もっと知りたい!初心者でもわかる「CAP療法」のすべて
医師インタビュー | 2022/7/27 更新
2000年よりIBD治療として行われてきたCAP(血球成分除去)療法。しかし、薬を使わない透析のような治療であることは比較的知られているものの、医師に「CAP療法を試してみましょう」と提案され、戸惑う方も少なくないようです。そこで今回、兵庫医科大学 炎症性腸疾患センター 内科・外来医長/助教の横山陽子先生に、CAP療法に対する疑問についてお答えいただきました。
白血球を取り除くことによるデメリットは?治療にかかる時間や通院頻度は?
――血球成分除去療法(cytapheresis:CAP)について、患者さんにはどのような治療だと説明されていますか
「腸管の炎症を起こす白血球を選択的に吸着する治療」と、ご説明しています。血液検査の時に使う両腕の血管に針を入れて、片方の血管から血液を取り出して特殊な血液浄化器(カラム)に血液を通し、反対側の血管に返すというのが一連の治療です。非常に副作用も少なく、安全性の高い治療です。
LCAP/白血球除去療法(商品名:セルソーバ)は販売終了となり、現在は主にGCAP/顆粒球吸着療法(商品名:アダカラム)が使われています。最近では、血球細胞除去用浄化器(商品名:イムノピュア)という、LCAPとGCAPのちょうど中間のようなカラムも新たに承認されました。血球細胞除去用浄化器は顆粒球と単球に加え、血小板も吸着する(LCAPと同じ)ので、今後使用する機会が増えると予想されます。
――GCAPは、白血球の一種「顆粒球」を特殊なビーズで吸着して取り除くそうですが、白血球を取り除くことで、他の病気にかかりやすくなるなどのデメリットはないのでしょうか
おそらく、体内から白血球が無くなってしまう印象を持たれているのだと思いますが、実際は治療開始から15分くらい経つと骨髄臓器から幼弱な白血球が動員されてくるので、体内の白血球がゼロになるということはありません。ですから、「感染しやすくなる」「他の疾患になりやすい」という心配もないと考えます。
――潰瘍性大腸炎とクローン病のどのような患者さんに対して行われますか
CAP療法が登場して20年くらい経ちますが、当初は重症の潰瘍性大腸炎患者さんに使用していました。現在は、潰瘍性大腸炎、クローン病ともに中等症以下で、既存治療に抵抗性のあるような患者さんにも使われています。免疫抑制剤など「免疫を抑える治療」とも併用しやすいという特徴がありますので、そのような治療であまり効果が得らない方などに併用することがよくあります。
最近では、コロナ禍で免疫を抑える治療に抵抗があるという患者さんからCAP療法の相談を受けることも多く、昨年から今年にかけて受ける患者さんの数が増えましたね。これ以外では、高齢の方や、生物学的製剤を使い始めたけど効果がなかなか出てこない方などに併用して使うことが多いです。
――妊娠中の患者さん、小児IBDの患者さん、IBD以外の疾患を抱える患者さんなどでも実施できますか
妊娠中の方では、抗凝固剤の種類を選んだうえで実施したことはあります。胎児が安定していれば多くの場合、問題ないと考えます。小児IBDの場合は、針を刺せるような血管があれば実施できます。最近のお子さんは背も高く体重もあるので、12、13歳くらいから使えることが多いです。糖尿病を併発しているような患者さんでは、ステロイドを使う前に実施して、ステロイドの使用を回避するという使い方もできます。
――治療にかかる期間や1回あたりの所要時間について詳しく教えてください
治療にかかる期間は炎症の強い方だと週に2回通院していただき、合計10回行います。治療が終わるまでに要する期間は、週2回であれば大体1か月、週1回であれば2か月となりますね。所要時間は当院の場合、大体2時間弱くらいです。
――両腕に針を刺すということですが、事前に痛みを取る方法はありますか
当院では、治療を開始する1時間~1時間半前くらいから、針を刺す部分に麻酔のテープを貼っていただいています。それで、ある程度の痛みが緩和されると思います。
――事前に行う検査などはありますか
治療中は一部の血液が体外に出ますので、貧血症状を起こす方がいます。そのため、ヘモグロビンの値を見て貧血の有無や程度をチェックします。また、吸着する白血球が極端に少ない方は治療適応外となりますので、白血球の数も確認します。これらの検査はCAP適応の可能性があると判断した際に、あらかじめ行います。
――CAP療法を受けるために入院が必要となるケースもあるのでしょうか
病院によると思うのですが、基本的には日帰り治療が可能です。お仕事が忙しい方は、透析クリニックなどと連携して、夜間でも実施できる病院を探してみるのも良いと思います。
効きやすい・効きにくいタイプはある?よくある副作用は?
――先生から見て、CAP療法が効きやすい患者さんのタイプというのはありますか
一般的には、病歴があまり長くない方ですね。また、CAP療法はステロイド抵抗性や依存症例に使用することが多いのですが、実際は、あまりステロイドの治療歴が多くない患者さんの方が効きやすいという印象があります。今まで使ってきたステロイドの量を「累積ステロイド量」と言うのですが、累積ステロイド量が多い方はやはり効きにくいですね。また、難治性の素因も少ない方が効きやすいです。あくまで個人差がありますので、病歴が長くてもステロイド治療歴が多くても効果がある場合もありますので、主治医の先生にご相談いただければと思います。
――ステロイド以外の薬がCAP療法の効きやすさに影響することはありますか
私自身、ステロイド以外の影響は感じたことがありませんね。大体どんな治療と組み合わせても「縁の下の力持ち」的な役割を果たしてくれると思います。
――以前効いた人は次も効きやすい、以前効かなかった人は再度やっても意味がないなど、先生の方で印象はありますか
過去に効いた方は次も効きやすいというのはあります。ただし、病歴が長くなってきたり、再燃した時に難治化してしまっているような場合は効きにくくなっている場合があります。反対に、以前は全く効かなかったという人でも、そのときは粘膜の炎症や活動性が非常に強かったけれど今は炎症や活動性が強すぎない場合は、効果が得られる場合もありますね。つまり、効き目がその時の病状に左右されることが多いので、以前効かなかったから、効いたから、ではなく、一度ご相談いただければと思います。
――先生から見て、腹痛や下痢など、特定の症状に効くという印象はありますか
症状に関しては、全体的に効いてくる印象です。腸の炎症がおさまってくれば腹痛や下血もおさまってくるということです。
――よく見られる副作用はありますか
一番多いのは「頭痛」ですね。抗凝固剤の影響ではないかと思います。治療後すぐではなく、治療を終えて1~2時間くらい経ってから症状を訴える方が多いですね。これに対しては、抗凝固剤の影響を少なくするために、生理食塩水の点滴をしながら行うこともあります。この場合、三方活栓というものを使用し、チューブの横から生理食塩水を入れるので、新たな針を刺すことはありません。
――通常では適応となる患者さんでも実施できないケースはありますか
針が太いため、血管が細い人には実施できません。ただし、片腕のみしっかりした血管がある場合は、片腕のみで行えることがあります。貧血に関しては、鉄剤や輸血で改善できれば治療可能です。通院頻度に関しては私たちではどうすることもできませんので、会社にご相談いただくか、夜間も開いている透析クリニックと連携しているなど、ライフスタイルに合わせた治療が実現しやすい病院を探すのがよいと思います。
――治療頻度を少なくすることは可能ですか
基本的に効果がゆっくり出てくる治療なので、3~5回目くらいから効果が出てくるケースが多いです。そのため、最低でも週に1回は治療を受けていただくのが良いと考えます。
――表面的な効果が見られない場合でも何かの指標で判断し、続ける場合はありますか。反対に、効果が認められないと判断し、他の治療に切り替える判断基準はありますか
治療前に血液検査をして、CRPなどを指標にしています。ただ、CRP が上がらない方もいるので、そのような場合は症状で判断しますね。しかし、臨床的な効果は続けないとわからないので3~5回くらいは続けていただいて、それでも明らかに症状が改善されない場合は他の治療に変更することが多いですね。
治療中・治療後の過ごし方や気を付けるべきことは?
――CAP療法が他のIBD治療と大きく異なる点があれば教えてください
非薬物治療なので、やはり安全性の高さがあげられると思います。また、どんな治療とも併用できるという点も大きなメリットですね。一方、他の治療に比べると来院頻度が多い、拘束時間が長いという点は、デメリットとも言えますね。
――治療中はみなさんどうされているのでしょうか
当院では看護師さんと臨床検査技師さんが付き添います。ゆっくり休まれる方もいらっしゃいますが、治療や日常の悩みを相談したり、「よくなったらこれが食べたい!旅行にも行きたい!」など、楽しい話で盛り上がることもあります。治療の時間がストレスのはけ口になったら嬉しいですし、家族構成、仕事内容、日常生活などを知ることで、もしCAP療法が効かなかったらどんな治療をするか検討する際にも、とても役立ちます。そういう意味でも、とても大切な時間と考えています。
――CAP療法を受けている間、日常生活で気を付けるべきことがあれば教えてください
治療後に頭痛や倦怠感を訴える方がいますので、副作用と思われる症状が出た場合は、すぐに連絡していただくようお伝えしています。また、過去にCAP療法の経験がある方に関しては、事前アンケートで過去の副作用症状や、不安なことなどをお聞きしてから治療しています。過去の情報が事前にわかっていれば私たちも心構えができますので、そのような対応をしています。
――IBD以外の治療薬を使っている患者さんに対しては、どのように対応されていますか
主治医の先生に事前に確認することもありますし、事前アンケートで「IBD以外の持病はあるか」「高血圧の薬や血液をサラサラにするような薬を服用していないか」などを確認しています。それをもとに、治療時に留置した針の抜針後の止血時間の調整などをしています。
――新型コロナワクチンを打つ前の実施が良い、どのくらい間隔を空けたほうがよいなど、コロナ禍での注意点はありますか
最近はワクチン接種を受けている患者さんも増えてきました。個人的には数日空いていればよいと考えます。データがないので確かなことは言えませんが、最低2~3日空ければおそらく問題ないという印象です。また、最近では生物学的製剤などを、自己注射をされている方もいますが、同じくらい空けていただくのがよいと考えます。
――その他、CAP療法に関することで先生から患者さんにお伝えしたいことがあれば、お願いします
CAP療法は、「現在の治療をもう少し続けたい」「効果をじっくり見ていきたい」という場合のサポート的役割も果たしてくれます。臨床的に中等症以下で、免疫を抑制する治療に抵抗があるという方にも効果が期待できると思いますので、時間が許すのであれば、治療選択肢の1つとして考えてみてもよいのではないかと思います。
――最後に、IBD患者さんたちに向けて、メッセージをお願いいたします
IBDは、まだ完治する病気ではないので、今のところ一生付き合っていく必要があります。ですが、みなさんには男性として、女性としての幸せをしっかり掴んでいただきたいと考えています。おなかの治療に関しては私たちに任せていただき、不安やつらいことがあれば何でも相談してください。IBDのせいで幸せになれないとか、普通の生活ができないとか、夢をあきらめなければならないとか、そんな思いは絶対にして欲しくないですし、夢や希望を叶えるためのお手伝いができればと思っています。みなさん頑張っていきましょう!
(IBDプラス編集部)
2001年 同大第4内科・臨床研修医
2002年 石田温泉病院 内科
2003年 南大阪病院 内科
2004年 兵庫医科大学 下部消化管科・非常勤医師
2007年 野村海浜病院 内科
2008年 兵庫医科大学 下部消化管科・助教
2014年 同大炎症性腸疾患学講座 内科部門・助教
2021年 同大炎症性腸疾患センター 内科・外来医長/助教
〈資格・所属学会〉
日本内科学会
日本消化器病学会
日本消化器内視鏡学会
日本炎症性腸疾患学会(JSIBD)
アジア炎症性腸疾患機構(AOCC)
日本アフェレシス学会 評議員
日本大腸肛門病学会
日本消化管学会
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