甘いもの好きの人の肥満を抑える腸内細菌、S. salivariusを発見

ニュース , 腸内細菌を学ぶ2025/2/20

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微生物が産生する代謝産物は宿主の健康に影響する

京都大学は、腸内細菌の一種である「ストレプトコッカス・サリバリウス(S. salivarius)」が生成する代謝産物「SsEPS」が、宿主であるヒトの糖吸収を抑え、腸内環境を改善し、砂糖(スクロース)誘発性の肥満を防いでいることを明らかにしたと発表しました。

食事は日々の栄養摂取において最も重要な要素ですが、特に脂肪・糖分の取りすぎは肥満を引き起こします。日常的に消費される糖の中ではスクロースとグルコース(ブドウ糖)が最も一般的ですが、スクロースの摂取量が欧米諸国で日々増加する中、スクロースを多く含む食事は、肥満や糖尿病などの健康問題において最も重要なリスクファクターとして認識されています。

細菌などの微生物もこれらの糖をエネルギー源として利用しますが、その代謝経路はヒトとは異なります。嫌気性細菌と呼ばれるグループの細菌は糖を酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸に変換します。腸内細菌も同様に、嫌気性環境下(酸素が少ない条件)で糖代謝を通じてこれらの短鎖脂肪酸を生成します。特に宿主が消化吸収できない発酵性食物繊維(難消化性多糖類)は、効率的に短鎖脂肪酸を生成できることが知られています。

研究グループはこれまでに、短鎖脂肪酸が宿主のエネルギー源として機能し、また短鎖脂肪酸を認識する受容体を介して宿主の代謝調節に寄与することを明らかにしてきました。また、同グループは最近、キムチや漬物といった発酵食品の生産に関わる乳酸菌の1種が生成する菌体外多糖(EPS:菌の表面に分泌・産生される多糖の総称)が、プレバイオティクス(腸内細菌と宿主の健康に有益な難消化性成分)として宿主に大きな代謝的利益をもたらすことを報告しました。そこで今回の研究では、ヒトにおける高EPS産生腸内細菌を探索し、宿主の糖摂取と腸内細菌が生成するEPSのプレバイオティクス効果の関係、さらに微生物代謝産物が宿主の健康に与えるメカニズムの解明を目指しました。

ヒト腸内細菌由来EPS産生菌として、S. salivariusに着目

ヒトでのEPSの機能について検討するため、約500人のヒト糞便を用いてヒト腸内細菌由来EPS産生菌の探索を行ったところ、5菌種47株を単離し、菌種を同定しました。これら5菌種のうち、4種類は発酵食品などからの検出が認められたのに対し、「S. salivarius」は検出されませんでした。興味深いことに、S. salivariusは、ほとんどのヒト糞便から検出されるのに対し、マウス糞便からは検出されないこと、ヒト腸内S. salivariusの占有率および短鎖脂肪酸濃度はBMIと負の相関性を示したことから、ヒト腸内細菌由来EPS産生菌としてS. salivariusに着目しました。S. salivariusがスクロースから産生するEPS(SsEPS)の構造を調べたところ、SsEPSは宿主の消化酵素では消化できない食物繊維様物質である難消化性多糖であることを確認しました。

SsEPSを利用可能な腸内細菌を探索するため、さまざまな腸内細菌種のSsEPS資化性(特定の物質を利用して増殖したり、エネルギーを得る反応)を調べたところ、SsEPSの添加によってヒト腸内優先菌種である2種類の菌が特異的に増殖し、短鎖脂肪酸濃度の増加が認められました。

SsEPSの代謝改善効果には、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸が関与

次に、SsEPSが宿主のエネルギー代謝や糖代謝に与える影響について肥満モデルマウスを用いて検討したところ、SsEPSを長期間摂取したマウスでは、対照群と比較して、食物繊維摂取時に観察されるような体重増加の抑制と、腸内環境の変化、SsEPSを利用可能な2菌種および糞便や血液中の短鎖脂肪酸濃度の増加、血糖値などの代謝パラメーターの改善が認められました。

一方、短鎖脂肪酸を認識する受容体を持たないマウスでは、SsEPS摂取によるこれらの効果が消失しました。以上の結果から、SsEPSによる代謝機能の改善効果は、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸が関与していることが示されました。

EPS資化菌がSsEPSを利用し短鎖脂肪酸を産生、スクロース誘発性の肥満を予防

さらに、無菌マウスにSsEPS産生菌あるいは非産生菌を移植し、スクロースを長期的に摂取させました。その結果、SsEPS産生菌を移植したマウスでは、非産生菌を移植したマウスと比較して、腸内のEPS産生が認められました。一方、SsEPS産生菌とSsEPSを利用できる菌(EPS資化菌)を同時に移植したマウスでは、どちらかだけを移植したマウスやSsEPS非産生菌とEPS資化菌を同時移植したマウスと比較して、スクロース摂取が原因の体重増加の抑制、糞便中の短鎖脂肪酸濃度の増加、血糖値などの代謝パラメーターの改善が認められました。

以上の結果から、SsEPS産生菌が腸内でスクロースからEPSを産生することで宿主の糖吸収を抑えるだけでなく、EPS資化菌が合成されたSsEPSを利用し短鎖脂肪酸を産生することで、スクロースによる肥満を防ぐ一連のメカニズムを明らかにしました。

EPSやEPS産生菌が、肥満症の早期検出や新たな肥満予防・治療につながることに期待

「今回の発見は、肥満や糖尿病などの代謝性疾患の予防や治療法に新たな概念を提唱するものであり、これら食物繊維様物質であるEPSやEPS産生菌は、腸内環境の改善を指標とした糖尿病などを含む肥満症を超早期の未病段階で検出する技術や、新しいタイプの肥満予防・治療につながることが大いに期待されます」と、研究グループは述べています。

(IBDプラス編集部)

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