A型事業所への通所と潰瘍性大腸炎診断で広がった私の「世界」-32歳からの再挑戦

ライフ・はたらく2025/4/18

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小学生の頃から続く腹痛や下痢を「体質」として諦め、病院に行かない日々を送ってきたおはぎさん。夢だった介護士の道を諦め、メンタルクリニックに通いながら就職活動を続ける中で「就労継続支援A型事業所」を紹介されて入所。その後、潰瘍性大腸炎の診断を受け、適切な治療により体調が回復。再び就職活動を始めたというおはぎさんに、これまでの働き方と、人生を変えた出会いについて詳しく語っていただきました。

おはぎさん(32歳/潰瘍性大腸炎歴7年)

幼い頃から頻繁に下痢などの症状があったが体質と思い込んでいた。介護士を目指すも体調不良で通学が難しくなり挫折。うつ症状に悩み、メンタルクリニックに通いつつ就職活動を継続。ハローワークで就労継続支援A型事業所(A型事業所)を紹介され入所。その後、潰瘍性大腸炎と診断を受け、治療開始。現在は体調も落ち着き、周囲のサポートを得ながら就職活動を再開した。今の夢は、就職することと、オリジナルの手芸作品を販売すること。

つらい症状を「体質」と思い込み、夢を諦めメンタルも不調に

――最初に体調の異変を感じたのはいつですか

下痢や腹痛など自覚症状は小学校低学年の頃からありました。ただ、当時は病気だとは思っておらず、体質的なものだと思っていました。そのため、症状が出ても市販の整腸剤や下痢止めを飲む程度でした。

中学校の頃に職場体験でデイサービスに行ったのですが、そこでの体験がとても楽しくやりがいがあったので、介護士を目指し、高校卒業後は介護の専門学校に進みました。しかし体調が悪くなってしまい、1年半くらいで辞めてしまいました。その後も体調は改善せず、介護ボランティアと就職活動は続けていましたが、面接をしても落ちてしまうという日々が続きました。やはり就労経験がないというのが大きかったと思います。

体調は依然として腹痛と下痢が頻繁に起こり、微熱がたびたび出るような状態でした。自分の体なのにコントロールができないせいで上手くいかない、やりたいこともできないというストレスが溜まり、常に気持ちが沈みがちでした。ただ、私はストレスにさらされたときに症状がすごく悪化するタイプだったため、「自分は本当にストレスに弱い人間なんだ…」と余計に思い込み、専門医に相談しようという発想がありませんでした。今思えば、もっと早く病院に行っておけば良かったと感じます。実際に、整腸剤や下痢止めはほとんど効かず、気休め程度でしかありませんでした。

良い意味で衝撃を受けた「A型事業所」での実習

――就労継続支援A型事業所(A型事業所)を利用し始めたきっかけを教えてください

22歳くらいの頃、ハローワークで介護の仕事を探していたのですが、この頃からメンタルクリニックにも通い始めていました。そのことをハローワークの担当者にポロっと話したら、別の担当者を紹介され、その方からA型事業所を紹介されました。知識としてA型事業所のことは知っていたのですが行ったことはなかったので、「自分も利用できるんだ」と驚いたことをはっきり覚えています。A型事業所では見学と体験を兼ねた3日間の実習があると聞き、まずは行ってみることにしました。

――実際に、実習に参加してみていかがでしたか

最初の事業所は大手買取企業が運営しており、買い取ったおもちゃやフィギュアを梱包したり、古着にアイロンをかけたり、汚れがないか確認してハンガーにかけたりといった仕事が主でした。実際の現場は、みんな気軽に話しかけてくれて優しいし、支援員さんが「無理なくできることから始めましょう」「大変だったら少し休んでいいですからね」など、常に声掛けをしてくださいました。良い意味で裏切られたというか、自分がいかに狭い世界にいたのかということを痛感しました。初めての経験ばかりで、本当に新鮮でしたね。

実習を終えた後に電話で通所可能との連絡をいただきました。とにかく家にずっといるのはダメだし、お金を稼がなければと思っていたので、ありがたかったですね。通所するには受給者証(障害福祉サービス受給者証)が必要になるため、私はメンタルクリニックの医師に相談して診断書を書いていただき、申請しました。医療受給者証の発行までに半年くらいかかることもあるそうなので、あらかじめ申請に何が必要か聞いておいた方が良いと思います。

――A型事業所では、どのような方が働かれているのでしょうか

事業所の利用者は20~25人で、支援員は5、6人です。同じ系列の他の事業所で仕事をしていたこともありますが、私が行ったところはどこも20~30代後半くらいの方が多かったように思います。今行っているところには1人だけ60代の方がいます。利用者同士で休憩時間に話すことは問題ありませんが、マナーとして敬語を使うように言われていますし、連絡先を交換したりすることはトラブルにもつながるので禁止されています。もちろん病気のことを聞くのもNGです。個人によってできる仕事の種類や作業のペースはまちまちですが、みなさん無理なく働かれているように思います。

潰瘍性大腸炎の適切な治療で体調が回復、A型事業所での日々でメンタル面も改善

――A型事業所を利用し始めてから体調を崩されたそうですね

はい。利用から2か月くらい経ってようやく慣れてきた頃に、突然「この事業所はなくなります」という発表があったんです(笑)。よくよく聞いてみると、別の場所に事業所ごと引っ越すとのことでした。再び環境が変わったというのが大きかったのか、通所することに慣れて気が緩んだということも影響したのか、引っ越し先に移ってすぐに血便が出たんです。びっくりして、すぐにクリニックを受診しました。後日大腸内視鏡検査を受け、潰瘍性大腸炎の診断がつきました。

診断後、アサコールが処方されました。最初は全く効かなくて不安に思いましたが、2か月弱で症状が落ち着いてきました。今もアサコールのみで治療を続けています。また、診断されたことをきっかけに、受給者証を特定疾患の受給者証に切り替えました。

――1日のスケジュールを教えてください

7時頃に起床し、朝食を取って身支度を整えてから8時20分頃に家を出ます。8時30分頃のバスに乗り、約30分かけて事業所へ向かいます。始業時間は9時30分です。10分間清掃作業を行い、その後全体朝礼が行われます。朝礼で一人ひとりのその日の作業内容が発表され、9時50分頃から12時15分までが午前の作業時間です(その間15分の休憩あり)。12時15分から13時までが昼休憩で、食事は各自の席で取ることが多いですが、近くのコンビニエンスストアで購入する人もいれば、外食に行く人もいます。午後の作業は13時~14時15分までで、その後10分間の清掃を行い、14時30分から約5分間の終礼、14時35分に終業となります。調子が良い時はバス停2つ分くらい歩いて帰ることもありますが、普段は親が車で迎えに来てくれます。帰宅後は、趣味の手芸を楽しんでいます。

ノウフク

おはぎさんが趣味で作っている刺繍の作品

――現在の事業所では、主にどのような作業をされていますか

刺しゅうのブローチやコースターを作ることが多いですね。それ以外はパソコンで外注のデータ入力の仕事をしたり、作業所内の掲示物を作ったりしています。手芸の商品は市役所や福祉施設で販売させていただくことがあるのですが、売れた時はやはり嬉しいですね。たまに市役所で販売会があり、販売員として参加すると直接購入者の方からお話が聞けるのでとてもやりがいにつながっていますし、貴重な経験ですね。

――A型事業所利用のメリット・デメリットについて教えてください

生活リズムを作ったり、社会復帰の準備という意味ではとても役立つと思います。一方で、多くの事業所は「週5日、3時間以上安定して働ける人」という基準を設けているので、それが守れない人は厳しいと思います。ただ、それが難しい場合はB型事業所で働くという選択肢もあると思います。B型は雇用契約がないため、1日だけでも働けます。その分、賃金は下がりますが、自分の居場所を見つけることを目的としている方や、生活リズムを整えたいという方には良いと感じます。まずはハローワークなどに問い合わせてみるのが良いと思います。

一般就労を目指して再チャレンジ!支えてくれた、たくさんの出会いに感謝

――今後の働き方については、どのようにお考えですか

就労継続支援A型事業所は、あくまで一般企業に就職するのが最終目標です。私もようやく体調が落ち着いてきたので、現在就活中です。介護の仕事からはだいぶ遠のいてしまったので、まずは時短で働ける事務職を探しています。就職活動は事業所が、ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、難病支援センターと連携し、支援してくださっています。難病支援センターでは就労と療養生活の両立に向けた難病支援セミナーも開催されていますし、ジョブコーチ(職場適応援助者。障がい者の円滑な就労支援を行う専門職)など、専門機関の人の話を聞くこともできるので、働きたいけどどうしたら良いかわからないという人にも向いていると思いますし、交流会もあるのでぜひ知っていただけたらと思います。私も一人で仕事を見つけるのは無理ですし、こんなにたくさんの支援があるということを知れたのは本当に良かったと思います。フル活用して就活を頑張りたいですね。

――IBD患者さんにメッセージをお願いします

病気になってしんどいこともたくさんありましたが、病気にならなかったら出会えなかった友達や、支援して下さる人たちと出会うことができました。そして何より、自分の世界が広がった気がしています。

難病だと言われてショックだと思いますし、孤独を感じていると思います。私も完璧主義者で、誰かに助けを求めるのがすごく苦手でした。でも、SNSで同じ潰瘍性大腸炎の人たちと出会えたおかげで「みんなはこういう時どうしてる?」と、気軽に聞くことができるようになりました。「こうしなければダメ」ということはないと思うので、まずは自分のできる範囲で一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。SNSを見て「自分と同じような人がたくさんいて、決して孤独ではない」という事実を知るだけでも、気持ちが軽くなると思います!

(IBDプラス編集部)

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