通院しながら、リーダーとしてチームを率いるビジネスパーソンが下した「キャリアチェンジ」の決断とは

はたらく2018/4/2

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オフィスワーカー

潰瘍性大腸炎やクローン病は、若くして発症する患者さんも多く、仕事と治療の両立や将来に不安を抱いている方もいることでしょう。仕事にまい進するなかでの、突然の発症。このままキャリアを継続していくことができるのか――。今回は、新卒で就職後に潰瘍性大腸炎を発症した大手サービス企業勤務のTさんにお話を伺いました。

Tさん(26歳、潰瘍性大腸炎歴3年)

大手サービス企業勤務。新卒で入社した直後の2016年5月に潰瘍性大腸炎を発症。
企画部門に従事し、入社2年目からはリーダーとしてチームを率いる。現在は企画職として、医療を変えるような仕事をするべく奮闘している。

血便が原因と思われる貧血症状がきっかけで医療機関を受診

――潰瘍性大腸炎の症状が始まったのはいつでしたか?

Tさん:2016年の5月です。それまでは特に体調は悪くなかったのですが、ある日血便が始まって、異常に気付きました。ちょうど業務量が増え、睡眠時間が少し短くなっていた時期でしたが、ストレスはほとんど感じていませんでした。症状が出て少しの間はそのまま放置していたのですが、血便のために日中に貧血の症状が出るようになり、ようやく近所にある消化器科の医療機関を受診しました。

――診断されるまでの経過を教えてください

Tさん:最初に受診した医療機関では、症状が出る直前に海外旅行に行っていたこともあって、「ウイルス性の消化器感染症の疑い」といわれ、抗生物質を処方されました。その薬を数週間服用したのですが、症状が一向に改善せず、疑問に思ってインターネットで自分の症状について検索し、もしかしたらクローン病か潰瘍性大腸炎ではないかとの疑いを持ちました。たまたま親族に医療関係者がいたので、別の医療機関を紹介してもらいました。そこで内視鏡検査を受けた結果、潰瘍性大腸炎と診断されました。潰瘍性大腸炎については、その当時は安倍首相もかかっている病気というくらいの認識しかありませんでした。

時間がない・スケジュール管理に苦労しているイメージ

――そこから治療が始まったわけですね

Tさん:まず飲み薬と注腸剤を処方されました。飲み薬はともかく、注腸剤には苦労しました。注腸剤は、注入した直後から激痛が2~3時間続きます。寝る前に注入するのですが、痛みで眠れず、睡眠時間が短くなり、仕事にも影響が出るのではと心配でした。また、内視鏡検査を何度か受けたのですが、検査は時間に余裕がある週末にしていました。そのため、業務がある平日に、時間をつくって診察のために通院しなければなりませんでした。

通院が多く業務に支障が… 思い切って上司に報告

――職場では、いつ潰瘍性大腸炎であることを伝えましたか?

Tさん:私の勤務先では自宅など会社の外で仕事ができるリモートワークを推奨していましたので、制度上の支障はありませんでした。ところが実際には、そのころ私の所属していた企画部門は、営業部や開発部との間で日常的にやり取りをする必要がありました。そのうえ、入社2年目からはリーダーとしてチームのマネジメントも行っていました。営業は朝から始動しますし、開発担当者は夕方以降に活動が活発になるため、いくらリモートワークが推奨されていても、必然的に社内で業務することが多くて、拘束時間も長くなりがちでした。

そのような状況のなか、なんとか時間を捻出して平日に通院していましたが、次第に業務に支障をきたすようになってしまって。そこで、思い切って上司と人事部に潰瘍性大腸炎であることを打ち明けました。勤務先の社風から、難病にかかっていることが評価に影響することはないと思っていましたが、人事部から時短勤務を命じられるなど、一方的に働き方を決められてしまい、周囲に迷惑をかけることになるのではというのが心配でした。しかし、潰瘍性大腸炎であることを伝えたところ、社内にはほかにも潰瘍性大腸炎の患者がいるとわかり、特に驚かれることもなく、心配していた勤務形態の変更もありませんでした。

――会社以外の方の反応はいかがでしたか。

Tさん:職場よりも、両親が敏感に反応しました。激務が続いたせいで私が潰瘍性大腸炎を発症したのだと思ってしまったようです。やはり、指定難病で一生治らない病気ということもあって、かなり驚いたのでしょう。いくら私が「仕事が原因で発症したわけではない」と伝えても、「病気になってまで働く必要があるの?」という反応が返ってきたり。こういうやりとりを重ねるなかで、キャリアというものを今まで以上に真剣に考えるようになりましたね。

ひたすら上を目指すのではなく「総合的な視点」から働き方を考えるように

――キャリアに対する考え方は変わりましたか?

Tさん:発症後、大まかに2つの方向性を考えました。1つめは、時短勤務を選択し、個人としての時間を多く確保して私生活を充実させていくという生き方、2つめはこのまま仕事を続けていくというものです。前者は自分が患者であることを中心に据える考え方ですが、こちらを選んでも、必ずしも症状が改善するかどうかはわかりません。それよりも、まずは1年と期間を決めて、後者を選ぼうと考えました。キャリアのゴール設定についての考えも変わりました。発症する前は、仕事で結果を出して高く評価された人が、素晴らしい人生を送っていると思っていましたが、発症後はそのような企業内のレースから離れた人でも幸せな人生を送っていることが理解できるようになりました。人と競争して上に登っていくことだけが立派だという思い込みから離れ、自分のキャリアについて総合的に見ることができるようになったと思います。

今では、家庭の事情で仕事を休むことについて、気が咎めることもなくなりました。もちろん休んだことで業務に穴をあけることはあってはならないと思いますが、勤務時間に穴をあけるのは平気です。それというのも、診断後にたまたま社内で異動があり、新たな部署ではほぼ1人で全ての業務を遂行するコンパクトなスタイルになったからです。必然的に働き方を変えざるを得ず、リモートワークしていても誰にも迷惑をかけることがない状況になりました。また、前の部署では連携している他部門の担当者と仕事がうまく進まない場合などは、委託している業務をこちらが引き取って前に進めるというやり方をしていましたが、それが自分やチームメンバーにとって大きな負担になっていました。現在は、なんでも抱え込まず、進行がスムーズにいかなければ担当者の変更をお願いしています。あまりやりたくありませんが、時には諦めることも必要だと思うようになりました。

医療をよりよく変えるような仕事をしてみたい

――これからどんなキャリアを積んでいきたいですか?

Tさん:以前は、専門職になりたいと漠然と思っていました。専門職はある程度まで技術や能力を高めれば、周りの人から知見を求められるようになりますし、それを軸に仕事が入ってくるようになり、そういう働き方を理想と考えていたんです。潰瘍性大腸炎を発症した今は、専門性よりも、人と比較されない絶対的な価値を提供する仕事をしたいと思っています。誰かに価値を提供してお金を払ってもらうというのは、感動的な体験です。潰瘍性大腸炎を経験した患者の1人として、独自性の高い価値提供ができると思うので、そこを強みにして、医療をよりよく変えるような仕事をしてみたいですね。

――そういう思いに至ったきっかけは?

Tさん:潰瘍性大腸炎とわかった当初から、かかりつけの薬局の薬剤師さんにとてもお世話になりました。発症したばかりで何もわからないときに、食べてよいものリストをいただいたり、食物繊維の摂取を制限するための具体策をアドバイスしてもらいました。ちょっとした症状の変化があったときには、医師への受診が必要かどうか、さらには、注腸剤での痛みを和らげる方法など、さまざまな生活面の相談にのってくれました。医師はいつも忙しそうなので、生活面での相談は気が引けるものです。そういうときに、薬剤師さんに相談できることに驚きました。それまで薬局では、なるべく早く薬をもらって帰りたいとばかり思っていましたが、これだけ高い職能を持つ薬剤師という職業についても興味がわいてきました。

調剤薬局の薬剤師のイメージ

潰瘍性大腸炎の発症を機に、Twitter上で同病の患者さんのアカウントをフォローし始めたのですが、そこで皆さんが訴えている悩みのほとんどは、私の経験では、薬剤師さんに相談できることなのです。そこで、薬剤師さんがその専門性を発揮するためのお手伝いをしたいと思うようになり、今の仕事ではそうした企画に取り組んでいます。

悩んだからと言って症状が改善するわけではない

――現在の病状はいかがですか?

Tさん:お蔭様で、寛解状態が続いています。通常の生活パターンから外れたときには体調が悪いと感じることもありますが、目立った症状はありません。気を付けていることといえば、私自身はもともと運動が好きで、発症前はマラソンを楽しんだりしていたのですが、発症後は長時間の有酸素運動は控えているくらいです。

――同じ病気で悩む患者さんにメッセージを

Tさん:私の場合は、最初の医療機関では別の病気と診断されました。潰瘍性大腸炎やクローン病は指定難病ということもあり、医師の側も戸惑いながら診断をしているのだろうと感じています。ですから、診断や治療について疑問を感じたら、早い段階からセカンドオピニオンを求めてもいいと思っています。また、私は病気をコンプレックスではなく身体特徴のひとつにすぎないと考えています。悩んでも、症状が改善するわけではありませんしね。潰瘍性大腸炎は難病とはいえ、病気を理由に何かをあきらめる必要はないんだということをお伝えしたいですね。

(取材・執筆:村上 和巳)

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