ママさん作業療法士、クローン病患者としての経験を仕事に生かして

ライフ・はたらく2022/9/14

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今回取材したIBD患者さんは、兵庫県西部のたつの市にある「NPO法人いねいぶる」に勤める作業療法士で、クローン病患者さんの蜂谷亮子さんです。診断されたのは2018年、第一子の出産直後。育児だけでも大変な時期に、クローン病の治療も開始しました。育休明けの職場復帰後、クローン病患者として経験してきたことが仕事で生かされるシーンがあったそう。そんな蜂谷さんの子育てとクローン病治療、働き方について、いろいろお話を伺いました。

蜂谷亮子さん(クローン病歴4年/37歳)

専門学校で作業療法士の資格を取得後、NPO法人いねいぶるに就職。現在勤続15年目。作業療法士として、障害のある方の職業訓練(内職など)に携わるほか、相談支援専門員として、生活や就労に関する相談に応じる。

作業療法士、障害のある方の就労支援や相談に応じる

――まずは蜂谷さんの今のお仕事の内容を教えてください。

いねいぶるは、たつの市周辺にお住まいの、身体障害のある方、精神疾患の方、発達障害の方、脳梗塞など脳の病気から復帰を目指しリハビリテーションを必要とする方などが利用する施設です。スタッフは、社会参加サポートや就労支援を行うほか、ユニバーサルな社会づくりを目指し、こども食堂や多様な集いの場づくりの運営などを行っています。

私は作業療法士として職業訓練に携わるほか、相談支援専門員としてさまざまな相談に応じる仕事などをしています。職業訓練では、一緒にお弁当づくりをしたり、掃除をしたり、内職をしたり、いろいろです。相談支援専門員は、ケアマネジメントという仕事で、障害福祉サービスを利用するためのプランづくりや相談、リハビリの計画を立てたり、申請手続きなどのサポートを行ったりします。仕事内容は、クローン病と診断される以前から変わっていません。

――いねいぶるには、どのような職種の方が勤めていますか?

作業療法士、精神保健福祉士、介護士、看護師、調理師、栄養士など20人のスタッフが在籍しています。求められる支援はそれぞれ異なるので、必要に応じて専門のスタッフが対応します。同世代のママさんワーカーが5、6人在籍しているので、子育てのことなど仕事以外の悩みも話しやすく、とてもフランクな雰囲気の職場ですよ。

産後の痛み…ではなくまさかの痔瘻、クローン病と診断

――蜂谷さんがクローン病と診断されたのは、お子さんの出産後だったそうですね。

はい、そうなんです。33歳で第一子を出産しました。産後、股のあたりがずっと痛くて、最初のうちは、「産後やし、仕方ないな」と思っていました。ところが、あまりにも痛みがひどくなってきたので、産後2か月頃に実家近く(里帰り出産でした)の肛門科のある病院を受診しました。その結果、痛みの原因が痔瘻であると判明しました。

翌月、私、生後3か月の娘、娘の世話をする夫、家族全員で入院し、痔瘻の手術を受けました。手術中、「女性なのに痔瘻かぁ…クローン病かもしれないな」と話す先生の声が聞こえました。術後の病理検査の結果なども踏まえ、最終的にクローン病と診断されました。

もともとおなかはゆるい方、という認識はありましたが、頻繁にトイレに駆け込んだりするようなことはありませんでした。出産、痔瘻、そしてクローン病診断、怒涛の産後3か月でした…。まだまだ手のかかる娘を連れての入院が、後にも先にも一番つらかったです。

――診断後の経過、これまでの治療はどのような内容ですか?

幸いにも、私の場合は、症状がすごく悪化することなくこれまで過ごせています。食事に気を付けて(ときどき不良患者ですが)、治療薬を継続して飲んで、という感じでしょうか。

治療に関して大変だったのは、大腸内視鏡の定期検診に通うことでした。2020年春頃から日本で新型コロナの流行が本格的に始まりましたよね。第一波の頃は緊急事態宣言下での移動制限がかかっていました。当時通院していたのは、実家のある岡山県の病院。県をまたぐ移動は制限対象で、通院のたびにPCR検査を受け、陰性であることを確認して、というのは面倒でしたね。2022年になり、ようやく住まいの近くの総合病院に転院できました。

――お子さんとの関わりの中で、大変なことはありますか?

トイレ問題ですね。子どもが公園で遊んでいる最中に、私がトイレに行きたくなることがあります。公園のトイレは、トイレットペーパーがなかったり、使いたくないレベルに汚れていることがありますよね。そうなると、遊びを中断させて、一緒に近くのコンビニに駆け込むか、自宅に戻るか。娘には泣かれるし、私はトイレに行きたいし、つらいし…泣。

育休からの職場復帰、上司、ママ同僚たちの支え

――仕事復帰の際、職場の方には相談されましたか?

産後約1年で復帰したのですが、復帰に合わせて上司にいろいろ相談しました。福祉の仕事をしている職場ですし、理解してもらえると思っていましたが、一番不安だったのは、今は症状がひどくなくても、この先どんな症状が、どんなタイミングで現れるかがわからなかったことですね。IBD患者さんの「仕事中にトイレに頻繁に駆け込む、こもる」というエピソードをインターネットで目にしていたので、「私もこうなんのかな…」と心配していました。

――復帰後、実際働いてみてどうでしたか?

ときどき体調に波はありますが、仕事中に大きく体調を崩すことなく過ごせています。少し休みたいときも遠慮せずに伝えています。平日の勤務中よりも、土日の休日の方がおなかの調子を崩すことが多いかもしれません(笑)。

いねいぶるでは、家庭の事情でどうしても都合がつかないときなどは、子連れ出勤が可能です。子どもが37.4度の熱(保育園に預けることができるぎりぎりの熱の高さ)があるときなど、一緒に出勤しています。そんな時は、手の空いた人が子どもを見るというスタイルです。「おたがいさま」の精神ですね。

上司の理解があり、同僚のママ同士でフォローし合える関係があることが、小さなストレスの軽減につながって、体調の維持につながっているのかもしれませんね。

患者の立場で経験したことをオープンにして、コミュニケーションに生かす

――復帰後の仕事のやり方で、以前と変わったことはありますか?

相談員としての受け答えは変わったと思います。以前の私は、「教科書通りの答え」に近かったと思います。でも、復帰までの1年でクローン病とわかり、いろいろなことを経験しました。復帰にあたり、自分の病気のこと、経験したことをオープンにして、相談などに応じることにしました。

診断を受けた病院では、日常茶飯事だからか、医師による病気に関する詳しい説明はなく、看護師のフォローもなく、私からすると「ちょっと冷たいな」と感じたことがありました。相談したいのに言えないという経験をした今、相談を受ける立場では、相談者が言いたかったことが伝えられないまま帰ることがないよう、必ず最後にお聞きしています。「聞きたいことはほかにありませんか?」と。

また、自治体などに提出する書類に関することも一例かもしれません。以前は、必要な書類の種類を説明して終わりでした。でも、クローン病に関わる医療費助成の申請書類を揃えるのに結構時間がかかることを経験したので、「こういう書類は準備に時間がかかるかもしれませんよ」など、声をかけたりすることもあります。

ちょっとしたことが、相談者や通所される方とのスムーズなコミュニケーションにつながっていってくれたらと思っています。

――復帰後の仕事のやり方で、以前と変わったことはありますか?

実は、クローン病と診断されてから、若い頃にマンガを描くのが好きだったことを思い出して、今またマンガを描き始めたんです。クローン病についても描いているので、そのうちIBDの患者さんなど、いろいろな方に見ていただけたらうれしいです。

――最後に、同じIBD患者さんに一言お願いします。

西播磨地域にお住まいの潰瘍性大腸炎またはクローン病患者さん、情報交換したりしませんか!いねいぶるのSNSでも、何でも、連絡いただければうれしいです。

(IBDプラス編集部)

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