【企業提供】つながる力で病気を乗り越える~IBDと向き合う子どもたちへのアドバイス
ライフ・はたらく | 2025/12/9 更新
「明日は学校に行けるかな」「トイレに行きたいと先生に伝えるのが恥ずかしい」。そんな気持ちを抱えながら、炎症性腸疾患(IBD)と向き合っている子どもたちは少なくありません。IBDは、外からは元気そうに見えても、おなかの痛みや下痢、急な体調の変化など、本人にしかわからないつらさを伴う病気です。けれども、今は治療法やサポート体制の進歩によって、学校生活を送りながら治療を続けることができるようになっています。
今回は、長年にわたってIBD診療に携わる福岡大学筑紫病院 消化器内科教授の久部高司先生と、臨床保育士として日々患者さんに寄り添う髙野祥子さんに、学校に通う患者さんとご家族が前向きに過ごしていくためのヒントをお話しいただきました。
取材日2025年10月16日(肩書などは取材当時)
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治療の進歩により、日常生活と治療の両立がしやすい時代に
――IBDの治療は、どのように変化してきているでしょうか。
久部先生:以前は、入院して絶食や点滴などの治療を長期にわたって続けなければならず、普通の生活を続けることが難しい患者さんも少なくありませんでした。しかし、状況は大きく変わっています。治療の選択肢が増え、外来で治療を受けながら学校生活や仕事を続けられる患者さんが増えてきました。
IBDには症状の波があります。調子が良い時期とつらい時期が交互に訪れることがあるので、その波をできるだけ小さくし、良い状態を長く保つことが目標になります。特に若い患者さんの場合は、受験や就職、結婚など今後控えている人生のイベントを、いかに病状を安定させて乗り越えていくかが重要です。そのためにも、主治医の先生とよく相談しながら、自分の状態や生活に合った治療を見つけていくことが大切です。
――治療を続けることも大切ですね。
久部先生:そうですね。症状が落ち着いているときには「もう大丈夫」と思ってしまいがちですが、治療を続けることが、良い状態を保つために大切です。当院では、臨床保育士の髙野さんを中心に、子どもたちの気持ちや生活のペースに寄り添った支援を行っています。
できないことを数えるのではなく、できる方法を一緒に探そう
――学校生活では、どんな場面での困りごとが多いのでしょうか。
髙野さん:IBDの症状は見た目ではわかりにくいため、周囲の理解を得にくいことがあります。授業中にトイレに行きたいのに言い出しにくい、みんなと一緒に給食が食べられない、体育の授業を休まなければならない、修学旅行などの行事に参加したいけど自信が持てない、といった悩みを抱える子どもたちは少なくありません。
本当は修学旅行に行きたい気持ちがあっても、行った先でトイレに困るだろう、食事も一緒にできないだろう、などと考えて不安になり、参加をためらってしまうのです。
――そんなときはどのようなサポートをされるのですか。
髙野さん:できないことを数えるのではなく、うまくいく方法を本人やご家族と多職種で探すことが大切です。学校行事があることを病院のスタッフにも相談していただけたら、それぞれの専門職とうまくいく方法を一緒に考えます。これは誰にきいたらいいの?と子どもたちから聞かれることもあります。例えば、学校側と医療者を交えて打ち合わせをする方もおられます。移動ルート上のトイレの位置を確認したり、管理栄養士がメニューを事前に確認して気をつける点を説明したり、とできることがいくつもあります。修学旅行から帰ってきた患者さんが「行ってよかった」と笑顔で話してくれると本当に嬉しく思います。修学旅行は一生の思い出になる宝物の数日間です。できる限り実現できるようにサポートしたいと考えています。
久部先生:看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床心理士、臨床保育士などがチームとして連携して患者さんの日常生活を支えることで、患者さんの安心感も高まっていると感じます。患者さんの声を拾い、学校側とも情報を共有することで、幅広い支援が可能となります。
学校の先生に対しては、ときには医療者が間に入って配慮の検討をお願いし、患者さんがなるべく不安やストレスなく学校生活を送れる工夫をしています。患者さん自身や親御さんから、病気のことや相談事を学校に伝えるときはどうしたらいいか、について助言をすることもあります。具体的には、教室の席をトイレに行きやすい場所にする、給食が食べられないときは保健室で栄養剤を飲めるようにする、といった配慮をしてもらえると安心ですね。
経験者の声が最良のアドバイスになる
――IBDケアの質を高めるために、ワークショップも開催していると伺いました。
髙野さん:院内の有志で協力し、IBDと診断された10代の皆さんと多職種の医療者が集まるワークショップを、2019年から2022年にかけて開催しました。その際、「あなただったら、ほかの患者さんにどんなアドバイスをしますか?」というテーマを設定し、患者さんの体験や思いを教えていただく場としました。
というのも、ワークショップに先立って行った患者さんアンケートで、IBDと診断された10代の皆さんのほとんどが、同世代の患者さんと交流した経験がないことがわかったのです。入院中に同世代の患者さんが栄養剤を飲んでいるのを見て、「初めて見た、自分だけじゃないんだ」と感動している方がいました。その姿を見たときに、「この患者さんはこんなにも孤独だったんだ」とハッとさせられましたし、同時にその方の孤独を思い深く反省しました。このように子どもたちとかかわる中で「ピアサポート(仲間同士の支え)」の必要性を強く感じ、患者さん同士が悩みを共有できる場を作りたいという思いでワークショップを行うことにしたのです。
――患者さんから、具体的にどのようなアドバイスがあったのでしょうか。
髙野さん:例えば、「内視鏡検査前に大量の水と下剤を飲むときは、味に集中せず動画やゲームに集中するとそんなにつらくないよ」「親と一緒に買い物に行くと、親が普段どれだけ自分のことを考えてくれているかがわかるよ」「友だちとご飯を食べに行くなら、いろいろな食事を選べるフードコートがいいよ」「担任の先生に話しにくかったら、ほかの先生に話してみたら?」などなど、リアルな体験や工夫が数多く出ました。
それを参考に、「医療者が指導する」のではなく、「患者さんの経験を私たちが預かり、必要時は多職種で検討したうえでほかの患者さんに伝える」という意識で患者さんに接するようにしています。
――多くの患者さんに役立ちそうなアドバイスですね。
髙野さん:ワークショップでの声を参考に『学校生活をよりよいものにするために』という冊子も作成しました(図)。この冊子には、患者さんの困りごとをまとめた4コマ漫画やその解決策、学校の先生からのアドバイス、ワークショップでのアンケート結果などを掲載しています。巻末には、患者さんの体の状態や考えを記載する「伝えるシート」というページを設け、学校に伝えたいことを書きこめるようにしました。
学校へ伝えるとよい項目は、主に下記のような点です。紙に書いて先生へお渡ししてもよいでしょう。
- 学校生活で制限しなければならないことがあるか
- 1日のトイレの回数とタイミング
- 控えたい食材
- 緊急連絡先
久部先生:学校での過ごし方や成分栄養剤の飲み方など、患者さんの生活に根ざした生の声を知ることができました。医療は病気を治すためだけにあるのではなく、その人が生活を取り戻す手助けをするためにあると考えています。こういった患者さん同士の交流をしたい、ほかの患者さんがどうしているか知りたい、という場合も、遠慮なく医療者にご相談ください。
いまのがんばりが、きっと未来の力になる
――受験や進学など、将来の節目に向けて意識するとよいことはありますか。
髙野さん:学生さんにとって、受験はどうしても不安やストレスが高まります。「病気だと不利になるのでは」と心配して、誰にも相談できないまま我慢してしまう方もいると思います。一方、事前に、たとえば三者面談のときに学校へ伝えておけば、トイレに近い席にしてもらえたり、別室で受験できたりする場合もあるようです。とても勇気がいることだと思いますが、大事な受験時に安心できるよう、伝えてみるのも一つの方法だと思います。
久部先生:何事も、完璧を目指しすぎると苦しくなるものです。特に、大切な節目ほど不安が強くなりがちですね。ストレスが病気に悪い影響を及ぼすこともあるので、ときには息抜きも必要です。調子が良いときは、少しだけ好きなものを食べてみるとか、普段は我慢していることを試してみるのもいいでしょう。体調と相談しながら、自分なりのリズムで過ごすなど、自分らしい病気との向き合い方を探してみてほしいと思います。
――将来に向けて、患者さんとそのご家族に伝えたいことがあれば教えてください。
髙野さん:この病気で経験したことは、大変だけど大切な宝物です。これからの人生の中で必ず役立ちますし、いつか誰かを助ける力になるはずです。失敗しながらうまくいく方法を探せばいいという考えもあるかと思いますが、失敗するのも傷つきますしつらいものだと思います。10代の皆さんにしかわからない思いもあると思いますが、決してひとりではないことを忘れないでください。
久部先生:私も同じ思いです。学校生活で工夫したこと、悔しかったこと、修学旅行に行くために準備したこと、など今がんばっていることは、きっと将来につながります。これらの経験は、大人になってからいろいろなことに挑戦したり困難に立ち向かったりする土台になるはずです。
IBDの治療は日々進歩しています。良い状態を保つことができれば、学校生活も仕事も、趣味も続けていくことができます。今は治療選択肢がたくさんあるので、患者さんそれぞれの生活スタイルに沿った治療方針を提案することも可能です。ひとりで抱え込んで我慢するのではなく、自分のやりたいことをかなえるために何ができるのか、どんな治療ができるのか、を主治医の先生と一緒に見つけていきましょう。きっと力になってくれるはずです。
(ヤンセン ファーマ株式会社提供)





