「経験」は全て自分のものに。検査キットの治験に参加して感じたこと
IBDの治験体験談 | 2022/7/27
※写真はイメージです
便潜血陽性と痔瘻でクローン病を疑われるも、確定診断には至らず
2013年に会社の健康診断で便潜血検査の結果が陽性になり、肛門科で大腸内視鏡検査を受けましたが、「特に所見はないので、しばらく様子を見ましょう」ということになりました。しかしその後、だんだんお尻が痛くなってきたので再度受診したところ、肛門周囲膿瘍と診断され、患部を切開したのち痔瘻となり、痔瘻の手術を受けることになりました。この時、主治医から「痔瘻になるのは高齢者が多く、あなたのようにまだ若い人がなる場合は、別の病気の可能性がある。たとえば潰瘍性大腸炎やクローン病という病気です。」と言われました。しかし、まさかそんな病気に自分がなるとは思えず、痔瘻の手術も成功したことから、あまり気にせずに過ごしていましたが、いつまで経っても瘻孔は塞がることはなく、一抹の不安を抱えていました。しかし、大腸内視鏡検査では炎症が見られず、腹痛や発熱などの自覚症状もなかったため、そのまま様子見の状態が続きました。
2017年、再び健康診断で便潜血陽性となり大腸内視鏡検査を受けたところ、炎症と生検による所見が付き、初めて「クローン病の疑いがある」と言われました。その後、IBD外来を持つ大学病院に転院して再度大腸内視鏡検査を受けたものの、所見に変更はなく、しばらくは5-ASA製剤と整腸剤で様子を見ることになりました。
「クローン病疑い」の頃に調べた知識が、確定診断後に役立った
体調に異変が出始めたのは2018年の7月です。トイレが近くなり、毎食後すぐにトイレに駆け込むようになりました。また、通勤中も何度か電車を降りてトイレに駆け込まざるをえなくなり、通勤が苦痛になりました。その後、就寝中に切迫性の便意を感じてトイレに駆け込むようになり、満足に眠ることができず、37度台の微熱が度々出るようになりました。
9月に入るとさらに体調が悪化。手術した瘻孔部の腫れと痛みでクッションなしでは座ることができなくなり、高齢者のような速さでしか歩けなくなっていき、熱も常に38度台で推移していました。また、1か月で5kgの体重減(通常時体重の約1割)により、会社の同僚から「痩せたよね?大丈夫?」と気遣われるくらいに痩せていました。その後、限界を感じて予定外で受診したところ、主治医がすぐに大腸内視鏡検査を決断し、肛門部~S状結腸に渡り、顕著な縦走潰瘍や敷石像が見られ、やっとクローン病と確定診断されました。検査中は、大量の鎮静剤を入れてもなお感じる激痛に苦しみながら、主治医と内視鏡映像を見ながら、これは明らかな縦走潰瘍や敷石像ですね、そうですね、ひどい状態ですね、というような会話をしながら、症状の酷さを認識することができたため、自分から「入院したい」と主治医に申し入れ、翌日から約20日間入院しました。
検査の後、主治医と今後の治療方針について話し合いました。クローン病の疑いがあると言われた時から調べていたクローン病の治療指針を踏まえ、自分の意思で「生物学的製剤」を選択することができましたし、短い入院期間で済ませることができました。それ以来、5-ASA製剤と生物学的製剤の治療により組織学的寛解に到達、維持できています。主治医からは指示はありませんが、自分への戒めの意味も含めて1日1本ですが、経腸栄養剤も飲み続けています。
診察中に主治医の口から突然出た「治験」の話
治験の話は診察中に突然いただきました(笑)。診察の際は、主治医に自分でまとめた症状のレポートを見せているのですが、その時に「そろそろ大腸内視鏡検査の時期ですね。今ちょうど便で腸の炎症を調べる検査キットの治験が行われているので、よかったら参加してみませんか?」と誘いを受けました。医師から詳しく話を聞いた上で、自分にとってもメリットがある誘いだと思い、その場で参加の意思を伝えました。診察後、治験コーディネーターから注意点などの説明を受け、参加同意書にサインしました。
通常の治験は、主治医や治験コーディネーターから参加できそうな治験を提示され、じっくり話し合って参加の意向を決めるものだと思いますが、私の場合は「大腸内視鏡検査の前日に便を取って、検査当日に持っていく」だけの簡単な治験で身体的なリスクもなく、検査結果のフィードバックを受けることができるメリットがあると考えられたため、特に参加を迷ったり、ためらったりする気持ちはありませんでしたね。
便を取って持っていくだけのはずが…思ったより大変だったことも
便の採取は検便の検査とほとんど同じで難しくはなかったのですが、便をカメラのフィルムケースの1.5倍くらいの大きさの検査容器の半分まで、検査容器内に付いたスプーンを使って入れる必要がありました。普通の検便よりも採取する量が多く、手につかないように気をつけながら、何度も採取しなければならなかったのですが、容器についているスプーンが短すぎて採取しにくくて苦労しました。そのほか、便を採取する際に便器に敷く紙の予備もなかったため、「もし紙を敷いたのに出なかったらどうしよう…」というプレッシャーもありました。
治験全体としては、当初の想定通り問題はなかったのですが、検査容器と検査のやり方は改善の余地があるように感じました。IBD患者は、排便回数が多い人もいれば、便意のみでなかなか出ずに苦しんでいる人もいるので、そういった実情を踏まえた改善により、検査へのハードルを下げることができると思うからです。
私が感じている治験のメリットは、参加者が検査結果を教えてもらえることだと思います。私も次の診察の時に教えてもらう予定です。また、大腸内視鏡検査の際に病変部位の組織を採取して、詳しく調べる「生検」を行うことも決まっていました。生検によりクローン病の確定診断の構成要素となる所見が付く可能性もあるので、その点もメリットと言えると思います。
「通常治療の選択肢がなくなったら治験に参加する」と断言する理由
今後、私が治験に参加するのは、「通常治療の選択肢がなくなった時」になると思います。治験ではプラセボに当たるかもしれませんが、少しでも良くなる可能性があるものはすべて試して、寛解させる可能性に賭けたいですし、やらないで後悔したくないからです。どんな状況になったとしても、生きることを諦めたくありません。
それに、運悪くプラセボに当たったとしても、数年後にその薬が認可され、自分も使えるようになれば、最終的には自分にとってもメリットがあるからです。
最後に、治験参加に対しては、「少しでも興味があれば、参加の検討や、内容の確認をしてみたらいいのではないか」と個人的には思っています。先の検査容器の話のように、参加してみて初めてわかることもありますし、参加した経験は自分のものになります。また、同じような病気を抱えている人の役にも立ちます。それに、参加できる治験は病院によって異なるので、治験への参加を迫られる前の段階から、主治医に治験に対する認識を持っておいてもらうことによって、未来の自分に提示される選択肢を広げられることにもつながると思うからです。
治験に興味をもった人は、一度主治医の先生に相談してみてはいかがでしょうか。
治験参加者のプロフィール
Nさん
- 年代
- 40代
- 性別
- 男性
- 病歴
- クローン病歴3年
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