【私の再出発】体調不良で営業職を解雇。在宅にこだわって見つけた天職とは
ライフ・はたらく | 2024/12/25
IBDプラス編集部には「失業したことが心の傷となり、再び就職活動する気力が湧かない」「過去を思い出すと怖くて働ける自信がない」といった声が複数寄せられています。そこで今回は、体調不良で仕事を失い、紆余曲折ありながらも、自分に合った仕事を見つけた、クローン病患者さんの藤井成人さんにお話を伺いました。きっと一歩を踏み出すヒントが見つかるはずです。
藤井成人さん(30歳/クローン病歴4年)
このストーリーのあらすじ
倦怠感とうつ症状に苦しみ休職。時短制度はないと、コロナ禍に突然の「解雇」
――前職のことを教えてください
2019年に新卒で、設備関係の会社に営業として入社しました。ルート営業がメインで、先輩と一緒に車で取引先をまわっていました。職場はほとんどが男性で年齢層も幅広く、70歳くらいの人もいましたね。良い人が多く特に人間関係の悩みはありませんでした。肉体的にもそこまでハードではなかったと思います。通勤には1時間弱かかり、毎日7時過ぎに家を出て、19時頃帰宅するという毎日でした。
――最初は休職されたとのことですが、なぜ休職することになってしまったのですか
4月に入社して3か月くらい経った頃から、朝起きられないことが多くなりました。平日は22時に寝て、土日もほとんど家で休養していたのですが、それでも遅刻が増えて上司から叱られることが多くなり、メンタルクリニックを受診したところ「うつ症状」と診断され、12月から休職することになりました。
――休職し、その後はどうなりましたか
休職していた2019年12月~2020年6月はコロナ禍で、まともに外出もできない状況でした。7月になり、会社に「まずは午後だけ、もしくは週2、3回で復職したい」と願い出たのですが、「時短勤務という制度はない」と言われ、会社都合で解雇されてしまいました。
クローン病らしき症状は大学時代から…。2人目の医師でようやく確定診断
――クローン病と思われる症状が出たのはいつ頃ですか
思い返すと大学生の頃からだと思います。この頃から痔の症状があったのですが、恥ずかしくて病院に行っていなかったんです。別の病気で血液検査をした際に、炎症の値が高いと指摘されたこともありました。たびたび下痢もしていましたが、そのまま放置していました。
――確定診断がつくまでの経緯を教えてください
仕事を辞めて時間ができたので、痔の治療をしておこうと肛門科を受診したところ、痔ろうだと言われ、他の病気がないか大腸内視鏡検査をすることになり、大腸に炎症があることがわかりました。そして、この時に「クローン病かもしれないので手術はしない」と言われました。痔の塗り薬と一緒にペンタサが処方され、それを飲んだら下痢が治まったので、通院は続けていました。
その後、経過観察で再び大腸内視鏡検査を受けましたが結局確定診断には至らず、同じ病院のIBDを多く診ている先生を紹介してもらい、その2人目の先生で、ようやくクローン病と確定診断されました。
――診断がついてから現在までの治療について教えてください
診断がついてからはペンタサ、エレンタール、ゼンタコートの治療を開始しました。それから3か月くらいでゼンタコートをやめてアザニンを飲み始めたのですが、副作用が出てしまい中止しました。その後、小腸の状態を見るためにカプセル内視鏡をすることになったのですが、ダミーが小腸で詰まってしまい、検査したところ小腸に炎症があることが判明し、スキリージを使い始めました。それがかなり効いて炎症マーカーが基準値以下になり、肛門の炎症もかなり落ち着きました。ただ、今度は小腸が細くなってしまい、今年の春に2週間くらい入院して狭窄部位の切除手術をしました。現在はスキリージ、ペンタサ、エレンタールで落ち着いています。食事は不溶性食物繊維と脂質を控えるようにしています。
譲れない条件は妥協せず。失業保険が心の支えになった
――仕事探しはどのようにされていましたか
最初はハローワークの「みどりのコーナー(障害を持っている方用の窓口)」を利用していました。コロナ禍だったので社会福祉士の人と電話でやり取りをしていました。ただ、私は満員電車で通勤するのは心理的に無理だと思っていましたし、週に数回で短時間の仕事を探していたので、なかなか条件に合致する仕事は見つかりませんでした。
そもそもハローワークは正社員の募集はたくさんあるのですが、パートタイムの募集は少なかったように思います。タイミングで応募には至りませんでしたが週1回、2~3時間程度のマンション清掃の仕事はいいなと感じました。就労支援A型の仕事も検討しましたが、短時間とはいえ、週5日出勤しなければならないというのはネックでした。
私の場合、実家暮らしで家族も病気を理解してくれており、「この状況でそこまで無理して働く必要はない」と言ってくれていました。また、失業手当が出ていたので、ある程度気持ちに余裕を持って仕事を探すことができたのかもしれません。
――現在のお仕事を見つけたきっかけを教えてください
パートタイムやアルバイトの求人はハローワークよりも大手求人サイトの方が多いので、常にチェックするようにしていました。その中で、たまたま「在宅で採点のお仕事」という求人を見つけたんです。
オンラインで面接があり、その時にクローン病であることを伝えましたが、特に問題ないと言っていただけました。さらに、「教材作成の仕事もあって、テストが必要だけど合格すれば時給も上がるよ」と言われ、試しに受けてみたところ合格することができました。学生時代に勉強をしていて本当に良かったなと思いました。私は「地理」の担当として、教材や模試を作っています。最初は在宅だからという理由で応募した仕事ですが、大好きな地理に関する仕事なので、やりがいも感じています。勤務時間が決まっていないので気持ちが楽ですね。ただ、どうしても閉じこもりがちになってしまうので、できるだけ意識的に外出するようにしています。
在宅勤務にこだわって見つけた「得意」を生かす仕事。学問は身を助く!
――お仕事をどのようなペースで進めているのか、大体の1日の流れも教えてください
大学入試の過去問の解答と解説を作成する場合は約2~3週間、模試を作る場合は半年くらいかかることもあります。大体1日3~4時間くらい働いています。朝起きて作業し、お昼を食べて、夕方にまた少しやるという感じですね。他のメンバーとは主に「Slack」(オンラインのコミュニケーションツール)でやり取りをしています。今は地理の模試の責任者を任されているため、他メンバー3人の進行管理や質問の受付などもしています。ほとんど文字でのコミュニケーションなので、とにかく「質問しやすい空気」を作ることを心がけています。学生や副業としてやっている人などさまざまですが、クローン病になって他の人の大変さを、前より理解できるようになった気がします。
――お仕事の魅力と大変な点を教えてください
地理は世界情勢に影響される科目なので、世の中のいろいろな知識が増えていくのが楽しいですね。自分が作った模試が、塾のホームページなどに載ったりするのも嬉しいです。一方で、難易度が高い問題にもわかりやすい解説を書かなければならないため、何時間も調べたりすることもあり、自分自身も地理の勉強を続けている感じです。でも、誰かの役に立つことがモチベーションにつながっています。
1日でも短時間でも問題なし。まずは「無理のない一歩」から
――失業後に新たな一歩が踏み出せずにいるIBD患者さんへのアドバイスをお願いします
まだクローン病や不安障害の症状もあり、万全とは言えません。それに、今の仕事だけで生活が成り立つかと言われると、正直厳しいです。IBDプラスに登場するフルタイムで働いている人たちの記事を読むと、本当にすごいと思いますし、落ち込むこともあります。そんな時、私は「大切な友達が同じ状況だったら、どうアドバイスする?」と、客観視して考えるようにしています。自分には厳しくなってしまいがちですが、友人に置き換えてみると「この状況でよく頑張ってるよ」と素直に思えることが意外とたくさんあるんです。
ブラジルの作家、パウロ・コエーリョの言葉に「船は港にいるとき最も安全であるが、それは船が作られた目的ではない」という言葉があります。家にいるのが一番安全だけど、余裕が出てきたらもう少し外に出ようと思わせてくれた大切な言葉です。最初から「フルタイム勤務!」などと気負わず、単発でも、週に数回でも、短時間のアルバイトでもいいと思います。私もすぐには無理かもしれませんが、今の仕事を続けつつ、週1~2日くらい外でアルバイトしたいと、少しずつ考えられるようになってきました。まずは「無理のない一歩」から、それで十分だと思います。
藤井さんから学んだ再出発のヒント
- 仕事の探し方はリアルもネットも幅広く
- 譲れない条件は無理に外さない
- 求人はすきま時間を利用してこまめにチェック
- 勉強はしておくと思わぬところで役に立つ
- 勉強に限らず「得意」は武器になる
- 自分を客観視してほめてみる
- 最初は単発、短時間から始めてみる
(IBDプラス編集部)
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