【患者座談会】IBD患者が地方ではたらく「リアル」―IBDふくしま・IBD宮城
ライフ・はたらく | 2023/5/26 更新
これまで、都会で暮らすIBD患者さんの「働き方」や企業の「受け入れ方」を中心にお伝えしてきたIBDプラス「仕事・はたらく」。今回は、IBDネットワーク東北・北海道エリア交流会の場を借りて、IBD患者さんが「地方ではたらく」ことの「リアル」をテーマに、座談会を開催。IBDふくしま会長の高崎さんやIBD宮城会長の吉田さんなど、6名にご参加いただき、地方の通勤事情は?地方で働くメリットは?など、多くの人がもつ疑問に、ざっくばらんにお答えいただきました。
座談会出席者プロフィール
IBDふくしま
高崎聖巳さん(52歳)/クローン病(病歴20年)
広瀬匠也さん(30歳)/クローン病(病歴3年)
IBD宮城
吉田さん(男性・44歳)/クローン病(病歴25年)
高村さん(男性・68歳)/クローン病(病歴48年)
宍戸さん(男性・50歳)/クローン病(ハッキリとした病歴は不明だが、小学生の頃から症状あり)
Tさん(女性・46歳)/潰瘍性大腸炎(病歴23年)
地方での通勤とランチ事情
――本日はお集まりいただき、ありがとうございます。今回の座談会では、みなさんに「IBD患者が地方ではたらく」ということについて、生の声をお聞きしたいと思います。最初に、通勤事情についてお聞かせください。地方では電車はもちろん、車での移動も多いと思いますが、いかがでしょうか?
高崎さん:私は就職と同時に独身寮に入り会社までは徒歩5分。8年後に独身寮を出て一戸建てを新築、会社までは車で10分の距離。独身寮を出て5年後にクローン病を発症しました。
Tさん:今まさに、資格取得に必要な実習をするため、電車で通っています。やはりトイレが心配なので、電車の乗車時刻をキッチリと決めていますね。7時30分の電車に乗れば実習に間に合うので、その15分前には駅に到着し、電車を2本見送る間にトイレに入ります。そして、電車に乗って降車駅に到着したら、バスに乗るまで15分の余裕があるので、その間にまたトイレに入ります。トイレが使用中のときは、障がい者用のトイレを使わせてもらうこともあります。電車で座れないときは、ちょっとキツいですね…。
――電車で立っていると、やはりお腹が痛くなりますか?
Tさん:実習初日はお腹が痛くなってつらかった…。でも今は、どの電車に乗れば比較的楽に行けるか時間が読めてきたので、だいぶ楽になりましたよ。とにかく「慣れ」が大事だと思います。
宍戸さん:地方だと東京ほど混雑しない電車も多いので、その点は良いですね。
――高村さんは、どのようなお仕事をされていたのでしょうか?
高村さん:僕は病気とは関係なく何社か転職して、最終的には自営で土木設計の仕事をしていました。家で仕事をしていたので、通勤はありませんでしたが、1年中ほとんど休み無しで、徹夜もよくしていましたね。
――徹夜も。大変でしたね…。広瀬さんはいかがですか?
広瀬さん:仕事は製造業で、クローン病を発症する前は、自分で車を運転して通勤していましたが、病気になってからは辛くなり、運転はしていません。
広瀬さん母:クローン病と確定する前にうつ病になってしまって、運転できなくなってしまったんです。
――現在は、お母様が会社への送迎をされているんですか?
広瀬さん母:そうですね。実はクローン病になってから1年半傷病手当を受けていたんですが、それが切れる1か月前くらいに勤務先から連絡をもらって「今ならまだ戻れる」と。上司の方がわざわざ送り迎えしてくださったり、週に何度かお休みを入れてくださったり、午前中だけ仕事させてもらったりと、会社をあげて全面的にサポートしてもらいました。
――広瀬さんは1年半お休みをして、職場復帰されたときの不安はありましたか?
広瀬さん:もちろん通勤の不安もありました。それに加えて、長期間休んでいたので仕事も忘れていましたし、体調も悪くオムツを履いて出勤していて、復帰直後は毎日ストレスを感じていましたね。
広瀬さん母:今は仕事を頑張れるように、朝はエレンタールを飲み、昼は軽めのお弁当を食べています。
――広瀬さんから昼食の話題が出ましたが、そのほかのみなさんは、どうされているのでしょうか?
吉田さん:僕の仕事は農業なので、自宅で適当に食べています。
高崎さん:私は仕事のときは、食事を摂りません。お弁当代わりに毎日エレンタールをパパっと飲むだけです。休日は家族と一緒にいろいろ食べてしまうし、会社にいるときくらいしか食事制限を守れないので(笑)。会社は食堂に行かなければランチ食べなくて済むけど、家にいるときはそうはいかないからね。
事前に病気のことを伝えるのは、一長一短あり
――自営以外の方にお聞きしたいのですが、就職・転職で面接に臨む際、病気のことについて話されましたか?
宍戸さん:私は初めから障がい者雇用枠で就職したので、病気については話していましたね。
――入社してから話したという方はいますか?
Tさん:実習先には自分の健康状態を伝えるという決まりがありましたので、私が潰瘍性大腸炎であることを指導者と職員の方に伝えて、トイレの手配をお願いしました。
――やはり、病気のことを事前に伝えておいた方が、精神的に楽ですか?
Tさん:楽ではあるんですが…、職員の方は潰瘍性大腸炎の症状がわからないので、今は壁ができています(笑)。「しょっちゅう出歩いてるね」とか言われて、トイレに行きづらくなったりとか…。
――特に地方では、「仕事が見つからない」という方も多いようです。そうしたなかで、吉田さんは自営という道を選ばれていますが、なぜ農業というお仕事を選ばれたのでしょうか?
吉田さん:大学入学の時点で潰瘍性大腸炎であることがわかっていましたし、大学4年間に入院も経験したりして、「就職は厳しいかな」と思うようになりました。家業が農家なので、いずれ継がなければならないという気持ちもあり、「それならば、早めに農業という仕事に就こう」と決意したんです。今は、家族3人で野菜をメインに育てています。
――農業というと、天候の影響を受けたり、収穫の時期なども忙しそうで、あまりお休みできない印象を受けますが、実際にはどうですか?
吉田さん:おっしゃる通り、基本的に休みはあまりないかな(笑)。
――「農業をやりたい」と思われている方もいるかと思います。何か体調管理の面でのアドバイスはありますか?
吉田さん:水分補給はもちろんですが、睡眠がとても大事です。夜はもちろん、休憩時間にも昼寝をして、体をしっかり休めるようにしています。
――吉田さんが体調を崩されたときはどうされているのでしょうか?
吉田さん:とりあえず家族でできる範囲でやってもらって、後でフォローするという感じですね。
IBD患者が「力仕事」はNG?飲み会の上手な乗り切り方は?
――高崎さんは製造業で立ち仕事をされていて、IBDならではのご苦労とかはありますか?
高崎さん:機械のスピードに体を合わせる感じだから、好きな時にトイレに行けないという苦労があるね。そういうときはギリギリまで我慢して、何とか隙を見てトイレに行っています(笑)。
――大変ですね…。
高崎さん:「IBDの人が力を使う仕事なんて…」って考える方も多いかもしれないけど、意外と力を使う仕事は問題ないと思うんだよね。どちらかというと、筋肉疲労より「焦り」みたいな、神経使うような仕事の方が、お腹に来るような気がする…。
――先入観で「IBDの人はデスクワークしか無理」と思っているような方もいるようですが、そうでもないと?
高崎さん:自分は頭とか神経を使うような仕事より、トラック運転手みたいな方が性に合っていると思う。一人で自由な時間がある程度持てるからね。マイペースにできる仕事の方が合っている人は意外と多いと思うよ。でもトラック運転手も、何日の何時まで納品とかあるからそんなに気楽じゃないと思います。
――在宅の仕事は締め切りなどのご苦労があるかと思います。在宅勤務で事務職をされている宍戸さんはいかがですか?
宍戸さん:私の場合は、会社に精神疾患や知的障がい者、身体障がい者の人もいたので、常に誰かが体調不良になったときにバックアップでき、心配せずに休めるような体制をとっていました。それに、ITの仕事はパソコンがあればどこでもできます。入院してもある程度病状が落ち着いたら、ベッドの上で仕事していましたね。通勤がないというのも大きなメリットだと感じます。結局のところ、在宅に限らず「自分が好きな仕事」であれば、続けられるんじゃないかと思います。とはいえ、会社で働く場合は、ある程度職場の理解が必要ですが…。
――地方だと、仕事以外にも地域の会合などでお酒を飲む機会も多いかと思いますが、そのような場では、どのように対応されていますか?
高崎さん:できるだけ行かない!!
(一同爆笑)
高崎さん:それでも行かざるを得ないときは、ノンアルコールビールで凌ぐ!
吉田さん:最近だと車の規制が厳しいから、車で行って飲酒はしない。一応、参加はして顔はつなぐようにしています。
広瀬さん:病気になる前は結構行ってました。今はお酒を飲まないけど、一応参加だけはするかな。
地方で働くことの意外なメリット
――地方から都会に出ようとする方がいる一方で、田舎暮らしにあこがれている都会の方もいます。地方ならではのメリットがあればお教えください。
高崎さん:都会って意外とトイレが見つかりにくいよね。田舎だと、まずコンビニには必ずトイレがある。あんまりトイレ探しの苦労がないと思う。
Tさん:毎日電車に乗っているからかもしれないけど、私は逆にトイレが少ないと思う。仕方なく、障がい者用トイレを使うこともあるし。でも、そこも健常者の人が使ってたりするから、またトイレを探し回ったりして…。
――大変な面もあるんですね。あと、地方だとわりと中小企業が多くて、融通が利くイメージがあります。実際のところは、いかがでしょうか?
広瀬さん母:うちの場合は、勤務先の所長さんが社員全員に息子の病気のことを話して、理解を得るようにしてくださいました。
宍戸さん:私は弁当屋の事業をやっていたことがあるのですが、そのときは地元の商工会議所がいろいろと動いてくれましたね。前の事業主さんから引き継ぐという形だったのですが、商工会議所の担当者さんに自分の疾病のことも説明していました。地方は病気に理解のある人も多いような気がします。 しかしながら、それに甘んじることなく、自ら工夫したり、積極的に周囲のケアを求めることでできることもたくさんあるので、そういう考え方を持った方が良いと思います。「どうすればできるかな?」という視点を持ったうえで、サポートしてもらえる場所や人を探していくのがいいのかなと考えます。
患者会というリアルな場で、これまでにない「発見」を
――これまでにみなさんから地方で働くことの現実についてお伺いしてきました。その一方で、地方だと都会に比べて障がい者雇用の枠が少ないという問題もあると思います。
宍戸さん:その点に関しては自分の場合は恵まれていましたね。患者会の人に「就労支援センターに行ったら?」と言われて、そこからご縁があって、さまざまな仕事につながりました。だから、いろいろなところにつながりを持っておくと、思わぬところで芽が出るというのはあるかもしれないです。
――患者会はそういった就労サポートなども行っているのでしょうか。
吉田さん:専門的なサポートは難しいかもしれませんが、患者会には多種多様な人がいますので、自分が考えてもみなかった仕事や、働き方をしている人がいます。そのなかで、「この人のような働き方ならできるかもしれない」というような、参考になる人を見つけることができると思います。それが、病気で失いかけていた自信を取り戻すきっかけにつながるのではないでしょうか。
広瀬さん母:辛いときの支えにもなります。息子がここまで来られたのは、勤務先の所長さんのサポートはもちろんのこと、IBDふくしまの会長である高崎さんや、会員のみなさんの存在がとても大きかったと思います。
――IBD患者さんのなかには、病気をきっかけに自信を失い、仕事も趣味も全部やめてしまったという人もいらっしゃいます。広瀬さんはクローン病だけでなく、うつ病も発症し、大変お辛かったと思いますが、一方で、それを乗り越えた経験は、自信を失っている患者さんたちにとって、大きな希望になると思います。どのようなきっかけで立ち直られたのでしょうか。
広瀬さん:昔はバトミントン部で結構がんばっていたし、友達とも普通に遊んでいました。でも、東日本大震災のショックもあってうつ病になって、その後クローン病を発病したこともあり、一時は肉体的にも精神的にもボロボロ…寝たきりみたいな状態になっていたんですよね。でもこのままじゃイヤだと思って、とりあえずリハビリがてら外に出てみようと思ったんです。それで、点滴スタンドを杖代わりにして、何とか外に出ました。最初は筋力も落ちていて、本当に少しずつしか歩けませんでしたが、続けていくうちにかなりの距離を歩けるまでに回復して、同時に気持ちも少しずつ変わっていきました。それで母の勧めもあり、ネットじゃない「患者会」というリアルな人の集まりに参加してみたんです。患者会で初めて会った人と話しているうちに、「意外と平気だな」って思えるようになって…。だから、とにかく四つん這いでも何でもいいから、まずは1歩、外に出てみることが大切なんじゃないかと…自分の経験で、そう感じてます。
――ありがとうございました。患者会というリアルの場が、広瀬さんが立ち直るきっかけのひとつになったんですね。最後に、患者会に入ることの意味や意義について、IBDふくしまとIBD宮城の会長さんの考えをお聞かせください。
吉田さん:同じ病気の人にしか分からないことって、たくさんあると思います。でも、広瀬さんのように、最初は本人が行きたくないという場合もあります。そんなときは、家族だけでもいいから、とにかく一度参加してみてください。何かこれまでにない「発見」があるかもしれません。
高崎さん:患者会にいるのは、同じIBDの人たちです。地方では特に、普段なかなか会う機会のない同じ病気の人と、抱えている悩みや疑問を共有し、分かち合うことができます。思い切って話せば、きっと気持ちが楽になるはずです。特に、「エレンタールを上手に飲む方法」など、ネットにも出回っていないような情報こそ、患者会に集まってくるし、蓄積されていると思いますよ。治療は主治医に任せて、私生活の悩みや疑問は経験豊富なIBD患者が集まる患者会に参加してみたらいかがでしょう。
(取材:IBDプラス編集部/執筆:眞田 幸剛)
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