【私の再出発】就労移行支援を上手に活用-ハードルを下げて自分を整える
ライフ・はたらく | 2025/3/24

IBDプラス編集部には「失業したことが心の傷となり、再び就職活動する気力が湧かない」「過去を思い出すと怖くて働ける自信がない」といった声が複数寄せられています。そこで今回は、潰瘍性大腸炎をきっかけに仕事を失い、就労移行支援を活用して再就職を果たしたたまきちさんにお話を伺いました。再就職への一歩を踏み出せずにいる方に、具体的なヒントと、ありのままの言葉だからこそ響くたまきちさんからのエールを送ります!
たまきちさん(57歳/潰瘍性大腸炎歴7年)
このストーリーのあらすじ
24時間仕事に追われる日々。通院さえも「申し訳ない」気持ちでいっぱいだった
――体調に異変を感じてから潰瘍性大腸炎と診断されるまでの経緯と、その頃のお仕事の状況を教えてください
当時はグラフィックデザイナーの仕事をしていました。社長と私しかいない会社だったので、毎日残業が続いているような状態でした。その少し前に夫が亡くなり、3人の子どももまだ手がかかる時期でしたが仕事を辞めるわけにもいかず、作業が終わらなければ一度帰宅して子どもの顔を見て、また夜中に会社に戻って朝まで働くというような日々でした。そして2018年の年末、血便が出たので病院を受診したところ、すぐに大腸内視鏡検査をすることになり、潰瘍性大腸炎と診断がつきました。
――発症のきっかけとして、何か思い当たることはありますか
潰瘍性大腸炎と診断される3年くらい前から、精神的なつらさを食べてごまかすようになり、過食気味でした。しかも日中は食べる時間がなく、夜に一気に食べる感じだったので、胃腸への負担は大きかったかもしれません。
――潰瘍性大腸炎と診断されてから退職するまでの経緯を教えてください
診断後は、ペンタサ坐剤、アサコール、レクタブルが処方されました。血便は出たものの腹痛はなく、医師からは「軽症だし、すぐ良くなるよ」と言われ、食事制限は特に何も言われなかったので過食も続いていました。また、薬をきちんと飲まなかったり、通院をサボったりもあって、だんだん悪化していきました。やがて腹痛が始まり、しぶり腹でトイレの回数が増え、徐々に食べられなくなったため、クリニックの先生から総合病院の受診を勧められ転院しました。
社長にもきちんと潰瘍性大腸炎という病気についてお伝えしました。通院には理解を示してくれたものの、結局通院している間は仕事が止まってしまうため、残業が増えることに…。この頃から退職を考え始めましたが、家族には心配かけたくなかったので隠すことに必死でした。主治医の先生には入院を勧められましたが、入院はおろか通院さえも申し訳ないという感覚になってしまっていて、「お給料を下げていただいてもいいので、通院を自由にさせてください」とたびたびお願いしていました。そのうちおむつをしていても漏れてしまうようになり、心身ともに限界を感じ、2019年9月に退職しました。社長には嘱託で働くことを提案されましたが、このときは思考力もなく、とにかく体を休ませたい一心で退職を選びました。
思い切って長期間静養、そろそろ働かなければと思ったときに見つけた「就労移行支援」
――退職後、さらに悪化したと伺っていますが、約3年で寛解したそうですね
退職後に少し落ち着いたものの再び悪化し、2020年の春に入院しました。入院中は絶食して薬もいろいろ試したのですが合わない薬も多く、あまり改善しませんでした。それで大腸全摘手術をする前提で、外科のある別の病院に転院したんです。この時は転院後も含め、3か月くらい入院しました。転院先では絶食とステロイドで治療し、その後手術を検討する予定でした。しかし、ステロイドで体調が少し良くなったため、ステラーラを手術前に一度試してみようということになったんです。それが効いて体調が良くなり、手術は一旦無しになりました。幸いステラーラで体調が回復し、食事も取れるようになったので退院することができました。その後もステラーラ、リアルダ、ペンタサ坐剤、ミヤBMによる治療を続け、寛解に至りました。
――就労移行支援を利用しようと思ったきっかけを教えてください
入院中、退院後しばらくは傷病手当金と失業保険で何とか凌いでいました。傷病手当金については、病院のがん患者さん向け社労士相談のポスターを偶然見かけて聞いてみたところ、いろいろ相談にのってもらうことができました。
金銭的にはすぐにでも働かないといけない状態なのに就労移行支援を利用したのは、休んでいた間にも印刷物の仕事が減ってしまい、Webデザインを学べば就職先もあるのではと思ったからです。最初は週2回のペースで就労移行支援事業所に通い、それ以外は在宅のeラーニングで勉強していました。しかし、デザインというよりもプログラミングに近い感じで、道のりは遠く、Webデザイナーへの転身は諦めました。その後は就活サポートのみの利用に切り替えました。担当の方は快くハローワークや転職サイトの求人を一緒に探してくれたり、アドバイスなどもしてくれました。
――就労移行支援を利用し、再就職が決まるまでの経緯を教えてください
前提として、私は潰瘍性大腸炎の再燃が怖かったので、障がい者枠で働きたいと考えました。以前医師に相談した際、過食などの部分で精神障がい者枠で申請することが可能というアドバイスをいただいていたので、障がい者手帳(精神障害者保健福祉手帳)は取得済みでした。仕事はあまり選り好みせず、通勤距離が近い今の職場の求人を見て、すぐに応募しました。働く上では過食よりも潰瘍性大腸炎の方が理解してもらう必要があると感じたので、症状が出た時に欲しい配慮などを書いた紙を履歴書に添えて出しました。面接時は何も聞かれませんでしたが、あらかじめ伝えたことで安心して面接に臨めました。
――たまきちさんが感じた就労移行支援のメリット・デメリットを教えてください
必要なスキルを学べるのはもちろん、就活する中で知識が乏しく判断が難しいことなどに的確なアドバイスをもらえるのはとても心強かったです。相談できる場があるという安心感も大きかったですね。一方で、収入が無い状態で通い続けるのはつらかったので、失業手当など何らかの収入がある状態で利用する方が良いと感じました。
1からのスタート。つらいこともあるけれど、決まった時間で働けることに感動
――現在のお仕事について教えてください
2024年の4月から、病院事務として月~金のパートタイムで働いています。主に、院内薬局で処方された薬の準備をしています。職場まで家から徒歩10分くらいなので、8時過ぎに家を出て、8時半始業、11時にお昼を食べて、15時に終業という短時間勤務です。
――これまでとは全く違う業界、働き方だと思いますが、抵抗感などはありましたか
ものすごくありました(笑)。全然慣れないし、1から新しいことを始めることに年齢的にも抵抗感があってつらかったです。誰にでもできるような仕事というのが良い面でもあり、悪い面でもありますね。一方で、これまで忙しすぎたので「決まった時間で働けるってこんなにラクなんだ!」ってすごく感動しました。働いた分はきちんとお給料が支払われるし、それは本当に素晴らしいことだと思っています。通院の日も有給を使えるので気持ちもラクですね。
前向きじゃなくていいし諦めるのもアリ。頑張りすぎず、ぼちぼち行こう
――潰瘍性大腸炎が悪化しないように気を付けていること、病気になって得た気づきなどあれば教えてください
「自分はダメだ」と思ってしまっても、それを自分で打ち消すようにしています。そう心がけることを繰り返して、意識的にベストを目指さないようにしています。無理な働き方をしなければ病気にならなかったかもしれないですし、あの状態から寛解することができたのは、思い切って休養したからだと思っています。なので、休むことの大切さはお伝えしたいです。今具合が悪くて何もできなくても、寛解する可能性はたくさんあると思うので諦めないで欲しいですね。
私は潰瘍性大腸炎になって、自分の能力を過信してキャパオーバーになっていたこと、他者にも自分にも優しくなかったということに気付くことができました。腹を立てることがあまり無くなって、できないということを受け入れられるようになりました。
――IBD患者さんで再就職に一歩が踏み出せずにいる方へのアドバイスをお願いします
また悪くなったらという不安が先立って一歩を踏み出せない気持ち、すごくよくわかります。このような人たちにとって、再就職を目指す道のりにおいて、就労移行支援サービスの利用は有効な一手になると思います。無理のない範囲で背中を押してくれるので本当にありがたかったです。思い切ってハードルを下げて短時間勤務の仕事を選んだり、「働けたらラッキー!」くらいの気持ちで就活に臨めたのも良かったと思っています。
――IBD患者さんにメッセージをお願いします
寛解して再就職はしましたが、私は今も後ろ向きです。病気を抱えながら頑張っている人たちを尊敬しつつ、そうなれない自分に腹立たしさを感じます。でも最近は、諦めることも大事というか、アリなんじゃないかって思えるようになりました。私と同じような劣等感を持っている人がいたら「私もそうだし、頑張らなくていいし、一緒にぼちぼち行きましょう」と伝えたいですね。そしていつか、誰もが無理なく働けるような社会に変わっていったらいいですね。記事を通して、そんな気持ちをどなたかと共有できたら嬉しいです。
たまきちさんから学んだ再出発のヒント
- 再就職よりも「休養」を最優先
- 金銭的な不安は社労士などプロに相談してみる
- 就労移行支援を上手に活用
- 求人事情に詳しい第三者にアドバイスをもらう
- 病気のことは事前に書面で伝えるのもアリ
- 職種だけでなく通勤距離や勤務時間も要チェック
- 優先順位を決めて一部は思い切って諦める
(IBDプラス編集部)