度重なる再燃と向き合い、退職した企業への再入社を勝ち取るまで―仕事で信頼を得るために大切なこととは?
ライフ・はたらく | 2019/12/18
高校3年生、受験を控えた大切な時期に潰瘍性大腸炎を発症したAさん。その後も、社会人スタートのタイミングで症状が悪化し、新卒入社した会社を3週間で辞めざる得ない状況になるなど、さまざまな苦難を乗り越えてきました。キャリアを積んでいく中で、度重なる再燃を経験しながらも、着実に職場の人々の信頼を得ながら仕事に向き合い、プライベートでも、患者会やSNSを通じて出会った仲間と親交を深めるなど、充実した日々を過ごしています。潰瘍性大腸炎歴14年のAさんの仕事のコツとは?仲間の作り方とは?詳しくお話を伺いました。
Aさん(32歳・女性/潰瘍性大腸炎歴14年)
高3で潰瘍性大腸炎を発症…見事、第一志望に合格するまでの道のり
――高校3年生の時に潰瘍性大腸炎を発症されたとのことですが、診断を受けるまでのお話について、お聞かせください。
Aさん: 最初に異変を感じたのは、高校3年生の夏頃でした。腹痛と下痢を繰り返すようになったんです。当時、受験生だったこともあり、「ストレスが原因で体調が良くないのかな?」と思っていました。でも、なかなか症状が改善されず、ある日、血便が出たんですね。そこで、親から病院に行くことを勧められて、受診しました。医師に症状を伝えると、「潰瘍性大腸炎の可能性があります」と言われ、検査の結果、潰瘍性大腸炎の確定診断を受けました。その後は、2週間入院して、絶食を1週間ほど行ってから、おかゆを食べ始めたと思います。薬はペンタサを使用していました。
潰瘍性大腸炎が「難病」だと説明を受けた時は正直、「私、治らない病気になったんだ…」と、ショックを受けましたね。潰瘍性大腸炎が治らない病気だということを知らない周囲の人からは、気遣いで「早く治るといいね」と言われることがあり、どのように受け取って良いのか迷うこともありました。「この病気は、治らないんだけどな…」と、思ってしまって。もちろん、病気のことは周囲の人に話していましたが、潰瘍性大腸炎がどんな病気かを知らない人のほうが多かったですね。
――潰瘍性大腸炎を発症してからの受験は大変だったと思います。どのように受験を乗り越えられたのでしょうか?
Aさん: 潰瘍性大腸炎を発症する前は、複数校受験する予定で準備していましたが、確定診断されてからは、正直、すごく悩みました。試験中に症状が悪化して、トイレに行きたくなったらどうしよう…など、いろいろ考えてしまって。悩んだ結果、大学と専門学校の1校ずつに絞って受験することにしました。親が受験する学校に電話して、病気のことを説明してくれて。結果的に、試験中にトイレに行きたくなったらいつでも行けるよう、別室での受験を許可してもらえたんです。おかげで安心して試験を受けることができ、無事に第一志望の大学に合格することができました。
無事合格できたのは日々の食事に気を遣ってもらうなど、親のサポートも大きかったと思います。私は、もともとスナック菓子やジャンクフードが好きなんですけど、受験期間中は食べないように気を付けていました。それはそれで、ちょっとストレスだったんですけどね…(笑)。
――大学入学後の体調はいかがでしたか?
Aさん: 体調が悪かった高校3年生の頃と比べると、そこまで悪くなることはなかったですね。学業と並行して、スポーツジムで受付のアルバイトもしていました。在学中に再燃してしまい、夏休みを利用して、一度入院しながら治療を受けたことはありました。アルバイトは、この時の入院や、その後また体調が悪くなったことなどを理由に辞めてしまったのですが、トータルで考えると、大学時代は、学業に影響が出るほど体調が悪化することはなかったように思います。
症状の悪化で、新卒入社した会社を3週間で退職…
――大学を卒業した2010年4月に、家電量販店に就職されたんですよね。その後、症状はどのように変化しましたか?
Aさん: 入社直後の研修期間中に、症状がどんどん悪化してしまって…親と相談した結果、退職を決意しました。入社してから3週間くらいだったと思います。実は、内定をもらった時に潰瘍性大腸炎のことを説明しておらず、退職する時に「実は…」という感じで、初めて病気のことを伝えました。入社前は症状が落ち着いていたこともあり、大学の就職課の人に「今、症状が落ち着いているのなら、内定先の会社には言わなくても良いんじゃないかな?」とアドバイスされていたためです。今思えば、入社前から病気のことを伝えることが必要だったのかなと思います。
私自身、就職による環境の変化に対して、それほどストレスは感じていないつもりでした。ただ、ついついジャンクフードを食べ過ぎてしまって…。気付かないうちに、ストレスを感じていたのかもしれません。退職後は、3か月ほど自宅療養してから、改めて仕事を探し始めました。最初はフルタイムではなく、時間を調整できるアルバイトから始めようと考え、高校時代にアルバイトをしていたファストフード店の店長に相談してみたんです。すると、ありがたいことに「戻っておいで」と言っていただき、再びそのお店で働き始めました。その後、3年間お世話になりました。
――そして、2013年、現在お勤めの人材系企業に営業アシスタントとして入社されたんですよね。入社時のことについて、詳しく教えていただけますか?
Aさん: 最初は契約社員として入社し、半年後に正社員になりました。以前の経験を踏まえて、今回は、面接時に、企業側に潰瘍性大腸炎のことを伝えていました。そのおかげで、入社後、スムーズに働くことができたと思います。また、上司はとても信頼できる方で、いつも私の体調を気にかけてくれたこともありがたかったですね。
一方で、事前に病気のことを伝えた影響なのか、結果的に内定をもらえなかった企業があったのも事実です。それに、病気のことを話すのはとても勇気がいることです。でも、私は、「企業側に潰瘍性大腸炎のことを理解してもらったうえで、入社して良かった」と感じています。
再入社できたのは「信頼関係」があったから。“依頼されたこと以上の仕事”を心がける
――その後、2017年に入院し、一度退職されていますね。その時の状況について教えていただけますか?
Aさん: 2016年の夏頃から、徐々に症状が悪くなっているのを感じていました。その年の年末に、一度入院する話も出たのですが、症状が落ち着いてきたこともあり、結局入院しませんでした。しかし、その後、症状が悪化してしまい…。会社と相談して、2017年に入院することになりました。
また、同じ頃、ステロイド治療による副作用で、精神的に不安定になるといった精神症状が現れていました。そのため、記憶が少し曖昧なんです。私自身は休職するつもりだったのですが、母には「会社を辞める」と伝えていたそうで…。とても自分で退職届を書けるような状態ではなく、母が代筆して会社に提出し、退職することになりました。
その後、症状が安定し、無事に退院することができたのですが、気持ちが落ち込んでしまった時期もありました。でも、友人と会うなどして気分転換をするように心がけ、結果的に、それが仕事復帰へのモチベーションにつながったと思います。スポーツジムに通って運動を始めるなど、新しいことにも挑戦するように心がけ、少しずつ前向きな気持ちを取り戻していきました。
――大変な状況から、再入社するまでの経緯を教えてください。
Aさん: 症状が落ち着いてきたこともあり、再び働きたいと考えるようになりました。就職活動を始める際に、他の企業に就職することも考えたのですが、安心できる職場だったという印象が強く、「前の会社に戻りたいな…」と思ったんです。実は、入院中も会社の上司と連絡を取っており、上司や同僚がお見舞いに来てくれるなど、良好な関係が続いていました。そのおかげで再入社についても相談することができ、無事に元の職場へ戻ることができました。
再入社した当初は、週2日の勤務から始めました。そこから、徐々に勤務日数を増やしていき、現在は週4日出勤しています。また、1年前にレミケード治療を始めてからは、体調が安定しており、現在は寛解状態です。大好きなジャンクフードも、体調をみながら、たまに食べています(笑)。
――職場の方との信頼関係があってこその再入社ですね。一緒に働いている上司や同僚との信頼関係を築くために、どのようなことを心掛けていますか?
Aさん: 私は、職場の人に「さすがAさん!」と感謝してもらえるような仕事をすることを、常に心掛けています。今の仕事は「営業アシスタント」で、営業さんをサポートすることが主な仕事です。基本的には、営業さんから依頼されたことを中心に仕事をするのですが、中にはその依頼内容に間違いが見つかることもあるんです…。そのような間違いに気付いたときは、しっかり相手に伝えるようにしています。もちろん、伝え方は、とても注意していますよ。相手の間違いは、なかなか言いづらいことではあるのですが、仕事をスムーズに進めるためにも、私は正直に伝えるようにしています。
また、前もって「この内容は、お客様に確認してありますか?」といったフォローをすることで、営業さんから感謝されることもあります。仕事のスピードや正確さはもちろん、「依頼されたこと以上の仕事をするためにはどんな工夫ができるか?」を常に考えていますね。このようなコミュニケーションの積み重ねが、少しずつ信頼関係につながっているのかなと感じています。
IBD患者さんとの交流でプライベートも充実!仕事へのモチベーションにもつながった
――プライベートでは、千葉の患者会「ちばIBD」の運営スタッフとしても活躍されていますよね。どのようなきっかけで活動に参加されるようになったのでしょうか?
Aさん: 参加するようになったきっかけは、症状が悪化していた2018年頃、親戚が「ちばIBD」のことを教えてくれたことからでした。最初は母が入会して、いろいろと相談していたんです。その姿を見て、私も参加を決意しました。ちばIBDに入会するまで、同じIBD患者さんとコミュニケーションを取る機会がほとんどありませんでした。でも、患者会の活動を通して、初めて自分と同じIBD患者さんと話すことができ、「私は1人じゃないんだ」ということを実感できたのが嬉しかったですね。
また、大学受験を控えたIBD患者さんのお子さんを持つ親御さんとお話しをする機会があり、自分の経験を話したんです。「学校に相談し、別室で試験を受けた」という話に、希望を持ってくださったようで、とても嬉しかったです。このときに自分の経験が誰かの役に立つことを知り、そこから、患者さんと関わっていくことに積極的になっていきました。そのこともあって、今は、ちばIBDの運営スタッフとして、多くの患者さんと関わっています。
――IBD患者さんとの交流を通じて、ご自身の中でプラスになったのはどのようなことでしょうか?
Aさん: 自分の知らなかったIBDの情報が入ってくるようになったことは、プラスになったことのひとつだと思いますね。患者さんと関わるようになるまでは、医師から教えてもらう情報だけが頼りでしたから。現在お世話になっている病院も、患者さんから評判の良さを聞いて、通うようになったんです。今では、「もっと早く患者会に参加しておけば良かった!」と思いますね。
また、IBDプラスチャット(※)への参加をきっかけに、さらにIBD患者の友達が増えました。今では、10~40代と幅広い年齢層の患者さんと仲良くなって、一緒に遊びに行ったり、飲み会を開催したりしています。お住まいが遠方の患者さんも、関東に来たタイミングで会っていますよ。友達の輪が一気に広がって嬉しいです!今は体調も安定しているので、旅行も計画したいと思っています。その際に、遠方のIBD患者さんともお会い出来たら嬉しいです。プライベートでの楽しみが増えたことは、仕事へのモチベーションにもつながっていると思うので、それもプラスになったことのひとつですね。
※IBD患者さんがWEB上でのチャットを通じてお話するイベント。2018年にIBDプラス主催で開催しました。IBDプラスチャットの様子は、 コチラの記事をご覧ください!
どんなに辛いことがあっても、くじけずに。“自分に合う働き方“を見つけて
――最後に、病気と仕事の両立に悩んでいるIBD患者さんにメッセージをお願いします。
Aさん: 私は、症状の悪化により、新卒で入社した会社をすぐに辞めなくてはいけなかったり、今の会社も一度退職していたりと、さまざまな経験をしました。だけど、どんなに辛いことがあっても、くじけずに次のステップに挑戦していくことが大切かなと思っています。
でも、無理をして働くことは良くないと思うんです。だから、皆さんには、“自分に合う働き方“を見つけて欲しいですね。無理をして正社員として働くのではなく、例えば、アルバイトや契約社員からスタートして、チャレンジできそうだったら正社員を目指す、ということも出来ると思います。辛いこともあるかもしれませんが、焦らずに、自分に合った働き方を見つけていきましょう。
(取材・執筆:眞田 幸剛)
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