IBD患者さんと「はたらく」経営者が語った、不可能を可能にする働き方

仕事・はたらく2022/8/19

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これまで、いろいろなIBD患者さんの働き方や工夫についてお伝えしてきましたが、IBD患者さんを雇用する経営者から見たIBD患者さんは、どのように映っているのでしょうか?今回は、クローン病患者さんの勤務先「NPO法人いねいぶる」の理事長である宮崎宏興さんに、「マイナスにならない病気の伝え方」や「IBD患者さんの強み」など、IBD患者さんなら誰もが気になる質問について、経営者目線でお答えいただきました。

出産後に職員がクローン病を発症。経営者として感じたことは?

――いねいぶるの事業内容について、簡単に教えてください

障害のある方の就職や就労、生活のお手伝いなどをする障害福祉サービスの運営、また、いねいぶるがある兵庫県たつの市を拠点とした「たつのソーシャルインクルージョンプロジェクト」という市民活動団体も運営しており、いろいろな方に向けた学びの場づくりや、こども食堂、高齢者向けのサロンなどの運営をしています。

――宮崎さんが最初にこの道を志したきっかけは何だったのでしょうか

もともとは作業療法士として、医療機関で8年ほど働いていました。入院患者さんの中には、治療をきちんと受ければ安定した状態を保てる方も多くいます。しかし、社会での居場所や働く場所はネットワークがないと見つけるのが難しく、「医療では手が届かない部分」だと感じていました。また、そのような部分をサポートする人がいないことに気付きました。それならば、自分がその立ち位置の人間となり、彼らが働いて自立して暮らしていくための拠点づくりをしようと決めました。1999年に市民団体「障害者にとって意味のある社会参加を推進する会」を発足し、2004年に「NPO法人いねいぶる」を設立しました。

――いねいぶるでは、どのような方が働かれているのでしょうか

施設利用者は、脳卒中、身体障害、発達障害、知的障害、精神障害など、さまざまです。職員も、精神的な不調や聴覚障害のある方、過去には車いすユーザーの方もいました。

――クローン病患者さんも働かれていると伺いました。どのような年代の方で、どんなお仕事をされているのでしょうか

30代の女性職員です。彼女も私と同じ作業療法士で、リハビリテーション業務をしながら、障害のある方々の相談員としての仕事もしています。

――採用は何年前ですか。採用の決め手になったのはどのようなところでしょうか

彼女は大学卒業後に入社してきました。今年で15年目になると思います。採用の決め手となったのは、「人を元気にするエネルギーを持っている」という点ですね。良い意味で物事を大らかに捉えるというか、心の内はわかりませんが、面接時から「前向きな考え方」に魅力を感じて採用しました。

――面接のときに病気の話は出ましたか

入社した時はまだ発病していませんでした。出産後に体の異変を感じて病院に行き、その後の検査でクローン病と診断され、今後についての話し合いをしたと記憶しています。

――クローン病と診断されたと聞いて、どう感じましたか

職業柄、クローン病は知っていましたが、まさか彼女がなるとは考えていなかったので、大変驚きました。「今後どうするか、どうしたいか」「実際にどんな不調が出るのか」などについて、復帰後に話し合い、一緒に仕事をしていく中で対応していったように思います。

――クローン病に関して、フォローが必要になったことはありますか

急な体調不良で休むときや、勤務中に調子が悪くなってきて少し抜けるときなどはフォローしています。彼女はすぐに教えてくれるので、他のメンバーと出勤日を調整したり、別の部屋でしばらく休んでもらったりといった対応がスムーズにできています。これらは全て「本人が教えてくれる」ことが前提なので、「周りが察知してフォローする」というのは難しいと思いますね。

職場の風土としては「希望するタイミングで休暇が取れる」「人員に余力を持たせる」「日々のコミュニケーションをしっかり取る」という点は、常に意識しています。何でも言える環境づくりをすることで、結果的に「体調のことを話しやすい」という状況が生まれているのかもしれません。また、未就学児を子育て中の方が多いので、家の都合で子どもを預けられない時は、子どもを職場に連れてきて働くことも許可しています。託児所はないので、手の空いている人がまとめて面倒を見ていますが(笑)。そういったいろいろな働き方ができる「素地」を作っておくことも、結果的にフォローになっているのかもしれません。

経営者目線で明かす「マイナスにならない病気の伝え方」とは?

――面接で病気のことを伝えるか否かについて、宮崎さんの考えをお聞かせください

私の場合は、面接の時から病気のことは隠さずに話して欲しいです。その上で、調整可能な部分を話し合い、最終的に「双方が納得できるかどうか」が重要だと考えます。経営者としては、面接時に「どういう職務に就いてもらえそうか」を、大まかに判断したいと考えています。前もって病気のことを聞いておけば、どういう仕事の組み合わせならお願いできるのかシミュレーションしやすくなります。余力を持たせた方が良い部分と、頑張ってもらえそうな部分を明確にした方が、お互いに安心して働けますよね。反対に、できないことをできると言ってしまった結果、実際は全然できなかったという方が、やりにくいと思うんですよね。

IBD患者さんに限りませんが、前もっていろいろな情報を伝えた方が、仕事の可能性が広がりますし、一緒に働きたいと思ってもらえる可能性も高まるのではないでしょうか。面接は、何でもできる人なのかを判断するのではなく、「その人が気分よく、楽しく働ける組み合わせを考える時間」だと思っています。彼女の仕事を例に挙げると、何かあった時にお互いフォローし合えるよう3人グループ体制にしておこうとか、スケジュールを自分で組めて、体の負担が少なくて済みそうな相談員業務は任せられそうだとか、そういうことですね。それぞれの働き方の特性を知っていることは、経営的にもプラスになると考えています。

――病気になったことを隠して働かれている方もおられます。これに関してはどのようにお考えですか

仕事の組み合わせや働き方というのは、本人の思いだけではなく会社の経営方針も絡んできますし、経営者側の方がよくわかっていることが多いです。ですから、病気になったことを隠して我慢し続けるより、「こういう働き方であれば力を発揮できる」ということを具体的に教えてもらった方が「その人に合った働き方」を提案しやすいですし、スムーズに進むように思います。

IBDであることが、他の人に「勇気」や「学び」を与えることもある

――経営者の視点で、IBD患者さんの強みは何だと思いますか

行政手続きなどに関して、「体験者」としての話ができるのは大きな強みだと思います。私が知識として伝えるのとは異なり、「これは時間がかかるから注意して」など、実体験に基づいた話ができるのは大きいですね。

また、彼女はクローン病であることをオープンにして、相談者さんが打ち明けやすい環境を作ってくれています。これも代わりの効かないことだと思っています。誰にも相談できないようなことを抱えている人に、自分の病気の話を交えながら共感している姿を見るたびに、「支援者として理想的な姿」だといつも感じていますし、多くの人を勇気づけていると思います。

――クローン病である彼女と仕事をする中で、変わったことはありますか

一緒に働く中で、私を含め職場のみんなが少しずつですが、本当の意味でクローン病という病気を理解できていっているように思います。例えば、食事会で「先生に禁止されてるけど、我慢できなくて食べちゃうんだよね~」とか言いながら、いわゆるNG料理を食べたりするんです(笑)。そういった、日常の小さな生きづらさやしんどさみたいなものは、一緒にいるからこそ知ることができるし、他の職員も日常のリハビリ業務で「そういうことあるよね」という言葉が自然に出るようになったり…とても大きな学びになっています。

医療はどうしても知識ベースになりがちですが、それだけでは得られない「感触」みたいなものを、彼女を通じて、たくさん学んでいるのだと思います。伝え聞くのではなく、自分が彼女と一緒にその場に立ち会うことで、細かいところにまで気付けるようになったり、目を向けることができるように変わってきました。

できそうな仕事を探している人は、「本当にやりたいこと」にも目を向けてみて

――「はたらく」という観点で、宮崎さんが意識されていることや大切にされていることなどあれば教えてください

障害や病気のある方に対して、周囲は良かれと思って「持病があってもできそうな仕事」という観点で仕事を振っている部分が多いように感じます。実際に、彼女がしんどそうにしていることもありますが、だからといって「簡単な仕事に切り替える」というのは少し違うように思うんです。

頑張って乗り越える部分があるからこそ、「この仕事がやりたい」「もっとチャレンジしたい」と思えるのではないでしょうか。ですから私自身は、「本人が頑張ってでもやりたいと希望する仕事を、周囲と協力し合いながらどれだけ増やしていけるか」という部分を大切にしています。本当に好きな仕事だからこそ越えられることも、たくさんあると感じています。

病気に対する不安が本人の全てではなく、他にもたくさんの強みや可能性があると思うと、一緒に働くための工夫も楽しくなってきます。

――就職・転職活動中のIBD患者さんに、経営者としてメッセージをお願いします

体調が悪い中、就職・転職活動が長引けば、誰しも「やりたい仕事」よりも「できそうな仕事」を選ぶようになってしまうと思います。ですが、難しい状況であればあるほど、今一度「自分が本当にやりたい仕事は何か?」を思い返して、チャレンジしてもらいたいです。応援してくれる人が1人でもいれば、きっと頑張れるはずです。できそうなことにばかりに目を向けると「何がやりたいのかわからない」という状況に陥りがちですし、挫折してしまう方もいると思います。「渡る世間に鬼はなし」という言葉があります。好きなことにチャレンジしていく中で、あなたに合った働き方を一緒に考えてくれる企業が、きっと見つかると思います。

採用担当者は話の内容より、所作や熱意を見ていると思うので、「この仕事が大変なのはわかっているけど、この仕事だからこそ頑張って挑戦してみたい!」と言える方は、とても魅力的に映ります。経営者としては、病気の有無にかかわらず、この会社を好きで来てくれた人や、同じ志を抱いてくれる人と働きたいですし、それだけで一緒に頑張れる気がします。そういう意味でも、何回かに1回は、好きな仕事の求人に応募して、チャレンジしてもらえたらと思います!

(IBDプラス編集部)

宮崎さん
NPO法人いねいぶる 理事長
宮崎宏興さん
作業療法士として精神科病院で勤務した後、いねいぶるを2004年に設立。障害のある方の就職・就労・相談・居住・地域移行に関する障害福祉サービス事業のほか、「たつのソーシャルインクルージョンプロジェクト(T-SIP)」を組織し、ピアサポート、自殺対策の推進、フードバンク、こども食堂、地域防災、プラスチック削減、シルバー世代のデジタル化推進、インターネットラジオ配信、ユニバーサルな買い物・遊び・観光など、「混じり合い」と「誰も取り残さない社会を醸成する場づくり」に取り組んでいる。いねいぶるの由来は、英語の「enable(可能にする)」。

いねいぶるホームページ : https://enabletatsuno.com
Twitter:https://twitter.com/enable38

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