悩んでいるのは患者さんだけじゃない!「IBD患者家族」のためのQ&A
医師インタビュー | 2023/5/22
医学の進歩で寛解導入できる患者さんが増えたIBDですが、根治療法は無いため粘り強く治療を続けていくことが大切です。患者さんの中には、一番の理解者である「家族」がいてくれるからこそ頑張れるという人も多いのでは?そこで今回は、日々頑張っているご家族のみなさんを少しでもサポートできるよう、IBD教室も開催している富山県立中央病院 消化器内科の松田耕一郎先生にお話を伺いました。
もくじ
本当の病状は症状だけじゃわからない。食事は「制限し過ぎ」に注意!
――IBDの確定診断を受けた時、家族が患者さんをサポートする上での心構えを教えてください
突然「難病」と告げられ、IBDに怖いイメージを持っているご家族も多いかもしれませんが、適切な治療を続ければある程度まで良くなるので、あまり心配し過ぎないようにしてください。
IBDでは多くの場合、食事療法が必要になってきますが、親御さんが心配し過ぎるあまり、食事療法をやり過ぎてしまうケースが多くみられます。そうなってしまうと家族の負担になるだけでなく、患者さん自身も食べる楽しみが見出せなくなってしまいます。特に潰瘍性大腸炎は寛解期に入ってしまえば刺激物以外、そこまで制限する必要はありませんので、神経質になりすぎないようにとお伝えしています。
一方で、寛解状態でも、症状がなく内視鏡で見ても粘膜治癒している「内視鏡的寛解」と、症状は治まっているけれど内視鏡で見ると炎症が残っている「臨床的寛解」とでは状況が全く異なります。患者さんの症状が無くなったから寛解と判断するのではなく、医師に腸の状態も含め、今どのような状態なのかをきちんと確認するようにしましょう。
専門医ではない先生に診てもらっている場合の注意点は? 病院選びのコツも伝授!
――IBD専門医ではない医師に診てもらっている場合の注意点を教えてください
専門医ではなくてもIBDをきちんと診ることができる先生はたくさんいます。ですから、現在の治療が上手くいっていて信頼関係もできているのであれば、その先生のもとで治療を続けていくのが良いと思います。
ただし、症状の度合いに関わらずステロイド治療が長期間続いているような場合や、すでにステロイド依存・抵抗性になってしまっているような人は、他の病院も検討することをお勧めします。
――良い病院を見分ける目安のようなものはありますか
前提として、重症の患者さんや高度な治療を要する患者さんは、大学病院を紹介してもらいましょう。そこまで重症ではなく、飲み薬のみで落ち着いているのでクリニックが良いという場合は、必ずクリニックのホームページを見るようにしてください。
まず、その先生にIBDの治療経験があるか確認しましょう。多くの場合、「潰瘍性大腸炎の診療を多く手掛けている」「クローン病〇例、潰瘍性大腸炎〇例」など、具体的に紹介されていると思います。後は、「消化器病学会専門医」なのか、大学病院など「高次医療機関と連携しているか」という点もチェックしましょう。
中にはIBDの治療経験が無いのに他院に紹介せず、よくわからないまま治療を続けてしまって、患者さんが深刻なステロイド依存になってから紹介されてくるようなケースもあります。そのような事態を避けるためにも、病院選びには、ご家族も積極的に関わるようにしてください。
――転院後、初診の際に持って行った方が良いものはありますか
紹介状があることが望ましいですが、難しい場合は「おくすり手帳」と「血液検査の結果」などを持ってきていただけると、大体のことが把握できると思います。
本人の「自立」のためには見守ることも大切。SNSも活用して視野を広げて
――家族が医師とコミュニケーションを取る際の注意点を教えてください
小児医療のうちは親御さんが医師に病状を伝えるので問題ありませんが、移行期(小児医療から成人医療に切り替わる時期)が終わってから先は、患者さん自身でIBDについて学び、医師に体調の変化や治療の希望などを伝えられるようになっていただきたいですね。
しかし、親御さんが成人している患者さんに付き添って、1から10まで説明するようなケースも少なくありません。高校生になっても家族が全部説明しているような場合は、僕から直接注意することもあります。また最近は、製薬メーカーなどがIBDの冊子や体調管理のアプリを出していますので、それを患者さんに渡して(インストールしてもらって)、自分で記録する習慣をつけてもらうようにしています。
親御さんの思いが強すぎて、治療の方向性が変わってしまうこともあります。それを患者さん自身は望んでいなかったりします。やはり医師としては患者さん本人の気持ちを大切にしたいですし、そのためにも本人と直接話したいのです。何もハイレベルなことは求めていません。高校生になったらどこの病院に行っても、自分の病気と症状をきちんと説明できるようになっておいていただければ十分ですし、ご家族も少しずつ促していただけたら幸いです。
――ただ、身近にIBD患者さんがいないと、なかなか自分で「やり過ぎ」に気付くのは難しいですよね
そうなんです。他のIBD患者さんを知らず「これが普通」と思い込んでしまっているケースは多いですね。僕たちの病院では定期的に「IBD教室」を開いて、そのような患者さん家族の「気付き」の場を作っています。他のIBD患者さん家族と顔見知りになると、自然と情報交換をするようになっていきます。そうすると「食事制限し過ぎかも」「運動部に入れても大丈夫かも」など、大切なことに気付き、少しずつ考え方が柔軟になっていくんです。
そのような機会がないという方は、SNSを活用しましょう。IBD患者さんの投稿を見ていると、何でも好きなものを食べている人もいれば、毎食きっちり管理している人、外食を楽しんでいる人など、本当にさまざまです。どれが正解ということではなく、「同じIBDでもいろいろな考えの人がいる」ということに気付き、いくつもの対処法があることを知って欲しいのです。
みなさんから寄せられたお悩みに松田先生が回答!
――栄養指導がない病院の場合、食事はどのようにすれば良いのでしょうか
IBDプラスや製薬メーカーのサイトには、IBD患者さん向けのレシピや栄養に関する情報が多数紹介されているので、それらを見たり作ってみたりして勉強していくのが良いのでしょう。
ただ、個人のブログで紹介されているレシピや栄養や食事に関する情報は主観的なものが多く、「その人に合っていた」というだけのものです。それがあたかも全てのIBD患者さんに合うかのように書かれていることも多いので、注意が必要です。
――食事以外でもっと家族がサポートすべきと感じることがあれば教えてください
「規則正しい生活を送る」「ストレスをなるべく減らす」といった基本的なことが意外と見落とされているように感じます。例えば、夜にゲームをする習慣がついていて睡眠時間が短くなっているのであればやめさせる、学校にどうしても行きたくないと言った時は無理させずに休ませるなど。後は、できるだけ患者さんのやりたいことは自由にやらせて、家族はそのサポートをするというスタンスでいるのが良いと思います。
――再燃時、どのような対応をしたら良いでしょうか
再燃のことを思うと、患者さんもご家族も不安ですよね。「再燃かな?」と思った時に、いかに早く受診行動に移せるかというのが重要です。非専門医に診てもらっているのであればなおさら早い方が、高次医療機関に紹介するなど次の手段を考えることができます。
専門医に診てもらっている方は、具合が悪くなったら5-ASA製剤を倍量にする、食事を経腸栄養剤に置き換える、注腸剤を多めに使うなど、前もって「応急処置」のアドバイスを受けていることも多いと思うので、次の通院日まではそれに従いましょう。
――再燃する前に気付くのは難しいのでしょうか
ほとんどの患者さんに「再燃のサイン」があると思いますが、「腹痛はないけど発熱する」「おしりが痛くなってくる」など、わかりにくいものもあります。この再燃のサインに気付けるようになると、早期に受診でき、悪化を最小限に留めることができると思います。大体はご自身でわかるようになりますが、患者さんがまだ幼い場合は、親御さんが日々の体調を簡単に記録しておくと、いざという時に気付けると思います。
――患者さん本人が漢方やサプリメントを試したいと言った場合、どうしたら良いですか
それが良いものか悪いものかは別として、自主性が育ってきたと素直に喜びましょう(笑)。病気に向き合っているからこそ、そういうものに興味を持つのです。ご家族は全否定するのではなく「主治医の先生に相談してみたら?」とやんわり伝えてみてはいかがでしょうか。医師も意見を求められれば成分などを確認して「これはちょっとやめておいた方がいいと思う」など、きちんと答えてくれると思います。
――学校生活をスムーズに送るために、どのように病気の説明をしたら良いのでしょうか
学校に製薬メーカー各社が作っている説明用の冊子を渡すのが一番早いと思いますので、主治医の先生に聞いてみてください。無い場合は、IBDの説明が書かれているネットの記事を見せるのでも十分です。伝える際は病名や症状だけでなく、「トイレに近い席にして欲しい」など、配慮して欲しいことを具体的に伝えましょう。
IBDは見た目でわからないため大変さが伝わりにくいのか、すぐにフォローしてくれる先生もいれば、トイレの配慮さえしてくれない先生もいます。何度伝えても担任の理解が得られない場合は学年主任に直接伝える、それでもダメなら診断書を持って校長に説明するなど、徐々に上に伝えていくのが良いでしょう。最終的には教育委員会ですね。このようなトラブルを聞くたびに、世間にもっとIBDという病気の認知・理解が広まって欲しいと感じます。
――採用面接で病気の名前を伏せて伝えることは問題ないでしょうか。病気で働いていない期間があるのですが…
無理して病名を明かす必要はないですし、聞かれても答えたくなければ答えなくて良いと個人的には思います。それでも働いていなかった理由を答えないことで不採用になってしまうというのであれば「病気で休んでいました」程度に伝えれば十分だと考えます。昔に比べ、企業もデリケートな部分を突っ込んで聞いたりするようなことは減っているようです。
「見守る」姿勢を大切に、医療スタッフに相談しながら気長にサポートを
――最後に、IBD患者さんとご家族にメッセージをお願いいたします
患者さんには「心が折れそうになっても、粘り強く治療を続けていれば絶対にいつか光が見えてくるから諦めないで」と、繰り返し伝えています。とにかく病院は変えても良いので、治療は絶対にやめないで欲しいですね。
「この先どうなってしまうのか」というご家族の心配はとても良くわかります。ですが、患者さんと一緒に不安がるばかりではなく、できるだけ大らかな気持ちで、本人の自主性が育つよう「見守る」という姿勢を大切に、気長にサポートしていっていただければと思います。僕たちも一緒にサポートしていきたいと思っていますので、何か困ったことがあればいつでもご相談ください!(IBDプラス編集部)
1997年4月 金沢大学医学部第一内科入局、同大附属病院第一内科
1998年4月 石川済生会金沢病院 消化器内科
1999年4月 富山市民病院 内科
2000年4月 富山県立中央病院 内科
2001年4月 砺波総合病院 内科
2002年4月 黒部市民病院 内科、胃腸科
2003年4月 福井県済生会病院 内科
2004年4月 金沢医療センター 内科
2006年4月~ 富山県立中央病院 内科(消化器)
〈資格・所属学会〉
日本内科学会(認定医・総合内科専門医)
日本消化器病学会(専門医・地方会評議員)
日本消化器内視鏡学会(専門医・指導医・地方会評議員・本部評議員)
消化器内視鏡学会雑誌(和文誌)査読委員
日本肝臓学会(専門医)
日本胆道学会
日本膵臓学会
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