【はたらくスペシャル】「オンリーワンとして生きる」-長唄三味線方・杵屋栄之丞が語る生き方

仕事・はたらく2018/12/25

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ミュージシャン、パフォーマー、アーティスト…。多くの人があこがれる華やかな世界。そんな素敵な夢を「難病になったから」という理由であきらめるのは、仕方のないことなのでしょうか――。その答えを知るべくお話を伺ったのは、長唄三味線方として活躍する杵屋栄之丞(きねや えいのじょう)さん。12歳でクローン病を発症し、病気や仕事で苦悩しながらも三味線への情熱を持ち続けた栄之丞さんの「はたらく」とは?

杵屋栄之丞(きねや えいのじょう)さん

杵屋 栄之丞さん(29歳、クローン病歴15年)

長唄三味線方である杵屋五七郎の長男。6歳より杵屋栄八郎に師事。東京芸術大学音楽学部邦楽科卒業。中学時代にクローン病を発症し、入退院を繰り返しながらも古典三味線音楽一筋に腕を磨き、現在は歌舞伎公演、日本舞踊公演、長唄演奏会などで活躍する傍ら、杵屋栄之丞一挺独演会などの自主公演を主催。学校教育や市民講座への三味線講義や歌舞伎講義など、三味線の素晴らしさを広める活動を行っている。

三味線が本業。クローン病発症後に芽生えた反骨心

――最初にクローン病の症状が出た頃のお話をお聞かせください。

杵屋栄之丞さん(以下、栄之丞さん): 最初の異変は中学1年の頃だったと思います。中学に入ってから、それまではそんなポジションじゃなかったのに、学級委員、生徒会長、部活の部長など、一気に任されるようになりました。それらに加えて、放課後は師匠のもとで三味線の稽古という毎日です。全部好きで楽しくてやっていたのですが、だんだんお腹が痛くなってきて、最初は多忙によるストレスかと思っていました。でも、いつまで経ってもよくならず、小児科に行っても「逆流性食道炎じゃないか」「甲状腺ホルモンの異常じゃないか」などと言われたりはするものの、明確な病名はわからないままでした。2年生になっても痛みは消えず、そのうちご飯も食べられなくなり、夏休みに入院することになりました。そこの小児科の先生が、たまたまエレンタールの存在を知っていて、試しに服用したら、少しずつ体重が戻ってきたんです。

――確定診断されるまでの経緯を教えてください。

栄之丞さん: その入院の終わり頃に、「IBDなのではないか?」ということで、専門病院を紹介してもらったのですが、そのまま行かず…。でも、高校進学後も痛みがおさまらなかったので、紹介された病院を受診し、そのときに、ようやく「クローン病」という確定診断を受けたんです。

杵屋栄之丞(きねや えいのじょう)さん

――病名がわかったときのお気持ちはいかがでしたか?

栄之丞さん: 僕自身は、とてもホッとしましたね。でも、「原因不明の難病」と告げられて、両親は泣いていましたし、立ち直れないくらい落ち込んでいました。それでも僕の三味線に対する情熱は、途切れることがありませんでした。何より、師匠と三味線を弾いている時間が一番楽しかったんです。

――周囲の同級生たちは思春期で、遊びや恋愛を謳歌していたと思いますが、そのような時間がないことに不満はなかったのでしょうか?

栄之丞さん: 中学から高校と、ずっとバトミントン部の部長と生徒会活動をやっていたので、毎日目の回るような忙しさでした。それが終わってから三味線の稽古に行くわけですから、遊びや恋愛を謳歌する時間なんて、ほとんどなかったですね。でも、この頃の僕は「三味線が本業」という気持ちで、学校にいても「自分の居場所はここじゃない。人とは違う道を歩むんだ」と、いつも思っていました。病気で長期間休んだ時に、仲の良かった人たちが、「アイツもうダメだ」みたいな感じで全員離れていきましたし、同級生に比べ、とても華奢な体型や容姿にも大きなコンプレックスを持っていましたから、そういう全てのことに対する反骨心のようなものがあったんでしょうね。学校の文化祭や修学旅行、卒業式にも出なかったですし、とにかく斜に構えた学生でした(笑)。体調も良くありませんでしたが、エレンタールを鼻からチューブで入れるのが苦じゃなかったので、それを続けていましたね。

吐血するも、舞台は休めず…

――高校卒業後は東京芸術大学に進学されていますが、大学時代はどのように過ごされたのでしょうか?

栄之丞さん: キャンパスライフを楽しんだ記憶はないですね(笑)。師匠から来た三味線奏者の仕事ばかりしていました。この頃はまだ歌舞伎ではなく、ほとんどが日本舞踊の「おさらい会」での演奏でした。同じ曲を毎日弾く歌舞伎と違い、おさらい会は毎回曲が変わるので、一度に暗譜する量が膨大です。1曲20〜30分のものを1週間で5曲覚えるなんてことはザラで、30曲くらいになるときもありました。暗譜する曲を爆音で家中に流して、譜面をトイレにも貼り、一日中「覚える」ということだけをひたすらやっていましたね。それに、この頃は師匠の付き人をやっていたので、楽屋に入る前から神経をとがらせて気を使っていました。でも、不思議とイヤだとか辞めたいとか思ったことはなかったですね。確かにキツい経験ではありましたが、難しいゲームを攻略するような感覚でした。

杵屋栄之丞(きねや えいのじょう)さん

――大学時代、体調管理はどのようにされていましたか?

栄之丞さん: 病院には月1回程度通っていました。エレンタールは止めて、ペンタサとアザニンを飲んでいました。食事に関しては、基本的に朝は食べずに1日2食。日中は仕事や稽古で忙しいので、夜まで何も食べないという日も多かったです。ちょっと調子が悪くなったら、食事の量を減らすなどしてコントロールしていましたね。それに、仕事柄40代以上の人と食事することが多かったので、焼肉、とんかつ、天ぷらなどの油っこいものを食べる機会はあまりなく、お寿司、そば、割烹のおばんざいなど、あっさりとしたものを食べることが多かったですね。そういった意味では、偶然にも体に良い食習慣になっていたのかもしれません。

――歌舞伎のお仕事を本格的に始められたのは、いつ頃でしょうか。

栄之丞さん: 2012年頃から父と同じ、歌舞伎の長唄三味線奏者としての仕事をスタートさせました。2016年10月に名古屋で歌舞伎の仕事があったのですが、昼の部、夜の部両方掛け持ちで3つの演目をまかされていたため、その忙しさが原因だったのか、体調が急激に悪化して駅のホームで吐血してしまったんです。今思えばストレスだったのではないかと…。でも僕の代役はいませんし、仕事に穴をあけることは絶対にできないので、持ち歩いていた鎮痛薬を飲んで一時的に痛みを抑え、何とか舞台に立ちました。その後も調子が悪くなったときは絶食し、痛みをこらえながら仕事を続けていました。

発症から約15年。ついに手術を決意。

――最近手術を受けたと伺いましたが、どんなことがきっかけだったのでしょうか?

栄之丞さん: 今年の2月頃に体調が悪化して、腸がねじれるような、これまでにはない痛みを感じました。痛み止めも全く効かず、それまでどんなに調子が悪くても表には出さないようにしていましたが、休憩中にうずくまっているので、周囲の人に心配されるほどでした。小腸造影検査を受けると、今までは無理に手術を勧めてこなかった先生が「増悪してますね。手術が必要なタイミングだと思います。とりあえず8月に手術の予約を入れておきましょう」と…。9月に歌舞伎座での大きな演目での演奏が決まっていたので、なるべく手術は受けたくなかったのですが、7月に入ってから、意識が遠のくような痛みと嘔吐で、緊急入院になってしまったんです。それで結局、腹腔鏡下回盲部切除の手術を受けました。狭窄と、深い瘻孔があったそうです。

――術後の経過はいかがですか?

栄之丞さん: 今のところ、術後の経過は良好です。術後17日で退院できたので、9月の公演にも何とか間に合わせることができました。

杵屋栄之丞(きねや えいのじょう)さん

――それでは最後に、IBD患者のみなさんにアドバイスやメッセージをいただけますでしょうか。

栄之丞さん: 難病であることに負い目があっても、「歌が上手い」とか、「自分にしか作れないものがある」という特技が一つあるだけで、人を喜ばせることができるし、自信にもつながりますよね。そういう意味でも、IBDの人は出世や売り上げを競い合うような仕事より、パフォーマーやアーティストや職人といった、何かのスペシャリスト、オンリーワンを目指す方が向いているような気がします。もし、「特技もないし、どう生きて行けばいいのかわからない」という人がいたら…まずは「好きなこと」を探してみることから始めてはいかがでしょうか?少しでも三味線に興味を持ったなら、僕が教えることもできます。みんなで集まって稽古をして、上達してきたら人前で発表するんです。どんな小さな演奏会でも、最後にいただける拍手が、大きな自信につながります。三味線を持てば、年齢も、病気も、職業も何も関係ありません。好きなことでみんながひとつになれる、つながれるって、素晴らしいことですよね。病気に限ったことではありませんが、目の前の困難を障壁と思うのではなく、”ゲーム感覚”で楽しむ。それが、僕の生き方であり、みなさんにお伝えしたいメッセージです。

(取材・執筆:眞田 幸剛/撮影:大澤 邦彦)

栄之丞さんの生演奏が聴ける場所

手ぶらで稽古

楽器、譜面不要。初心者大歓迎の、手ぶらでお越しいただける気軽なお稽古です。90分1万円で何人でもOK。1回ごとに1曲習得。3回で楽譜が読めるようになります。もちろん、栄之丞さんから直々に三味線のレクチャーが受けられますよ!(平日土日問わず、ご自身のお好きな時間で調整可能)。その他、お稽古体験会も定期的に実施中。

お稽古場所:
両国・築地・東京駅
料金:
1回90分 10,000円
お問い合わせ先:
einojo1105@gmail.com

※各種SNSでも承っております。

劇酒場 忠臣蔵

店主が俳優・殺陣師。店舗奥のステージでは生演奏をバックにした演舞も楽しめます。3のつく日(3、13、23)には、栄之丞さんが「三味呑~しゃみのみ~」を実施。三味線の音色をBGMに、忠臣蔵名物の煮込みと日本酒を一杯いかがでしょうか。

住所:
東京都墨田区緑1-14-10
アクセス:
都営地下鉄 大江戸線「両国駅」徒歩6分、JR総武線「両国駅」東口・徒歩10分
営業時間:
17:00~(詳しくはお電話でお問い合わせください)
TEL:
080-6607-2964
080-6607-2964
HP:
https://tabelog.com/tokyo/A1312/A131201/13215079/

ふれんち茶懐石 京都福寿園茶寮 東京駅グランルーフ店

フレンチをベースにした創作茶懐石を楽しみながら、ランチとディナータイムには栄之丞さんの本格的な生演奏が楽しめます(スケジュールはお店にお問い合わせください)。

住所:
東京都千代田区丸の内1-9-1 グランルーフ3F
アクセス:
「東京駅」八重洲南口より徒歩2分
営業時間:
ランチ11:00~14:00、ディナー17:00~21:00
TEL:
03-6268-0290
03-6268-0290
HP:
http://www.tokyo-fukujuen.com/
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