【企業提供】新﨑信一郎 先生に聞く IBDと生きる人たちへ―前を向くためのヒント
ライフ・はたらく | 2025/12/11
炎症性腸疾患(IBD)の治療は年々進歩しています。仕事と治療を両立している患者さんも増えました。兵庫医科大学病院IBDセンター長の新﨑信一郎先生は、「ただしその裏には、患者さんの並々ならぬ苦労やがんばりがあるんです」と強調します。兵庫医科大学では、国内でも先駆けて、2009年に「IBDセンター」を設立しました。IBD診療の質を高めるべく、内科・外科・ストーマ外来が一体となって取り組む体制を整え、働くIBD患者さんをはじめ、さまざまな悩みを持つ患者さんを、多方向から支援しています。
長年患者さんと向き合い、「患者さんに教えられながら、今の診療が形づくられてきた」と語る新﨑先生に、患者さんが仕事・学業を両立する上で大切なIBD診療の今、そしてこれからについて伺いました。
取材日2025年10月28日(肩書などは取材当時)
IBD患者さんの生活との両立のためのより良い診療を
――兵庫医科大学病院では、IBD診療の歴史が長いと伺いました。
当院では、消化器内科(第四内科)初代教授の下山孝先生、第二外科教授の宇都宮譲二先生のお二人が、IBDをご専門とされていたことがきっかけでIBD診療に力を入れるようになりました。2009年にはIBDセンターを立ち上げ、内科と外科が連携して診療を行う体制を確立しました。そうした歴史が土台となり、国内最多の患者さんを診ている今があると考えています。
――IBDセンターの特徴を教えてください。
最大の特徴は、チーム医療と専門医の層が厚いことでしょう。内科・外科ともに専門医が在籍し、同じフロア・隣同士でIBDの外来診療を毎日行っており、必要に応じてすぐに相談できる体制を整えています。さらに、内科・外科合同の「IBDカンファレンス」を毎週開催し、手術適応の検討や術後フォローが必要な患者さんの情報共有を行っています。
――地域の医療機関との関係はいかがですか。
当院には、近隣のクリニックや病院からの紹介で多くの患者さんが来られます。昔からIBDの地域連携は密に行っていたので、地域の先生方の診療レベルは非常に高いと感じています。それでも、IBDという病気は診療に苦慮する場面が少なくありません。紹介していただく患者さんは中等症以上の患者さんが多い印象です。
患者さんには普段、お住まいの地域の医療機関に通っていただき、必要なときに大学病院で検査や治療を受けていただきます。クリニックのほうが待ち時間も少ないでしょうし、仕事のない日や仕事の合間に通院ができるメリットもあります。このように役割を分担することで、患者さんにとっても無理なく仕事と治療の両立ができ、安心できる診療体制が維持できているのではないかと思います。
患者さんごとに違う治療も悩みも、医師がサポート
――IBD患者さんの悩みにはどのようなものがありますか。
IBD患者さんが抱える悩みや困りごとは、診断された時期と、ある程度寛解が得られた時期とで異なります。診断直後は、指定難病になってしまったという病気そのものへの不安が大きく、「仕事を続けられるのか」「周りの人にどう話せばよいのか」という戸惑いが中心であることが多いようです。また、検査や治療、入院への不安を抱える方もいらっしゃいます。
一方、治療によって症状が落ち着いた時期でも、再燃の不安や怖さもあり、仕事や学校といった社会生活との両立に悩む患者さんが少なくありません。
――症状が安定していても、不安は常にあるということですね。
たとえば、通勤中のトイレが不安、会社でトイレに頻繁に行くのが恥ずかしい、食事制限がつらいなど、患者さんが抱える課題は多岐にわたります。周囲に理解されないことに悩む方も少なくありません。急に仕事が増えたときや入社・転職したての時期など、ストレスや負荷が高まると悪化することもあります。
――悩める患者さんに、医療者はどんなサポートを提供しているのでしょうか。
最近の治療によって寛解が維持できる人は増えてきました。しかし、IBDがゼロにならない限り、患者さんの悩みもゼロにはならないでしょう。患者さんごとに症状も治療結果も違います。
ですから私たち医療者は、患者さんの話をよく聞き、患者さんお一人お一人の状況に応じた診療を続けています。また必要なタイミングで診断書を作成するなど、患者さんが仕事と治療を両立し、自分らしく社会生活を送るため、できる限りのサポートを惜しみません。多くの患者さんが、困難を抱えながらもがんばっていることを医師は知っていますから、相談すれば必ずサポートしてもらえると信じて、治療を続けてもらいたいと思います。
IBDについて正しい情報の入手先
――先生が患者さんに対して望まれることがあれば教えてください。
正しい情報を参考にしてほしい、ということですね。最近は、SNSや個人ブログなどで、必ずしも正確とは言えない情報が発信されています。治療法や食事療法について誤解を招く内容もあり、患者さんが混乱してしまうのではないかと危惧しています。
――例えば、どのような情報源が患者さんの役に立つでしょうか。
信頼できる情報源としては、厚生労働省の研究費によって運営されている研究班の公式サイト※があります。研究者や医療従事者向けの情報のほか、患者さん・ご家族向けの情報も充実しています。潰瘍性大腸炎やクローン病に関する基礎知識のほか、手術、就労、食事に関するQ&A、妊娠時に役立つ基礎知識、ワクチン接種についてなど、さまざまな情報があります。冊子としてダウンロードもできますので、ぜひ一度、ご覧いただければと思います。
また、日本消化器病学会※、日本炎症性腸疾患学会※のホームページにも患者さん向けの情報がありますので、そちらもご活用ください。
※令和5~7年度厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班 URL: http://www.ibdjapan.org/ 日本消化器学会 URL: https://www.jsge.or.jp/citizens/ 日本炎症性腸疾患学会 URL:https://www.jsibd.jp/message/希望を持って、IBDとともに生きる
――これからの人生、IBDとどのように向き合っていくのが大切でしょうか。
IBDの治療は進歩していますが、“万能の治療”が登場したわけではありません。とはいえ、治療の選択肢は広がり、患者さん一人ひとりの病態や生活に合わせて最適な治療を選べる時代になってきました。実際に、病状をうまくコントロールし、安定した状態で仕事を続けている患者さんも数多くいらっしゃいます。
IBDはなぜ発症するのか、良好な状態を保っていてもなぜ再燃するのかなど、解明されていないことが多い病気です。しかし研究は着実に進んでおり、いずれ原因が明らかになる日が必ず訪れると、私は信じています。将来、「治る病気」と言える時代がやってくるかもしれません。だからこそ、決して後ろ向きにならず、希望を持って病気と向き合うことが大切です。
――治療に臨むうえで、心に留めておいてほしいことはありますか。
IBDは、病気を抱えながらでも、寛解(良好な状態)を保つことができればきちんと社会生活を送ることができる病気です。もちろん個人差があり、すぐに寛解にもっていける人もいれば、時間がかかる人もいます。けれども、必ず寛解を目指せます。いま目の前にある治療を最大限に生かし、一歩ずつ前へ進む――その積み重ねが、未来へとつながっていくと信じています。
主治医とよく相談しながら、自分の仕事や生活に合った最適な治療を一緒に探していっていただきたいと思います。
(ヤンセン ファーマ株式会社提供)





