潰瘍性大腸炎のIBD専門医が患者目線で回答!「病気のコミュニケーション」の心得

医師インタビュー2023/8/14 更新

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「結局のところ、病気のカミングアウトはした方がいいの?」「医師とのコミュニケーションが苦手で、どこまで伝えたらいいのかわからない」など、IBDプラス編集部に寄せられた数々の声。患者さんのことは患者さんが、医師のことは医師が一番よく知っているはず…ということで今回は、IBD専門医であり潰瘍性大腸炎患者さんでもある北海道大学病院 消化器内科IBDグループの桂田武彦先生にお答えいただきました。

IBDが「治らない病気」であることを理解していない人は多い

――先生は、9歳で潰瘍性大腸炎を発症されたそうですね

はい。当時はIBDを知っている人なんて全然いなかったですし、僕自身もまだよくわかっていなかったので、親は大変だったと思います。当時、病院から牛乳が禁止されていたので、学校に「代わりの飲み物を持たせたい」と伝えたけどダメだと言われたそうです。当時の給食はパンの日が多くて、しかもパサパサのコッペパンだったので、飲み物がないと食べるのがすごく大変だったことを覚えています。しかも、牛乳はもったいないので毎日持ち帰っていましたが、たまにランドセルの中で三角パックが破れて、大変なことになりました。

幸い、中学・高校はほとんど症状が無く、次に再燃したのは北海道大学の医学生になってからでした。その時はもう周囲が医学生と医療者ばかりだったので、病気の理解で苦労することはありませんでした。研修医のいろいろな処置の練習台にされましたけどね(笑)。

――患者さんから病気のカミングアウトについて意見を求められた際、どのように回答されていますか

IBDの有名人のカミングアウトなどで認知度が上がってきたこともありますが、「積極的に公開した方が、後々楽かも」とアドバイスすることが多いです。やはり、病気のことを隠したり、きちんと伝えていなかったことでご自身が困ってしまうケースがよく見受けられます。反対に、知ってもらうことで前に進むことも多いと感じています。

――「IBDという病気についてきちんと伝わっていなかった」ことで起こる問題について詳しく教えてください

「病気は治療すれば治る」と思っている人は非常に多い です。上司から「入院してしっかり治して来いよ」と言われて困ったなどという話は本当によく耳にします。ですから、IBDが「治らない病気」であるということは、特にきちんと伝えておくべきだと考えます。

――お子さんの病気について悩まれているご両親には、どのようにアドバイスされていますか

「今は調子が悪いのでしっかり治療する必要があるけれど、IBDで活躍している有名人もたくさんいるので心配はいりません」とお伝えしています。また、特にお母さんは子どもの病気を気にして背負いこんでしまうケースが多いので「お子さんが病気になったのは、あなたのせいではありません」とも伝えるようにしています。

それと、病歴が長かったりすると病気についてとても詳しい方が多いため、学校や職場に病気の説明をした際に、相手が自分と同じように理解したと思い込んでしまうことがあります。しかし、実際には全く理解してもらえていなかったりします。ですから、病気について詳しく説明するよりも「健康な人と異なる点と、そのために必要となる配慮」について、端的に伝えるのが良いと思います。あわせて、「治らない病気で定期的な通院が必要。それでも悪くなることがある」ということを忘れずに伝えてください。

毎回聞かれる質問と、自身のスケジュールはすぐに答えられるよう準備を

――先生がIBD患者さんとコミュニケーションを取る際に心がけていることがあれば教えてください

病状のことばかり聞いてしまいがちですが、生活全般に広げて「困っていることはないですか?」と聞くように意識しています。最近急に「便意切迫感」を評価するのが重要だと言われ始めましたが、患者の僕からすると、何を今さらと感じる部分もあります。病勢を抑え、粘膜治癒を目指すことは重要ですが、検査データが良くなって粘膜治癒に至れば治療目標達成かというと、少し違うように思います。例えば、粘膜治癒しても便意切迫感で外出がままならないのであれば、患者さんのQOLは低下したままです。いくら医師に良くなっていると言われても、症状が残っていて良くなったとは感じていない患者さんがいるのです。IBDという病気だけではなく「その人全体」を見るようにすれば、このようなすれ違いが減っていくのではないかと思い、いろいろ聞くようにしています。

――IBD患者さんとのコミュニケーションで大変だと感じるのはどんなことですか

体重や症状など毎回同じことを聞いているのに、答えるのにものすごく時間がかかる人がいます。今は体調を記録する便利なアプリなどもありますが、やり取りが無機質になってしまう気がして使っていません…。話すのが苦手な患者さんだと、アプリを見て「わかりました。他に何か困っていることはありますか?」と聞いても、言い出せずに「大丈夫です」と答えてしまう人も多いんじゃないかと思います。やはり、直接言葉を交わす方が理解し合える気がしますし、より良い治療に結び付くんじゃないかと。だからこそ、体重やトイレの回数はパッと答えられるようにしていただきたいですね(笑)。

あとは、ご自身のスケジュールは把握しておいて欲しいです。次の診察日を決める際に「手帳を忘れたからわからない」と言われると、非常に困ってしまいます。他にも試験や夏休みの日程が答えられないとか、「明日からしばらく留学するので英語の診断書を書いてください」と、いきなり言われたこともあります。

――診察日が決められないというのもありますが、イベントの予定が前もってわかっていれば、その日に向けて治療計画も立てやすいですよね

そうなんです。例えば、体調があまり良くない人に受験の前だけ治療を強めたりすることもできます。そういうことを共有せず、いつも通りの治療をしていたせいで、一生を棒に振ってしまう可能性もあるわけです。遠方への転勤・転居なども早めに教えていただければ、知り合いの医師のいる病院に紹介状をあらかじめ準備しておくことが可能です。

プレッシャーやストレスで悪化したら諦めるのではなく「入院」も一つの手段

――体調以外でもっと患者さんから積極的に教えて欲しいと感じることはありますか

仕事や学業面でのプレッシャーや家庭不和などのストレスは病勢に影響を与えがちなので、相談していただけると助かります。

僕自身は、程度や終わりがわからない「未知のことに対するプレッシャー」で再燃しやすいです。学生時代に入院したのは、試験週間と競技スキー部のシーズン前の練習が重なった時でした。スキー部の練習で地下1階~地上6階までの階段を100本くらい走らされて、さらに7教科ある試験勉強もしなければならず、身も心もボロボロでした。その後、研修医で循環器科に行った時にも再燃しました。先に行った同級生からそんなに忙しくないと聞いていたのですが、僕が赴任した時から救急のホットラインが引かれて、心筋梗塞の患者さんがバンバン運ばれてくるようになったんです。この時も3週間くらいで体調を崩してしまいました。いつ帰っていいのかわからず、心筋梗塞はいつ急変するかわからないので、常に緊張状態でした。どちらの再燃も、初めての経験によるプレッシャーがかかっていた時でしたね。

よくストレスで再燃すると言いますが、例えハードでも、先が予測できると意外と大丈夫だったりするんですよね。反対に、治療を変えても根本の原因を取り除かないと良くならないこともあります。でも、無理してでも頑張りたいことってありますよね。そういう時は一度入院していただくことが多いですね。入院して目の前のことから離れるだけで良くなる人も意外と多いんです。

――医師とのコミュニケーションが苦手な患者さんへアドバイスがあれば教えてください

体重(クローン病では体重減少の有無も)、発熱、腹痛、便の回数、血便の有無、合併症の有無が言えれば問題ないと思います。医師がイライラしていると「自分のせいではないか」と感じる人がいるかもしれませんが、これはほとんどの場合、忙しいだけです(笑)。ですから、コミュニケーションに関しては無理に頑張ろうとしなくて良いと思います。言葉にするのが難しければメモでもしておいて渡してくれるだけでも構いません。口ベタでも、診察時間に多少遅れて来てもいいので、治療だけは続けるようにしてください。

SNSで情報収集する際は、医療機関ごとに治療方針が異なることを念頭に置いて

――患者会など、患者交流の場に参加されたことはありますか

患者として参加した経験はないのですが、新型コロナが流行する前まで年に1回「IBD教室」を開催し、新しい治療の情報を提供したり、患者さん同士のグループディスカッションを行ったりしていました。大腸内視鏡検査の前処置の薬にいろいろな種類があると聞いて驚いている人がいたりして、とても良い情報共有の場になっていたと思います。

――SNSなど患者コミュニティの参加ついては、どのようにお考えですか

情報共有の場としては良いと思います。経験者が語っているので、病院などから得られる情報よりも現実味があったり、場合によっては早かったりします。一方で、医療機関ごとに治療方針は異なっていることもあるので、必ずしも全員に当てはまる情報ではないことは認識すべきだと考えます。僕も参加させていただいているIBD研究の国家プロジェクト「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」のホームページにある情報は確かなので、ぜひ活用していただければと思います。

「IBDになったからこそつながった縁もある」と前向きに捉えて

――IBD患者さんへのメッセージをお願いいたします

「運悪く病気になってしまった」と思っている人もたくさんいるかもしれませんが、病気になったからこそつながった縁もあるはずだと、少しでも前向きでいて欲しいです。僕も潰瘍性大腸炎になったからこそ今があると思っていますし、ラッキーだったと思っています。病気だからと諦めることなくチャレンジしてください。そして将来、「自分はIBDになって、本当に恵まれた」と感じていただけたらうれしいです。

(IBDプラス編集部)

桂田先生
北海道大学病院 消化器内科IBDグループ
桂田武彦先生
1999年3月 北海道大学医学部医学科卒業
1999年6月 北海道大学医学部附属病院 内科ローテート
2000年4月 苫小牧王子総合病院 内科研修医
2000年10月 北海道社会保険病院循環器内科 研修医
2001年4月 市立稚内病院内科 医師
2002年4月 札幌北楡病院消化器内科 医師
2008年4月 北海道大学第三内科助教
2012年4月 北海道大学病院・消化器内科・助教(科名変更)
2014年10月 北海道大学病院・光学医療診療部・助教

〈資格・所属学会〉
医学博士
日本内科学会
日本消化器病学会
日本消化器内視鏡学会
日本消化管学会
日本病態栄養学会
日本炎症性腸疾患学会
日本小腸学会
厚生労働省科学研究費難治性疾患政策研究事業 難治性炎症性腸管障害に関する調査研究 研究協力者

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