医師として、クローン病患者として、持続可能な働き方とは?

ライフ・はたらく2021/7/28

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今回のIBD患者さんは、リハビリテーション科に勤務する医師の大野洋平さんです。大学1年の夏にクローン病と診断がつき、病気をコントロールしながら、大きく体調を崩すことなく学業や医師としての研修を両立、立ち仕事も多い病院での勤務を続けてきました。

リハビリ科医を目指したのは、病気をコントロールしながら医師として働き続けるための考えもありました。大野さんの工夫のポイントを、いろいろ伺いました。

大野洋平さん(32歳/クローン病歴13年)

岡山県出身。福岡大学医学部卒業。初期研修(2年間)終了後、都内の病院の総合内科に勤務。2018年春にリハビリテーション科にキャリアチェンジ。現在は国立障害者リハビリテーションセンター病院リハビリテーション科に勤務。

総合内科からリハビリ科医へ、キャリアチェンジした2つの理由

――はじめに、リハビリ科医の仕事内容を教えていただけますか?

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大野さん: 脳卒中によりまひなどの後遺症がある患者さん、転倒して骨折した高齢患者さん、生まれつき病気がある小児患者さんなど、年齢・症状がそれぞれ違う患者さんについて、リハビリの計画や、それによりできるようになること、それらを踏まえて、患者さんのその後の生活について考えるのが、リハビリ科医の仕事です。

現在の病院では、リハビリ病棟の主治医として患者さんを担当する場合と、内科や外科などからリハビリの依頼を受けて患者さんを担当する場合があります。

――なぜリハビリ科医を志望されたのですか?

大野さん: リハビリによって患者さんがどのように回復して、生活がどうなっていくかに興味を持ったことがきっかけです。

 以前は救急病院の総合内科(※)に勤務していましたが、そこでは、点滴や手術などのいわゆる「急性期治療」を終えた患者さんの多くは、入院から数週間以内に退院して自宅に戻るか、別の病院や施設に移動します。

 まひが残ったり、骨折・手術後に筋力や体力が低下した患者さんはリハビリに時間がかかるため別の病院に転院します。

 救急病院にもリハビリはありましたが、私は総合内科の主治医として内科的な診療に専念しており、リハビリをじっくり見られる余裕はありませんでした。

 リハビリについて時間をかけて学び、患者さんの心身に時間をかけて向き合う診療がしたいと思い、リハビリ科への「転職」を決めました。

 実はもう1つ理由がありまして、クローン病をコントロールしながら働くことができる環境をつくれるのではと感じたからなんです。

 総合内科に勤務している頃は、当直明けなど疲労が溜まった時や睡眠不足の時に、腸が浮腫む感覚があり苦しく感じることがありました。リハビリ科では、日中も緊急性の高い業務は少なく、体調に応じて時間の融通が利きやすいという点はメリットだと思いました。

 ※総合内科:特定の臓器に特化した内科ではなく、全身を幅広く診ることができる内科

大学1年で診断、休学せず乗り切った治療と学業の工夫は?

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――クローン病と診断を受けたのは大学1年生の時と伺いました。

大野さん: はい。症状は中学生の頃からあったので、診断に至るまで約6年かかりました。1年浪人して大学に進学したのですが、予備校時代は授業が終わるたびにトイレにこもる、といった状況で、つらかったです。

――学業と治療の両立で工夫されていたことはありますか?

大野さん: もともと脂っぽい食べ物が得意ではなかったので、低脂質な食事に対する抵抗感はそれほどありませんでした。ただ、一人暮らしで、自炊しなければならなかったのですが、料理が不得手で…。

食事は、IBD患者さんにもおなじみの低脂質・低残渣食の通販「楽チンライフ」にお世話になりました。地元岡山のNPO法人で、安心感もありました。選ぶメニューがカレーに偏りがちでしたが(笑)。また、エレンタールの取り方も工夫しましたね。

――具体的にはどのように工夫を?

大野さん: エレンタールを液体で一気に飲むと下痢しやすく、少しずつ飲んでいたのですが、講義中に飲んでいると先生に怒られたことがありました。事情を説明したら理解していただけたのですが、少しずつ飲んでも下痢は治りませんでした。

そこで、調剤薬局で薬剤師に相談したところ、「ゼリーミックス」を紹介してもらいました。ゼリー化することで、エレンタールを取っても下痢しにくくなりました。治療がうまくいっていることも実感でき、エレンタールは授業の合間など短時間で摂取できるようになりました。

私の場合、イレウス(腸閉塞)になりかけて入院したことはありましたが、長期入院で休学することなく、無事卒業することができました。

患者として経験した「困ったこと」を、患者さんが経験しないように

――患者さんとして医療に関わってきた経験が、ご自身の医師としての仕事に影響していると感じることはありますか?

大野さん: クローン病というだけで、全てのクローン病患者さんの気持ちや状態がわかるわけではないし、他の病気の患者さんの気持ちがわかるわけでもありません。

ただ、生活に支障をきたすようなレベルの症状がある患者さんの場合は、できるだけ積極的に検査などを検討するようにしています。

また、自分が入院中や通院で困ったことを、自分の患者さんができるだけ経験しないで済むように気をつけているつもりです。「テレビカードはなくなる前に早めに補充したほうがいいですよ」とか、本当に些細なことだったりもしますが…。

病気をきっかけに医療職を目指す人へ

――これからIBDに関連して実現したいと思っていることはありますか?

大野さん: 学生時代、患者サークルを立ち上げ、同世代の患者さんと交流していました。社会人になってからはほとんど参加できていないので、患者会やそれに近いような活動ができたらと思っています。

スマホ用ゲーム「うんコレ」の生みの親でもある、石井洋介先生とも交流がありまして、ゲーム内に「腸内会」(町内会とかけています)という、IBD患者さんを含め腸に悩みを持つ人のオンライン交流の場があり、私もとても興味を持っています。

――IBD患者さんの中には、病気の経験から医療職を目指す方もいらっしゃると思います。将来、医療職を目指すIBD患者さんへのメッセージをお願いできますか?

大野さん: 職場からの理解は比較的得やすいと思うので、医療者としてやりたいことがあるならお勧めできる職種です。一方で多くの医療職はハードワークなので、就職・転職の時は十分に下調べをしておくこと、よく接する上司や同僚にはIBDについて説明しておくことをお勧めします。

また、自分自身の経験が、他の患者さんの役に立つことは、意外と少ないかもしれません。患者さんも含めて人それぞれ、本当にいろいろな考え方があるので、自分の経験に固執せず柔軟に対応できることが理想ではないでしょうか。

IBDの患者さんで、まったくの異業種から理学療法士になった人もいましたよ。体調と相談しながら、キャリアチェンジを検討してみてもいいかもしれませんね。

(IBDプラス編集部)

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