正社員としてフルタイムではたらく―上司に分かりやすく伝えるために日々実践している“〇〇術”

ライフ・はたらく2020/3/11

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今回の「仕事・はたらく」に登場していただくIBD患者さんは、正社員としてフルタイムで働く、潰瘍性大腸炎患者のかいさん。潰瘍性大腸炎と診断された後も、変わらずに、同じ職場で働き続けています。

一方で、再燃を理由に入院を余儀なくされ、約4か月間、会社をお休みした経験も。この入院をきっかけに、スムーズに業務を引き継ぐための準備を行うようになったほか、職場の上司に自身の今の状態を分かりやすく伝えるための努力もするようになったのだとか。会社からの信頼を得るために、かいさんが日々実践していることや、正社員としてフルタイムで働く人が潰瘍性大腸炎と上手に付き合っていくためのポイントについて、詳しくお話を伺いました。

かいさん(30代/潰瘍性大腸炎病歴4年)

仕事では、インフラ系の企業に勤め、正社員としてフルタイムで働いている。潰瘍性大腸炎を発症する前、特に20代の頃は、夜勤もある設備の運転操作業務に携わっていた。その後、夜勤のないデスクワーク中心の業務に変わり、潰瘍性大腸炎を発症後も正社員として働き続けている。さまざまな治療を受けるものの、なかなか効果が得られず、悩んだ時期もあった。入院もこれまでに2回経験。現在は自分に合った治療法が見つかり、寛解を維持している。

インフラ系企業の正社員、突然「潰瘍性大腸炎」に

――潰瘍性大腸炎の発症から診断を受けたときのことについて、お聞かせください。

かいさん: 潰瘍性大腸炎を疑う症状は、便に白い粘液が混じるといった違和感から始まりました。翌年、会社の健康診断の便潜血検査をきっかけに内視鏡検査を受けることになり、そこで初めて、潰瘍性大腸炎と診断を受けました。それまで、潰瘍性大腸炎という病気のことは知らなかったので、正直、ピンとこなかったですね。また、「難病」と聞いても、当時は症状も軽かったこともあり、あまりショックを受けませんでした。その時は、とにかく「先生の言うことを聞いて、治療を受けていれば大丈夫」と、どこか楽観的に考えていたような気がします。

診断を受けて1か月経った頃、血便が出るなど症状が悪化したことで、10日程度入院しました。その時に、自分が5-ASA製剤に対するアレルギーを持っていることがわかり、5-ASA製剤以外の薬による治療に切り替えました。5-ASA製剤の投与を中止してからは、しばらく症状が安定していましたね。

追い込まれて気付いた、自分から治療の情報を得るために行動することの大切さ

――診断を受けてから約1年後に再燃し、再度入院されたんですよね。その時のお話を教えていただけますか?

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かいさん: 再燃時は、おう吐、発熱、便に白い粘液が混じる、排便回数が1日に7~8回以上に増えるといった症状が見られました。また、痛みを伴う赤いぶつぶつが皮膚に現れる結節性紅斑(けっせつせいこうはん)という合併症が顔、お尻、足など全身に現れました。その他の合併症では、関節炎も現れ、背中やかかとなどが痛くてつらかったです…。このような症状から、再度、入院することになりました。

ちょうどこの頃、プライベートでは2人目の子どもが生まれたばかりで、上の子もまだ3歳だったこともあり、自分の入院によって、妻の負担が大きくなってしまったことはつらかったです。また、入院するしかないほど体調が悪化していたため、会社には、入院の際にどのくらい休暇が使えるかなどを相談し、すぐお休みに入らせてもらいました。この入院は約3か月続いたため、結果的に、会社は約4か月お休みしました。

入院中は、さまざまな治療を受けましたが、なかなか効果が現れず、つらい時期が続きました。そのため、下の子のお宮参りは、栄養を体内に入れる中心静脈カテーテルを体に刺したままの状態で参加することに…。入院前は69キロくらいあった体重も、その頃には52キロにまで落ち、立っているだけでも大変という状態でした。この頃、主治医に「内科的治療では限界かもしれません。手術を考えましょう」と告げられました。

――内科的治療で効果が得られず手術を提案された時は、どのような気持ちでしたか?

かいさん: 本当につらかったです。この頃が、最も精神的に追い込まれていた時期だったと思います。どんな治療を受けても効果が得られず、もちろん、ご飯も全然食べられなくて…。でも、この経験によって「治療に対して、受け身のままではいけない」と気付いたんです。主治医の話を聞くだけではなく、「自分から治療に関する情報を得るために行動しよう」と考えるようになりました。

それからは、潰瘍性大腸炎に関する本をたくさん読みましたし、同じ潰瘍性大腸炎の患者さんやIBD患者さんとつながるために、それまではほとんど更新していなかったTwitterの更新も積極的に行いました。そのおかげもあって、漢方という治療選択肢があることを知りました。これが自分には合っていたようで、体調が安定し、退院することができました。それからは再燃することなく、現在に至っています。また、退院後も情報収集は積極的に行うようにしていて、患者会や医療講演会にも参加するようになりました。

「分かりやすく伝えること」の積み重ねが大切。そのために日々のデータを管理し、症状の見える化を

――再燃による急な入院に備えて、仕事ではどのような工夫をしていますか?

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かいさん: 万が一の時に備えて、日々、業務をスムーズに引継ぐための準備を行っています。誰が読んでも分かるような内容で、業務内容を文書に残しておくことが大事と考えていますので、そのための準備は怠りません。

また、業務に直接つながるわけではないのですが、日々の体調や生活習慣に関連するデータを記録すること、病院でもらうデータを残すことで、症状の見える化を心がけています。まず、体調や生活習慣に関連するデータについては、毎朝、体重・血圧・体温を測り、アプリに記録しています。食事もTwitterに投稿するなどして、記録しています。排便回数も、専用のアプリを使って毎日記録しています。日々、記録することで、体調の異変や違和感に気付きやすくなりますし、変化に早く気付くことで、上司や産業医、主治医にも伝えやすくなりますしね。そういった小さな努力が、結果的に寛解維持につながっていくのかなと考えています。

病院でもらうデータは、上司や産業医に見てもらうため、ファイリングしています。産業医には、そのまま見てもらうので問題ないと思いますが、上司には分かりやすく伝えることを心がけています。例えば、大腸内視鏡検査の写真を見せるときは、症状が悪化していた時期の大腸の写真と、症状が安定している時期の大腸の写真を見比べてもらって、「こんなに良くなりました」と、伝えています。そうすると、上司も「全然違うね。やけどが治った後みたいだね」と、理解してくれました。多分、正常な大腸の写真だけを見ても「これ、何…?」となってしまうと思うので…(笑)。炎症反応の指標であるCRP値も同じように比較できるので、数字を見比べてもらって、「再燃時と比べて今は安定しています」と伝えるようにすると説得力があります。このように、相手に分かりやすく伝えることを、繰り返していくことが大切で、この積み重ねが、会社から信頼を得ることにもつながるのかな、と思っています。

――データを記録し続けるって、決して簡単なことではないですよね。続けるためのコツはありますか?

かいさん: 記録することがストレスに感じたり、しんどくなったりしないように、時々は忘れてもいいですし、好きなことをしてメリハリをつけることが続けるためのコツかなと思います。たまには、好きなものを食べてストレス発散するのもひとつですよね。

会社の福利厚生を把握し、最大限活用してみて

――かいさんが感じている、正社員としてフルタイムで働くメリット・デメリットを教えてください。

かいさん: ありがたいことに、自分の勤めている企業は福利厚生が充実していると思っています。そのため、有給が取りやすく、体調に合わせた働き方ができるのはメリットだと思いますね。また、今の会社は、フレックス勤務や在宅勤務を選択することもできるので、体調が優れない時は特に安心ですね。どの企業も同じように…とはいかないと思いますが、仕事を探す際には会社の福利厚生を把握しておくと良いと思います。

デメリットについては、実は、今あまり感じる部分がないんです…。ただ、これは正社員に限らないことだと思いますが、人間関係で悩むことはありますね。例えば、病気のことで「病気の原因はストレスだ」などと、決めつけてくる人と話すのは、しんどいです。

――正社員としてフルタイムで働きながら、潰瘍性大腸炎と上手に付き合うためのポイントはありますか?

かいさん: すでにお話しした、日々の体調や生活習慣に関するデータを記録することや、データを上司に分かりやすく伝えることはもちろんですし、「何か、いつもと違う」というような体調の違和感があったらすぐに上司や同僚に伝えることもポイントだと考えています。心配であれば、自分から主治医に検査を提案してみることもひとつだと思います。とにかく、早め早めの対応を積み重ねることですね。

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あと、無理はしないこと、そして、自分を含めた家族全員がストレスの少ない生活を送ることも大切だと思います。例えば、うちの家庭では、1週間分の献立のレシピと必要な材料一式を自宅に届けてくれる「ミールキット」のサービスを利用しています。ミールキットを利用する前は、毎日献立を考えて買い物して…と、妻の負担が大きくなりがちでしたが、ミールキットを利用することで妻の負担が軽くなり、ストレスも減ったようです。こんな風に、「ストレスを減らすために工夫できることはないか?」と考えることも大切ですね。

入院生活を2回経験してわかったことは、会社には自分の代わりになる人がいるけど、家族には自分の代わりになる人がいないということです。これまでは、どうしても仕事優先になってしまうことがあったのですが、これからは家族との時間も大切に、楽しい思い出をたくさんつくっていきたいですね。

仕事では新しい挑戦も。でも、頑張りすぎず、時には誰かを頼って

――これから、仕事ではどのようなことに挑戦したいですか?

かいさん: ゆくゆくは、海外での業務にもチャレンジしたいですね。会社に英語の研修制度があるのですが、思い切って手を挙げてみたところ、参加できることになったんです。今は、その制度を利用して英語を勉強している最中で、先日、英検にもチャレンジしました。

英語を学ぼうと思ったきっかけは、実は、IBD患者さんたちの影響もあります。潰瘍性大腸炎の情報を集めるために始めたTwitterで、高校生や大学生のIBD患者さんとのつながりができたんです。Twitterを通じて、彼らが、受験や学校の勉強を頑張っていることを知って、純粋にすごいなと感じました。病気を抱えながら、毎日学校に通って、勉強して、おまけに部活も頑張って…そういう姿を見て、「自分も、もっとできる」と思いました。だから、今は、海外勤務が決まったときのためにも、英語の勉強を続けようと考えています。

――最後に、IBD患者さんにメッセージをお願いします。

かいさん: IBD患者さんの中には、今まさに治療・症状のことで悩んでいるという人もいると思います。つらいことも多いかと思いますが、決して諦めないでください。自分がそうだったように、自分に合う治療法はきっとあるはずなので。

それと、もし、再燃中という患者さんがいらっしゃったら、焦る気持ちもあると思いますが、「焦らなくて大丈夫ですよ!」とお伝えしたいです。自分で出来ることには限界があるので、無理に頑張りすぎることも禁物です。家族や友人、会社の同僚など、どんどん誰かに頼ってみて、自分なりのワークライフバランスを見つけてください。

自分は、2回の入院をきっかけに、日々の体調や生活習慣を記録するようになりました。そのおかげで、分かりやすく相手に伝えることを心がけるようになりましたし、自身の体調の小さな変化にも気付けるようになりました。このような経験が、一人でも多くのIBD患者さんの役に立ったら嬉しいです。

(IBDプラス編集部)

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