IBD発症後の「受験攻略」、経験者に聞く、重要ポイントは?
ライフ・はたらく | 2022/1/11
中学、高校、大学進学のための受験を控えた学生のみなさん、準備は順調ですか? IBD治療による授業の遅れを取り戻さなくてはいけなかったり、体力が落ちてなかなか机に向かえなかったり、患者さん本人はもちろん、サポートする家族にとっても受験はとても大変なイベントのはずです。15歳で潰瘍性大腸炎を発症後、21歳から受験勉強を開始し2年の予備校生活を経て国立高知大学の医学部に合格、現在は在宅診療医であり、「日本うんこ学会」の会長としても活躍される石井洋介先生にご自身の受験体験を振り返っていただき、いろいろな受験対策のコツをお聞きしました。受験は「ゲームの攻略と似ている」と語るその真意は?
この記事のポイント
Point1 勉強方法-「写経」からスタートした受験対策、科目も絞る
――受験勉強を本格的に始める前に、「書き写すこと」を始められたそうですね
19歳の時に大腸全摘を経験したことが、医師を目指すきっかけでした。ところが、当時の僕は本当に勉強ができなかった。医学部なんてどれだけ背伸びした目標か…。体力も落ちていたので、「長時間勉強できる」モチベーションと体力をつくることを心掛けました。
そもそも、長時間座っていられないところからのスタートでした。そこで始めたのが、高校1年生レベルからの基礎学習と「写経」。これは、好きな書籍や朝日新聞の「天声人語」などの書き写しです。読書量も増やし、長時間の座学ができるようになりました。この時は、勉強できる環境づくりをする目的だったのですが、医学部の小論文試験で、「生きるとは」「障害を負うとは」のようなテーマが多かったことから、この書き写しで得られた知識がとても生かされました。
――遅れた分の勉強を取り戻すために、工夫したことはありましたか?
当時の国立大学の医学部受験では「センター試験」対策と、前・後期の大学の試験(二次試験)対策が必要になりました。むやみに手を広げても成績は伸びないと思い、浪人2年目の夏頃には受験校を絞り、各教科を細分化して取捨選択(例えば、数学の中で難易度が高く、当時のセンター試験には出ない複素数の問題は捨てる)をし、一定期間集中して勉強するという工夫をしました。周りと同じように勉強していても追いつきようがないと思い、自分の受験にとって不要と思った部分は勇気を持って捨てて、一点突破の作戦としました。
また、浪人1年目は予備校の先生に言われるがままに予習復習をして、“真面目に”勉強をしていたのですが、なかなか成績が伸びませんでした。そこで2年目からは勉強法を変えました。例えば、数学。数学1Aの出題分野として二次関数、確率などがあったと思いますが、そのうちの1分野を2週間程度かけて集中して勉強するという方法を実践しました。
模擬試験には全範囲出てくるので、勉強していない部分は当然0点なのですが、それでもいいと自分に言い聞かせて1つ1つできる範囲を増やし、「クリア」していくスタイルです。数学や化学はそれぞれの分野毎に短期間で理解を深める方法が向いていると思います。一方で、英語や国語は地道な積み上げが大事なので、コツコツと単語を覚えること等、小さな積み上げを毎日実践するようにしていました。
――受験校はどんな基準で絞りましたか?
潰瘍性大腸炎の影響で学校にほとんど行っていなかったため、高校の成績はギリギリ卒業させてもらえるレベルで、出席日数も足りない状態でした。そのため、内申点をほとんど見られない大学を優先的に探しました。また、二次試験で自分の不得意な科目・分野があまり出題されそうにないという点も重視し、最終的には(勝手に)5校ほどに絞られました。
――できてないと焦ってしまう気持ちはありませんでしたか?
受験勉強を本格的に始める前は偏差値30程度だったため、変なプライドなどもなく勉強に臨めていたと思います。ただ、Mr.Childrenの曲や「世界に一つだけの花」とかを毎日聞いて、心を保つようにしないと、ネガティブな気持ちにはなっていましたよ。あと、仲間の存在はとても重要だったと思います。1年目は友達ができずに1人で勉強することが多かったのですが、2年目は積極的に友人をつくるようにしました。友人たちと切磋琢磨し、時には慰め合うことで不安な気持ちは半減したと思います。一番心が折れそうだったのが、浪人2年目のセンター試験です。1日目で少し失敗した科目があったのですが、2日目は焦らず、とにかく心が折れないように取り組みました。その年で受験は最後と決めていたので、後悔のないようにがんばりました。その気持ちで挑んでいなければ、1日目の失敗で心が折れて2日目の成績も悪く、失敗していたんじゃないかと思っています。心を整えて強く保つ練習は、社会人になってからの方が役に立つと思いますので、その練習だと思って(笑)。
Point2 体調管理-やることをルーティン化して、無理しない、徹夜もしない
――体調に配慮して勉強時間で工夫したことはありましたか?
決まった時間に決まったことをする、必ず休憩時間を30分入れる、というように、リズムのあるスケジュールを立てるようにしていました。僕の場合は、朝電車に乗って予備校に行き、電車内では単語を覚えて、予備校に着いたらまずは単語を書き写す、みたいな流れです。やる気に依存してしまうと、全くやりたくない日が生まれてしまうので、到着したらその日のやる気に関係なく、自動的に単語を写して覚えるという行為をすることを決めていました。そんな“モーニングルーティン”ができる、できないが、その日の指標にもなるので、例えば眠くていつもできることができない日は早めに休むなど、体調管理にも役立ちました。
それから、予備校の自習室が開放されている時間までしか勉強しないようにもしていました。徹夜して勉強もしませんでした。1年間通してパフォーマンスを維持することが大事であると、1年目の失敗を通して学びました。
――体調が悪い日は、どのように過ごされていましたか?
大腸全摘後であったため炎症に伴う腹痛や発熱はなかったですが、トイレの回数が増えた時期は多々ありました。定期的に内服(止痢剤など)もしていたし、予備校で体調が悪くなったときは、無理しないで帰宅して、睡眠をとるようにしました。
――メンタルの部分で工夫されていたことはありましたか?
「写経」を始めた頃はいろいろ悩んで夜中に本を読んで解消しようとしたり、眠れなかったこともありました。でもそのうちに、「受験をすると決めたのだから、落ちたらどうしようとかは考えないようにしよう」という気持ちに変わっていきました。落ちたときのことを考えて逡巡しても、人生何も良いことないなと思ったんです。自分の持てる全ての能力を、受験が受かる可能性に注ごうと決めました。そういうモチベーションを維持することは、とても大事な要素だったと思います。
Point3 食事の取り方-偏った食事にしない、NGフードは食べない
――食事の面でIBDに配慮して気を付けていたことはありますか?
食事の内容が偏らないことだけを意識しました。予備校では手間がかからないようにメロンパンだけ食べるとか、そういう人もいましたが、必ず野菜なども入ったお弁当を買っていました。あとは、僕はこんにゃくや繊維質が多い食べ物がNGフードだったので、それは食べないようにしていました。(今でも避ける癖があります。)
Point4 医師として過去の自分へのアドバイス-あらかじめ主治医に相談を
――受験生だった頃、主治医の先生に受験のことで何か相談をしましたか?
術後1か月の診察で異常がなく、以降は半年に1度の経過観察のみの受診だったので、体調のこと以外は特に相談しませんでした。受験後に医学部合格を伝えたところ、「受験しているなら、前もって言ってほしかったよー」と言われました(笑)。
自分が医師になった今では、受験のような人生を左右するライフイベントは、何か力になれることがあるかもしれないので、積極的に話してほしいと思います。
患者さんの中には、受験のことを医師に伝え、無理をして体調を崩したら、ドクターストップがかかってしまうのではないかと不安に感じている人もいるのではないでしょうか。でも、医師は、一時的に治療を強化することを検討したり、そのような状況にならないように前もって対処する方法を一緒に考えてくれるはずです。人生の悩みなどは遠慮なく打ち明けてもらえたらと思います。 ドクターストップをかけることが医師の仕事ではなく、病気を持ちながらも可能性を最大限伸ばせるようにサポートすることが医師の仕事だと思っています。病気を生活の中心に考え過ぎて、自分の人生を曲げないでください。
――最後に、受験を控える学生のIBD患者さんへメッセージをお願いします。
ゲームの世界で、いきなりラスボスにチャレンジしても急には倒せないですよね。倒すためには、武器をそろえて、仲間を集めて、キャラのレベル強化も欠かせません。受験も同じで、何も準備せずに焦って取り組んでも、なかなか成果は見出せないのではないかと思います。
体に負担をかけ過ぎず、限られた時間の中でいかに効率よく勉強を進めるか、自分に合った勉強法をゲーム攻略と似た感覚で見つけてもらい、ぜひがんばって乗り越えてほしいです!
(IBDプラス編集部)
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