フリーランスとして音楽を届ける仕事―クローン病になって変化した“仕事観”とは

仕事・はたらく2020/2/3

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大日方さん1

現在、働き方は以前と比べて多様化しており、会社員として「フルタイムで働く」「時短で働く」以外にも、「自営・フリーランスで働く」など、さまざまな働き方を選ぶことができる時代になりました。IBDになり、以前と変わらずに働き続けているという方もいれば、退職や転職を経験された方もいるかもしれません。みなさんは、IBDの診断を受ける前と後で、働き方は変化したでしょうか?

2020年最初の「仕事・はたらく」に登場していただくIBD患者さんは、現在、フリーランスで音楽の仕事をしているオビナタ ナオマサさん。これまでに、料理人やコンビニの店長など、さまざまな仕事を経験したうえで、フリーランスとしてギター演奏や作曲活動を中心に行う音楽の仕事を選ばれました。

  

一方で、発症からクローン病と確定診断を受けるまでに10年以上の時間がかかり、働きながら入院・手術を繰り返した時期もあったのだとか。最終的に、フリーランスで音楽の仕事をするまでに、どのような出来事があったのか?そして、オビナタさんご自身が感じているフリーランスで働くことのメリット・デメリットについて、詳しくお話を伺いました。

オビナタ ナオマサさん(50歳/クローン病歴15年)

20代の頃からクローン病と思われる症状があったものの、確定診断を受けたのは35歳の頃。料理人、営業、コンビニの店長などさまざまな仕事を経験する中で、フリーランスとして音楽の仕事1本で生きていくことを決意する。以前は、ホテルやレストラン・イベントライブなどでのギター演奏が多かったが、現在はCM曲やBGMの作曲を手掛けるなど、楽曲提供活動を中心に行っている。
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発症からクローン病の診断まで10年以上…幾度も入院・手術を経験

――10代の頃からギターを弾き始めたとのことですが、どのようなきっかけで音楽を始められたのでしょうか?

オビナタさん: 父や叔父がバンドマンだったこともあり、楽器が身近な存在だったからだと思います。父たちの影響もあり、幼い頃は、童謡よりもビートルズやローリング・ストーンズの音楽を好んで聞いていました。そして、自然とギターを弾くようになっていたと思います。

ブルースが好きになり、20代の頃には、本場のアメリカ・シカゴに渡って勉強した時期もありました。短期間でしたが、ブルースだけでなく、ストリート系の音楽も学びながら、さまざまな経験ができたと思います。

――音楽以外では、これまでにどのような仕事を経験されましたか?

オビナタさん: 料理人、コンビニの店長、営業など、さまざまな職種を経験しました。実は、最初から「音楽の仕事をしていきたい」と思っていたわけではなかったんです。特に、20歳の頃、旅館で料理の仕事をしていた時は「料理の仕事で生きていたい」と本気で思っていました。最初はアルバイトとして入ったんですが、職場の人にも恵まれて、一人前になるために毎日がむしゃらに修行しましたね。ただ、1日立ちっぱなしで休憩もあまり無いなど業務内容がハードだったこともあり、今思えば、その頃からトイレの回数が増えるなど、クローン病と思われる症状が出ていたと思います。

料理人を志す中でも、ギターは継続して弾いていました。僕は静岡に住んでいるのですが、休みの日には、原宿、新宿、渋谷、横浜などに出向いてストリートライブをやっていましたよ。料理の仕事で生きていこうという思いは強かったのですが、音楽への想いもずっとあったんだと思います。

一方で、20代の頃から肛門疾患の症状に悩まされていました。あわせて、下血や原因不明の腹痛もありましたね。当時、地元の病院で大腸の内視鏡検査を何度か受けたんですが、クローン病という診断は受けませんでした。そして、最も症状に悩まされていたのは30歳頃です。その頃は、コンビニの店長をしていました。朝早くから夜遅くまで働き、食事は毎食コンビニ弁当。当時のコンビニ弁当は今と違って揚げ物が多かったので、今思うと、食生活も体調悪化に関連していたのかもしれません。

――そして、35歳の時にクローン病と診断を受けたんですね。その時は、どのようなお気持ちでしたか?

大日方さん2

オビナタさん: 「ようやく、原因がわかった」と、ホッとしました。僕の場合、肛門疾患で通っていた病院で、信頼できる先生に出会えたのが良かったと思っています。先生が「クローン病かもしれない」と気付いてくださったことをきっかけに検査を受け、確定診断を受けました。その後、IBDを専門的に診ている大きな病院を紹介していただき、今もそこに通っています。

診断を受けたのは15年くらい前なので、今ほどインターネットも普及していませんでした。もちろん、携帯で気軽に検索できるような時代でもなかったので、クローン病がどのような病気なのか、情報を集めるのが難しかったですね。先生からは、「油物や食物繊維には気を付けて」といった説明を受けたと思います。クローン病が難病であることは理解していたのですが、そこまで重くは受け止めていなかったですね。家族も同じような状況だったと思います。

――クローン病の診断を受けた後は、どのような治療を受けられましたか?

オビナタさん: 診断を受けてから2年間くらいは通院をしながら、ペンタサと整腸剤による治療を受けていました。その後、肛門疾患の手術は含まず、大腸や小腸だけでも5回ほどの手術を経験しています。何とか症状を改善したいと思い、治験に参加したこともありました。治験に参加したのは、診断を受けて2年後くらいの時ですね。結局、治験の途中で体調を崩してしまい、最後まで参加することはできなかったのですが…。現在は、ヒュミラとイムランによる治療を受けていますが、以前に比べると症状は落ち着いているほうだと思います。

また、栄養療法も続けています。体調が悪いときは、食事を控えてラコールを増やすなどして調整していますね。料理人として働いていたこともあり、食事は基本的に自分で作ります。特別な日以外は、自炊することで体調を整えていますよ。

――手術だけでなく、入院も多く経験されていますよね。入院生活では他のIBD患者さんとの交流はありましたか?

オビナタさん: 入院していたのが炎症性腸疾患(IBD)科のある病院だったので、多くのIBD患者さんと交流することができました。最初の入院は、6人の大部屋だったのですが、全員がIBD患者さんでしたね。入院中はみんなで、病気のことに限らず、いろいろなことを話したと思います。僕を含め、病室のみんなが大きな手術を控えていたので、きっとそれぞれ不安な気持ちだったと思うんですが、患者さん同士で話していると「悪いことばかりじゃないよね」と、思えるようになりました。また、手術直後は、立ち上がるのも大変なくらい体を動かすことが難しいんですが、そういう辛い時期も、着替える時やトイレに行く時など、みんなで助け合って生活していました。

入院生活を共に過ごしたIBD患者さんたちは、僕にとっては“同志”と思えるくらい大切な存在です。退院後も、ずっと関係が続いている患者さんも多くいます。クローン病になって辛いことも多く経験しましたが、「自分は一人じゃない」と勇気を与えてくれる仲間の存在は、とても大きいですね。もちろん、病気の辛さは変わらないんですけど、「同じIBD患者さんが頑張っているから、僕も頑張ろう」という気持ちにさせてくれる、本当に大切な存在なんです。

フリーランスは収入が不安定になりがち…でも、体調に合わせて仕事ができるという大きなメリットが

――クローン病の診断を受けた後、どのような経緯で音楽の仕事1本で生きて行くことを決意されたのでしょうか?

オビナタさん: 今の仕事をできているのは、偶然が重なったからだと思っています。アルバムの音楽配信開始やYouTubeへのアップロードをきっかけに、徐々に、いろいろなオファーをいただけるようになったんです。最近だと、カフェや雑貨屋さん、ホテルの方から楽曲使わせてほしいとの連絡をいただけるようになりました。このような依頼が増えたことが、とても大きいですね。

オビナタさんのYouTube公式チャンネルより

これまでは、レストランやライブハウスのイベントで演奏したり、自分がイベントを企画して演奏したりすることも多くあったのですが、今は演奏活動よりも、楽曲提供の仕事のほうが多くなってきました。最近で一番印象に残っている仕事は、CMで使用する曲作りですね。CM担当者の方がYouTubeで僕の曲を聴いて、依頼してくださったんです。その方と「こういう音じゃなくて、もっとこういうイメージの音が欲しいよね」と話し合いながら曲を作っていくのは、とてもやりがいを感じました。以前よりも曲を作る機会が多くなったことで、「ライブ演奏のように自分が表に出る仕事よりも、曲作りのように裏から支える仕事のほうが自分は好きなんだな…」と、新たに気付くことができました。このような気付きもあって、今はとても充実しています。

――オビナタさんが感じている、フリーランスのメリット・デメリットを教えてください。

オビナタさん: IBDに関わらず、患者さんがフリーランスで仕事をする一番のメリットは、体調に合わせて、ある程度マイペースに仕事ができるということではないでしょうか。例えば、僕がしている音楽の仕事の場合は、在宅でできます。そのため、「今日はちょっと体調が悪いな…」と思った時は、少し横になって休憩しながら仕事することもできるんですよね。ただ、どうしても締め切りが迫って仕事が立て込んでいる時なんかは、思いっきり無理をしちゃいますけど…(笑)。どうしても無理をしなくてはいけない時は、その分、ちゃんと体を休める時間を作ります。こんな風に、自分の体と相談しながら、無理をしすぎずに自分のペースで仕事ができることは、フリーランスの良い部分だと思いますね。

料理人やコンビニ店長の時代は、仕事柄、無理をして仕事をしなくてはいけない時がありましたので、そこは大きな違いだと思います。これまで経験してきたどの働き方よりも、今のフリーランスという働き方が僕には合っていると感じています。

一方で、音楽の世界は、とても厳しい世界です。そのため、収入は不安定になってしまいます。デメリットを挙げるとすれば、やはりお金の部分でしょうか。現在、僕は音楽の仕事1本で生活していますが、「やっぱり、並行してバイトをしようかな…」と、思う時もあります。この先、万が一、音楽の仕事だけでは生活できなくなってしまった時の“保険”として、という意味ですね。

例えば、体調が悪化したり、手術が必要になったりして入院する場合には、仕事でお世話になっている人や取引先の人にまず、「入院することになったので、すぐに仕事の対応ができない可能性があります」と、お伝えするようにしています。IBDのことをよく知っている人や同じ患者さんでないと、詳細をお伝えしても理解してもらえないことが多いので、簡単にしかお伝えしていません。実際、過去には、入院中に病室から仕事の対応をしなくてはいけないこともありました。また、入院のことを何回かお伝えしたことをきっかけに、減ってしまった仕事があるのも事実です。音楽の仕事に関わらず、フリーランスとして働く以上は、こういったことが起こってしまう可能性があります。

ただ、ぜひ知って欲しいことは、フリーランスとしての音楽の仕事は、誰にでも活躍できる可能性があるということです。僕が楽曲をアップロードしているYouTubeなど、今はSNSを通じて自由に作品を発信することができるようになりました。これは、フリーランスのどの仕事にも当てはまるわけではないかもしれないですが、音楽の仕事であれば、自分からどんどん作品を発信していくことで、活躍の可能性は広がっていくと思います。実際に、僕もYouTubeをきっかけに、いろいろな仕事を依頼していただけるようになりましたからね。少し前の時代では考えられなかった、大きなチャンスだと思います。

“IBD患者だから”できることがある。まずは一歩踏み出してみて

――オビナタさんご自身、音楽に助けられたことはありますか?

大日方さん3

オビナタさん: もちろん、ありますよ。病気のことで心がくじけそうになったときなど、何度も音楽に助けられました。例えば、手術の後、体力を戻すために点滴棒を杖代わりに病院内を歩くんですね。多い時では1日10kmくらい歩くこともあるほど、ハードです。そういった時に、音楽を聞きながら歩くことで、何度も勇気づけられました。

あとは、僕の音楽を聞いてくださっている方から、コメントをいただいた時はとても嬉しいです。特に、療養されている方から「癒しの音楽をありがとう」などと言っていただいた時には、胸が熱くなりますね。治療を頑張っている患者さんや、毎日の仕事が大変な方など、多くの方々に音楽を通じて“優しさ”をお届けできたら嬉しく思います。

――最後に、IBD患者さんにメッセージをお願いします。

オビナタさん: 病気のことを理由に、将来に対して不安を感じている患者さんもいるかもしれませんが、まずは、1日1日をしっかり生きて欲しいですね。「一緒に闘う」って言ったら大げさですけど、僕も同じIBD患者として、一緒に歩んでいきたいと思っています。

そして、IBD患者だからできないことってあると思うんですが、逆に、IBD患者だからできることもあると思うんですよね。僕自身、クローン病になってたくさんの“どん底”を経験したんですが、クローン病になったからこそ得たものも多くあるんです。例えば、「自分のために」ということ以上に「誰かのために」ということを考えらえるようになりました。今では、せっかく仕事をするなら、できるだけ多くの人に幸せを届けられるような仕事をしたいと思っています。クローン病になっていなかったら、こんな風には考えられなかったと思いますね。

それから、クローン病になったことで経験したさまざまな出来事が、僕の作品の中の“優しさ”に活きているのかなとも思っています。クローン病にならなかったら、今の自分はいないですし、多くの作品を生み出せなかったと感じています。

だから、「やりたいことがあるけど、挑戦するかどうか迷っている…」という患者さんがいたら、勇気を出して最初の一歩を踏み出して欲しいですね。僕の場合は、YouTubeなどでの楽曲の発信をきっかけに、仕事の可能性が広がりました。もし、音楽をやりたいという患者さんがいれば、自分からどんどん発信していって欲しいです。今は、それができる時代ですから、チャレンジしてもらえたら嬉しいです。

(IBDプラス編集部)

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