病気の動物たちは大切な「闘病仲間」-クローン病の獣医師が守り続ける愛犬との約束

ライフ・はたらく2022/11/25

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今回の「仕事・はたらく」でご紹介するのは、動物病院の院長・菖蒲谷友彬(しょうぶだに ともあき)さんです。勤務獣医師として数年働いた後に開院し、軌道に乗り始めて間もなくクローン病を発病。同時にバセドウ病も見つかったそうですが、「動物たちのために働き続けたい」という強い想いは変わらなかったと言います。そんな菖蒲谷さんの原動力となっている今は亡き愛犬とのエピソードとは…?そして、受験勉強や就活を成功させる秘訣についても伺いました。

菖蒲谷友彬さん(37歳/クローン病歴1年)

鹿児島大学獣医学科卒業後、愛知県内の動物病院で数年勤務した後、2016年11月に広島県内で「まるペットクリニック」を開院。2021年にクローン病とバセドウ病との診断を受ける。現在は、仕事量をセーブしつつ、「自分が動物だったら通いたくなる病院」を目指し、スタッフの育成にも励んでいる。

どん底だった自分を救ってくれた愛犬パルへの想いを胸に、獣医師の道へ

――子ども時代は、どのようなお子さんだったのでしょうか?

クラスではあまり目立たないタイプで、人付き合いもあまり得意ではありませんでした。ただ絵を描くのが大好きで、小学3年生くらいから漫画を描くようになりました。そのうちに真似をして漫画を描く友達が増えてきて、僕が中心の漫画サークルみたいなものができました。子どもながらに「将来は漫画家になるんだな」と確信していましたね(笑)。

中学1年生の頃、雑種の保護犬を家族に迎え、「パル」と名付けました。そんな中、2年生のクラス替えで知り合いが一人もいないクラスになってしまい、楽しかった毎日が一転、独りぼっちになってしまったんです。やがていじめのターゲットになり、陰で殴られることもありました。でも、親には心配をかけたくなかったので毎日きちんと登校し、部活動にも参加して、周囲にもいじめられていると悟られないよう平静を装っていました。でも、内心はつらくて死にたいと思うこともありました…。そんな僕を支えてくれたのが、パルでした。人間にはつらいことを「打ち明ける」必要がありますが、動物は何も話さなくても気持ちをわかってくれるし、黙って涙をなめてくれたりするんです。やがていじめっ子は相手にしない僕に飽きたのか、離れていきました。その時に「自分を助けてくれたパルにいつか恩返ししたい。病気になったら自分が治してあげるんだ!」と思いました。でも、そのために何をすればいいのかわからず、書店で「動物の病気の本」を買いました。それで動物にも人間と同じようにいろいろな病気があることを知り、獣医師を本気で志すようになりました。

――でも獣医師って、なるのがすごく難しいですよね。

そうですね。偏差値も高いですし、当時は全国に16校しかありませんでした。僕の家は裕福ではなかったので、塾にも通っていませんでした。でも、高校は進学校に入れたので、何とかなるだろうと思っていました。ところが、高校3年生の時に目標としていた北海道大学の模試を受けたら、数学が4点だったんです(笑)。これはヤバいと思いましたが落ち込んでいる暇もなく、とにかく獣医師になることを最優先に、獣医学科のある大学を片っ端から調べました。すると、ある大学の入試問題(当時)だけは、自分の苦手な出題範囲が少ないことがわかり、合格できる可能性が少しでも上がるかなと思ったんです。そうは言っても定員は30人、倍率は10倍以上という狭き門でした。

――受験生の患者さんや親御さんから「体力がなく、長時間勉強できない」という相談を受けることがありますが、菖蒲谷さんだったらどのようにアドバイスされますか?

病気だから無理と諦めてしまうのではなく、「自分に合った戦い方」を考えてみるのがいいと思います。僕の場合は経済的事情でしたが、1校に絞り、過去問をひたすら解きました。また、基本問題の出題が多い傾向があったので1点が命取りになると考え、苦手な数学でミスしないよう、徹底的にやりました。結果、滑り込みで合格することができました。体力がなくて5時間しか机に向かえないのであれば、まず自分の能力に合う学校に狙いを定め、受験日から逆算して、5時間で今日はどこまでやる必要があるのか計画を立てて、地道にクリアしていくことが大切だと思います。10時間ダラダラ机に向かうより、ずっと効率的ですよね。

クローン病とバセドウ病と診断され、大好きな仕事との向き合い方に変化が

――大学卒業後、動物病院勤務を経て31歳で独立されたそうですが、体調に異変が出たのはいつ頃ですか。

30歳の頃、痔瘻ができてなかなか良くならず、手術を受けました。その時の大腸内視鏡検査で「クローン病の疑いがある」と言われました。実は、犬猫にも炎症性腸疾患(IBD)があるのですが、クローン病とは呼ばないため、その時に初めてクローン病がIBDの一種であることを知りました。でも、その時は「よく出る所見だから気にすることない」と言われ、それ以上検査もしませんでした。

その後、広島県に転居して動物病院を開院。痔瘻も治療の甲斐あって治りました。そんな矢先、突然下血したんです。それまでもおなかの調子が悪いことや、出血することもありましたが、ストレスや痔瘻が原因だろうと思って見過ごしていました。しかし、今回は痔瘻も治っていましたし、妻も心配したので、すぐに精密検査を受けました。その結果、回盲部に大きな病変があることがわかりました。その後、大学病院を紹介され、再度内視鏡検査を受けて、ようやくクローン病の診断がつきました。その際に、バセドウ病であることも判明しました。まさに寝耳に水の出来事でしたが、見つかって良かったと思っています。

もともと食べることが大好きだったので、食事制限しなければならないと聞いた時は正直ショックでした。でも、自分が治療にあたったIBDの動物たちと同じような食生活をして治していけばいいんだと、受け入れることができました。大好きな獣医師の仕事を一日でも長く続けたいという気持ちが何より強かったですね。

現在クローン病は、ステラーラとエレンタールで落ち着いています。エレンタールのフレーバーはいろいろ試しましたが、グレープフルーツ、ヨーグルト、青りんご、パイナップルがお気に入りです。妻が毎日の食事、エレンタールの準備、食事の記録をしてくれています。しかも一緒に食事制限もしてくれて、本当に感謝しかありません。最近は息抜きもかねて、一緒に脂質控えめの外食を楽しんだりしています。

また、以前は自分で全部仕事を背負い込んでいましたが、それだと体力が続かないので、スタッフに仕事を任せるようになりました。今は彼らを積極的にサポートしながら、自分の技術を「伝えていく」ということを意識しています。

困難を乗り越えた先に見えるものがある。カミングアウトも「前向き」に

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――獣医師という仕事のやりがいと、大変な点を教えてください。

病気になってから、病院を訪れる動物たちを自分と同じ「闘病仲間」と思えるようになりました。「この子が頑張っているんだから、自分も頑張ろう」と、勇気づけられることもあります。その子たちが治療して回復することで、恩返しできていると思えますし、やりがいを感じます。

大変な点は、常に死と隣り合わせということですね。獣医師は実は離職率の高い仕事でもあります。僕も最初の頃はメンタルがやられてしまって、動物を家族として可愛がっていた頃に戻りたいと、毎日のように思っていました。なので、いつもスタッフには「動物が好きなだけじゃなく、好きを超越した気持ちを持ち合わせていないと続けられないよ」と伝えています。

――IBD患者さんの一人として、経営者として、IBDの方が仕事をする上で大切なことは何だと思われますか?

「病気に対する職場の理解を得ること」が最も重要だと思います。できれば面接時に、IBDであることをカミングアウトして欲しいですね。それで受け入れてくれないところは、就職できたとしても理解が得られないと思いますし、受け入れてくれる会社は、温かい人の多い職場だと思います。また、採用する側からすると、言いにくいことを正直に打ち明けてもらうことで、その人を「信頼」できます。カミングアウトをマイナスに捉えず、「自分がありのまま輝ける職場を見つけるチャンス」とプラスに考えてみると、前向きな気持ちで進んでいけるのではないでしょうか。

そうは言っても、周りと比べて焦ってしまう気持ち、すごくよくわかります。僕も動物病院がようやく軌道に乗って、保護猫カフェという新たな事業を始めようと思っていた時に病気がわかり、一旦ストップすることになりました。何で自分だけが…と、すごく落ち込みました。でも、最近ようやく「人と比べることは意味がない」って気付いたんです。それからは自分との闘いになりました。僕は無神論者ですが、やはり試されている部分はあると思いますし、「困難を乗り越えたときに他の人は見られない景色が見える」と信じています。

つらい時は、動物たちに元気をもらって

――最後に、IBD 患者さんにメッセージをお願いします

IBDの症状で日々つらい思いをされている方も多いかと思います。時に、生きる希望を失うこともあるかもしれません。もし、動物が好きな方であれば、家族に迎えるのが難しくても、保護犬や保護猫カフェなど、動物と触れ合える場所に足を運んでみてはいかがでしょうか。きっと元気をもらえると思います。免疫を抑制する治療をしている方は人獣共通感染症に気を付けながら、彼らと触れ合ってもらえたら幸いです。IBDの根本的な治療法が確立され、全てのIBD患者さんが苦しみから解放されることを、一患者として願っています。ともに頑張りましょう!

(IBDプラス編集部)

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