ヒト大腸上皮幹細胞の炎症から再生までの働きを解明、IBD新規治療法開発に期待
ニュース | 2022/8/25
マウスではなくヒトの「腸管幹細胞」は、実際に大腸でどう振る舞っているのか?
慶応義塾大学の研究グループは、ヒト大腸の増殖を司る幹細胞は、マウスと比較して多くが休止期状態にあることを発見し、炎症からの再生における重要性を初めて解明したと発表しました。
細胞は、分裂するたびにDNA複製時のエラーとして遺伝子変異が起こるリスクが生まれます。こうした遺伝子変異は、がんの発生リスクにつながります。体が大きく寿命が長いヒトは、マウスと比べて細胞分裂をたくさん繰り返すので、多くの遺伝子変異が蓄積して「がんになりやすい」と考えられますが、実際はそうではありません。
その理由として「細胞の増殖速度の遅さ」が挙げられます。さまざまな組織に存在し、新しい細胞を補充する役割を持つ「幹細胞」の多くは、休止期という状態にあるためほとんど分裂増殖せず、また、寿命が長い細胞と考えられています。
一方、腸管組織は3~5日ごとに活発にターンオーバーを繰り返す臓器で、腸管上皮の増殖は「腸管上皮幹細胞」が担っています。これまで腸管幹細胞の研究は、主にマウスを用いて行われてきましたが、ヒト大腸で幹細胞がどのような振る舞いをするかについては、実験モデルがなく不明でした。
オルガノイド技術で、ヒト大腸上皮幹細胞が生体内でどんな役割を果たすのか解明
そこで研究グループは今回、先行研究で開発したオルガノイド(疑似臓器)技術を用いて、ヒト大腸上皮幹細胞が生体内で定常時や炎症からの再生時にどのような役割を果たすのかを検証しました。
遺伝子編集したヒト大腸細胞をマウスの大腸内に移植して調べた結果、ヒト大腸幹細胞は「休止期を経てゆっくり増殖する」「増殖速度が遅い原因にTGF-βシグナルが関与している」「炎症時には損傷に耐えて生き延び、再生時に増殖が速くなる」ことなどを明らかにしました。
IBDや大腸がん根治を目指す新たな治療開発の足掛かりに
今回の研究により、ヒト大腸幹細胞が定常時および炎症からの再生時に、それぞれどのように働くのかが、初めて明らかになりました。
「今後、炎症性腸疾患(IBD)や大腸がんの根治を目指す上で新たな治療開発の足掛かりとなることが期待される」と、研究グループは述べています。
(IBDプラス編集部)
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