クローン病になり会社員から個人事業主へキャリアチェンジ―誰かの居場所をつくるために

ライフ・はたらく2020/6/8

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渡会さん

今回の「仕事・はたらく」でご紹介するIBD患者さんは、個人事業主としてイベントなどを手掛けている、クローン病患者の渡会(わたらい)さん。会社員として営業の仕事をしていた時にクローン病と診断され、体力的な問題から退職を決意。入院中に「作戦ノート」を通じて自分と向き合い、「誰かの居場所をつくりたい」という思いに気付いたそうです。そこからゲストハウスの開業を目指し、個人事業主として働く道を選びました。

大変な状況の中でも、ポジティブに考え行動を積み重ねた結果、地元の沼津市が構想する子どもの遊び場づくりを手掛けることに!見事、遊び場をオープンさせて、活動の輪が広まっていた矢先に、新型コロナウイルスの感染が拡大…新たな問題に直面しています。会社員を経験し、個人事業主としてチャレンジを始めた今、渡会さんが思うこととは?詳しくお話を伺いました。

渡会 信介さん(35歳/クローン病歴 3年)

20歳頃からクローン病を疑うような症状はあったものの、確定診断を受けたのは32歳の時。当時、会社員として営業の仕事をしていたが、クローン病と診断されたことをきっかけに退職することになった。現在は地元である静岡県沼津市に住み、個人事業主として主に「イベント業」と「インストラクター業」の仕事をしている。高校生時代の自身の経験から「誰かの居場所をつくりたい」と考え、ゲストハウス開業を目標に活動している。
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クローン病の診断に「まさか、自分が…」

――クローン病を発症されたときのことについて、お聞かせください。

渡会さん: 2017年の32歳の時、これまでに経験したことのない激痛に見舞われました。一度は痛みが治まり、仕事にも行っていたんですが「念のため、病院で診てもらおう」と考え、家の近くの病院に行ったんです。血液検査の結果、CRPの値がとても高く、医師から「炎症がひどいので、すぐ大きな病院で検査を受けたほうがいいです」と説明を受けました。そこから、沼津市内の病院に入院し、検査を受けました。その結果、「恐らくクローン病なので、専門の病院で診てもらったほうが良い」となり、横浜市立市民病院へ転院することになりました。

今振り返ると、20歳頃から腹痛や下痢などの症状が頻繁にあり、クローン病の診断を受ける32歳までに3回ほど病院に行っていました。沼津市以外に、沖縄や東京に住んでいた時期もあり、それぞれの地域で内科や消化器科の病院を受診しました。ただ、だいたい飲み会の後だったこともあり、医師からは「飲みすぎかな?」と言われていたんです。僕はお酒を飲むことが大好きなので、当時は「そうなんだ」くらいにしか思っていませんでした。

――横浜市立市民病院での検査入院の結果、クローン病と診断を受けたんですよね。その時はどのようなお気持ちでしたか?

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渡会さん: あまりピンときていなかったですね…そもそも、当時は「クローン病」という病気を知らなかったので。それに、自分は体が丈夫なほうだと思っていたこともあり、「まさか、自分が…」という思いもありました。

また、プライベートでは、横浜市立市民病院へ転院する少し前に、ちょうど2人目の子どもが産まれました。クローン病という得体の知れない病気を前に、「ちゃんと家族を養っていけるだろうか…」と、自分の身体のことよりも、家族の今後について不安がいっぱいだったと思います。

――診断を受けた時、家族や友人はどのような反応でしたか?

渡会さん: 妻もクローン病についてよく知らなかったのですが、一緒に病気についての情報を探してくれました。クローン病に関する本を読んで、日々の食事についても工夫してくれていましたね。また、5歳になる上の子どもも、病気について詳しく理解しているわけではないですが、「お腹が痛くなる病気」ということはわかっています。

友人など周りの人には、クローン病についてうまく説明できなくて…とりあえず、当時は「検査のために入院する」ということだけを伝えていました。入院中は、友人がふざけてカップラーメンやお酒を持ってきてくれたことが気晴らしになりましたし、何よりも、普段通りに接してくれたことが嬉しかったですね。

初めての入院、手術…IBD患者さんとの出会いが力に

――クローン病と診断を受けてからは、どのような治療を受けていますか?

渡会さん: まず、人生で初めての手術を経験しました。検査を受けた時に、腸閉塞になっていることがわかったためです。医師からは「倒れていてもおかしくないような状態だよ」と、説明を受けました。

「再手術の可能性がある」と言われているので、退院した今も3か月に1度、定期検査を受けています。また、以前はエレンタールを飲むこともありましたが、今はペンタサのみ服用し、食事も少し気を遣う程度です。

――入院生活で、印象的な出来事はありましたか?

渡会さん: 同じIBD患者さんと病室が一緒だったこともあり、いろいろなことを教えてもらいました。例えば、徐々に食事をとれるようになった時期は「お粥に〇〇かけたらいいよ」といったことです。患者さんによって症状は違うので、あくまでもアドバイスとして教えてもらいました。同じ病気を経験している人から教えてもらえることが、本当に心強かったです。

入院中に知り合った患者さんとは、今も関係が続いています。もし、この出会いがなかったら…と考えると、すごく不安だったと思いますね。それくらい、IBD患者さんとの出会いは、自分にとって大きな出来事でした。

「体力的に厳しい」と考え退職…チャンスと捉え個人事業主へ

――クローン病と診断を受けて、会社を退職することを決意されたのはなぜですか?

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渡会さん: 体力的に、今までと同じ営業の仕事を続けるのは難しいと考えたためです。会社員時代は、商品の配送も兼ねたルート営業の仕事をしていました。残業も多く、体力が必要な仕事だったんです。手術により体力も落ちていて、「すぐに仕事に復帰するのは、体力的に厳しい」と考えました。上司とも相談して、結果的に退職することになりました。

また、クローン病と診断を受ける前から「このまま会社員として働いていていいのか?」と考えていたことも、退職を決意した理由のひとつです。会社員として「できること」「できないこと」についてモヤモヤしていたこともあり、漠然と「個人事業主として働いてみたい」と考えていました。だから、クローン病になったことを「むしろチャンスかも…今しかない!」と捉えて、個人事業主としてチャレンジすることを決意したんです。

――その後、個人事業主としてゲストハウスの開業を考えるようになったんですよね。それは、なぜですか?

渡会さん: 「誰かの居場所をつくりたい」という思いがあったためです。実は僕、高校生くらいの時にいろいろなことが嫌になって、人生に迷っていた時期があったんです。当時、ずっと続けていた野球を辞めた時で、高校に入学してからは毎日が本当につまんなくて…。「高校、辞めちゃおうかな」と、思ったこともあったんです。そんな僕を救ってくれたのが、スケートボードとの出会いでした。ストリートで友人とスケートボードをする、という新しい居場所できたことで、気持ちが楽になったんです。学校以外に自分の居場所ができたことで、僕は救われました。だから、今度は僕が、誰かの居場所を作れたらいいなと思って。そこから、ゲストハウスの開業を目指すようになりました。

ゲストハウスを通じて、自分の好きな地元のことを紹介しつつ、外から来た人も地元の人も、さまざまな人々の交流の場になるような、そんな場所をつくりたいです。そこが、いつか、誰かの「居場所」になってくれたら…と思っています。

それから、僕と同じように病気を抱えた人が働くことができる場所としても運営していきたいですね。僕がそうだったように、病気をきっかけに仕事を辞めることになって悩んでいる人がいたら、次の一歩を踏み出すための準備をするために、ゲストハウスを居場所と思ってもらえたら嬉しいです。これは、入院中に始めた「作戦ノート」をきっかけに気付くことができたんです。

――「作戦ノート」がきっかけだったんですね!そのノートには、どんなことを書かれていたんですか?

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渡会さん: 作戦ノートには、自分が将来「どうなりたいのか」「何をしたいのか」といった考えをまとめていました。例えば、コーヒーのお店を開業するとした場合、「こんなコーヒーを売りたい」といったことを書いていくんですね。儲かる、儲からないは別として、自分のやりたいことを考えて書き続けました。入院中は、この作戦ノートを通じて自分と向き合っていました。

結果的に、この作戦ノートによって「誰かの居場所をつくりたい」という自分の思いに気付くことができましたし、ゲストハウスの開業について、具体的に考えるようになりました。今も、当時の作戦ノートを見返すことで、個人事業主として活動を始めたときの自分の思いを確認しています。

「作戦ノート」を片手に、子どもたちの遊び場づくりを実現

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オープンした「スキルパーク」での記念写真

――退職された後は、どのような活動を始めましたか?

渡会さん: 作戦ノートをきっかけにゲストハウスの開業を考えていたこともあり、まず、沼津市が主催する「起業セミナー」に参加しました。そこで、沼津市がBMXという自転車競技やスケートボード専用の遊び場を構想していることを知ったんです。偶然にも「運営をやってもらえないか?」というお話をいただいたことから、まずはイベント業として開業しました。この遊び場の企画は、沼津市の廃校にあったプールを「スキルパーク」として2020年の2月2日にオープンさせることで実現しました。新聞などに取り上げられたこともあり、反響が大きかったですね。「誰かの居場所をつくりたい」という思いから始めた活動なので、BMXやスケートボードを通じて、このスキルパークが誰かの居場所になってくれたら嬉しいと思っています。

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さまざまなイベントを通じた、子どもたちの居場所づくり

現在は、仲間たちと「チームLINK」という団体を立ち上げて、地元の沼津市を中心に行政のまちづくりと連携して活動をしています。チームLINKの代表として、自分が行政のチームに入らせてもらったり、直接営業をしたりして、さまざまなイベントに関わらせていただいています。最近では、沼津市だけでなく、近隣の市町村や企業にも声を掛けていただけるようになりました。その他、子どもが好きなこともあり、このようなイベント業とは別に、キッズバイクをはじめとするバイクのインストラクター業も関東近辺で行っています。

――個人事業主としての活動について、ご家族はどのような反応でしたか?

渡会さん: 家族は応援してくれています。妻とは、「食えなかったら、サラリーマンに戻る」と約束していますし…(笑)。また、同居している僕の両親にもさまざま面でサポートしてもらっており、感謝しています。家族の支えがあって、今の活動ができていると思いますね。

会社員を経験した今だから感じる、個人事業主のメリット・デメリットとは

――会社員と比べて、個人事業主にはどのようなメリット・デメリットがあると感じていますか?

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渡会さん: 個人事業主の大きなメリットは、自分で時間を管理できることですね。自分の体調や生活に合わせて仕事ができますし、もちろん、以前のような残業もありません。また、会社員の頃は、組織のルールのようなものがあって「本当はやりたいけど我慢していたこと」が、多くありました。でも、個人事業主となった今は、やりたいことにどんどんチャレンジできるので、そこもメリットだと感じています。その分、会社員の頃にはなかった、「責任」も出てきたことは事実ですね。結果は全て自分に返ってきますし、会社が守ってくれるわけでもないですから。

個人事業主のデメリットは、給与が安定しないことです。ここは、会社員との大きな違いでもあります。例えば、今回の新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、予定していた多くのイベントが中止になり、収入にも影響が出ています。仕方ないことですが、今回のような非常事態の際には、お金に関する苦労が増えるかもしれません。あとは、僕の場合、思っていた以上に家族と過ごす時間が取れていないです。どうしても営業などで人と会う時間を優先しなければならないことが多いので…。今後は、家族との時間についても確保していきたいです。

――個人事業主として働く場合の、クローン病との付き合い方のポイントについて教えてください。

渡会さん: 僕の場合は、「人と会うことが仕事」という部分もあるので、仕事で誰かと食事する機会も多いです。そのため、特に退院直後で食事に気を遣っていた時期は、相手に病気のことを事前にお伝えするように心がけていました。今は寛解しており、以前ほど食事に気を遣う必要がなくなったので、事前にお伝えすることはなくなりました。

――仕事をする中で、症状が悪化しないように気を付けていることはありますか?

渡会さん: 何事も、ポジティブに考えるようにしています。僕はどちらかと言うと、ネガティブな感情に引っ張られやすい傾向があるので…そこは引っ張られないように、意識してポジティブに考えるようにしています。あと、沼津市内のきれいなトイレの場所は、しっかり頭に入っています!そうすることで、いざという時に気持ちが楽かなと思っています。

大変な今だからこそ、ポジティブに活動したい

――最近、新しく始めた活動はありますか?

渡会さん: 新たな取り組みとして、「ぬまつー」というローカルメディアをみんなで立ち上げました。地元である沼津市の「人」や「モノ」を紹介しています。ぬまつーを通じて、沼津市のことを多くの方々に知ってもらい、人とまちを“ゆるーく”つないでいけたら…と考えています。実は、僕がインタビューとかもやっているんですよ(笑)。素人ですが、もともと誰かとお酒を飲んで話すことが好きなので、楽しみながらやっています。

最近は、新型コロナウイルスの影響で飲食店も大変なので、「沼津テイクアウト飯」として、沼津市内の飲食店のテイクアウト情報も紹介しています。こんな時だからこそ、ぬまつーを通じて、沼津市を盛り上げていけたら嬉しいですね。

――最後に、IBD患者さんにメッセージをお願いします。

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渡会さん: 今、新型コロナウイルスの影響もあり、大変な思いをしている方もいらっしゃると思います。僕自身、さまざまな仕事が中止になり、大変な状況なのですが…むしろ、これはチャンスだと考えています。

僕は、クローン病をきっかけに会社を辞めて、ゼロの状態からここまでやってきました。「その時に比べたら、今は平気かも?」とポジティブに考えて、これからも活動していきます。こんな風に考えられるようになったのは、自分の周りの仲間たちや、家族の存在が大きいと思いますね。もし一人だったら、僕は何もできなかったと思います。仲間や家族がいるからこそ「何とかなるだろう!」と、ポジティブに考えられるのかもしれません。

あんまり、IBD患者さんたちに偉そうなことは言えないですが…(笑)、僕の経験したことが少しでも誰かの役に立ったら嬉しいです。もし、ゲストハウスの開業が実現したら、ぜひ沼津市まで遊びに来てください!

(IBDプラス編集部)

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