IBD患者さんの腸内微生物環境を総合的に解析、新規治療法にもつながる可能性

ニュース , 腸内細菌を学ぶ2024/12/10

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IBDのメカニズム解明や新規治療につながる可能性のあるマルチバイオームを解析

東京医科大学、筑波大学、国立国際医療研究センターの研究グループは、炎症性腸疾患(IBD)のヒト腸内細菌・ファージ・真菌の同定と、世界共通性を発見したと発表しました。

ヒトの腸内には、細菌だけでなく、ウイルス(バクテリオファージ、以下ファージ)、真菌などの微生物も生息しており、これらを総称してマルチバイオームと呼びます。従来のIBD研究は腸内細菌叢に着目した解析が中心的であり、IBD患者さんでは腸内細菌叢の乱れや特定の腸内細菌種の変化が確認されています。しかし、腸内細菌種以外の微生物やそれらが有する機能代謝遺伝子がどのように相互作用し、IBDの病態形成に関与しているかは不明です。これらの微生物や遺伝子を網羅的に調べることで、IBDの新たな疾患メカニズムの解明、新たなバイオマーカーの同定、そして微生物制御を介した治療法の開発につながる新知見が創出される可能性があります。

そこで研究グループは、日本人の腸内細菌叢を含む膨大なデータが含まれるJapanese 4Dコホートより、潰瘍性大腸炎(UC)患者さん111人、クローン病(CD)患者さん31人、健常者540人を抽出し、糞便ショットガンメタゲノムシークエンス解析を実施しました。その結果、腸内細菌4,364種、機能代謝遺伝子1万689個、抗生剤耐性遺伝子403個、ファージ1,347種、真菌90種を同定しました。

腸内細菌種変動はUCとCDで異なる、CDの薬剤耐性菌感染症リスクも示唆

健常者と比較して、日本人IBD患者さんでは、ビフィドバクテリウム、エンテロコッカス、ストレプトコッカス・サリバリウスなどが増加し、フィーカリバクテリウム プラウスニッツイなどの短鎖脂肪酸産生菌の低下が確認されました。一方、CD患者さんでは大腸菌が増加しており、この菌種が抗生剤耐性遺伝子や接着性浸潤性大腸菌(AIEC)の病原性遺伝子を複数獲得していることも示されました。

UC患者さんではこれらの所見は認められないため、CDに特異的な腸内細菌叢の変化と考えられました。さらに重要な点として、日本人IBD患者さんにおける腸内細菌叢の変動は、米国・スペイン・オランダ・中国のIBD患者さんと類似しており、特に、全てのCDコホートに共通して大腸菌が増加していることを発見しました。このことから、腸内細菌種の変動はUCとCDで異なることが明らかになりました。そして、特にCDで増加する大腸菌はAIECの特徴を有し、抗生剤耐性遺伝子を複数獲得していたことから、CD患者さんの薬剤耐性菌感染症リスクが示唆されました。

これまでに報告のない新規ファージ発見、CD病態との関連示唆

次に、IBD患者の腸内に生息するファージを評価しました。その結果、UCとCDで減少することが確認された短鎖脂肪酸産生菌に感染するファージが減少していました。また、CD患者さんで増加することが確認された大腸菌に感染するファージ種が、CDで顕著に増加することも確認されました。vOTU89とvOTU99という、これまでに報告のない新規ファージも発見され、これらのゲノムには炎症を惹起する可能性がある遺伝子であるpagCがコードされていることがわかり、CD病態との関連が示唆されました。さらに日本人IBD患者さんで同定されたこれらのファージの変化は、世界データでも再現できることがわかったということです。

これらの結果から、IBD患者さんでは腸内細菌種の変化に応じて、それに感染するファージ種も変化すること、さらに、潜在的な病原因子を有するファージのIBD病態への関連も示されました。同発見はCD患者さんで確認された抗生剤に耐性を有する大腸菌を排除するためのファージ療法の開発などに役立つ重要な情報を提供すると考えられるということです。

マルチバイオームの相互作用が、新規治療ターゲットとなる可能性

さらに、腸内の真菌叢についても網羅的解析を実施。その結果、腸内細菌やファージだけでなく、真菌も含むマルチバイオームの特徴がUCとCDで異なること、それが世界データでも共通に確認されることが明らかになりました。

最後に、細菌・ファージ・真菌間の相互作用を調査するため、これらの相関ネットワークを構築した結果、UC、CDともに、短鎖脂肪酸産生菌がクラスターを形成していることが判明。このことからCD患者さんにおいて、細菌と真菌あるいは細菌同士の競合関係が存在し、特に短鎖脂肪酸産生菌が病原性を有する大腸菌などの細菌を排除する可能性が示唆されました。

そのため、IBDにおいてマルチバイオームの相互作用が新たな治療ターゲットとなると考えられ、今後の研究で、これらの菌種が相互排他的か、あるいは共生的に相互作用するかを明らかにすることが重要だとしています。

UCとCDに関連する腸内細菌・ファージ・真菌の特徴は「世界のIBD患者さん共通」

今回の研究で同定されたUCとCDに関連する腸内細菌・ファージ・真菌の特徴は、日本人に限らず、世界のIBD患者に共通するものでした。つまり、日本と世界で共通するIBD関連のヒト微生物種が同定されたと言えます。

「この結果は、微生物種を介した病態解明の研究を加速させるだけでなく、微生物種とそれらの相互作用をターゲットとした診断や治療法の開発が、国や地域に依存せず広く適用できる可能性を示唆しており、重要な基盤知見を提供したと言える」と、研究グループは述べています。

(IBDプラス編集部)

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