クローン病×イタリアン料理人―IBD患者さんを幸せにする料理づくりを目指して

仕事・はたらく2020/11/2

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中西さん

今回の「仕事・はたらく」でご紹介するIBD患者さんは、東京・自由が丘のイタリアンレストランで働く料理人、中西優斗さんです。一人前のイタリアンの料理人を目指し修業中だった21歳の頃に、クローン病と診断されました。イタリアン料理は、高脂質な料理がメインとなります。そのため、将来、イタリアンレストランを開くことが夢だった中西さんにとって、クローン病の診断は、同時に、夢を諦めなければならないことを意味していました。

一度は料理人の道を諦めようと考えた中西さんでしたが、尊敬するシェフのアドバイスをきっかけに、IBD患者さん向けの料理をつくることを決意。現在は、働き方を変えて、同じ職場で正社員として働き続けています。

 

クローン病によって、長年追い続けてきた夢を失い、人生のどん底を味わったという中西さん。どのようにして新たな目標を見つけ、再び歩き始めることができたのでしょうか?「料理を通じて、IBD患者さんを幸せにしたい」と笑顔で語る中西さんに、詳しくお話を伺いました。

中西優斗さん(22歳・男性/クローン病歴7か月)

東京・自由が丘のイタリアンレストランで修業中の料理人。クローン病を21歳で発症し、同じ頃に注意欠如・多動症(ADHD)と自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断も受けている。「料理人を辞めなければいけない…」と考えたこともあったが、シェフや職場のサポートもあり、現在も料理人として働き続けている。 「IBD患者さんに、美味しく安全で楽しい食事を」をモットーに、患者さん向けの低脂質料理を開発中。TwitterなどのSNSで、美味しい低脂質料理の情報を発信している。

クローン病でイタリアン料理人を続けられるのか?目の前が真っ暗に…

――クローン病を発症されたときのことについて、お聞かせください。

中西さん: 2019年8、9月頃に、肛門の周りにうみが溜まる「肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)」になったことが、最初の症状でした。腹痛や下痢の症状もあったと思います。

当時、料理人の仕事が忙しかったことなどもあり、病院に行かず放置していたところ、症状が悪化したので2020年1月頃に病院へ行きました。そのときの検査で「クローン病の可能性がある」と説明を受け、大きな病院で詳しい検査を受けることに。そして、確定診断を受けたのが2020年7月頃でした。

――確定診断を受けた時、どのようなお気持ちでしたか?

中西さん: ショックで、「まさか自分が…」という気持ちでした。そして、まず浮かんだのは「この先、ぼくは料理人を続けることができるのか?」ということでした。医師からは、クローン病について「難病で、食生活の管理が大切になる病気」との説明を受け、「脂質の管理を怠ると、症状が悪化する」と知りました。イタリアン料理は、基本的に脂質が高い料理です。クローン病になったぼくが、これからもイタリアン料理に関わっていけるのか…とにかく、そこが一番不安でした。

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実は同じ頃、クローン病の他にも、注意欠如・多動症(ADHD)と自閉症スペクトラム障害(ASD)という病気の診断も受けていたんです。そのため、「これから自分は自立していけるのか」「いずれは結婚して、家族を持てるのか」など、仕事以外の面でも、さまざまな不安が一気に押し寄せてきました。

――ADHDとASDは、どのようなきっかけで診断を受けたのですか?

中西さん: 最初は、「前よりも、忘れっぽくなったかな?」とか「コミュニケーションが苦手になってきた」と感じるようになったことがきっかけでした。そこから、徐々に、うまく話せなくなる発話障害の「吃音(きつおん)」の症状も出るようになりました。次第に、以前と同じように仕事ができなくなったため、病院に行ったところ、ADHDとASDの診断を受けたんです。

この診断に、正直、ぼくは心が折れてしまいました。そこで、尊敬しているシェフに「一度、料理から離れるべきか?」相談したんです。すると、シェフは「もう1回、一緒に働こう」と言ってくださって…。そこから、何とか働いていたんですが、その後すぐにクローン病の診断を受けることになったんです。そういった経緯もあったので、クローン病と診断されたときは本当に目の前が真っ暗になりました。

夢破れて人生のどん底に…そして見えた、新たな目標

――ADHDとASDに加えて「クローン病」の診断を受けたことについて、シェフにはどのようにお伝えしたのですか?

中西さん: 素直に「今度は、難病になってしまいました」と、クローン病についてお伝えしました。シェフからは、「正直、イタリアンの料理人を続けるのは無理かもしれないね」と言われ、ぼくは仕事を辞めることを覚悟しました。でも、続けてシェフは「同じIBD患者さん向けに、低脂質で食事を作るのはどうだろう?」と、アドバイスしてくれたんです。

ぼくは、料理人を辞めることを覚悟していたんですが、一方で、ずっと好きで仕方なかった料理の仕事を辞めたくないとも思っていました。だから、シェフのお話を聞き、今度はIBD患者さん向けの料理の道を歩きたいと思ったんです。

クローン病になる前のぼくの夢は、自分のイタリアンレストランを持つことでした。でも、その夢はクローン病になったことで諦めざるを得ませんでした。そこで改めて「自分のレストランを持って、ぼくは何をしたかったんだろう?」と考えてみると、それは「お客さんを料理で幸せにすること」だったんです。IBD患者さん向けに料理をつくるとことも、結果的には同じ目標につながると思いました。だから、IBD患者さん向けの料理人として、新たなスタートを切ることにしたんです。

――診断を受けた後も、同じレストランで働き続けていると伺いました。働き方に変化はありましたか?

中西さん: 正社員のまま、半日労働のシフトに変更して働き続けています。現在は主に、ランチの時間帯をメインに仕事をしています。診断を受ける前は、週に5~6日、朝から夜遅くまで働くことが当たり前でした。どうしても、料理人の仕事はハードワークになりがちですからね。だけど、病気になる前と同じような働き方は、今の自分には無理だと思いました。そこで、思い切ってシェフにご相談したところ、現在のような働き方を許してもらえました。ぼくに料理人として働き続ける環境を与えてくださったシェフや、いつもサポートしてくださる職場のみなさんには本当に感謝しています。

いま、新型コロナウイルスの影響もあって、飲食業界は大変な状況に陥っています。そんな中、病気で半日しか働けないぼくを雇い続けてくれるなんて、普通であればあり得ないと思うので…。いつか、「必ず恩返ししたい」という気持ちで、働き続けています。

病気になった影響は、仕事だけでなくプライベートにも

――クローン病の診断を受けた時、家族や友人はどのような反応でしたか?

中西さん: みんな、とてもびっくりしていました。クローン病のことを知っている人はほとんどいなかったので、まず、「クローン病はどんな病気なのか?」を説明するところから…という状況でしたね。

ぼくは、病気のことはオープンにすると決めています。診断を受けた直後は、病気のことを隠そうか迷った時期もありました。でも、自分の周りの人には、変な気を遣って欲しくないと思ったので、包み隠さずに病気のことを話すようにしています。

――周りの人に病気のことをオープンにして、どのような変化がありましたか?

中西さん: 自分をきっかけに、「クローン病って、どんな病気なの?」と興味を持ってくれた友だちがいました。クローン病は、外見からは病気であることがわかりにくいですし、今の社会では、まだまだクローン病の認知度は高いとは言えません。そんな状況で、少しでもクローン病に興味を持ってくれる人が増えたらうれしいと思いますね。

一方で、当時お付き合いしていたパートナーとは、病気をきっかけにお別れすることになりました。ADHDとASDだけでなく、難病のクローン病と診断されたときは、当時のパートナーに話すべきか…正直、迷いました。「病気のことを理解されずに、別れを告げられるのは怖い」と思ってしまったからです。だけど、最後は「ちゃんと伝えよう」と決意して話しあった結果、別れることになりました。

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当時のパートナーにとっては、「難病」という言葉が重かったようです。クローン病は、現時点では治らない病気で、再燃と寛解を繰り返し、場合によっては仕事を休まないといけないこともある病気です。そのことを知り、ぼくのことを支えていけるのか自信が無かったのかもしれません。もし、自分が逆の立場だったらと考えると、ぼくも相手をちゃんと支えていける自信を持てるのか、わかりません。だから、お互いに納得して、別れました。

――病気をきっかけに、本当にいろいろなことがあったんですね。どん底の状況から、どうやって持ち直すことができたのですか?

中西さん: 「料理を通じてIBD患者さんを幸せにしたい」という新しい目標を見つけたことが、大きかったと思います。そこから、IBDについて勉強することも楽しくなって、Twitterなどで患者さん向けの料理を投稿するようになったんです。特にTwitterでは、同じIBD患者のフォロワーさんたちから、いつも元気をいただいています。患者さんたちからの励ましのおかげで、今は少しずつ前向きに生きることができるようになりました。

クローン病の診断を受けた頃は本当にどん底で、自分の人生の中でも多くのことを考えた時期でもありました。だけど、IBD患者さんたちの優しい声のおかげで、「落ち込んでいる暇なんてない!」と思えるようになったんだと思います。

IBD患者さんからの励ましの声も力に

――Twitterで、IBD患者さん向けの料理に関する投稿を始めた理由を教えてください。

中西さん: 一番の理由は、多くのIBD患者さんに「患者さん向けの食事を開発しようとしている料理人がいる」ということを知ってもらいたかったためです。

ぼくは、クローン病と診断される前、生きがいのひとつが美味しいご飯を食べることでした。しかし、病気によって、自分の好きなものを好きなだけ食べられなくなってしまったことに、大きなショックを受けました。だから、ぼくのような思いをされているIBD患者さんに、「食事への制限があるなかでも、心から美味しいと思えるご飯を食べて欲しい」と考え、投稿を続けています。

――低脂質のイタリアン料理は、どのように考えられているのですか?

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中西さんのラザニア。鹿肉や無脂肪乳などを使用し、低脂質を追求している。

中西さん: シェフにもヒントをいただきながら、試行錯誤を重ねています。シェフは、クローン病のことをとても理解してくださっていて、ぼくでも食べられるような低脂質のまかないを作ってくれるんです。その際に、どのような調理方法を用いたのか、教えてくださるんですね。例えば、「どのようにしたら油を使わなくて済むか?」などの工夫についてです。本来イタリアン料理では難しい、脂質を落とす工夫などを、日々シェフから教えていただいています。

また、ラザニアは自分が試行錯誤を重ねている料理のひとつです。知り合いに食べてもらい感想をもらって、改良して…を繰り返しています。いつか、「低脂質って言われないとわからないくらい、美味しかった!」と言ってもらえるラザニアをみなさんにお届けすることが目標ですね。

――Twitterでの情報発信を始めて、どのようなことが良かったと感じていますか?

中西さん: Twitterを始めてまだ数か月なのですが、ありがたいことにIBD患者さんから多くの声をいただいており、それが励みになっています。特にうれしいのは、「こんなに脂質が高そうな料理なのに、食べられるんだ!」という声をいただいたときですね。

あと、Twitterを通じて、リアルな患者さんの声も知ることができるのは大きな収穫だと感じています。自分は、まだクローン病になって1年も経っていないので、わからないことも多くて…。だから、患者さんたちがどのような料理を食べたいと思っているのかを知ることができたのは大きかったです。例えば、脂質が高めで刺激も強いカレー系の食べ物や、揚げ物、こってり系のラーメン、中華料理などへのニーズも多いと感じています。自分の専門外であるイタリアン以外のジャンルについては、他の方の協力も得ながら、いつかメニュー開発を進めていきたいと考えています。

IBD患者さんが、気を遣わずに食事を楽しめる機会を

――料理人としての今後の目標や夢について教えてください。

中西さん: 今の夢は、「自分の料理で、たくさんのIBD患者さんを幸せにすること」です。そのために、まずはIBD患者さん向けの商品を開発し、多くの患者さんたちに自分の料理を食べていただきたいですね。いつかは、IBD患者さん向けの料理教室を開いたり、料理本を出版したりしたいと考えています。

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また、クローン病になったことで、少しずつ料理の幅も広がっていると感じています。低脂質、低残渣など、さまざまな制限のある中で料理をしなければならないので、今までのイタリアン料理では考えもしなかった調理法や食材に触れることができました。これからも、さらにIBDに関する知識を得て、さまざまな患者さん向けのメニュー開発に挑戦していきたいです。

――最後に、IBD患者さんにメッセージをお願いします。

中西さん: ぼくは、小さい頃から料理を通じて誰かを笑顔にすることが大好きでした。友だちにお弁当を作ったり、お家で料理パーティーを開いたりして、周りのみんなが「美味しい!」と言ってくれることがぼくの幸せだったんです。イタリアン料理は、特に大好きな料理でしたから、イタリアン料理人を目指すことは、ぼくにとっては自然なことでした。

だけど、クローン病になったことで、目指していたイタリアン料理人としての道は途絶えてしまいました。一方で、「IBD患者さんを幸せにする料理をつくる」という新たな夢を見つけることができました。

IBD患者さんは、日々の食事のなかで常に自分の身体に気を遣い、さらに家族やパートナーにも気を遣うことが多いと思います。だから、患者さんが気を遣わずに食事を楽しめる機会を増やしたいですね。それは、クローン病の自分だからできることなのかもしれない、と考えています。

最後に、みなさんが本当に必要としている料理を開発するため、これからも、多くのご意見やアドバイスをいただけたらうれしいです。ぼくと一緒に、新しいIBD料理をつくっていきましょう!

(IBDプラス編集部)

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