「大好き」を諦めないで。潰瘍性大腸炎になったアパレル販売員が正社員になるまで

ライフ・はたらく2023/9/29

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今回ご紹介するのは、潰瘍性大腸炎でアパレル販売員のいとうさん。今の主治医と出会うまで、過敏性腸症候群と診断されたり、病院選びや医師とのコミュニケーションで苦労するなど、その愛らしい笑顔からは想像もつかないような苦労がたくさんあったと言います。そんな彼女が、大好きな仕事を続けるために体調が悪い日も笑顔で店頭に立ち続け、見事正社員になるまでの道のりを詳しく伺いました。

いとうさん(29歳/潰瘍性大腸炎歴1年)

おしゃれをすることと人と話すことが大好きで18歳頃からアパレル業界で働き始める。10年近く朝から晩まで接客業一筋で働く「接客のプロ」。しかし、不摂生な生活習慣が影響してか潰瘍性大腸炎を発病。現在は、女性を中心に人気を誇るルームウェアブランドの正社員として勤務している。今の夢は、結婚して大好きな仕事を続けながら子育てをすること。
X(旧Twitter):https://twitter.com/UC_ito_

治療開始後も続く体調不良、募る病院への不信感…。転院はためらわずに決断すべき

――潰瘍性大腸炎と診断されるまでの経緯を教えてください

おなかの調子が悪く、市販の鎮痛剤を飲みながら仕事をするような状態が3か月以上続いたため、近くの病院で診てもらったところ「過敏性腸症候群」と診断され、整腸剤が処方されました。しかし、その後も良くなるどころか悪化する一方でした。

何とか鎮痛剤を飲みながらやり過ごしていましたが、ある日血便が出て「これはもっとひどい病気かも…」と思い、再び受診。すぐに大きな病院を紹介され、検査の結果、潰瘍性大腸炎と診断されました。仕事があるので入院はできないと伝えたところ、5-ASA製剤が処方されました。

しかし、症状は全く改善せず、腹痛で夜も眠れず仕事にも行けなくなってしまいました。痛みと睡眠不足で精神的にも参ってしまい、初めて母に「つらいので入院したい」と伝えました。通院先の病院に入院が決まった時は、食事を取っても食べた物がそのまま出てしまうような状態でした。

――発症のきっかけとして、思い当たることはありますか

20歳頃から発病前まで、アパレル関係の仕事と夜の飲食店の仕事を掛け持ちしていました。どちらも大好きな接客業で楽しかったのですが、朝の7時半頃起きて9時半から昼間の仕事が始まって18時半に終業。その足で夜の仕事に行って深夜3時頃まで働き、4時半頃寝るという毎日でした。今思うと働き過ぎですよね(笑)。焼肉を食べに行ったり、お酒を飲んだりすることも多く、食生活・生活習慣ともに乱れていました。キツイと思うこともありましたが、それが当たり前になっていましたね。知らないうちに疲れが蓄積していたのかもしれません。

――入院して、症状は改善しましたか

2週間入院することになったのですが、なぜか薬は5-ASA製剤しか出せないと言われ、症状は全く改善しませんでした。おなかの痛みがひどく、眠れなくなるとナースコールをして痛み止めの注射を打ってもらって寝るというような状態でした…。その後、「うちでは軽症以上の患者さんの対応はできない」と、IBDで有名な大学病院を紹介されました。

転院後はもともと飲んでいた5-ASA製剤がリアルダに変わり、レクタブル注腸とイムランも追加されました。そんな中、主治医の先生が新型コロナに感染し、別の先生に診てもらうことがありました。その際にコミュニケーションがうまく取れないまま治療を変更してしまい、結果悪化してしまうということがありました。それからも質問に対する回答が曖昧だったり、不安に思うことが続いたため、思い切って別の大学病院に転院しました。

新たな病院でこれまでの状況を話すと「この状態でステロイドも試さずに何か月も経っているというのが考えられない」と言われ、すぐにプレドニンが処方されました。プレドニン20mgを飲み始めて1週間くらいですごく調子が良くなり、寛解したかと思いましたが、5mgまで減らすとまた具合が悪くなってしまいました。それでステラーラが追加になりました。今は、リアルダ、プレドニン、ミヤBM、ステラーラが処方されています。

今の主治医の先生は、質問にわかりやすく答えてくれるのはもちろん、仕事のことなど治療以外の部分もすごく配慮してくださいます。例えば、接客業なのでステロイドの副作用で見た目が変わってしまうことが不安だと伝えた時は「この体重だと通常は30mgからだけど、20mgから始めてみようか」と言ってくれました。やはり先生との相性ってすごく大事だと思いますし、つくづく病院選びって大事だなと感じました。もっと周りの意見を聞いたりして病院を選べば良かったと反省しています。転院も、先生に悪い気がして決断に時間がかかってしまいましたが、ためらわずにもっと早くするべきだったと思います。

大好きな仕事を続けるためにも、周囲への気配りと「信頼関係」を作っておくことは大事

――今のお仕事について詳しく教えてください

パジャマなどを中心に扱うルームウェアブランドの店員として働いています。出産祝いなどのギフトを買うために来店するお客様が多いですね。プレゼントなので、どの方もすごく悩まれます。そのお手伝いをするので、とてもやりがいがあります。しかも、商品を買っていただいて私がお礼を言うべき立場なのに「一緒に選んでくれてありがとう」と、感謝の言葉をいただけることも多いです。長年この仕事をやっていますが、これは昔も今も変わらない喜びです。さらに常連のお客様が増えていくと、どんどん仕事が楽しくなっていきます。好きなことを仕事にできているので本当に幸せです。

大好きな洋服に囲まれて

――発病してから大変なことはありますか

実働8時間ですが、その間はずっと立ちっぱなしです。接客中に急に便意をもよおしても「トイレに行きますので少々お待ちください」なんて言えません。今でも「トイレに行きたくなったらどうしよう…」と接客に入るのが怖くなることがあります。レジに入っている時も、急に走り出してトイレに駆け込めないですしね(笑)。

仕事に復帰した直後は、おむつを履いて仕事をしていました。それでも漏らしてしまって休憩中に下着を買いに走ったことや、急に体調が悪くなって早退させてもらうこともありました。それでも「行ける時は行く!」と決めて、出勤していました。

――体調が悪くなった時に備えて対策していることはありますか

お店には2人ずつ入るのですが、私が早退して慣れないスタッフが1人になって迷惑をかけてしまったことがありました。それからは、1人になっても大丈夫な頼れるスタッフにお願いして、必ず一緒に入ってもらうようにしています。一緒に働いているスタッフとは日頃から他愛のない話もたくさんして打ち解けているので、病気のこともみんな本当に心配してくれています。働く上で、そのような信頼関係を作っておくことは、とても大切だと思います。それでも急な早退などで迷惑をかけてしまった時は、ちょっとしたお菓子にメッセージを添えて、フォローしてくれたスタッフのロッカーに入れておくようにしています。

発病後、諦めかけていた正社員に。潰瘍性大腸炎になって得た「強み」とは?

――潰瘍性大腸炎になったからこその「強み」と思えることはありますか

これから入院する人や、入院する人のパジャマを選びたいという人に「こういう時は上下分かれていた方がいいですよ」とか「ワンピースタイプだと楽ですよ」といった、実体験に基づいたアドバイスをすることができています。お客様にも、「説得力があるね」と言っていただけることが多いです。これは大きな強みだと感じています。

――最近、正社員になられたそうですね!理由は聞きましたか

そうなんです!ずっと希望は伝えていたのですが、パートから正社員になれる人はほとんどいないですし、難病であることも伝えていたので、無理だと諦めかけていました。でも、できる限りのことはやると決めて、自分なりに頑張ってきました。

結果的に、私がお店に入ってから売り上げが伸びたことが評価してもらえたようです。発病後も毎日出勤していたので、上の人たちからは、根性があると思われたのかもしれません(笑)。そして、これまでの行動を通して、私がこのブランドを本当に好きだということが伝わったのだと思います。

自分ができることを毎日少しずつでもやっていけば「叶う瞬間」がきっと来る

――いとうさんは、素敵な彼もいらっしゃるそうですね…!

彼とお付き合いしてから2~3週間で潰瘍性大腸炎と診断されて、フラれるかもしれないと思いました。でも、入院する時に思い切って伝えたところ「入院とかであまり会えないことがあるかもしれないけど、これから長くいる間のほんの一時の我慢だよ」って受け入れてくれて、「この人だ!」って思いました(笑)。病気のことってなかなか言い出しにくいですが、伝えなければ見えない壁みたいなものが取り除けないと思うので、個人的には早く伝えた方が良いと思います。

――IBD患者さんにメッセージをお願いいたします

IBDになって、自分がこうなりたいとか、こうしたいということを諦めなければならないと思っている人も多いと思います。でも、希望はたくさんあります。時間が経てば「病気になってプラスになったこと」が、だんだん見えてくると思います。そんなこと言われても、落ち込まないなんて無理ですよね。私もそうです…。だから、落ち込み過ぎず、ほんの少しでも前向きに生きて行きましょう。今の自分ができることを毎日少しずつでもやっていけば「叶う瞬間」がきっと来るんじゃないかなって思います。

(IBDプラス編集部)

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