治療を変えるか?治験か?最終的に「治験」を選んだ3つの理由
IBDの治験体験談 | 2022/7/13 更新
※写真はイメージです
ステロイド治療でも寛解に至らず、医師が「生物学的製剤」か「治験参加」を提案
20代の頃、血便が出て大腸内視鏡検査を受けた際に「クローン病の疑い」と言われました。リウマチ因子も高いと診断されたので、炎症が起こりやすい体質なのかもしれません。30代になり、会社の健康診断の便潜血検査で毎回「要検査」だったのですが、初めての大腸内視鏡検査が麻酔無しだったため、その時の痛みが忘れられず、もう受けたくないという気持ちが優先してしまい、検査を避けていました。
40代前半になり、腸炎や関節の痛み、皮膚の炎症など体調不良が続き、血便も出ていたので、大腸・肛門外科で大腸内視鏡検査を受けたところ、「潰瘍性大腸炎」と診断されました。診断時は軽症だったため、生活に支障ありませんでしたが、何度か再燃を繰り返すうちに、中等症から重症へと症状が重くなっていきました。
当初は、特定医療費(指定難病)受給者証も持っておらず、医療費の負担は大きかったです。5-ASA製剤を2錠から4錠に増やしてもらい、何とか症状は抑えられていましたが、腸管の炎症度を測定する「便中カルプロテクチン」の数値が100程度まで下がったと思えば、その数か月後には1,000台まで上昇する、ということを繰り返していました。
その後、ステロイド治療を受けることになりました。コロナ禍のため、点滴でのステロイド治療は受けられず、ステロイドの注腸製剤を数か月使用しました。しかし寛解には至らず、主治医から次の治療として生物学的製剤の使用か、治験への参加を勧められました。「どちらにするかご自身の意思で決められますよ」と言われたのですが、いきなり説明されても、正直よくわかりませんでした。複数の生物学的製剤と治験の説明を受けましたが、知識と情報量が備わっておらず、パンフレットを見せられて「どれを使いますか?」と言われても、判断ができずに困ったことを覚えています。副作用が不安だったので、その場では決められず「今の薬でもう少し様子を見たい」と主治医に伝え、その時は見送りました。でも、「次に再燃した時はどちらかを選ぶしかない」と、心の中で決めました。
主治医は治験のメリットとして、「年に1回以上必要となる大腸内視鏡検査の費用を、治験参加中は製薬会社が負担してくれる」「(本治験では)治験で使う新薬を今後の治療でも使い続けることができる」といったことを教えてくれました。
提案された中に「第3相試験」も、参加の決め手の一つに
結局、数か月後に再燃してしまったため、いよいよ治験への参加を決めました。治験を選んだ理由は、大きく3つあります。
1つ目は、「IBD患者は大腸内視鏡検査を定期的に受ける必要がある」ことです。どのみち受けなければならないのであれば、治験の流れで受けてしまってもいいかもしれないと思えました。
2つ目は、「既存の薬でも治験薬でもデメリット(副作用)に大差がない」と感じたからです。生物学的製剤を使うにしても、治験薬を使うにしても、体にはある程度負担がかかると感じました。
3つ目は、「医療費の負担が減る」ことです。私の場合、以前から服用している薬も治験中に継続することができ、その費用も製薬会社が負担してくれるとのことでした。通院、内視鏡検査費、薬の費用が浮くのは、患者にとって大きなメリットだと感じています。
これら3つを総合的に考えると、「治験参加」を選ぶ方にメリットを感じました。また、いくつか勧誘された治験の中に、多数の患者さんを対象に有効性と安全性を確認する第3相試験があり、第1、2相試験と比べて副作用の面でも大きな心配はないだろうと思えたことも大きなポイントでした。
生物学的製剤がどういう薬で、どのようなメリット・デメリットがあるのかについては、SNS上でつながった同じIBD患者さんの体験談や発言が、一番役に立ちましたね。
仕事に影響が出る可能性を考え、職場にも事前に報告
治験参加について、まず家族に相談しました。メリット・デメリット(副作用)を考慮しても、治験に参加したいと伝えました。病気の特性上、放っておいて完治するものではなく、炎症を鎮め、症状を落ち着かせるために何らかの治療が必要であることを知っていたので、「治験も治療選択肢の一つ」として同意してくれました。
IBDの患者仲間(寛解中)には、他の治療法を試すことや、セカンドオピニオンを受けることを勧められました。今回のことで、自分自身が治験に参加したり新しい治療を受けたりする前に「治療選択肢を幅広く知っておくことが大切」だと感じました。
また、治験に参加すると仕事に影響が出る可能性が高いため、勤務先にも事前に相談しました。その際、「月に1〜2回は通院が必要」「薬の副作用で免疫力が下がり感染症などにかかりやすくなるので、その間は大人数での会議や出張が難しい」という点もあわせて伝えておきました。
「自分自身がどうしたいのか」という考えをしっかり持つことが大切
治験参加は、まず治験コーディネーターから概要の説明があり、治験参加同意書を記入するところから始まります。私が参加している治験の薬は、体の炎症を抑える作用があり、すでに厚生労働省から別の疾患で承認されている薬です。治験コーディネーターに、既存の生物学的製剤と治験薬の違いについて質問したところ、「既存の生物学的製剤に比べ、ステロイドのような効果がある」と教えてくれました。
また、それぞれの薬のメリット・デメリットについても質問しました。医師に提案された治験の中には、リンパの働きを抑える飲み薬の治験もあったのですが、「飲み薬であれば利便性も高い」と感じた一方で、「免疫低下が怖い」と思っていました。自分が何に不安に感じているのかをしっかり伝えた上で、どの治験が合いそうか、じっくり相談できました。
治験が始まってからは内視鏡検査の予約や次の通院日などのスケジュールも治験コーディネーターが先に組んでくれたので、先々の見通しもつきやすかったです。
一方で、治験コーディネーターや医師とコミュニケーションをする上で、「自分自身がどうしたいのか」という考えをしっかり持つことが大切だと感じました。話を聞いた上で、納得できない、参加したくないと思うなら、断る勇気を持つことも必要だと思います。
同意したらすぐ参加できるわけではなく、事前検査が必要
同意書を書けばすぐ参加できるわけではなく、治験の参加基準を満たしているかのスクリーニング(事前検査)が必要で、採血や心電図などのバイタルチェック、便検査と大腸内視鏡検査による生検を行いました。スクリーニング期間中は、スマートフォンが支給され、毎日の体調、腹痛、便回数、出血などを日報として報告。この内容を基にスコアリングされ、判定されるようです。私は無事、治験に参加できることになりました。
参加した治験は、治験薬またはプラセボ(偽薬)のグループに分けられ、月1回の点滴投与(約2時間)を数か月受け、さらに数か月経つとプラセボのグループの患者さんも希望すれば治験薬投与を受けられるというものです。最初の数か月は自分がどちらに属しているかはわかりません。治験中の検査結果は開示されないので、自分の体調を数値で把握しにくいという点はデメリットに感じました。
まだ初回投与が終わったばかりで、プラセボの可能性もあるので、現時点では効果についてはまだ何とも言えない状況です。副作用としては、投薬翌日に眠気がありましたが、倦怠感やアレルギーも出ていません。
メリットは「承認前の新薬が試せる」「医療費の負担軽減」、デメリットは「時間がかかる」
私が思う治験のメリットは、「医療費の負担が減ること」と「効果が期待されている承認前の新薬を試せる」ことです。また、治験参加前から使用していた一部の薬は、治験中も引き続き服用できるケースもあるので、これもメリットと言えるのではないでしょうか。
デメリットは「時間がかかる」こと。仕事をしていれば、会社との調整も大変です。私の場合、治験薬投与日は、起床後、便検査の準備をして、8時半頃には病院に到着。そして、血液検査と主治医の診察を受け、その後に点滴投与となるので、14時頃までかかります。その日は仕事自体が難しくなってしまいます。毎月数回は通院が必要なので、仕事や家事との調整の難しさが一番のデメリットだと思います。また、治験の内容によっては眼科など他科の検査が必要になるので、さらに負担がさらに大きくなるかもしれません。
まず自分の体調を最優先に、主治医と最善の方法を相談して
治験に参加してから、薬について自分自身で調べるようになり、潰瘍性大腸炎という病気の知識量が増えました。また、潰瘍性大腸炎になって健康に対する意識の変化、日常生活を送る上での自分の限界を知ることができたので、ライフスタイルや人間性の軸が定まったように感じています。そこから同じ病気の患者さんへの理解や共感ができるようになり、いつか自分も彼らを支援したいという気持ちが芽生えました。
治験にはメリットもデメリットもあります。また、治験に参加したからといって寛解する保証もありません。私が参加した治験のデータが世界中の誰かの役に立つという側面はありますが、「貢献しよう」という気持ちは持たなくても良いと思います。まずはご自身の体調の回復と治療を優先してください。症状によっては、既存薬による治療を優先したほうが良い場合もあると思います。体調を最優先に考え、そのためにできる最善の治療法を、主治医と相談して決めてください。
※試験により実薬とプラセボの使用有無や通院間隔、施設によって負担軽減費が変わります。
治験参加者のプロフィール
Y.Oさん
- 年齢
- 43歳
- 性別
- 男性
- 病歴
- 潰瘍性大腸炎歴2年
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