新卒採用された会社を病気が原因で退職…。それでも私が「笑顔」を忘れずにがんばれた理由

ライフ・はたらく2018/7/23

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働く女性

ある日突然医師から難病と告げられて、どうしたらいいのかわからず、自信もやる気も失ってしまったという人もいるのではないでしょうか。今回は、潰瘍性大腸炎で入退院を繰り返しながらも、「大好きなライブを観に行きたいという情熱が自分を救ってくれた」と語るAさんに、病気と向き合いながら仕事に趣味に、人生を楽しむ秘訣を伺いました。

Aさん(33歳、潰瘍性大腸炎歴17年)

16歳のときにUCを発症。大学進学と同時に上京し、某企業に事務職で新卒採用されるも、直後に体調を崩して長期入院と自宅療養を繰り返す。退院後、職業訓練校に通い資格を取得。その後、就職活動を経て、現在の会社で事務職として勤務。

高校1年生のときに潰瘍性大腸炎を発症。最初は軽く考えていたけれど…

――まずは、潰瘍性大腸炎と診断された頃のお話を聞かせください。

高校生

Aさん:高校生になったばかりの頃、血便が出て、最初は「おかしいな、痔かな…」と思ったんです。それで、近所の肛門科で診てもらったところ、市立病院を紹介されました。そこでの大腸内視鏡検査で、すぐに潰瘍性大腸炎という診断を受けたんです。私自身、幼い頃からよくお腹が痛くなっていましたし、父もお腹があまり丈夫な方ではなく、実は叔母も潰瘍性大腸炎なんです。「潰瘍性大腸炎は遺伝しない」と言われていますが、親族にお腹のトラブルを抱えている人がいたのは事実ですね。

出血はあったものの、際立った症状は無かったので、潰瘍性大腸炎という難病だと聞いても、正直ピンと来ませんでした。通院もほとんどせず、処方されたペンタサを服用している程度でした。当時はインターネットもそれほど普及していなかったので、潰瘍性大腸炎について詳しい情報を得る手段もなく、私も家族もそんなに重く受け止めていませんでした。

その後、大学進学を機に上京して一人暮らしを始めましたが、症状が悪化するということもなく、特に食事も気にしていませんでした。大学時代はサークルなどには所属せず、アルバイトで貯めたお金で大好きなバンドのライブに足繫く通っていましたね。多いときは毎週末、ライブに行くために日本全国に遠征していました。お金が無かったので、夜行バスやフェリーを使うこともあり、ほとんど寝ないで学校やアルバイトに行くという無茶なこともよくしていました(笑)。

社会人1年目に悪化、長期入院、退職…趣味がどん底の私を支えてくれた

――就職活動はどうでしたか?また、面接の際に潰瘍性大腸炎であることは話しましたか?

Aさん:教育に興味を持っていて、それらの業界をメインに就職活動していました。最終的に就職が決まったのは、都内にある専門学校の事務職です。潰瘍性大腸炎ということは、入社が決まってから話したと思いますが、その頃は症状も軽かったので、あまり詳しくは話していなかったと思います。

――就職するだけでも大変なのに、希望する業界に就職できたんですね。

Aさん:そうなんですが…。新卒で入社して1週間目から想像以上の激務でした。朝は8時半までに出社して、上司や先輩たちの机を拭いたり、コーヒーを用意したり…帰宅時間は24時を過ぎることもありました。それに加え、土日はオープンキャンパスがあるので、その手伝いをするために出社。振替のお休みも、前日とかに「明日休んでいいよ」などと言われることが多かったので、予定も立てられませんでした。事務職で採用されたにも関わらず営業電話をたくさん掛けなければならず、徐々にストレスを感じることが増えてきました。次第に体調も悪化して、6月は1か月間休むことになってしまいました。

――その後、復帰はされたのですか?

Aさん:はい。7月に職場復帰したのですが、体調は良くならず、トイレに行く回数が日に日に増えていきました。特に出社するときがつらかったですね…。自宅を出て、最寄り駅でトイレに入って、電車に乗っている途中にお腹が痛くなって途中下車してトイレ、さらに職場の最寄り駅に着いてまたトイレなどということが当たり前でした。汗も異常にかくし、ご飯も食べられず、みるみる痩せていきました。8月の終わりごろに、さすがにキツくなり、地元のかかりつけの病院で診てもらうと、そのまま即入院になりました。

――かなり酷い症状だったんですね。

Aさん:そうですね。一度は退院したもののすぐに再入院となり、結局9月から翌年の4月まで入院しました。9月から12月までは絶食で、ステロイドの点滴も受けていましたが、調子は良くなりませんでした。血球成分除去療法も効果が得られず、手術にも踏み切れないまま、ずるずると内科的な治療を続けていました。会社はその間休職扱いにしてくれましたが、結局翌年の2月頃に退職しました。

ライブハウス

その後も体調は思ったほど回復しませんでしたが、とりあえず普通の生活は送れそうとの判断で退院し、実家で療養をしていました。さすがに体調に気を遣うようになったので、消化にいいものを食べていましたね。療養中ではありましたが、調子がよいときは大好きだったライブにも行きました。ライブハウスだと立ちっぱなしなんですが、気分的にとても楽しいので、不思議と途中でお腹が痛くなることはなかったです。

――実家で療養をしながら、たまにライブに行くという生活はどのくらい続きましたか?

Aさん:半年弱くらいですね。その年の9月にまた体調が悪化して入院。結局、翌年の1月まで病院で過ごすことになりました。退院後は、ライブに行くための収入を得るために地元で短期のアルバイトをしていましたが、そろそろ社会復帰したいと思い、ハローワークにも通っていました。そこで職業訓練校というものがあることを知り、通い始めました。

職業訓練校で猛勉強。資格取得で取り戻した「自信」

――職業訓練校では、どのようなことを学んだのでしょうか?

Aさん:もともとPCを扱うのが好きだったので、Microsoft Officeを学びました。努力した甲斐あって、Word、Excel、PowerPoint、accessといった各種アプリケーションのスペシャリスト資格を、職業訓練校に通った3か月間ですべて取得することができました。特に、WordとExcelは仕事上で役立つことが多く、資格を取得しておいて本当に良かったと思います。資格なんてあまり役に立たないという人もいますが、何も無いよりかは、あった方が断然良いと思います。履歴書にも書けますしね。職業訓練校に通いながら都内で仕事を探し、決まったのが今勤務している不動産系の会社です。

――仕事を探す際に、何か意識したことはありますか?

Aさん:1社目が休みも少なくハードワークだったので、カレンダー通りに休めて残業が多くない会社を探しました。今の会社は、お給料はちょっと安いかもしれませんが、有休も取りやすくて、とても働きやすい会社だと思います。勤続して約8年、今は営業事務をしています。

――面接のとき、働いていない空白期間があることや、病気のことについて話しましたか?

Aさん:空白期間については、「体調が悪くて、実家に戻って休んでいた」と話しました。病名は言わなかったのですが、特に細かく聞かれることもなかったですね。1社目もすぐに辞めていますし、できるだけマイナス情報は話したくないと思っていました。

オフィスで談笑する女性

――職場の人たちには、潰瘍性大腸炎であることは伝えていますか?

Aさん:支店にいた頃は上司や同僚みんなに伝えていました。現在は本社勤務なのですが、上司や仕事で関わる一部の同僚には伝えています。ここ数年は症状が安定しているので急に入院するようなことはないと思いますが、2~3か月に1回は通院しているので、そのことは知っておいてほしいですし、きちんと話をしていますね。

病気であることに落ち込むより、もっと「いま」を楽しんで

――今はプライベートも存分に楽しんでいると伺いました。

Aさん:有休を活用しながら、ドームツアーのコンサートなども楽しんでいます。今年は、国内のツアーはもちろん、海外公演にも行こうかと計画中です。

――現在、潰瘍性大腸炎の症状は安定しているとのことですが、悪化しないために心がけていることはありますか?

Aさん:便が下痢のような状態になってきたら、食べる量を減らしたり、スープなど消化の良いものを食べるようにしていますね。あと、私の場合は睡眠不足で悪化することがあるので、1日7時間は寝るようにしています。会社の昼休みも空いている会議室で昼寝をして、休息を心がけていますね。

――これからの目標はありますか?

Aさん:職場環境はとてもいいので、定年まで頑張りたいと思っています。今は「主任」というポジションですが、勉強してもっと上のポジションを担えるように成長していきたいですね。

――それでは最後に、IBD患者のみなさんにアドバイスやメッセージをいただけますでしょうか。

Aさん:就職・転職の際に、資格はあったほうがいいと思います。入院中の方、自宅療養中の方であれば、その時間をチャンスだとプラスにとらえて、資格取得の勉強をしてみることをおすすめします。それと、私はライブ鑑賞という熱中できる趣味に救われた部分がとても大きかったと思います。気がまぎれるし、ストレス発散にもなります。病気のことばかり考えてしまう、体調は落ち着いてきたけれど一歩が踏み出せないという人は、IBDであることをあまり重く受け止め過ぎず、何か熱中できる趣味を見つけてみてはどうでしょうか。楽しいことを考えている時間はとても幸せですし、本来の自分を取り戻す大きなきっかけになるような気がします。

(取材・執筆:眞田 幸剛)

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