視点を変えて、自分だけの経験に変える-潰瘍性大腸炎の漫画家が思うこと
ライフ・はたらく | 2023/8/4
今回ご紹介するのは、漫画家の石川チカさんです。2011年のデビュー以来、独自の発想力とコミカルなタッチを生かした漫画で人気を集めています。まだ病歴の浅い石川さんですが、おなら、検便、内視鏡検査など、IBD患者さんたちがマイナスに捉えがちなイベントを「自分だけの貴重な体験」と捉えて漫画に生かすと言います。そんな彼女が捉えた「潰瘍性大腸炎」という病気とは?軽症患者ならではの悩みとは?そして、漫画家としての歩みと今後の夢についても伺いました。
石川チカさん/潰瘍性大腸炎歴1年
このストーリーのあらすじ
医師の診断は「軽症の潰瘍性大腸炎」。軽症ならではの悩みとは…?
――潰瘍性大腸炎と診断されるまでの経緯を教えてください
体調に異変を感じたのは2023年に入ってからです。やたらと指先がしびれたり、視力が急に落ちたりして、最初はお酒の飲み過ぎで糖尿病になったと思ったんです。すぐに病院を受診して検査をしてもらったのですが「異常なし」という結果でした。何だろうと思っていた矢先、今度は血便が出たんです。その少し前からゼリー状の便が出ていたのですが、お酒を控えれば治ると思って放置していました。ものすごくビックリして消化器内科を探しましたがどこも予約でいっぱいで、仕方なく近所の内科を受診。大腸内視鏡検査を受け、「潰瘍性大腸炎かもね」と言われました。血便が出た時にネットで調べまくって、がん・クローン病・潰瘍性大腸炎のどれかだと目星をつけていたので、そこまで驚きはしませんでした。
でも、疑い止まりだったせいかビオフェルミンを処方されただけで症状は全く治まりませんでした。そうこうしているうちにようやくIBD専門クリニックの予約が取れて、検査の結果、潰瘍性大腸炎と診断されました。その時から現在まで、リアルダとペンタサ坐剤、ミヤBMを使っていて、体調は安定しています。
――発症のきっかけとして思い当たることはありますか
もともとお酒と辛いものと酸っぱいものが大好きで、締め切り明けに、そういう刺激物を食べながらたくさんお酒を飲むのが習慣になっていました。また、発症する少し前に漫画の連載が終わってしまって「これからどうしよう…」という不安もありました。とにかくがむしゃらにいろんな出版社に漫画を送っていた時期で、ストレスも溜まっていましたね。なので、思い当たる節が多すぎて、どれが直接の原因かわからないという感じです(笑)。
――実際に予想していた潰瘍性大腸炎と診断されてどう思われましたか
「直接命に関わる病気じゃなくて良かった」と思いました。難病申請できるか先生に相談しましたが、「軽症なので、難病申請が通りにくい」と言われました。難病なので仕方ありませんが、いつまでこの治療を続けなければならないのかという漠然とした不安はあります。軽症といっても治療費は馬鹿になりませんしね…。先生からは「薬は絶対に飲み切ってね。勝手に自己判断で薬を止めたりしないように」といつも釘を刺されています。
――周囲の人には病気についてどのように伝えていますか
ひと通り病気の説明はしますが、「無理な時は正直に無理だと言うので、今までと同じように接して欲しい」と伝えています。担当の編集者さんはいつも気にかけてくれますし、仕事の面でもすごくサポートしてもらっています。両親は会社を経営しているのですが、たまたま従業員にクローン病の方がいて、薬のこととかいろいろ聞いて教えてくれます。友達も「大変だね」と言ったくらいで、今までと何も変わらない付き合いをしています。
日常の一部だった「漫画」が、いつしか叶えたい「夢」に
――幼い頃はどのようなお子さんでしたか
変わった子だったと思います。ぬいぐるみとか、生きていないものを可愛がる癖がありました。小学校受験をしたんですが、面接官に「何人家族ですか?」と聞かれて、4人家族なのに「5人です!」と答えてしまってギョッとされました。もう1人の家族というのは大好きな「枕」だったんです(笑)。
――2011年にデビューされたとのことですが、漫画家を志したきっかけを教えてください
幼い頃からお絵描きが好きでしたが、漫画家を志したきっかけというのは特に無くて、気がついたら日常の一部に漫画があったという感じです。高校2年の夏から美大専門の予備校に通い始めました。高校は特進クラスでしたが、頭の中は美術一色だったので成績はめちゃくちゃで、親も途中から「普通に大学に入るのが無理なら絵で行け!」みたいなモードに変わっていきました(笑)。
――美大を目指すのは大変でしたか?影響を受けたアーティストなどもいれば教えてください
漫画から派生した美術が好きなんですが、特にPUFFYのCDジャケットなどを手掛けているロドニー・アラン・グリーンブラットの作品には衝撃を受けました。漫画ともイラストとも違う彼の作品が美術として認められていることを知って、すごく視野が広がったんです。予備校では受験に向けてデッサンをたくさん描きました。平面の中に奥行きを描くのが難しくて面白いんです。花瓶などのいわゆる静物はあまり好きではなかったので、ぬいぐるみなど好きなものをたくさん描いて練習しました。その後、第一志望の大学のマンガ学部に合格することができました。
日々の食事は「白い食べ物」を中心に。カフェイン飲料を控えて長年の不眠が解消
――デビューのきっかけをもう少し詳しく教えてください
大学卒業後、「コミティア」というオリジナル作品の同人誌の即売会で私の作品を買ってくれた業界の方が、「きちんとした漫画として出しませんか?」と、声をかけて下さったことがきっかけです。後に、そのデビュー作を読んだ別の編集者の方にも声をかけていただいて、それが今につながっている感じですね。
――Twitterでも紹介されていた『大安仏滅』、おばあさんが若い頃の写真を自分の遺影に選んだエピソードにすごく感動しました!アイデアはどのように考えているのですか
葬儀屋さんの話だったら「火事で遺体がほぼ骨の状態で出てきても火葬するの?」みたいな、第一印象で抱いた疑問や心に引っかかったことをふくらませてストーリーにすることを心がけています。想像力だけで補いきれない部分もあるので、自分で取材することもありますね。
――大体の一日の流れを教えてください
9~10時に起きて、一人暮らしなので朝昼兼用のご飯を自分で作って食べます。その後はたまに休憩を挟みつつ、ずっと作業をしています。18時くらいに夕食を作って食べて作業に戻り、深夜1時くらいに寝ます。休日は街が混むので、友達と会ったり出かけたりするのは大体平日ですね。遊ぶ日は仕事の予定を入れず、その日のために仕事を頑張るようにしています。
――お酒や刺激物を控えるようになったこと以外に、食事を含む日常生活の変化はありましたか
白い食べ物が良いと聞いたので、ご飯・お豆腐・うどんなどを中心に食べています。また、仕事中はカフェインの入った飲み物が欲しくなるのですが、回数を減らしてカフェインレスのお茶を飲むようにしています。潰瘍性大腸炎になる前はとにかく寝つきが悪くて寝酒を飲むのが習慣になっていましたが、今は飲まなくても眠れるようになりました。
自分にしかできない経験は、他の誰にも真似できない強み
――潰瘍性大腸炎になって、仕事でプラスになったこと、大変だと感じることを教えてください
一番プラスになったのは、締め切り明けの暴飲暴食を控えるようになったことです。その分時間が空いたので、読書をしたり映画を観たりと、主にインプットの時間に使っています。
一方で、病気は空気を読まないので「仕事を何本も抱えている時に悪化してしまったらどうしよう」という不安があります。一度悪くなったらいつ良くなるのかわからない病気ですしね。まだ病歴も浅いので、どこからが無理しすぎなのかというのも見極めも難しいです。おかげさまで今は体調が落ち着いています。
――潰瘍性大腸炎に関して、思わず漫画にしたいと思ったエピソードがあれば教えてください
検便の時に便を持って行くのにちょうどいい袋が見つからなくて、アニメ「モルカー」のかわいい袋に入れて行ったら「可愛いですね~!」ってほめられたことがあります。「はい。中身はうんちですけど」って答えました(笑)。後は、内視鏡検査を受けた時に1~2分くらい長いおならが止まらなくて、それを隠すために看護師さんに話しかけまくったこともあります。
――IBD発症後に漫画家を目指す方にアドバイスをお願いいたします
自分にしかできない経験は、他の誰にも真似できない強みです。IBDは本当に大変な病気ですが、視点を変えればネタになります。その時に見たものや感じたことを大切にメモしておくと、自分にしか表現できない感情や気持ちを描く時にすごく役立つと思います。あとは、「ストレスを上手く受け流す」というスキルはすごく重要だと思います。
「IBDだから必要なこと」を打ち明けたら、大きな変化が起こるかも
――これからチャレンジしたいことや夢があれば教えてください
自分の病気の経験を生かして軽症の潰瘍性大腸炎患者の日常を描いたエッセイマンガを描いてみたいですね。軽症患者ならではの悩みも少なくないと思うので。肩肘はらずにゆる~く過ごしていることも伝えて行けたらと思っています。プライベートでは宝塚歌劇団にハマっているので、推しに会いに行く時に体調を崩さないように気を付けています。セサミストリートも大好きなので、いつかニューヨークの聖地巡礼もしてみたいですね!
――IBD患者さんにメッセージをお願いいたします
IBDはおしり周りの症状が多く、周囲に打ち明けられないという人も多いと思います。また、おなかの調子が悪い時は、男性患者さんも生理用ナプキンを使うことがあると聞きます。体調が悪い時に必要なヘルプやアイテムについて、「必要としている」ということを思いきって誰かに打ち明けてみたら、大きな変化が起こるのではないかと思います。
私も突然潰瘍性大腸炎と診断され、ほとんど何もわからないような状態でしたが、SNSのIBD患者さんたちの発信に本当に救われました。治療に関する情報や日常の過ごし方、IBDプラスさんのことも患者さんの発信を見て知りました。なので、今度は私が誰かの役に立てるように、IBDという病気がもっと当たり前に知ってもらえるように、情報発信や共有をしていけたらいいなと思っています。
(IBDプラス編集部)
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