【料理研究家・田中可奈子さんインタビュー】ノンオイルレシピで、IBD患者さんの人生を豊かに彩りたい

インタビュー2019/8/1

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IBD患者さん向けのノンオイルレシピ本を出版し、話題となった、料理研究家の田中可奈子さん。ご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか?いつも笑顔でキッチンに立つ田中さんですが、クローン病の息子さんをもつ患者家族でもあります。一度はご自身を責めて落ち込んだという田中さんが、今のように前向きに活躍されるようになるまでの道のりを語ってくださいました。

田中可奈子さん

田中可奈子さん

自宅で料理教室を主宰するかたわら、本や雑誌・新聞・TV・企業HPにレシピを提供。家族がクローン病を患ってからは、みんなでおいしいノンオイル料理を研究している。「クローン病・潰瘍性大腸炎の安心ごはん」「クローン病・潰瘍性大腸炎の安心おかず」「ノンオイルだからおいしいお菓子」「クローン病・潰瘍性大腸炎のノンオイルつくりおき」(すべて女子栄誉大学出版部)

食べるのが苦手だったのが一転、料理好き少女になった理由

――田中さんがお料理に興味を持ったきっかけを教えて下さい。

田中さん: 幼い頃は食べることが苦手で、お肉、しいたけ、アイスクリームなど、食べられないものがたくさんありました。それでも母は、毎日私のために一生懸命ごはんを作ってくれました。小学校に入ってから母の手伝いをするようになり、「苦手なお肉もミンチにして、ハンバーグにすれば食べられる!」とか、自分で作って体験していくうちに、食べられるものが増え、お料理に興味をもつようになっていきました。

田中可奈子さん

小学5年生の頃、友達を集めてクリスマスパーティーを開催しました。「クリスマスにケーキは欠かせない」と思い、初めてケーキ作りにもチャレンジしましたが、スポンジケーキはボロボロ…。それを隠そうと、チョコレートをかけたり、クリームをホイップしたり…。でも、それを食べた友達がすごく喜んでくれたんです。そのときに、「人に食べさせるって、こんなに楽しいんだ!」と、思いました。この体験を機に、自分でどんどんお料理を作るようになりました。

――栄養系の大学を卒業後にご結婚され、雑誌の仕事をするようになったきっかけは何だったのでしょうか?

田中さん: これは本当に不思議な「縁」でした。結婚後、自宅でお料理教室をやっていたのですが、そこにたまたま1度だけ参加した人が、後に雑誌の編集者になり、ある日突然、「先生、まだお料理教室やっていますか?」という電話をしてきたのです。そのときは子どもを産んだばかりだったのでお断りしましたが、また数年後に電話をいただいて、「雑誌で料理の仕事をやりませんか?」と。まだ次男は2歳でしたが、雑誌デビューすることになりました。

――その頃は、どんなテーマのお料理を作ることが多かったのでしょうか?

田中さん: 育児雑誌を中心に、「忙しいママのために」「受験生につくってあげたい」というような、子育て中のお母さんや、子ども向けレシピの依頼が多かったですね。子どもが大きくなってからは、甘酒や干し野菜を使ったレシピなんていうのもありました。

息子がクローン病に…。私の何かが間違っていたの?

――上の息子さんが大学2年生の頃に、身体に異変が出てきたそうですね。

田中さん: そうです。その頃、長男はひとり暮らしをしていて、よく「モヤシしか食ってない」などと言っていたので、不規則な食生活の影響かと思っていました。その後、家から通える校舎に移ったので、再び一緒に暮らすようになりました。食欲もあり、一見何でもないように思いましたが、数か月のうちにどんどん痩せてきたのです。そのうち、だんだんおなかを抱えるような仕草をしたり、夜に高熱を出したりすることが増えてきました。しかも、熱が出るのは決まって夕食後で、朝になると下がっているんです。その頃から「さすがにおかしい」と思うようになりました。そんな中、再び夜に高熱を出し、本人は病院嫌いなので抵抗しましたが、夫と説得して、半ば強引に近くの総合病院を受診しました。診察の結果、「クローン病ではないか」と言われ即入院。その後の検査でクローン病の確定診断がつき、すぐにレミケード治療を受けることになりました。

――この頃が一番つらかったのではないですか?

田中さん: 同じタイミングで夫が単身赴任になって、家のことも全部自分にかかってきて、まさにどん底状態でしたね…。私は栄養士でもあるので、食べさせるものには人一倍気を使っているつもりでした。「先生のお料理は油が控えめで、野菜が多くていいですね」とも言われていましたし、世間で悪いと言われるようなものは食べさせていないつもりでしたので、息子が食事に関わる難病になったことは、とてもショックでした。レシピ本だけでなく、子供向けの栄養の辞典の制作にも関わっていたので、子育てママの代表として「こうすればいいよ」と伝えてきたけれど、どこかにとんでもない間違いがあったのではないかと、自分を責める毎日でした。

家族の笑顔にから生まれた「ノンオイルレシピ」という新境地

――そこから立ち直り、ノンオイルレシピの本を出すまでになられたのはすごいですね。

田中さん: クローン病と診断されたときに、繊維と脂質に注意するように指導され、特に脂質は良くないと聞いたので、「それなら、もう油は使わない!」と決めました。とは言え、息子の症状が落ち着くまでは何を食べさせたら良いかわからず、最初の頃は食卓におかゆやうどんなど、白っぽいものばかりが並ぶ日も多かったですね。でも、家族は嫌な顔ひとつせず、「これもノンオイル?すごいね!」「今日は鶏肉か!安くていいねー!」なんて言ってくれて、頑張る私をいつも明るく励ましてくれました。そのうちに「うまい!」と言われると素直に「よっしゃー!」と思えるようになってきて、「こうしたら、もう少しおいしくなるかも」と、前向きに考えられるようになっていきました。

――おいしいと評判の田中さんのノンオイルレシピですが、ノンオイル調理ならではのご苦労も多いのではないですか?

田中さん: 最初は大変でしたね。油には「味をまろやかにする」効果もあるので、今までと同じように作っても、塩辛く感じたり、物足りなく感じたりすることもありました。そこで、まずは油の効果を客観視するために、「味がまろやかになる、舌触りがよくなる、香ばしくなる、油で炒めるとツヤが出て、甘みも出る」など、思いつくままに書き出してみました。その上で、まろやかさや甘みなどを、油以外で足す方法を考えました。でもどんなに工夫をしても、同じものにはなりません。それでも、試行錯誤を繰り返していくうちに、「いいんじゃない?」と思えるものが作れるようになってきたのです。揚げるのをやめてグリルで焼くとか、テフロン加工のフライパンでしっかり火を通すとか、だんだんノンオイル調理のコツもわかってきました。

――ノンオイル料理を作るときに、大切にした方が良いことはありますか?

田中さん: 「味わうための工夫をする」ことでしょうか。先日、お料理の講習会に来てくれた患者さんで「ゴボウは繊維が固いから食べないようにしている」という人がいましたが、「食べるのではなく、だし替わりに使ったら?」と、アドバイスしました。だしとして使うだけでも、ゴボウの香りは楽しめますし、流れ出た栄養も摂ることができます。あとは、「ノンオイル調理をポジティブに捉える」ことが大切だと思います。よく、「ノンオイルレシピは手間がかかりそう」などと言われますが、そんなことはありません。一度覚えてしまえば、キッチンが油で汚れることもないですし、むしろ「ひと手間なくなった」と言えるのです。

――ほかに、IBD患者さんが使える「お料理のコツ」があれば教えてください。

田中さん: 脂質は工夫次第で減らせます。鶏肉のお料理を作るとき「ささみより、もも肉が食べたい」という気分のこともありますよね。そんなときは、もも肉を買って、皮を取り除きましょう。同じ100gのもも肉でも、皮があるのとないのとでは、脂質が4:1で違います。カロリーも2:1です。どうしても固くなりやすいむね肉は、調理する前にヨーグルトに浸けたり、筋を切るようにすることで柔らかくなります。鶏ひき肉はもも肉よりむね肉の方が安心ですが、パサつきが気になるときは、お豆腐や山芋を入れると柔らかくなります。

悩みやつらい気持ちは我慢するのではなく、分かち合って

――今後やっていきたいこと、夢などはありますか?

田中さん: IBD患者さん向けに、ノンオイルのお料理サークルを考えています。実は、ノンオイルの本を出すときも、「調べれば息子のことがわかってしまうかもしれない」と、すごく悩んだんです。でも、長男を含め家族は「その本がたくさんの人の役に立つならいいんじゃないの?」と言ってくれたんです。本を読んだ人たちからの反応も想像以上に良く、たくさんのお手紙をいただきました。やはり、私と同じように「子どもが病気になったのは自分のせいじゃないか」と悩んでいる親御さんも多かったですね。そんな人たちが自分の料理本で「救われた」と言ってくれることは、何よりの励みになりました。そして、料理講習会では料理や試食をするうちにみなさんが笑顔になっていくことが、本当に嬉しかったです。

一方で、「みんなが講習会に来られるわけじゃない。来る勇気がない人もいる」という話も聞きました。それを機に、インスタグラムに「息子のお弁当」を投稿するようになり、たくさんのコメントをいただきました。そのうちに、「本に出ているレシピをみんなで作って楽しもう。そこに来た人同士でノンオイルレシピの工夫など、情報交換してもらおう」と考えるようになりました。私がいなくても、みんなでノンオイルレシピを作って楽しんでもらえたらいいなと。私が講師として行くのは、半分はみんなが動くためのきっかけづくりですかね。その中からお菓子が得意になる人が出てきたり、ノンオイルレシピを広げてくれる人が増えたりしたら嬉しいです。IBDに限らず、ノンオイルに興味のある人なら誰でも参加できるようにして、病気への理解も深まれば良いと思っています。

――最後に、IBD患者さんとご家族へのアドバイスやメッセージをいただけますでしょうか。

田中可奈子さん

田中さん: IBDになって食べられなくなってしまったものはいくつもあると思います。でも、食べられなくなったものを数えても悲しくなるだけです。それよりも、食べられるものを増やしたり、美味しく食べるための工夫を考えたりして、ワクワクしてみましょう。そして、患者さんのご家族は我慢して抱え込むのではなく、悩みやつらいことを周囲の人と分かち合った方が良いと思います。私の場合も、不安に思っていることをいざ長男に話してみたら、当人は意外とあっけらかんとしていたこともありました。まずは吐き出してみましょう。家族や友人だけに限らず、主治医とも、本人はもちろん、家族も一緒に、納得するまで話した方がいいです。とにかく「隠さないこと」が大切だと思います。

食べることは生きる上で、とても重要で最も身近な楽しみだと思います。それは誰でも同じですよね。みんなで食卓を囲んで笑顔で食事ができたら、それは明日の元気につながります。楽しい工夫と周りの理解は、その後の人生を豊かなものにしてくれるに違いありません。

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