【企業提供】竹内 健 先生に聞く 社会とつながるIBD診療~仕事と治療を両立させるためのアドバイス
ライフ・はたらく | 2025/11/25
通勤電車で突然おなかが痛くなる、出先でトイレが見つからず不安に駆られる――。そんな日常の中で、人知れず葛藤しながら生活しているのが、炎症性腸疾患(IBD)の患者さんです。症状が安定しているときでも、「またいつ再燃するのだろう」と不安を抱えている方も少なくありません。身体だけでなく、心にも大きな影響を及ぼすことがあるのがIBDという病気です。
「病気を治すことだけが目的ではなく、患者さんが自分らしく生きることを支える医療でありたい。」その思いを胸に患者さんと向き合う、辻仲病院柏の葉 消化器内科部長・IBDセンター長の竹内健先生に、仕事と治療を両立させるためのヒントを伺いました。
取材日2025年10月14日(肩書などは取材当時)
働き盛り世代を支えるIBD診療
――先生は多くのIBD患者さんの診療をしていらっしゃいますが、患者さんが増えているという印象はお持ちでしょうか。
増えていると思います。当院がある千葉県柏市や近隣の流山市は、子育て支援に積極的なので、子育て世代の働き盛りの患者さんが増えている印象です。都心へのアクセスも良く、共働き世帯も多いことから、仕事や家庭と治療を両立させながら生活する方が多いのが特徴です。
――患者さんが集まるのは、IBDセンターの存在が影響しているのでしょうか。
紹介の患者さんも多いですし、専門施設として信頼をいただいていることが、患者さんの来院につながっているのだと思います。土曜日も平日と同じように診療している点も、通いやすさの理由の一つかもしれません。働く世代の方が通院しやすい環境にしていくことが大切だと考えています。
日常の中にある“見えない困難”
――患者さんが日常生活や仕事で直面している困難には、どのようなものがありますか。
やはり、トイレに関する不安が多いですね。「各駅停車しか乗れない」「会議に出るのが不安」「トイレにばかり行っていると思われているのではないか」など、さまざまな場面で困難を抱えているようです。行く先のトイレの位置をすべて把握してから出かけるという方や、においを気にして香水をつけるようにしているという方もおり、症状からくる不安だけでなく、周囲への配慮に悩むことも少なくないようです。
――IBDに対する社会の理解がまだ進んでいないという状況もあるのでしょうか。
有名人が病気を公表するなど、IBDへの理解は少しずつ広がっています。しかし、実際にどんな症状があって、患者さんの生活や心理にどんな影響を及ぼしているのか、までは理解が進んでいないのが現実です。ある患者さんが学校生活で悩んでいたので、先生方とお話をしたのですが、「つらければ休めばいい」「難病なんだから、しっかり治してから登校しましょう」といった考えなんですね。もちろん、患者さんのためを思っておっしゃっていると思いすが、患者さんの気持ちはそうではありません。多少の症状があっても「学校に行きたい」「友だちと過ごしたい」と思っているんです。長く学校を離れていると学力にも影響が出ます。こういった、学業や仕事と治療の両立ができる環境を、社会全体で考えていけるようになるとよいですね。
――患者さんの周囲の方と竹内先生がお話しされることもあるのですね。
はい、患者さんの上司や、会社の人事担当者と話すこともあります。その場合でも、病気への理解が進んでいないなと思うこともありますね。ただ、職場の方は、患者さんが仕事に向き合う姿勢や実際の仕事ぶりをきちんと見ていることがほとんどです。だからこそ、IBDであるという負い目を感じることなく、自信をもって仕事を続けてもらえればと考えています。
仕事と両立するために必要なこと
――仕事と治療を両立させるためにどのようなことが重要だとお考えですか。
先ほど、症状に悩んでいる方の例を出しましたが、最近は治療も進歩しているので、多くの患者さんが症状を気にせずに生活できる時代になってきたと思います。当院では、患者さんの症状をなるべく早くなくす、症状が重篤になる前に先手を打つ、という診療方針で、新しい治療も積極的に取り入れています。働く世代の患者さんにとっては、早く社会復帰ができること、長期寛解を維持し病気に悩まされずに仕事や勉学に取り組めること、が特に有効だと考えるためです。それは社会生産性を落とさないことにもつながります。
当院の約2,000例の患者さんのうち、最近ではIBDで入院される患者さんは5人前後ですし、内科的治療により十分に改善せず、大腸を切除された患者さんはわずか1人でした。主治医と相談しながら自分に合った治療を選べば、症状に悩まずに生活できる可能性は十分にあります。患者さんが「前向きに治療に取り組む」ことも、両立のために重要なポイントだと考えています。
――「主治医と相談」とおっしゃいましたが、とても大事なことですね。
私たち医師は、必要な検査を適切に行い、患者さんの病状を把握するよう努めています。しかし、仕事や生活への影響やお気持ちについては、患者さんのお話をじっくり聞きながら理解したいと思っています。
最近はShared Decision Making(SDM:共同意思決定)という考え方が重視されていて、患者さんと医療者が情報を共有し、共に治療方針を決定することが必要とされています。患者さんそれぞれで仕事内容も考え方も異なります。IBD治療においてもSDMを実践することは重要ですので、患者さんには、医師に遠慮なく何でも相談していただいて大丈夫です。
――患者さん自身がどうしたいのかをきちんと伝えることが大切ですね。
そのとおりです。患者さんの声が治療の手がかりになります。症状はもちろん、職場での困りごとなど、なんでも話していただきたいです。もし主治医に話しにくければ、看護師や薬剤師など、話しやすい人に気持ちを伝えてもらってもかまいません。私たちはチームで患者さんをサポートしています。
病気は個性の一つと捉え、自分らしく生きる
――治療が進歩した今、患者さんが心に留めておくべきことは何でしょうか。
自分一人で悩みを抱えずに、主治医にどんなことでも相談してほしいと思います。適切な治療を続ければ、多くの方が普通に仕事や学業に打ち込める時代になりました。大切なのは、必ず解決できると信じ、あきらめずに前向きに治療に取り組むことです。
もし、症状がなかなか改善しない、日常生活や職場での不安が解消しない、ということがあれば、専門医がいる医療機関で治療を受けるのもよいかもしれません。
――病気を悲観する時代ではないということですね。
そのとおりです。IBDも自分の個性の一つ、と考えるとよいと思います。治療を続ける中で自分自身が強くなっていくこともありますし、病気を通して得られる出会いや気づきもあるでしょう。治療に希望が持てる時代だからこそ、前を向いて、自分らしく生きていただきたいと思います。
(ヤンセン ファーマ株式会社提供)





