IBD患者を部下に持つ管理職の胸の内①~病気の有無にかかわらず、能力を発揮できる環境作りの手助けを~
ライフ・はたらく | 2018/5/25
突然の体調不良や定期的な通院――IBD患者を部下に抱える上司は、部下の体調をどのように気遣い、どんな思いで日々接しているのでしょうか。仕事での関わり方や進め方は?今回は、クローン病の疑いがあるという部下(Bさん)と一緒にメーカーで働く管理職のSさんです。
Sさん(50代・男性)
工場勤務から、内勤の情報システム課に異動した部下・Bさん
――まず始めに、Sさんの勤務先やお仕事の内容をお聞かせください。
Sさん:私が勤めているのは、創業から80年という老舗のメーカーです。会社の基幹システムやPCの導入・設定などを手がける「情報システム課」で課長を務めており、現在、課には4名のメンバーが在籍しています。
部下のBくんは新卒で入社し、最初は工場に配属されました。工場の現場は体育会系の雰囲気があるのですが、Bくんにとっては、そこでの仕事でストレスを感じるようなことがあったのかもしれません。工場に勤務して数年後に、体調を崩して入院してしまったと聞いています。そのまま工場で働き続けるのは難しいという会社の判断に加えて、BくんがPC好きということもあって、内勤である情報システム課に異動になりました。それから10数年一緒に働いています。
情報システム課の仕事は大きく分けると「社内システムの企画」、「基幹システムの運用保守」、「インフラ整備」、「PC操作のヘルプデスク」の4つになりますが、Bくんが主に担当しているのは「基幹システムの操作やExcelなどの使い方がわからない」といった社内からの問い合わせに対応する仕事です。
自分なりの価値を発揮することが、評価につながる
――情報システム課に異動してきた当時、Bさんはどのような体調だったのでしょうか?
Sさん:もともとBくんは工場勤務だったこともあり、住まいも郊外にある工場の近くで、通勤時間も15分だったと聞いています。それが、情報システム課に異動してからは東京の本社勤務となり、通勤時間が1時間半になったのです。そうしたことも影響してか、異動してきて半年くらい経った頃、急に体調が悪化して下血があるとのことで、欠勤しました。最初は、「2~3日程度の休みかな」と思っていたのですが、結果的に3ヶ月の長期入院となってしまいました。病院にお見舞いにも行ったのですが、そのときのBくんのやつれた表情が印象に残っています。
Bくんが情報システム課に異動してくる際、総務から「原因不明の消化器系の病気がある」という引き継ぎがあり、Bくん本人から詳しく話を聞くと、「医師からクローン病の疑いがあるといわれている」とのことでした。そこで初めて、クローン病という病名を聞きました。その後Bくんが入院することになって、クローン病についてインターネットなどで情報収集して理解を深めるようになりました。
――退院し、職場に復帰してからBさんへのケアは何かされたのでしょうか?
Sさん:とにかく極力、残業させないようにしました。最近でこそ「働き方改革」の影響もあって、残業しない風潮が少しずつ根付いてきましたが、Bくんが異動してきた10数年前は、定時で帰ることをネガティブに捉える社員もいました。特に当社は老舗企業ということもあり、残業が当然と考える上司もいましたし、体育会系な雰囲気も色濃く根付いています。そうはいっても、長期入院したBくんを無理に働かせることはできません。私の上司から「なぜ彼はいつも定時に帰っているんだ!」といわれることもありましたが、Bくんの体調を優先するようにしていました。また、Bくんの体調が悪そうに見えるときには、無理せず早退するように促しています。情報システム課の同僚たちも、Bくんの体調には気を遣っています。
情報システム課への異動後、長期で入院することが2回ありましたが、現在はもう、Bくんが長期入院することはなくなりました。年に1~2回、2~3日休むことがある程度です。月に1~2回は通院していますが、業務自体に大きな影響はありません。
――Bさんはクローン病の疑いがあることを周囲にオープンにしていますか?
Sさん:クローン病の疑いがあることを知っているのは、上司である私のみで、課内でオープンにはしていません。ですので、体調が悪くなるようなことがあったら自分で抱え込まずにすぐに私に相談するようにといっています。同じ課の社員に対しては、「原因不明の腸の病気」とだけ伝えているようです。課内でのBくんは、「仕事で無理をしてしまうと体調を崩しやすい人」というような位置づけになっていますね。Bくんが不在のときには、同じ課内の別の社員がBくんの業務をフォローしています。
その一方で、Bくん自身は努力を続け、自分なりの価値を生み出そうと頑張っているようです。努力の甲斐もあって、PCの使い方など社内からの問い合わせへの対応に関しては、「Bくんに聞けば解決できる」という評価を得ています。Bくんが休みのときなど、ほかの社員でもBくんの業務をフォローすることはありますが、Bくんが対応してくれたほうが、圧倒的にスムーズに進みます。さらにBくんも、そうしたスキルや知識を自分だけのものにしておくのではなく、「問合せ対応履歴表」などの作成を通じて、そのスキル・知識を“見える化”してくれています。10数年前の異動当初は、業務にも慣れずにとても不安そうにしていたBくんでしたが、今では自信もついたようで、問い合わせ対応の仕方も丁寧になってきています。こうしたBくん姿勢は、経営層からも評価されています。
病気の有無と能力の有無は無関係。多様な人材が、輝ける社会へ
――Bさんのように病気やハンディキャップを持つ方と一緒に働くことについて、どのようにお考えですか?
Sさん:病気になったのはその人のせいではありませんし、病気や障害の有無による大きな違いはないと思っています。男か女か、若いのか年寄りなのか、というのと変わりません。今は健康な人でも、Bくんのように仕事のストレスで病気になることだってありますし、そうでなくても、年をとれば身体のどこかに不具合が出てきますしね。また、少子高齢化でこれから確実に労働人口が減っていくわけですから、病気の人やハンディキャップを持った人も活躍できる世の中になっていかなければいけないと考えています。
クローン病ではないのですが、私が小学生のころの友人に、膠原病の子がいたのです。彼は学校こそ休みがちでしたが、とても勉強ができる優秀な子でした。その友人と親しくしているうちに、病気であることと能力の高さには何の関係もないんだということを自然に理解していったのかもしれません。今、病気やハンディキャップの有無を気にせず、フラットな考え方ができるようになったのもそのおかげでしょう。
これからは仕事の生産性が問われる時代です。8時間働いても、3時間働いても、同じパフォーマンスが出せればいいと思います。病気やハンディキャップを抱えた方でも、生産性を発揮しながら自分の価値を高めることができ、周囲もそれをきちんと評価できる社会になっていければと思います。
(取材・執筆:眞田 幸剛)
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