伝え続けることで周りを変える―クローン病の芸人・お侍ちゃんに聞く「仕事と病気のバランス」とは?

ライフ・はたらく2019/11/19 更新

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お侍ちゃん

2019年春、ブログを通じてクローン病だと打ち明けたお笑い芸人のお侍ちゃん。同年1月頃から激しい腹痛に悩まされ、2月に緊急入院し、クローン病と診断されました。その壮絶な闘病生活は、日本テレビ「ザ!世界仰天ニュース」でも取り上げられています。入院により、芸人の仕事を一時中断していましたが、復帰後はクローン病に関する情報をブログで積極的に発信し、IBDを含む難病患者さんの相談をメールで受けたり、実際に会ってお話をしたりする活動を行っています。

お侍ちゃんは、どのようにクローン病と向き合い、芸人活動を続けているのでしょうか?発症から現在に至るまでのお話を、詳しく伺いました。

お侍ちゃん(38歳/クローン病歴 約半年)

1981年3月生まれ、岩手県盛岡市出身。サンミュージック所属。高校生の頃、友達の影響で芸人に憧れ、3年生の頃にその友達とコンビを結成。上智大学に進学後に芸人活動を本格的にスタートさせる。大学卒業後はピン芸人としてデビュー。特徴的なちょんまげ姿と歴史を絡めたお侍ネタで、TVやラジオなどに多数出演中。

芸人人生最大の仕事を目の前にして、クローン病を発症

――クローン病と診断を受けるまでのお話を教えていただけますか?

お侍ちゃん: 2018年に、大きな舞台への出演が決まりました。これは、自分の芸人人生の中でも、とても大きな仕事で、「何としても成功させたい!」という気持ちでいっぱいだったんです。そして、2019年1月頃から舞台の稽古が始まり、その頃から腹痛が起こるようになりました。最初は胃腸炎と診断を受け、薬を服用していましたが、日に日に痛みが強くなっていき、遂に耐えられなくなってしまいました。稽古前に病院に行き、痛み止めの点滴を打ってもらったのですが、なかなか良くなりませんでした。それでも、なんとか稽古へ向かおうとしたものの、結局動けなくなり、そのまま入院することに…。しかし症状は良くならず、結果的に、舞台を降板するしかありませんでした。入院したのが2019年2月で、退院したのが3月の半ばだったので、入院生活は約1か月半続いたことになります。入院したときは、まさかそこまで長引くとは夢にも思っていませんでした。

最初に入院した病院で検査を受け、小腸に炎症があることがわかり、さらに、小腸内視鏡を受けるため大学病院へ転院することになったんです。転院の時にもさまざまな検査が必要で、1週間で胃カメラを2回飲んだこともありました。また、腹痛があまりにもがひどく、十分に眠れない日々が続いていました。入院した時の重症度は、中~重程度で、症状がかなり重かったそうです。今振り返ると、この時期が最もつらかったですね。

クローン病だと診断を受けたのは、最初の入院から3週間後くらいでした。診断を受けるまでは、「自分は死ぬような病気なのでは…?」と思うこともあったので、病名が判明して良かったと思いました。「難病かよ…!」と落ち込むのではなく、「これでしっかり治療ができる」と安心したことを覚えています。

――周囲の方には、クローン病と診断されたことをどのように伝えましたか?

お侍ちゃん: 妻は、自分よりも先に病名を告げられていたと思います。子どもはまだ3歳なので「お父さん、お家にいないな」くらいにしか思っていなかったのではないでしょうか。仕事関係者には、舞台を降板した理由について「体調不良」とだけしか伝えられず、それ以上の詳しい話はできませんでした。また、自分は芸人なので、「あまり病気のことを言いすぎて笑いが取れなくなるのも嫌だな…」と悩みましたが、舞台の降板理由を明らかにする必要があったので、まずは自分のブログだけで発表することにしました。

――クローン病と診断され、生活はどのように変わりましたか?

お侍ちゃん: 食事の脂質には気を付けるようになりました。最近は、よくうどんを食べていますね。クローン病を発症する前まではほとんど食べていなかったのですが、今では、Instagramにアップする写真のほとんどが、うどんです(笑)。

食事については、妻のサポートがありがたいですね。油をひかないフライパンで調理するなどして、脂質を減らす工夫をしてくれています。また、毎朝自分で持っていく弁当を作るようになりました。家でご飯を食べる時は、具沢山のみそ汁を作ることもありますよ。

クローン病を発症する前は、お酒を飲む機会も多かったのですが、最近では症状が悪化しないように調整しています。全く飲まないわけではないですが、お酒を飲むと次の日に下痢することが多いので、調整は必要ですね。先日、検査に行ったら数値が正常だったので、そのまま飲みに行って、酔っ払って家に帰ったら、妻にブチ切れられました…「なに調子乗ってんだ!」と(笑)。翌日は、やっぱり下痢でしたね(笑)。

入院中はステロイドとペンタサを飲んでいましたが、今は寛解状態なので、ペンタサのみ服用しています。

やりたいことは、すぐにやろう!でも、「できない」境界線は明確に

――仕事に復帰した後、どのような変化がありましたか?

お侍ちゃん: 仕事に関しては、事務所の理解もあって、多くの部分を任せてもらっています。例えば、食レポでは、激辛料理、大食いなど、症状の悪化につながりそうなものは、自分の判断でお断りしています。ただ、一般的な食レポはやっているため、お店で出された料理は全部食べるようにしています。無理をしすぎて3日間下痢が続いたこともありますね(笑)。でも、せっかくいただいた仕事なので、症状が悪化しない範囲でお引き受けしたいと考えています。

お侍ちゃん

そして、「やりたいことは、すぐにやろう!」と考えるようになりました。以前はやりたいことがあっても、すぐに実行できないことも多くありました。でも、今では「やった後悔より、やらない後悔をしよう」という考え方に大きく変わりました。クローン病を発症したことが、自分の生き方を見つめ直す良い機会になったんだな、と感じています。

――病気になったことを周りの人に伝えることができず、苦しむ人もいると聞きます。お侍ちゃん流コミュニケーションのコツをぜひ教えてください。

お侍ちゃん: 「できない」境界線を自分の中でしっかり引くこと、そして相手に「ここからはできません」と、しっかり伝えることが大切だと思います。例えば、調子が悪い日であれば「ゴメン、今日は調子悪い」と、周りの人に伝えるようにしています。最初は理解を得ることが難しいかもしれません。けれど、伝え続けることで、徐々に周りの人が変わってくれると思うんです。自分は、仕事関係の飲み会で先輩芸人から「もっと飲めよ~」と言われても、冗談っぽく「悪化したら、入院費くださいね!(笑)」と伝えます。そうすると、先輩たちも「ゴメン、ゴメン!」と、謝ってくれます(笑)。病気のことを伝えたことで、無くなってしまう仕事もあるかもしれませんが、病気だからこそ、やらせてもらえる仕事もあると思っています。

あとは、ストレスをためすぎないことも大切だと思いますよ。科学的な根拠はありませんが、クローン病患者さんはストレスをため込みやすい人が多い、と聞いたことがあります。実は、自分もクローン病になる前までは、嫌なことがあっても愚痴を言わないなど、ストレスをため込むことが多くありました。今はできるだけため込まないよう、妻に話すようにしています。最近では、そもそもストレスを感じることが少なくなりましたね。やりたいことがたくさんあって、それに取り組んでいるときが本当に楽しいからだと思います。

そうは言っても、仕事でストレスを感じる瞬間は誰にでもあると思います。自分に合ったストレス発散方法を見つけておくと良いかもしれませんね!

患者さんに会いに行く活動を通じて得た、気付き

――最近、クローン病を含めた難病患者さんに会いに行く活動を始めたと伺いました。さまざまな患者さんとお会いするなかで、どのようなことを感じていますか?

お侍ちゃん

お侍ちゃん: さまざまな人とお会いするなかで、同じクローン病患者さんでも症状は人それぞれで、治療内容や普段の食生活が違うと知り、ビックリしましたね。あとは、患者同士だからこそ話せることがあるんだと感じています。

もともと、患者さんと会う活動は、何気なく「いろいろな患者さんに会ってみたいな」と思って始めました。特に、「ザ!世界仰天ニュース」で取り上げられた後は、患者さんからの連絡が多くなりましたね。患者さんご自身だけでなく、患者さんのご家族からもご連絡いただいています。ぜひ、気軽にご連絡いただければと思います!

今は、交通費など全て自腹で会いに行っているのでどうしても近場の人のみになってしまっているのですが、遠方の患者さん、ゆくゆくは全国の患者さんに会いに行きたいと考えています。そのためにも仕事頑張ります!(笑)

――最後に、IBDの患者さんにメッセージをお願いします。

お侍ちゃん: 自分はクローン病患者の中ではまだまだ“新人”なので、そんな大それたことは言えないです(笑)。ただ、クローン病患者さんに会いに行く活動を始めて、症状にはかなり個人差があること実感しています。今は、ネットで簡単に情報を得ることができる便利な時代ですが、何でも鵜呑みにせず、正しい情報を得ることが大切です。気になったことは、自分から医師に質問するのも良いと思います。それでも、モヤモヤすることがあれば、いつでも自分に連絡してください!

(取材・執筆:眞田 幸剛)

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