屋の予約を1時間前までとし、予約が入ったら床屋に戻る方法で、無理なく両立できています。
――とてもハードな感じがしますが、実際にやってみてどうですか?
自分には、とても合う働き方だと思っています。1人でやっているので、お客さん以外に気を使う必要がありません。うちはメンズ専門店ですが、男性は女性と違い直前に予約を入れる人が多いので、調子が悪い時は早めに休みを入れてしまうなど、上手くバランスも取れています。おかげさまで床屋のお客さんが増えてきて、最近はほとんど配達をしていません。ウーバー配達員は好きな時にできるので、閑散期などの安心材料にもなっています。
体調も、ステロイドがなかなかやめられずに苦慮しましたが、ステロイドをやめてゼルヤンツにしたところ、ようやく落ち着きました。今は普通の人と同じような生活ができています。食事も、徐々に豚肉やラーメンなどを試しておなかを壊さなかったので、最近は友達と外食したり、お酒も数年ぶりに飲みました。今のところ何ともないですね。
――2つのお仕事それぞれのやりがいと大変な点を教えてください
理容師で大変なのは「忙しいとほぼ休憩が取れない」という点ですね。土日は5分くらいしか休めないことがあります。でも、寿命があると言われる美容師に比べ、理容師は気に入ってもらえれば、お客さんと一緒に年を取っていけると言われています。僕は技術を磨くのはもちろんのこと、「丁寧」をモットーにやっています。リピートしてもらえると、自分のこだわりが通じたと思えますし、お客さんをカッコ良くすることに、すごくやりがいを感じています。
ウーバー配達員で大変なのは「注文が入らないと1円にもならない」という点と、トイレの心配ですね。僕の場合、調子が良い時でも食べてから2時間後に必ず腹痛が来るので、10時から配達する日は7時くらいに起きて朝ごはんを食べるようにしています。それでもおなかが痛くなった場合は、近くのコンビニや料理を取りに行ったお店にトイレを借ります。また、配達員のプロフィール欄に、自分が潰瘍性大腸炎であることを書いています。働く時間や日数は自由なので、病気があっても働きやすいと思いますよ。他にもいろいろな病気の人がさまざまな工夫をしながら、自分らしく働いているようです。
「この仕事は無理」と決めてしまう前に、いろいろな可能性を模索してみて
――これからチャレンジしたいことや夢があれば教えてください
自分の店を持つのが夢です。それと、病気になって4年間付き合った彼女にフラれてしまったので、彼女が欲しいですね。
――IBD 患者さんにメッセージをお願いいたします
「この仕事は無理」と決めてしまう前に、同じ業種で他の働き方はないか、電車通勤が不安なら自動車通勤が可能なところはないか、会社の近くに引っ越せないかなど、いろいろ調べてみると、可能性が広がるかもしれません。
すでに理容師や美容師として働き、毎日大変な人もいると思います。悩んでいる人は、僕のようにフリーで働くというのも選択肢の一つかもしれません。何かあった時に「そういえばフリーで理容師やっている人がいたな」と、思い出してもらえたら嬉しいです。今、調子が悪い人も自分に合う治療がいつか必ず見つかると信じて、あんまりネガティブにならず、頑張っていきましょう!
(IBDプラス編集部)
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