自分の情熱にしたがって-潰瘍性大腸炎が導いてくれた「独立」の道
ライフ・はたらく | 2025/6/2

小学生時代から理解してもらえない原因不明の症状に悩まされ、小学5年生で腸管ベーチェットと診断された本田さん。歯科技工士として働いた後、訪問歯科の事業所でミドルマネージャーとして活躍していましたが、体調悪化から緊急入院。そこで新たに潰瘍性大腸炎の診断を受け一時的にストーマを造設。これらの経験が人生の転機となり、長年温めていた独立の夢を実現。訪問歯科のトータルサポーターとして充実した日々を過ごす本田さんに独立のメリット・デメリット、アドバイスなども伺いました。
本田悠斗さん(31歳/潰瘍性大腸炎歴2年)
このストーリーのあらすじ
原因不明の症状に悩んだ小学生時代。「腸管ベーチェット」と診断されて安心した
――小学5年生の時に腸管ベーチェットと診断されたそうですね
小学3年生頃から口内炎と腹痛に悩まされるようになりました。当初は私も両親もストレスや風邪が原因だと考えていましたが、症状には波があり、学校で激しい腹痛が起こって早退しても、家に帰ると治まったりすることがありました。自分でもなぜなのかわからず罪悪感がありましたし、周囲の理解も得られないまま、精神的にもつらい日々を過ごしていました。
ところが、小学5年生の時に同じような症状で受診した際、たまたま炎症反応の上昇が確認され、クリニックの医師の判断で、すぐに大きな病院を紹介されました。そのまま半年くらい検査入院し、腸管ベーチェットと診断されました。周囲になかなか理解してもらえないという悩みをずっと抱えていたので、病名がついたときは嬉しかったというか、「自分のせいじゃなかったんだ」と、ホッとしたことを覚えています。
腸管ベーチェットの治療は現在も継続中です。これまで薬の変更や体調の波を経験してきましたが、25歳頃から開始した生物学的製剤がよく効いて、2年前の再燃までは、ほぼ寛解状態を維持できていました。食事については、寛解中は特に制限はありませんでしたが、体調が悪い時は医師から「脂っこいもの、刺激物、柑橘類、海藻類、消化の悪いものは控えるように」と、厳しく指導されていました。
――腸管ベーチェットの診断後、進学・就職はどのような選択をされたのでしょうか
高校卒業後は歯科技工士の専門学校に進みました。またいつ再燃するかわからず、手に職をつけておいた方が安心だろうという考えがあったからです。特に歯科技工士は在宅ワークができる可能性もあったので、家族と相談しながら身体の負担も考えて選びました。特に父と母は私の病気や将来のことについて、すごく親身になって一緒に考えたりサポートしたりしてくれて、本当に感謝しています。専門学校卒業後は約1年半歯科技工士として働き、その後、医療法人社団に転職しました。メインの事業は「訪問歯科」で、最初は事業所の事務職として入社し、営業、従業員のシフト調整、売上管理、現場コーディネートなど多岐にわたる業務を担当するようになり、最終的にはミドルマネージャーとして働いていました。
限界まで我慢した末の緊急入院。新たについた病名は「潰瘍性大腸炎」
――体調に異変を感じてから潰瘍性大腸炎と診断されるまでの経緯と、その頃のお仕事の状況を教えてください
その頃の私は、事業所全体を統括する立場にありました。日々重要な決断を迫られ、時には現場に直接出向いて他の人をフォローすることもありました。仕事が大好きだったので自分は何とも思っていなかったのですが、知らない間に疲れが溜まって、身体はもう限界だったのかもしれません。特に入院までの2週間は、明らかにいつもより腹痛がひどかったことを覚えています。しかし、「次の通院で生物学的製剤を打てば良くなるだろう」という楽観的な気持ちから、腹痛の原因となる食事を控えつつ、受診は先延ばしにしてしまっていました。しかし、通院日を待たずに高熱と激しい腹痛に襲われ、そのまま緊急受診しました。一度は帰宅したものの、あまりのつらさで眠れず、再受診の結果、緊急入院となりました。後から主治医に「この2週間の我慢がなければ手術しなくて済んだと思う」と言われ、調子が悪くなったらすぐに受診することがいかに重要か、身をもって経験しました。
――2023年12月から約2か月間入院し、潰瘍性大腸炎と診断されたそうですね
医師からは「腸管ベーチェットの再燃でもあり、潰瘍性大腸炎でもある」と説明されました。それまで生物学的製剤以外あまり効く薬がなかったので、潰瘍性大腸炎の診断がついたことで、治療選択肢が増えたのは良かったと思っています。しかし、その後も体調は改善せず、炎症が広がり、このまま放っておくと腸に穴が空いてしまうかもしれないとのことで部分摘出し、一時的にストーマになりました。
――オストメイトとして過ごされたのは約1年とのことですが、やはり大変でしたか
最後まで慣れることはなかったですね。多くの方はストーマが小さくなっていくそうなんですが、私の場合はどんどん外に出てきて大きくなってしまい、パウチの便を受け止めるスペースが少なく、漏れやすくなってしまいました。ストーマ外来で何度もWOCナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)に相談し、パウチもいろいろなメーカーのものを試し、漏れないための努力をしました。幸い妻が看護師なので本当に助かりました。ストーマは約1年で閉鎖し、現在は月1回の通院と生物学的製剤の自己注射、飲み薬は5-ASA製剤、ステロイド、免疫抑制剤、抗菌薬などを使っています。
病気がくれた独立する勇気。訪問歯科医師をサポートするため日々奔走中
――現在のお仕事について教えてください
現在は独立し、前職で培ってきた経験を生かして、訪問歯科をトータルサポートする仕事をしています。職場復帰した際、上司は「このままのポジションでマネジャーを目指しても大丈夫だよ」という温かい言葉をかけてくださり、本当に感謝の気持ちで一杯でした。しかし、だからこそ、このタイミングを逃してしまったら、もう一生独立することはないだろうと感じました。病気というマイナスからの出発ではありましたが、このことをきっかけに退職を決意し、独立という決断をしました。
――大体の一日の流れを教えてください
朝8時頃起きて、お昼ご飯を食べる12時くらいまで仕事をしています。1時間の休憩後、妻が帰宅する18時頃まで仕事をします。その後、夕食と入浴を済ませ、深夜0時頃まで仕事をしていることが多いですね。働き過ぎではないかと思われるかもしれませんが、なかなか寝付けず、ステロイドの影響もあると感じています。
業務内容は日によって異なりますが、ある日を例に挙げると、午前中は商談用の提案書作成とYouTubeチャンネルの動画撮影・編集(2本)。休憩を挟み、午後は14時と19時の商談のために外出。合間の時間は自社ホームページを作成していました。
――仕事のやりがいや、大変だと感じる点を教えてください
一番やりがいを感じるのは、商談で訪問歯科のメリットを理解していただき「ぜひ、サポートをお願いします」という言葉をいただけた瞬間です。大変な点は、全て自分一人で考えて決めて行動していかなければならないので、そういった孤独感はありますね。また、営業先開拓のためにテレアポ(電話営業)をして、商談まで持っていくのが本当に大変です。

外部の方と会う際はスーツ姿で
――独立を検討しているIBD患者さんにアドバイスをお願いします
私は幼い頃から、病気であることを明かすと周りの人が優しくたくさんサポートをしてくれることを知っていました。しかし、変なプライドがあったので、病気を理由に特別扱いされることを苦痛に感じていました。だからこそ、独立という道を選んだとも言えます。もちろん、サポートしてもらうことが悪いというわけでは決してありません。「病状悪化時のリスクや不安」を強く感じている方は、組織に所属することで得られる福利厚生や恵まれた環境を捨てて独立する必要は全くないと考えます。反対に、「病気の有無に関わらず挑戦したい」「自分の裁量で仕事を進める喜びを感じたい」という想いが強い人は、その情熱に従ってチャレンジしてみても良いのではないでしょうか。
――今後の夢、チャレンジしたいことなどがあれば教えてください
法人化を進め、事業を拡大していくことを目指しています。訪問歯科はまだ十分に認知されていない分野ですが、やってみたいと考えておられる歯科医師は多いと思います。そのような方々をサポートしながら、将来的には訪問歯科にとどまらず、訪問医療全体のトータルサポートを通じて、医療に貢献していけたらと思います。
病気があったからこその出逢い、深まった絆、チャレンジできたことも。寛解する日はきっと来る!
――IBD患者さんにメッセージをお願いいたします
病気はつらいですが、病気があったからこその出逢いや深まった絆、チャレンジできたこともたくさんあります。病気じゃなかったら両親とここまで深く関われたかわからないですし、看護師の妻には今でもたくさんサポートしてもらっていますが、病気じゃなかったら結婚まで至っていたかもわかりません。Instagramを始めたのもブログを始めたのも、病気の体験を記録しておきたいと思ったからですし、それらを通じての出逢いもありました。波がある体調を周囲に理解してもらえず、つらい思いをしている人もいると思いますが、一人で抱え込まずに患者会やSNSなどで同じ立場の人たちとつながってみるのも良いと思います。
時々Instagramで、お子さんがベーチェット病や潰瘍性大腸炎だという親御さんからご連絡をいただくことがあります。みなさんすごく不安がっていますし、それは仕方のないことだと思います。ですが「いつか良くなる日が来る」と信じて、楽しみながら過ごして欲しいと思います。そして、私のように無理しすぎて入院してしまうことがないように、少しでも体調に異変を感じたら、無理せず受診してください!
(IBDプラス編集部)