神経質にならずに、食事を「楽しい」と思える工夫を~斎藤恵子先生に聞く

医師インタビュー2018/3/29

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IBD患者さんにとって、最も大きな悩みのひとつが「食事」です。勉強会やセミナーの質問コーナーでも、食事に関するものが大半を占めています。そんなIBD患者さんの日常と切っても切れない食事療法もしくは食事の摂り方のコツについて、『安心レシピでいただきます!』(弘文堂)などで知られる、東京医科歯科大学医学部附属病院 臨床栄養部 副部長の斎藤恵子先生に聞きました。

「食事からもよくしていく」考えにシフトしてきたIBDの食事療法

日本の朝食

IBD患者さんの食事療法はこれまで、厳しく制限する方法が主流でした。あれもダメ、これもダメといわれると食べられるものが少なくなり、患者さん本人だけでなく、一緒に暮らすご家族までもが辛い思いをするのが常でした。しかし、最近は不足している栄養を補ったり、腸管粘膜や腸内環境の改善に役立つ食べ物を摂ったりするなどして、「食事からもよくしていく」という考え方にシフトしてきています。

「よくない」と言われるものも、量を調節するなどで工夫を

IBD患者さんに限らず、人は誰しも体調が悪いときには、脂っこいものやお刺身などの生ものや、冷たいもの、筋っぽいものは食べたいと思わなくなりますし、身体も受け付けないでしょう。体調が悪いときには、消化のよいものを欲するようになるのが自然であり、IBDの患者さんでもそれは同じです。体調に合わせた食事を摂ることが大切です。

患者さんには、あまりよくないといわれている食べ物でも、量で調節するとよいとお話しています。例えば、揚げ物は、あまりよくない、もしくは控えるべき食事といわれていますが、「てんぷらを食べる」といっても、てんぷら定食くらいの量を食べるのか、刺身定食についてくるくらいの少量のてんぷらを食べるのかによって、摂取する脂肪の量が違います。このようによくないといわれているものでも、全く食べないのではなく、量で調整するとストレスがたまらないのでは?と思います。カレーも絶対ダメと思い込まないで、家での食事なら少しだけカレーにして、他のおかずも食べたり、ルーは脂質含有の少ないもの、炒める油を少なくする、肉も脂質の少ない部位を選ぶなど、工夫をするとよいと思います。外食なら、肉の脂身を残したり、ルーを少し残して福神漬けなどでご飯を食べるようにするなど工夫しましょう。

一食一食を完璧にしようと思わなくてもいい

患者さんやそのご家族は、ゼロか100かといった極端な考え方になってしまいがちです。食事に神経質になるあまり、生活に余裕がなくなってしまっては、毎日が苦痛になって、生活の質も下がってしまいます。「すべて手作り」にこだわると調理担当者の負担が大きくなったり、一人暮らしが難しくなります。また、「添加物が入っていないものだけ」を選ぶとなると、食事の幅も狭くなっていきます。生活していくうえで、大切なのは食事だけではありません。

食事は毎日のことですから、一食一食を完璧にしようと思わなくてもよいと思います。例えばクローン病の患者さんは、1日の脂質量は30gが目安とされています。これを守ろうとすると、朝昼晩と10gずつ食べるのが理想ですが、食事の作り分けをしなければならなかったり、気をつかって食事を作ってもらっても、家族のなかで自分だけが違うものを食べているような疎外感を感じやすいものです。お昼が脂っこい食事になりそうだったり、外食の必要があったりするときには、朝と夜の食事で調節する。制限が難しい日があれば、その前日や翌日で調節するなど、2~3日でバランスを整えるようにすればいいのです。

トライアンドエラーを繰り返して「自分にあった食事」を探そう

では何をポイントにするかというと、体重と腹部症状、排便回数、便の性状などです。私自身も管理栄養士ですが、毎日自身の食事を計算して食べているわけではありません。体重が増えたら食事の量を少し減らすなどの工夫をしています。IBD患者さんも、定期的に体重を測って、体重が維持できる量を食べること、さらに腹部症状や便の回数、症状を振り返って、どんな食事で調子が悪くなるのか、どんな食事をしたら安定しているのかを観察して頂きたいと思っています。合うもの・合わないものは人によって違います。ほかの患者さんがダメだといった食べ物が大丈夫だったり、またその逆もあります。少しずつトライアンドエラーを繰り返しながら、これは食べられるもの、これは調子が悪くなるもの、と体調との関係を把握していけば、日々の食事も辛いものにはならないでしょう。何故かわからないけどお腹が痛い、どうして下痢をしているのかわからない、外出してもいつもトイレを探しているという状態では、不安も大きくなります。ですが、食べ物と自分の調子との関係が明らかになれば、納得して食べることができるのではないでしょうか。こうした失敗や成功の積み重ねによって、だんだんと病気と上手に付き合っていけるようになってきます。病気に振り回されることなく、ご自身で病気をコントロールして頂きたいと常々思っています。

メッセージを発信して、味方を増やす

食事をする目的のひとつに人間関係を円滑にするというものがあります。もちろん栄養を摂取するという目的もありますが、食事を共にすることで人間関係がよくなるものです。逆に食事の制限が厳し過ぎると、食事を共にする機会が減り、人間関係がうまく築けないこともあります。食事療法を行っているのは、IBDの患者さんだけとは限りません。ですから外食をするときは、「どのくらいのボリュームがありますか?」や「お腹の調子がよくないので脂の少ないメニューを教えてください」と尋ねてみましょう。また摂取して調子が悪くなる食品は、「嫌い」「苦手」といわず、「アレルギー」と伝えて下さい。病気のことを説明する必要はありませんし、わがままなイメージにもなりません。

3世代家族の朝食風景

社会人になって飲み会に出席するときは、積極的に幹事になって、自分が安心して食べられるお店を選ぶという患者さんもいました。人にも喜ばれるし、アルコールも自分で調節できるので一石三鳥だと話してくれました。病気と上手につきあっていく上で大切なことは、「私はこうしてほしい」という私メッセージで伝えることだと考えています。「〇〇してもらえますか?」と援助を求めて、自分の周囲に理解者を増やして、自分が生活しやすいように環境を整えていって頂きたいと思っています。神経質にならず、お腹と相談しながら体調に合った食事をして下さい。そうすることにより、体調が安定しますし、きっとそれが、楽しい食事につながっていくと思います。

(インタビュー:大場真代)

斎藤恵子先生 東京医科歯科大学医学部附属病院 臨床栄養部 副部長

斎藤恵子先生 東京医科歯科大学医学部附属病院 臨床栄養部 副部長
昭和59年3月 東京家政大学家政学部卒業(栄養学科管理栄養士専攻)
同3月 社会保険中央総合病院(現・東京山手メディカルセンター)栄養科勤務
平成7年4月 同 主任
平成11年7月 同 栄養指導専門員
平成20年7月 同 同科長
平成27年1月 東京医科歯科大学 臨床栄養部 副部長(現職)

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