あなたはどう考える?IBDの「早期発見・治療」についてIBD専門医に聞いた

医師インタビュー2023/6/26

  • Twitterでつぶやく
  • いいね!
  • LINEで送る
  • URLをコピー URL
    copied

みなさんはIBDと診断がつくまでにどのくらいかかりましたか?IBDプラスは、IBDの疑いがあるという人にもご利用いただいています。また、診断までに何年もかかったという患者さんたちからは「もっと早く診断がついていれば…」との声も聞かれます。そこで今回は、IBDの早期発見・治療のためにはどうすればいいのかという、いつもとはちょっと違ったテーマについて、東京医科歯科大学病院 臨床試験管理センターの長堀正和先生にお答えいただきました。

確定診断までに時間がかかってしまうのはなぜ?他の病気と間違われる可能性は?

――IBDで確定診断までに何年もかかるケースがありますが、その理由は何でしょうか

前提として、IBDの診断をするためには病院を受診してもらう必要があります。症状が強い場合はつらくてすぐに受診すると思いますが、軽い症状だと、なかなか受診に至らないというのが一つの大きな原因になっていると思います。特にクローン病では、病院に来る何年も前から症状があったという人も、決してまれではありません。

IBDでは、腸の内視鏡検査が診断の決め手となりますが、日本は他の国と比べて特に内視鏡検査へのアクセスが良い国なので、受診さえすれば、かなりの確率で診断がつくと思います。

――先生ご自身がIBDの診療に携わり始めの頃と比べると、診断はつきやすくなったのでしょうか

僕が研修医だった頃は、特にクローン病の患者さんは少なかったですし、IBDを正確に診断することができる医師も限られていました。今は、患者数も増え、医師がIBD患者さんを診る機会が多くなって、診断もかなりつきやすくなったと思います。一方で、どうしても患者さんは専門施設に集中しやすいので、なかなかIBD患者さんを診療する経験が積めない若い先生は、依然としていると思います。それでも昔に比べると、かなり状況は変わってきたと感じます。

――潰瘍性大腸炎とクローン病で診断や治療の難しさに違いはありますか

潰瘍性大腸炎は重症になると入院や手術になりやすいですし、クローン病は小腸病変が多く、小腸は検査や解剖学的な評価が難しいので、どちらが簡単というのはありません。ただ、潰瘍性大腸炎に比べてクローン病はかなりの確率で手術になるので、そういう意味では、どのタイミングで外科治療に踏み切るかなど、判断が難しい部分はあると思います。

――誤診されている患者さんも多いのでしょうか。また、どのような病気と間違われやすいとお考えですか

誤診という言葉は適切ではないかもしれませんが、例えば、おなかの調子が悪くて近医を受診したら「過敏性腸症候群(IBS)」など、IBDとは別の病気と診断される可能性はあるでしょう。特にIBSは少なくとも成人の10人に1人が罹患していると言われているので、当然最初はIBSと疑われることの方が多いかと思います。

しかし、その後しばらく治療を続けても良くならない場合などで、IBDの可能性を疑われて内視鏡検査まで行くのかというところが重要で、そこまで至らず診断が遅れるというケースはあると思います。

――IBSと診断された場合にIBSの治療薬がある程度効いてしまって診断が遅れるようなこともありますか

それはないと思います。ただ、IBDという病気自体が良くなったり悪くなったりを繰り返す傾向にあります。特にクローン病は、必ずしも強い症状があるとは限らないので、受診のタイミングが遅れ、結果として診断も遅れるという可能性はあると思います。

肛門に異常が…。内科ではなく肛門科を受診するのは早期発見につながる可能性が高い

――最初に気付いたのが肛門病変で、内科ではなく肛門科を受診したという患者さんも多いようですが、通常の痔とIBDに関連する痔の違いがあれば教えてください

一般的に言われる「痔」というのは、「痔核」のことだと思います。しかし、IBDに合併するのは「痔瘻」なので、病態が異なります。また、肛門科の先生の多くはクローン病に対する意識が高いと思いますので、肛門の病気の治療をしばらくしても良くならないような場合では、当然クローン病が疑われると思います。なので、個人的には最初に肛門科を受診した患者さんは、比較的早く診断がついている印象があります。

――施設の規模に関わらず、肛門科の先生であれば比較的早くにクローン病だと診断できるということでしょうか

大学病院が良くてクリニックはダメということは決してありません。大学病院の若い外科の先生などは、クローン病を診たことがないという人もたくさんいます。ですから、施設の規模にかかわらず、しっかりとした肛門科を受診することが早期発見に至る重要ポイントだと思います。

早期発見されやすい患者さんの特徴は?無症状でも治療はするの?

――早期発見されやすい患者さんの特徴はありますか

発病前の発見という意味で唯一言えるのは「大腸がん検診」で発見されるケースですね。微細な炎症で発見されることもあります。ただ、そのような人に大腸内視鏡検査をして診断がついたとしても、症状が出てから診断がつく通常の患者さんと本当に同じ病気なのかという疑問はあります。もちろん、経過観察中に発病した(症状が出た)場合は通常と同じように治療を行いますが、検診で診断がついたけれど、その後何年も無症状という方もおられます。「症状が何もない人を治療対象とするのか?」という問題に対する答えは、いまだ出ていません。

 

これ以外では、数は少ないですが、家族や身近にIBD患者さんがいる人が、自分もそうではないかと心配して受診するケースがあります。そのような場合、まれにIBDと診断されてもほとんど症状がなかったりするので、治療をどうすれば良いか悩むことがあります。「早期発見は可能なケースもあるが、発見した後どうするのか?」というのが現状の大きな課題だと感じます。

――無症状の人に対しては、一般的にどのような対処が行われるのでしょうか

これは医師によって異なると思います。検診で診断がついたら例え症状が出ていなくても、通常の患者さんと同じように治療を行う医師は少なくありません。僕自身は、無症状の患者さんに対しては多くの場合、経過観察としています。これもケースバイケースで「何か症状が出たら来てください」と言う場合もあれば、「半年後などにもう一度受診してください」と言う場合もあります。

どの対応が正しいのかはまだわかりませんが、僕が見ている限りでは、無症状の人は必ずしも発病はしないという印象です。

――早期発見・治療で課題になっていることは何だとお考えですか

無症状のIBD患者さんを診断する意義はまだ明確ではありませんが、症状が出ているのに診断がなかなかつかないということには大きな問題を感じています。この問題解決には一般の人や医療者へのIBDの啓発がもっと必要だと考えます。がんや糖尿病を知らない人はいませんよね。同じように、IBDという病気を誰もが知るようになれば、腹痛や下痢が長引いた時などに「IBDかもしれない」と疑えるようになりますし、「IBDかもしれないから病院に行った方がいいよ」と背中を押してくれる人が周りに出てくるだけでも大分違うと思います。まずは受診行動を促すためにも、チャットボットなどで簡単にIBDの可能性をチェックできるようなものがあるといいかもしれませんね。

同時に、医師側の教育制度(専門医制度)の見直しも必要だと感じます。IBDの専門医になろうとした場合、内視鏡検査の技術を身につけることはできても、研修施設によっては、IBD診療について学ぶ機会が乏しいこともあります。

――一般の人が「これはIBDかもしれない」と疑うべき症状があれば教えてください

基本的には便通異常、出血、下痢ですね。ただ、IBDで起こる下痢だからといって必ずしもひどい症状とは言い切れないので、普通の下痢と見分けるのは正直難しいと思います。また、IBDはおなかの症状だけでなく、体重減少や微熱など、さまざまな全身症状が出ます。そのようなことは一般の人にほとんど知られていないので、チェックリストのようなものが有用かもしれません。

確定診断後に「症状が軽いから」と放置した場合のリスクは?

――IBDと診断された、あるいは可能性があると言われたにもかかわらず「そこまでひどくないから」と放置した場合に起こり得るリスクについて教えてください

特にクローン病は、症状が強くなくても病状が進行しているケースがあります。その状態で放置してしまうと、腸閉塞などで緊急手術となります。これは、潰瘍性大腸炎で放置して重症になった場合も同じです。緊急の手術は患者さんにとって大きな負担になるのはもちろん、合併症などのリスクも高まります。おかしいと感じたら早めに受診して欲しいと思います。

――寛解して症状がほぼなくなっても、一度診断されたら治療は続けるべきでしょうか

一般的に、クローン病は症状の有無に関わらず進行すると考えられますので、治療を続けてください。潰瘍性大腸炎は一時的に休薬するケースがないとは言えませんが、いつ再発するかわかりませんし、基本的には病状が進行すると考えられますので、適切な治療を継続するのが良いと考えます。

一方で、治療を自己判断でやめてしまう患者さんが一定数いるのは事実です。そのことに対して患者さんに厳しく意見する医師を見かけますが、「IBDは、症状が落ち着いても決して治ったわけではなく、適切な治療を続けなければならない」というメッセージがきちんと伝わっていなかったとも言えます。そういう意味では医療者側の責任も一部あると思いますし、医師と患者さんとのコミュニケーションがいかに大切か痛感させられますね。

安全で有効な治療法はいくつもある。診断がついたら怖がらずに治療に臨んで

――IBD患者さんにメッセージをお願いいたします

IBDの早期診断・治療はまだまだ難しいのが現状です。一方、治療の進歩は著しく、多くの場合は内科治療で良くなります。しかし、診断がついても副作用などを心配して治療を怖がるケースも少なくありません。治療選択肢は一つではないですし、昔に比べて有効で安全な治療が増えてきていますので、どうか怖がらずに治療に臨んでいただければと思います。

(IBDプラス編集部)

長堀先生
東京医科歯科大学病院 臨床試験管理センター 准教授
長堀正和先生
1992年 東京医科歯科大学医学部卒業
2003~2004年 マサチューセッツ総合病院 Crohn’s and Colitis Centerフェロー
2010年 東京医科歯科大学大学院 博士課程終了
2018年~ 東京医科歯科大学病院 臨床試験管理センター 准教授
2019年~ 同上 副センター長

この記事が役立つと思ったら、
みんなに教えよう!

会員限定の情報が手に入る、IBDプラスの会員になりませんか?

IBDプラス会員になるとこんな特典があります!

会員登録

  • 1. 最新のニュースやお得な情報が届く
  • 2. 会員限定記事が読める
  • 3. アンケート結果ダウンロード版がもらえる

新規会員登録(無料)

閉じる
レシピ特集
レシピ特集をみる