病気で落ち込んでいるヒマはない!派遣社員で「はたらく」ためのマイルール

ライフ・はたらく2024/5/31

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今回ご紹介するのは、クローン病の901さんです。シングルマザーとして1人娘と暮らしながら懸命に働き、病名のつかない体調不良を抱えながら長年過ごしてきました。診断がついた現在は、病気に理解のある職場で派遣社員として勤務、新たなパートナーとも巡り合い、穏やかな日々を過ごしています。クローン病と診断されるまでの経緯と、派遣社員として働く時のコツ、製造業で働く際の注意点などを伺いました。

901さん(51歳/クローン病歴10年)

高校卒業後に働き始め、事務職、楽器店の販売員などを経験。実家が車の部品屋で音楽一家ということもあり、車のワイパーを交換したり、フルートやバイオリンを演奏したりしていた。そのせいもあって細かい作業が得意。東北出身だが東日本大震災で被災を経験し、京都に転居。現在は派遣社員として手先の器用さを生かした部品の組み立てなどを行っている。高校生の娘とパートナーとの3人暮らし。昔からGLAYの大ファン。好きなエレンタールフレーバーはさっぱり梅味。いつか叶えたい夢は、オーロラとサグラダ・ファミリアを見ること。

病名を告げられないまま手術に…。もう「完治」したと思っていた

――クローン病と診断されるまでには紆余曲折あったそうですね

高校卒業後に事務職でとある会社に就職したのですが、そこの環境が合わず、全身がかゆくなったり、逆流性食道炎になったりしました。25歳頃に1回目の結婚をして夫の両親との同居が始まったのですが、今度はストレスで、十二指腸潰瘍、胃潰瘍、片頭痛になりました。もう胃腸疾患のフルコンプみたいな感じでしたね(笑)。28歳頃に離婚したのですが、この頃には身体がしんどくて、腰が曲がったおばあちゃんのような歩き方をしていました。ようやく生活が落ち着いて病院を受診したところ、すぐに入院して手術をする必要があると言われました。

しかし病名は告げられず、「腸に潰瘍ができているので、回盲部を30cmくらい切除する」と説明されただけでした。病理検査後も「潰瘍らしい」ということ以上は言われず、そのまま回復を待って退院となりました。そのため、私自身は完治したものと思っていたんです。その後2回目の結婚をし、子どもを授かりました。完治したと思っていたので多少体調が悪くても特に不安を感じることなく出産に臨めたという点では良かったのかもしれませんね(笑)。

その後も下痢、血便、貧血の症状はたびたびありましたが、そういう「体質」だと思い込んでいたので、特に治療は受けていませんでした。しかし、40歳くらいの時に腹痛と吐き気が止まらなくなって総合病院を受診したところ「腸がパンパンに腫れている」と言われ、即入院となりました。

この時、「あと少しで輸血が必要なレベルだったけど何も感じなかった?」と言われました。確かに氷をたくさん食べていたのでそれを伝えると、「貧血の末期の症状だよ」と言われてびっくりしたことを覚えています。入院中に精密検査を受け、以前手術を受けた病院からカルテも取り寄せた結果、初めて「クローン病ではないか?」と言われたんです。カルテにも小さくクローン病との記載があったそうです。「なんでクローン病の治療をしなかったんだ?」と、この時診てくれた医師も首を傾げていました。その後、IBDの専門医を紹介され、正式にクローン病と確定診断されました。そして、エレンタール・ペンタサ・イムラン・大建中湯が処方されました。それからしばらくして2度目の離婚。東日本大震災で被災後に母が移住した京都に引っ越し、現在の病院ではエレンタール・メサラジン・ロイケリン(IBD治療薬以外はアロプリノール・タケキャブ)が処方されています。

派遣社員として製造業に従事。病気を伝えるタイミングは?

――現在は製造業のお仕事をされているそうですね

はい、工場で働いています。具体的には「工場で作ったものをつかんでベルトコンベアに置く機械」を作っているのですが、もともと別の会社で同じ機械の別の部品を作っていて、その経験があったから採用してもらえたのかなと思っています。

京都に来るまでは長年、楽器店に勤めていました。音楽は演奏するのも聴くのも大好きなんです。この頃はまだ病名がわかっていなかったので、職場の人には「おなかが弱くて、いつもピーピーなんだ~」と伝えていました。診断がついて改めてクローン病だと伝えましたが、こんな性格なので「えーそうなんだ!全然そう見えないね!」と言われただけでした(笑)。

――派遣先の面接では病気のことを伝えましたか

これまで派遣会社を通じて複数の会社で仕事をしてきました。担当者には病気のことを伝えていたので、「(派遣先企業に)入ってから伝えるか、事前に伝えるか」について、軽く相談するようにしていました。最初のところは伝えずに入ったのですが、事前に伝えていたら不採用になっていたと思います。病気に対する理解のない上司で、いくつか病気を抱える人に平気で「ええなー、病気が2つも3つもあって」と言うような人でした。そこは2年くらいで退職し、しばらく転々としました。通院で休みたいと伝えると「何とかなんないの?」と言われた職場もありましたね。中でも一番傷ついたのは「もっと健康でバリバリ働ける友達いない?」という言葉です。この時は「もうこんな所にはいたくない」とハッキリ自覚しましたね。

――現在の職場はいかがですか

今の職場の面接では「病気のことを最初から伝える」ということになり、タイミングを見計らって病気のことを話しました。すると、「こちらが配慮すべきことはありますか?」と言われたんです。本当にびっくりしました。こんなことを言われたのは初めてだったので…。病気に限らず、「体調や家庭のことを最優先に考えて欲しい」というスタンスの会社で、通院や学校行事がある時はありがたく休ませていただいています。本当に良い会社に巡り合うことができたので、精いっぱい頑張って働いています。これまでの経験を生かして、少しでも恩返ししていきたいですね。

良い職場を見分けるコツは?同僚や上司へのカミングアウトはどうしてる?

――良い職場を見分けるコツや、病気のことを上手に伝えるポイントなどはありますか

面談時の空気感は信用できると思います。今の会社は面接の雰囲気がとても良く、派遣担当者にアドバイスされていなくても、病気のことを話せていたような気がします。基本的には事前に派遣担当者に「病気を伝えるタイミングについて相談する」のがベターかなと思います。事前に伝えたい人は、その想いも一緒に伝えてみると良いかもしれません。

面談では、最初に今までの経験を話したり自己アピールしたりすると思うので、そこでは病気のことは言わず、最後の「他に何か質問は?」というタイミングで話すようにしていました。また、配慮すべきことを聞かれた場合は、「トイレにいつでも行けるようにしていただければ大丈夫です」とか、具体的にわかりやすく伝えるのがいいと思います。

――会社の規模や仕事内容に関してはいかがでしょうか

アットホームな会社も悪くないですが、代わりが利かないような状態のところだと、休みが取りにくかったり、嫌な顔をされたりするかもしれません。ある程度大きい会社の方が休んでもカバーしてもらえる可能性が高く、プレッシャーが少ないと思います。実際に、今の会社は大きく、私が抜けても代わりに入れる人がたくさんいるので、休むときも気が楽です。

あと、私のようにトイレ問題がある人は「ライン作業」はキツイと思います。今の会社で、最初はライン作業に入っていたのですが、宇宙服のような作業着をトイレに行くたびに脱ぎ着して、風にあたってから入るというのが本当に大変で、長く続きませんでした。

――病気のことを伝えずに入った場合のカミングアウトについてはいかがでしょうか

私は恥ずかしいとか考えず、バッグに「ヘルプマーク」をつけています。人によっては聞いてくれたりするし、聞かないまでも「何かあるのかな?」と思ってもらえそうなので。同僚に伝えるかは個人の考えによると思うのですが、上長にはいずれかのタイミングで伝えておいた方が、何かあった時にフォローしてもらえる可能性が高いと思います。

ほんの少しでも「好き」や「得意」と感じられる仕事を選んでみて

――仕事を継続していくためのコツがあれば教えてください

どんな職場でもストレスフリーということはないと思うので、可能な範囲で好きなことや得意なこと生かせる職場を選ぶのがコツと言えるかもしれません。私の場合、実家が車の部品屋だったので、工場で働くことは苦にならないですし、黙々とやる作業も好きなんです。そのレベルの「好き」でいいと思います。例えば、話すのが好きだったら、「接客業」を探してみるとか、そんな感じですね。

それも難しい場合は、家で楽しめる時間を作ればいいと思います。私はジグソーパズルとか、縫い物とか、ライブとか、そういうことを息抜きや励みにしています。それと、今一緒に住んでいるパートナーが別の病気を持っている人なので、何でも話せるし、無理なく理解してもらえるので気持ちが楽ですね。

全ては「自分次第」。楽しい時間を1秒でも長く

――IBD 患者さんにメッセージをお願いします

病気に「出てけ!」と言ってみたところで、出て行ってはくれないですよね(笑)。だから、共存していくしかないんです。人生短いですし、どうにもならないことに対して沈んでいる時間がもったいないと思いませんか? 確かにおなかは痛いですけど「痛いなー」で終わり。気持ちまで引っ張られてしまうと、どんどん暗い気持ちになりますし、痛みを意識してしまうので。仕事も、ストレスフルになって体調を崩すくらいならフェードアウトしていいと思います。

かつては病気について理解されず落ち込むこともありましたが、誰かが教えてくれたんです。「言われたことに対してどう受け取るかは自分次第」だと。そう言われてから、楽しい時間を1秒でも長く過ごすために、落ち込んでいるヒマなんてないと思うようになりました。理解者なんて1人か2人いれば十分です。あとは適当に割り切って、肩の力を抜いて生きていきましょう!

(IBDプラス編集部)

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