消化器がん患者さんに対する「腸内細菌叢移植療法」の効果を検証する臨床試験開始
潰瘍性大腸炎に対して行われている「抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法」
国立がん研究センター、順天堂大学、メタジェンセラピューティクス株式会社の研究グループは、日本初の消化器がん患者を対象とした「腸内細菌叢移植(A-FMT)療法」の安全性と有効性の検討を目的とする臨床試験を、食道がん・胃がん患者を対象に開始したと発表しました。
食道がんは2020年に約2.5万人が新たに診断され、約1.1万人が亡くなっています。胃がんは日本で3番目に多いがんであり、2020年には約11万人が新たに診断され、約4.2万人が亡くなっています。食道がんや胃がんの治療においては、免疫チェックポイント阻害薬により治療の選択肢が広がっている一方で、治療効果が得られない患者さんに対する新たな治療法の開発が必要とされています。
近年、腸内細菌叢の研究は大きく進展し、さまざまな疾患との関連やヒトの免疫機能への影響が明らかになっています。世界では腸内細菌叢に着目した治療の開発が進んでおり、米国や豪州では腸内細菌叢移植を応用した医薬品が、難治性クロストリジウム・ディフィシル感染症の治療薬として薬事承認されています。
腸内細菌叢移植は、健康な人の便に含まれている腸内細菌叢を、疾患を持つ患者さんの腸に内視鏡により注入し、バランスのとれた腸内細菌叢を構築する医療技術です。日本国内では、順天堂大学において2023年1月より、潰瘍性大腸炎患者を対象とする「抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法」が、先進医療Bとして実施されています。
腸内細菌叢移植との併用で免疫チェックポイント阻害薬の奏効率は向上するのか?
がん領域の腸内細菌叢移植研究では、免疫チェックポイント阻害薬による治療効果が得られない悪性黒色腫の患者さんに対して、腸内細菌叢移植で腸内細菌叢を調節することでがんに対する免疫が増強され、治療の奏効割合が改善される可能性が示唆されています。さらに、食道がんや胃がんを含む、さまざまながん種において、臨床試験が実施されています。
今回の試験では、切除不能進行・再発食道がんおよび胃がん患者さんを対象に「免疫チェックポイント阻害薬と腸内細菌叢移植併用療法」を実施し、その安全性および有効性を検討します。対象となる患者さんに対して、抗菌薬3種類(アモキシシリン、ホスホマイシン、メトロニダゾール)を1週間投与した後、腸内細菌叢溶液を大腸内視鏡で1回投与する腸内細菌叢移植を実施。腸内細菌叢移植の翌日以降より、免疫チェックポイント阻害薬を含む治療を実施するということです。
同研究メンバーの一人でありIBDプラス「腸内細菌を学ぶ」のコーナーでご協力いただいている順天堂大学の石川大先生は「本技術をがん患者さんに応用できること大変嬉しく思っています。腸内細菌叢移植は、潰瘍性大腸炎をはじめ、今後さまざまな疾患における治療の選択肢となる可能性を秘めています。研究の成果を多くの患者さんに一日でも早くお届けできるよう、研究を進めてまいります」と、述べています。
(IBDプラス編集部)
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