会社員として働き“続ける”コツとは?―転職の他に〇〇という選択肢
ライフ・はたらく | 2020/7/16
今回の「仕事・はたらく」でご紹介するIBD患者さんは、化学関連の会社で正社員として働く、潰瘍性大腸炎患者さんのAさんです。営業事務として働いていたAさんは、潰瘍性大腸炎と診断を受けたことをきっかけに、部署異動を経験しました。営業事務の頃は、長時間の会議や顧客対応があり自由にトイレに行くことが難しかったため、会社側が体調面を考慮してくれて異動となったそうです。しかし、異動先の部署では、なかなか病気への理解を得られなかったこともあり、「転職しようと思ったこともある」というAさん。しかし、転職ではなく、現在の品質管理に関わる部署へ異動したことで、病気への理解を得ながら仕事できる環境を手に入れたのだそうです。
昔と比べて、退職や転職という選択肢も選びやすくなった今、病気とともに生きるIBD患者さんが「同じ会社で働き続けること」には、どのようなメリットがあるのでしょうか?働きながら転職活動も少し経験されたというAさんに、詳しくお話を伺いました。
Aさん(32歳/潰瘍性大腸炎歴4年)
確定診断まで約4か月…原因がわからず漠然とした不安も
――潰瘍性大腸炎を発症されたときのことについて、お聞かせください。
Aさん: 最初の異変は痙攣性便秘(ストレスにより自律神経が乱れて下痢と便秘を交互に繰り返す)でした。それまで便秘の症状は特になかったのですが、2016年頃、急に症状が現れ始めたんです。また、会社の健康診断では、肝機能を示すγGTP値が異常になる、といった変化も見られました。最初、家の近所のクリニックに通院していたのですが、原因がわからない日々が続き「自分の身体に何が起こっているんだろう?」と、少し怖くなっていましたね。それから、血便などの症状が現れるようになり、クリニックの医師から「潰瘍性大腸炎の可能性がある」と言われたんです。その後、検査を受けて潰瘍性大腸炎と確定診断を受けたのは、症状が現れ始めてから約4か月後のことでした。
発症から確定診断を受けるまでの間、自分が交通事故に遭う、家族が入院するなど、さまざまな出来事が重なっていたこともあり、今振り返ると、精神的にも辛い日々を送っていたと思います。
――診断を受けたとき、どのようなお気持ちでしたか?
Aさん: 「これで、ちゃんと治療を受けられる」と思い、とにかくホッとしたことを覚えています。原因がわからず、ずっと不安な日々を過ごしていたので…。また、確定診断を受ける前に「大腸がんだったら…」と考えていた時期もあったので、大腸がんではなかったという意味でも安心しました。当時、潰瘍性大腸炎という病気は知らなかったのですが、医師から「難病で治らない病気」と説明を受け、「長い付き合いが必要だな」と思ったことも覚えています。家族も私と同じように、潰瘍性大腸炎について知らなかったものの、「大腸がんじゃなくて、安心した」と言っていました。
また、食事について、妻と話したことも覚えています。私は、もともと食べることやお酒も飲むことが大好きなんですが、特に再燃時は自由に食事を取れず、お酒も飲めないので…。妻には負担をかけたくないと思い、「自分が食べられない物を食べたくなったら、外で食べてきてね」と、お願いしましたね。その他にも、「美味しそうな和菓子や、自分が食べても大丈夫そうな食べ物を発見したらゲットして!」と、積極的にお願いしています(笑)。
――現在の治療内容について、教えてください。
Aさん: 現在は、5-ASA製剤やステロイド、免疫調節薬などによる治療を受けています。また、再燃しているため、生物学的製剤による治療をひとつの選択肢として医師から提案されています。私としては、生物学的製剤による治療を受けるべきか、まだ悩んでいる状態です。
潰瘍性大腸炎と診断を受けてから、1年に1回くらいのペースで再燃しており、今年も2月頃から再燃しています。そういったことから、二次無効への不安もありますし、点滴による投与が必要になると通院回数も増えると思うので、新型コロナウイルスなど、感染症の流行時は不安が多いですね。そういった理由から、慎重に決めたいと思っています。
発症後は、体調を維持できるようにメリハリのある働き方を意識
――診断を受けてから、会社での仕事内容は変わりましたか?
Aさん: はい。部署を異動して、仕事内容が変わりました。潰瘍性大腸炎と診断を受けるまでは営業事務の仕事をしていたのですが、病気をきっかけに労務の部署に異動することになったんです。私から希望を出したわけではなく、会社側が私の体調を配慮して、異動を決めてくれたのだと思います。
営業事務の仕事では、会社にお客さまが来ることが多かったため、その際の顧客対応が大変でしたね。顧客対応中に急にお腹の調子が悪くなった場合など、お客さまを放置して離席することはできないので…。また、長時間の会議も多くあり、そういう場では離席しづらいということもありました。このような、さまざまな事情を会社が配慮してくれたのだと思います。
――労務のお仕事を経て、現在は品質管理のお仕事をされているんですよね。具体的な仕事内容について教えていただけますか?
Aさん: 現在の品質管理の部署も基本的に内勤で、作業工程やデータに問題がないかなどを確認する仕事をしています。特に、現在のように再燃している時期は、体調に合わせて仕事内容を調整していただいています。例えば、トイレに行く頻度が多くなるので、自分は個人でできる仕事を増やしてもらう、といったことですね。
その他、業務以外の部分でも同じ部署の方々にはフォローいただいています。例えば、再燃中は場合によって、午前中に10回程度トイレへ行くこともあるんですね。そういった私の様子を見て、過去に、病気のことを知らない別の部署の方から「Aさん、仕事をサボっているんじゃないの?」と誤解され、噂話を流されたことがありました。その時に、同じ部署の方が「違いますよ」と、私の病気のことやトイレ事情について説明してくださって、無事に疑いが晴れたということがありました。普段から仕事を通じて周りの方々からの信頼を得ることが、会社員として働き続けるうえで大切なのかなと感じた出来事でしたね。
――信頼を得ることが大切だと感じられたんですね。では、信頼を得るために日々の業務で気を付けていることはありますか?
Aさん: メリハリをつけて仕事をすることです。無駄に残業してダラダラと仕事をするのではなく、体調が悪い日は無理をせずに体調の良い日にその分頑張る、というイメージですね。このようにして、自分の体調を維持できるように心がけています。
現在の部署は人手不足なこともあり、少なからず残業が必要な状況です。ただ、体調が悪いときに無理して残業をしても、仕事のパフォーマンスが下がってしまうので、そこは体調を優先するようにしています。以前の部署では今よりも残業が多く、身体に負担がかかることも多かったと思いますが、今は自分の体調にあわせて「頑張れるときに、しっかり頑張ろう!」という考えで働いています。
――メリハリをつけて仕事をすることが体調の維持にもつながっているんですね。その他、症状が悪化しないように気を付けていることはありますか?
Aさん: お昼ご飯は、基本的にお弁当を持参するようにしています。また、潰瘍性大腸炎の診断前は通勤手段が電車とバスだったのですが、現在は車になりました。実は、少し交通の便が悪い場所に会社があるんです。利用するバスが、30分に1本とかで…。そのため、以前は、寒い時期でもバス停で長時間待たなければいけないときもあったのですが、自動車通勤に変えてからは、乗ったらすぐに暖房をつけられますし、以前より身体に負担をかけることなく通勤できています。また、運転中に体調が悪くなった時に備えて、トイレを利用できるコンビニなどの場所はしっかり頭に入れていますね。
その他、自分の通院日や業務内容は、同じ部署の方々に共有するように心がけています。毎月、通院のために会社を休まないといけないですし、再燃時はさらに回数が増えることもありますので、事前に通院日を共有して、他の方々に迷惑がかからないように仕事を進めています。
また、体調がどうしても優れず、急に休んだり、早退したりという場合もあります。そういった時に備えて、万が一次の日に会社を休んでも問題ない状態にして、日々の業務を終えるように心がけています。
――新型コロナウイルスの影響により、働き方に変化はありましたか?
Aさん: はい。新型コロナウイルスの影響で、一時期、在宅勤務をしていました。ただ、完全に在宅勤務することが難しい業務内容のため、部署を2つのチームに分けて、片方のチームが出勤するときは片方のチームが在宅勤務という体制で業務を進めていました。普段は通勤だけで2時間半程度かかるので、「通勤しないだけで、こんなに身体が楽なんだ!」という新しい発見もありましたね。また、自宅なのでトイレが自由に使えるという安心感もありました。
現在は、通常の勤務体制に戻ったため、職場ではアルコールを設置して、各々がマスクを着用し、手洗いうがいをこまめに行うなどして対策をしています。今振り返ってみると、在宅勤務は本当に快適だったなと思いますね。
「もう一度異動してダメなら辞めよう」と決意、会社の病気への理解に感謝も
――正社員として仕事をすることについて、どのようなメリット・デメリットを感じられていますか?
Aさん: メリットは、収入面の安心が得られることだと感じています。例えば、今後、病状が悪化して入院が必要になった場合でも休暇制度などを利用できますし、収入が無くなるということはありません。企業にもよると思いますが、そういった福利厚生に関する安心感は、大きいですね。
デメリットは、同じ会社内であっても、病気についての理解を必ずしも得られるわけではないということです。これは、あくまでも私の経験ですが、営業事務の次に異動した労務の部署では、病気についてなかなか理解を得られず、精神的に辛い思いをしました。少しでも理解を得られるようにさまざまな努力をしましたが、上手くいかず…異動の希望を出して、現在の品質管理の部署に異動させてもらうことになったんです。これは、正社員に限らないことかもしれませんが、世の中にはさまざまな考えを持つ方がいらっしゃるので、仕方ないなと思いました。
――病気について理解を得られないというのは、辛いご経験でしたね。「会社を辞める」ということについて、考えられたことはありますか?
Aさん: 考えたことはあります。今勤めている会社を辞めて転職するべきか悩み、実際に少し転職活動をした時期もありました。その結果、「もう一度、いまの会社で異動させてもらって、それでも理解を得られなかったときは転職しよう」という結論を出したんです。やはり、長く勤めている分さまざまな面で勝手がわかる、という部分が大きかったですね。それに、福利厚生や給与の面でも大きな不満は無かったので。
あとは、会社側に「病気について、1から説明しなくてもいい」ということも、決め手のひとつでした。実際に転職活動をしてみて悩んだのは、面接を受ける企業に対して「どのタイミングで潰瘍性大腸炎であることを話すべきか?」ということです。その点、今勤めている会社は、すでに病気のことを理解してくれているので、とても感謝しています。私の場合は会社を辞めずに、部署を異動させてもらって良かったと思っていますね。今の部署の方々は病気についても理解してくださっていますし、私も体調を優先しながら働くことができています。
――最後に、IBD患者さんにメッセージをお願いします。
Aさん: 私は、同じ会社で3回の異動を経験しました。2つ目の部署では、潰瘍性大腸炎について理解を得られなかったこともあり、「会社を辞めたい」と思ったこともありましたが、今は、会社を辞めずに部署異動させてもらって良かったと思っています。 病気と付き合いながら収入を得るということは、苦労も多いと思います。正社員として働いている方であれば、きっと、会社ごとにさまざまな事情もあると思いますし、時には我慢しなければならないこともあると思います。もし、何か辛いことがあったときは、退職する、転職する、そして、同じ会社の中で部署異動する、というさまざまな選択肢があるということを、ぜひ思い出してください。
(IBDプラス編集部)
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