サラリーマンの自分が「住職」に!? 思いもよらなかった転身が教えてくれた大切なこと

ライフ・はたらく2023/4/28

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今回の「仕事・はたらく」でご紹介するのは、潰瘍性大腸炎発病後に経理から住職へと驚きの転身を遂げた、んがぽこ_潰瘍性大腸炎さんです。望んでいた部署への異動が決まった直後に、住職という未知の仕事に就くことを決めた理由とは?法事やお葬式での対策、Twitterで変わったという病気との向き合い方についても伺いました。

んがぽこ_潰瘍性大腸炎さん(40歳/潰瘍性大腸炎歴13年)

子会社に出向し、経理として多忙な日々を送っていた27歳の時に潰瘍性大腸炎を発症。食生活を改善しつつその後も勤務していたが、ある日突然親戚から「お寺の後継者になって欲しい」という話が舞い込み、思い切って転職。妻と二人三脚で古くから続くお寺を守っている。1歳と5歳の息子が小学生になったら一緒に山登りするのが夢。

食生活の乱れも気に留めず深夜まで働きづめの毎日。気付けば「潰瘍性大腸炎」に

――潰瘍性大腸炎と診断されるまでの経緯をお聞かせください

2010年頃から激しい腹痛と下痢が2~3か月続き、血便も出るようになりました。やがて体重が減り、39度くらいの高熱が1週間近く続いたため近所の病院を受診しました。「潰瘍性大腸炎かも」と言われ、数日後に大腸内視鏡検査を受け、潰瘍性大腸炎と診断されました。

私自身、潰瘍性大腸炎という病気を全く知らなかったので、先生のメモを頼りにネットで調べたことを覚えています。当時交際中だった妻、両親、上司にもすぐに伝えました。動転した母が連絡したようで、姉からIBD患者さん用のレトルト食品が送られてきたのには驚きました。会社もすぐに私をフォローするためのヘルプ要員を配属してくれて、とても働きやすくなりました。

――発症のきっかけとして、思い当たることはありますか

当時まだ20代で経験も浅かったのですが、出来たばかりの子会社に経理として出向していました。そのプレッシャーがありましたし、周りには知り合いもおらず孤独でした。毎日残業で、深夜にファストフードを食べるなど、食生活も乱れていました。食べても全く太らない体質だったので、何を食べても大丈夫だと思い込んでいたんです。

――潰瘍性大腸炎になってから、食生活は変わりましたか

栄養を気にするようになりましたし、肉は赤身、野菜は火を通すなど、食べ方も注意するようになりました。今は白米、煮魚、野菜スープなどが中心で、肉は極力食べないようにしています。もちろん、妻や子どもは別のものを食べています。

――これまでの治療についても教えてください

確定診断された時は軽症に近い中等症と診断され、アサコールとステロイドの注腸剤を使って1か月くらいで寛解しました。2019年にリアルダとシンポニーに切り替えて2022年の8月までは寛解状態だったのですが、その後体調を崩し、2023年の2月からシンポニーをステラーラに切り替えました。幸い検査入院以外の入院経験はありません。

会社員人生の夢が叶った直後に「住職」になることを決意

――経理から住職に転職されたきっかけを教えてください

先代の住職(以下、先代)が、私の親戚だったというのが一番大きいですね。跡継ぎがいなくて困っているという話が、父から私のところに来たんです。私自身、経理になって「連結決算」に携わることを目標に頑張ってきました。実は、住職の話をもらう1週間位前に、連結決算を行う部門に配属されました。夢が叶うとわかって嬉しかったのですが、同時に「目標を達成できたし、もう十分かな」と思ったんです。もし、その異動がなかったら、今も目標に向かって経理を続けていたかもしれません。

経理は3か月に1度、ものすごく忙しい時期が来ます。正直、病気になってから身体が相当しんどかったので「これを定年まで続けられるかな…」と、いつも不安に思っていました。また、転勤が多い会社だったので、住職になることが落ち着ける最後のチャンスかもしれないと考えるようになりました。

その後、実際にお寺を見に行ったのですが、思っていた以上に立派で、「こんなに素晴らしいお寺を守っていけるなんて、自分の人生として悪くない」と、心が決まりました。

欠かせないスキルは「傾聴力」!自分の代わりはいないという覚悟が必要

――実際に住職になってみて、いかがでしたか?修業期間などはあったのでしょうか

本堂の屋根

お坊さんというと、どこかのお寺で一定期間修行するというイメージだと思いますが、うちのお寺はそういったことはありませんでした。代わりに最初の数か月は先代の住職について、妻と一緒に法務をしながら学んでいくという感じでした。昔から「定年を迎えたら妻と一緒に何かやりたいな」と思っていたので、一足先に夢が叶った感じですね。時にはケンカすることもありますが、強い味方がいてくれる感じで心強いです。

檀家さんとの関係は思った以上に密で驚きました。家族よりも家族みたいな関係で、息子さんが知らないことを先代が知っていたりしますし、数年前にあったことをすごくよく覚えておられます。一家族に10人くらい親族がいるので、それぞれの顔と名前を覚えるだけでも大変です。一方で、経理のように納期があるわけではないので、自分のペースで進められるのはありがたいですね。もちろん法事は決まった日に行いますし、お葬式など突発的なものもありますが、それ以外は、マイペースに進められます。

――お仕事の1日の流れについて教えてください

朝6時くらいに本堂に行って、お花のお水の交換やお勤めを30分くらい行います。その後は、子どもに朝ご飯を食べさせて幼稚園に送ります。下の子はまだ1歳なので、上の子は私が見ることが多いですね。9~10時くらいから檀家さんのお宅を回ります。法事はもちろんのこと、うちの地域は「月参り」というのがあり、毎月その方が亡くなった日にお参りをします。それが大体月に80件くらいあります。多い時は1日に8件くらい伺うこともあります。食事は全てお断りしているので、長くなりそうな時は車の中でおにぎりを食べてから伺うようにしています。それが終わるのが大体お昼~夕方になります。うちのお寺は墓地が無いので、檀家さんがお寺に来るということはありません。そのため、お寺に戻ってからは比較的自由で、庭掃除をしたり事務作業をしたり、時には子どもと思いっきり遊ぶこともあります。

――法事やお葬式など、トイレに行けない時の対策はされていますか

あまり食べないようにしています。法事が重なる時は、数日前から食べないで挑むこともあります。以前、お参り中に急におなかが痛くなって、少し漏れてしまったことがあるんです。その時は急に体調が悪くなったと、すぐに帰らせていただきましたが、以降は、おむつを使うようになりました。生理用ナプキンを使うこともあります。

――住職になってから変えたことはありますか

先代から受け継いだ紙の書類をExcelに入力して管理しています。戒名など紙で管理していると、何かあった時大変ですから…。また、檀家さんからのお米の納付や、形骸化していた婦人会は廃止しました。これらは檀家さんから喜びの声をいただきましたし、先代も実はやめたかったと打ち明けてくれました。ただ、あまり変えすぎるのも良くないと思っているんです。「いつ来ても変わらない心安らぐ場所」として、これからもお寺を守り続けていきたいですね。

――住職になって印象に残るエピソードがあれば教えてください

仕事ですごく苦労されている方が、「自分の娘がもし同じような苦しみを味わった時にアドバイスができるよう、自分は今、苦しみを味わっている」とおっしゃっていたことに衝撃を受けました。それまで、病気の苦しみにただ耐えるだけでしたが、このお話を聞いてからは「子どもが不摂生な食生活を送っていた時にアドバイスをしてあげられる。もし、同じ病気になってしまったとしても自分の経験をもとにアドバイスできる」と、考えられるようになりました。

――IBD患者さんで住職を目指している方へのアドバイスをお願いします

経本・数珠・扇子

コミュニケーション能力が必要な仕事だと感じます。年配の方と接する機会が多くなりますが、話をただ聞くのではなく、相手の気持ちに共感しながら「傾聴」することが大事です。住職はそう簡単に辞められないので、なろうと決めたら転職という感覚ではなく、覚悟を持ってください。

少欲知足。無いものに目を向けるのではなく「いま」に感謝して

――IBD 患者さんにメッセージをお願いいたします

仏教用語に「自業自得」という言葉があります。かつての私は全てこの言葉で片付けていました。病気になったのも、働き過ぎて不摂生な生活を送っていた自業自得だと。でも、Twitterでまだ幼い子どもさんがIBDになって治療を頑張っているのを見て「自業自得ではない」と思ったんです。それからは、「少欲知足」と考えるようになりました。少欲知足とは、無いものに目を向けるのではなく、今この状態に満足すること。もっと良くなりたい!好きなものが食べたい!ではなく「今の自分がここにいるだけで十分だ」と考えるようになってからは、気持ちが楽になりました。

この病気は個人差があるので、治療も食べ物も人によって合う・合わないが違うと思います。なので、自分に合う食べ物を探しながら、適切な治療をしてくれる先生を見つけて、無理せず過ごして行きましょう。

(IBDプラス編集部)

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