【はたらくスペシャル】「完璧を目指さない」-漫画家・島袋全優が語る生き方(前編)
ライフ・はたらく | 2023/5/26 更新
マンガアプリ「GANMA!」で闘病ギャグエッセイ『腸よ鼻よ』を連載中の島袋全優さん。入院で何度も休載しながらも、それを全て笑いに変えてしまうパワフルさで、同じIBD患者さんのみならず、多くの人に不思議な勇気を与えています。大手出版社の漫画が名を連ねる「次にくるマンガ大賞 2019 webマンガ部門」で第3位を受賞し、単行本の2巻の発売も決定。まさに漫画家としての階段を爆走中の今、IBDプラスが、白塗りの下に隠された全優さんの素顔に迫ります!
【前編】となる今回は、「漫画家になろうと思ったきっかけ」や「IBD患者として考えていること」についてお聞きしました。
島袋全優 さん(28歳/潰瘍性大腸炎病歴8年)
ある人の言葉をきっかけに、漫画家になることを決意
――『腸よ鼻よ』では、全優さんのご家族やお友達の話がよく出てきますね。幼い頃から活発な性格だったのでしょうか?
島袋全優さん(以下、全優さん): 家族の中でも、特に兄と父とはすごく仲良しですね。でも、中学は反抗期だったし、父と仲良くなったのは実は高校からなんですよ。それに、こう見えて幼い頃はおとなしくてあまり口もきかない子でしたし、中学時代はイケてないグループにいて、みんなにはあだ名があったのに、私だけ「さん付け」で呼ばれてました(笑)。しかも、遊び半分で手相を見ていたら、「100%当たる占い師」という謎のレッテルを貼られて、下校途中に他校の生徒に囲まれ手相を見る羽目になったり、なぜか霊能力もあると勘違いされて「島袋さんの機嫌を損ねたら呪われる」とか言われていました。極め付きは修学旅行のとき。ヤンキー女子が、泊まった部屋にお化けがいると騒ぎ始めて、突然塩を渡されて除霊させられたんですよ…やったこともないのに(笑)。そんなこともあって、「逆中二病」というか、とにかくみんな嫌いで、自分の殻に閉じこもっていました。
でも、高校生になったときに「こんな自分は嫌だ!」と思い、芸人さんのビデオをたくさん見て、しゃべり方とか仕草とかを研究して、高校デビューしたんです。漫画を描きたかったので美術部と、ストーリーを上手く作れるようにと文芸部にも入って活動していました。
――漫画家になろうと思ったのは、いつ頃からですか?
全優さん: 幼稚園くらいの頃からかな…。「セーラームーン」が大好きだったので、絵を描く仕事があるのは知っていましたが、それが「漫画家」という仕事だとはまだ知らず、とりあえず、絵を描く人になりたいと思っていました。小学校からイラストばかり描いていましたね。その頃はとにかく少女漫画が好きで、特に、りぼんに連載していた津山ちなみ先生の『HIGH SCORE』というギャグ漫画が好きでした。
本格的に描くようになったのは、高校を卒業してからですね。働いてお金を貯めてから、漫画家になろうと思っていたので。でも、たまたま行った専門学校のオープンキャンパスに、ゼルダの伝説シリーズで有名な、かぢばあたる先生がいらっしゃっていて、描いた漫画を見せたら「上手いね!オレが高校生のときにはこんなに描けなかったよ」と言われたんです。それで調子に乗って「漫画家なろう!」と、入学を決めました(笑)。両親も漫画が好きだったので、反対はされませんでしたね。学費は自分のバイト代で払うと約束しました。死ぬほど忙しかったですが、課題は一度も遅れたことはありませんでした。両親に迷惑をかけたくなかったし、とにかくがむしゃらでしたね。
専門学校で出会った友人には今でも助けられています。『腸よ鼻よ』でもお馴染みの「アラキ」は、デジタル漫画を描くのがとにかく上手くて、今でもアシスタントとして手伝ってもらっています。学校に行ってわかったのは、「自分より絵が上手いヤツはたくさんいる」ということ。私が他の人より優れていたのは「ギャグを考えるスピード」ですね(笑)。
――体調に異変を感じたのは専門学校時代と伺っていますが、何か原因として思い当たることはありますか?
全優さん: 2011年、専門学校の2年生になる直前に発症しました。東日本大震災の1週間後に下血したことをハッキリ覚えています。忙しさのせいなのか、震災のニュースを見たショックなのかはわかりません。この頃、クラスの問題児の世話係みたいなことも任されていたので、それもストレスになっていたのかもしれません。
その後、入院しなければならないほど悪くなってしまったのですが、担当医からは「腸炎」と言われていたんです。漫画にも描きましたが「最初の担当医」の治療が適切でなかったため、中等症くらいで入院したのが、重症になってしまったんです。この先生、下痢止めしか処方してくれず、治療に関しても「ネットで調べたんだけど~」と平気で言ってくるし、ガチ切れしたら、「それが僕のやり方」と言われるし…あとは漫画の通りです (笑)。「ここにいたら死ぬ!」と思って、セカンドオピニオンを受けました。そんな散々な入院でしたが、入院中に出会って仲良くなれた人もいたし、親しい人の「死」も経験しました。それで、「生きているうちに好きなことをやろう」と考えるようになったんです。
今まで受けた手術は、最初が大腸全摘、次にストーマの閉鎖手術、その後腸閉塞で開腹手術、瘻孔の悪化による人工肛門の手術など…10回です。体調は良いのですが、今年2月に手術をしたとき、体に瘻孔ができやすくなっていると言われたので、今は人工肛門のままにしておこうということになりました。でも、いつかは戻したいので、一時ストーマにしてあります。
入院中も快適に過ごすコツ
――IBDで初めて入院する人は戸惑うと思います。全優さんおすすめの「入院時必須アイテム」や、少しでも入院生活を快適に過ごすコツがあれば教えてください。
全優さん: 個人的な必須アイテムは「かつお節」ですね。食べられない時に、かつお節をお湯に入れて飲むと、超ほっこりするんです。軽く食事している感じっていうんですかね。入院中は、だし汁を母によく作ってきてもらいました。本当にだしが大好きで、醤油や塩より多用しています。
あと、これは失敗から学んだことなんですが、絶食中は頬がこけて身なりも構わなくなっていたので、お見舞いを全部断っていたんです。そうしたら、気持ちがどんどん暗くなり、「治療うつ」みたいな状態になってしまいました。だから、あまり身なりは気にせず、お見舞いに来てくれた人や入院患者さんと話して、どんどん発散した方がいいですよ。今でも、病院を「別荘」と呼んで、入院しても、あまり塞ぎ込まないように心がけています。それから、入院前は髪を短く切ることをお勧めします。入院中は頭があまり洗えないし、看護師さんに洗ってもらうことも多いので、気合いを入れる意味でも、私は必ず切るようにしています。
――食生活で気をつけていることはありますか?また、ストレス解消法などがあれば教えてください。
全優さん: 自炊するときは、鶏胸肉に片栗粉をつけてパサパサにならないようにしたり、沸騰したお湯にくぐらせて、しっとりさせたりしています。大腸を全摘するまでは、外食はどうしても、うどんになりがちでしたね。よく食べるものは、メーカーごとの脂質をメモするようにしていました。友達と外食するときは、食事制限があることをストレートに伝えていたので、みんな「全優の食べられるところに行こう!」と言ってくれました。なかでもおすすめなのは、野菜と和食中心の健康食バイキング。ヘルシーなメニューが多いので食べられるものがいろいろあるし、量も調節できるので気を使うこともなく、よく利用していました。
今はストーマなので、一応何でも食べられるということになっていますが、腸閉塞を起こしやすいので、繊維質は取りすぎないようにしています。あと私の場合、辛いものと脂っこいものを食べると腸液が多く出てしまうので、そういうものはたまに食べるくらいにして、普段は鶏肉とか、あっさりしたものを食べていますね。お酒を飲むのは1か月に2回くらいかな。お酒は好きですが、もともと誰かといる時だけ飲むタイプなので、飲まなくても平気ですね。
潰瘍性大腸炎になる前はチョコレートケーキが大好きで、1人で1ホール食べられるくらいでした。それがストレス発散にもなっていましたね。でも、病気になってさすがに食べられなくなったので、今のストレス解消法は「高いお寿司を食べること」と、友達と「Skype飲み会」をすることですね。それをやる日は朝からSkypeをつないで、ダラダラ1日中しゃべっています(笑)。それと、好きなことは、どんどんやった方がいいと思います。でも、ホラー映画が好きだからと1か月ホラー映画ばかり観ていたら謎の高熱が出て入院してしまったことがあったので、やりすぎは禁物です(笑)。
「かわいそうだね」ではなく、「頑張っているんだね」と言って欲しい
――IBDと診断されて、なかなか前に進めない方たちに向けてメッセージをお願いします。また、周囲の人たちは、どのように寄り添っていけば良いのでしょうか?
全優さん: 『腸よ鼻よ』を読んで笑ってほしいですね!「入院中はつらかったけど、漫画に同じ話が出てきて、懐かしいなぁ…という気持ちになれた」とか、「病気になったばかりで落ち込んでいたけど勇気付けられた」とか、「病気の友達が悩んでいたのでこの漫画を薦めた」という声をたくさんいただいています。ファンレターで病気の相談をされることもありますが、Twitterアカウントが記載されていれば(住所は消されてしまうので)、できるだけダイレクトメールでアドバイスするようにもしています。
周囲の人たちは「かわいそうだね」とか「頑張れ!」ではなく、「頑張っているんだね」と声をかけてあげて欲しいです。それから、同じ病気の人でも「自分と同じ」とは思わないで欲しいです。過去に、人工肛門の2回目の手術ですごく落ち込んでいた人に「私なんか5回目だから!」と、励ますつもりで声をかけたことがありましたが、「あなたと私は違う!」と言われ、逆に相手を傷つけてしまったことがあったので…。同じ病気でも、一人ひとり思いや考え方は違うと気づかされました。
(IBDプラス編集部)
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