クローン病の新たな治療アプローチにつながる、腸炎抑制の仕組み発見
ニュース | 2025/9/17
腸に豊富に存在する特殊な免疫細胞、その機能は不明だった
東京科学大学は、腸に豊富に存在するが機能がわかっていなかった「DNT細胞」が、腸の炎症抑制に関わっていることを明らかにしたと発表しました。
腸は、栄養などの”良いもの”を取り込みつつ、病原体などの”悪いもの”を排除する相反する機能を同時に果たしています。そのため、腸には全身とは異なる特別な免疫システムが発達しており、腸内細菌とともに多種多様な免疫細胞が存在しています。
その中でも、IEL(腸上皮間リンパ球)は腸の表面の細胞間に存在し、外から来る物質と直接接触できる位置にある特殊な免疫細胞です。IELは腸に入ってくる物質を最初に監視していると考えられていますが、その詳しい役割はわかっていませんでした。
今回の研究では、IELの中でも腸に豊富に存在しながら、その機能がわかっていないDNT細胞について、「生体内顕微鏡観察」と呼ばれる最新技術を用いて調べました。
DNT細胞に対する免疫細胞の不応答が腸の炎症を抑制する
生きたマウスの小腸を観察した結果、DNT細胞は腸表面の細胞の間を活発に動き回りながら、外から腸管へ入ってきた物質(抗原)を取り込んでいることがわかりました。さらに、DNT細胞はその抗原の情報を他の免疫細胞に伝える働きをしていることも明らかになりました。
DNT細胞の特徴として、免疫細胞を活性化させて炎症を起こさせるタンパク質は持っていないということもわかりました。そのため、DNT細胞が情報を伝えても、相手の免疫細胞は反応せず、「免疫の不活性状態(アナジー)」が引き起こされ、結果として腸炎を抑制していることが示唆されました。
そこで、DNT細胞が正常に働けないマウスに急性大腸炎や小腸潰瘍を誘発すると、症状が悪化しました。また、慢性大腸炎のモデルマウスでは、DNT細胞による腸炎の抑制が確認されました。
DNT細胞の機能強化が新しい治療アプローチとなる可能性
クローン病(CD)患者さんの小腸を調べたところ、健康な人と比べてDNT細胞の働きが弱くなっていることがわかりました。このことから、DNT細胞の機能低下がCDと関連している可能性が示唆されました。
現在のCD治療の多くは、炎症を引き起こす免疫細胞の働きを抑制することに焦点を当てています。今回の発見は、DNT細胞の機能を強化してアナジーを誘発し、腸炎を抑制するという、全く新しい治療法の開発につながることが期待されます。
(IBDプラス編集部)


