アイデアで世の中を変えてやる。読書をしない潰瘍性大腸炎の僕が無人古書店を始めたワケ

ライフ・はたらく2023/5/30 更新

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今回の「仕事・はたらく」でご紹介するのは、無人営業の古書店「今時書店」(いまどきしょてん)オーナー・平 碧仁さんです。潰瘍性大腸炎の発病でアーチェリーの日本代表選手という夢を諦めた平さんですが、家族のため、そして自分自身のために、高校生で起業を決意。オープンまでの道のり、想い、病状などについて詳しく伺いました。

平 碧仁(あおと)さん(22歳/潰瘍性大腸炎歴6年)

11歳からアーチェリーを始め、14歳で日本代表強化選手に選抜されるも環境の変化によるストレスで体調を崩し、15歳で潰瘍性大腸炎を発症。その後、両親が所有する空きビルの1階を無人店舗にすることを思いつき、高校3年生、18歳の時に無人営業の古書店「今時書店」を開業。現在は都内の大学に通いながら、今時書店の運営、各地の起業家イベントなどで講演を行っている。
今時書店ホームページ:https://imadoki-shoten.com/

まさか僕が難病になるなんて…潰えた「アーチェリー日本代表選手」の夢

――潰瘍性大腸炎と診断されるまでの経緯を教えてください

中学2年生の時にアーチェリーの日本代表強化選手に選ばれて急激に環境が変わり、それを境に下痢をするようになりました。それがだんだんひどくなっていき、中学3年生の頃には1日30回くらいトイレに行くようになりました。その影響で食欲も無くなり2日に1食取るのがやっとというような状態で、学校も休みがちになりました。当然、アーチェリーにも支障が出始めました。強化選手は2か月おきに招集されるのですが、5回目くらいの合宿中に体調を崩し、帰ってすぐに近所の病院を受診しました。

しかし、なかなか診断がつかず、紹介された消化器内科で受けた大腸内視鏡検査でようやく「きわめて重症に近い中等症の潰瘍性大腸炎」と診断されました。高校は県外にあるアーチェリー強豪校への進学が決まっていましたが、いつ寛解するかもわからないし寮生活は無理だろうと、断念せざるを得ませんでした。

――夢の実現間近という中での確定診断で、相当つらかったのではないですか…

まさか、僕がそんな病気になるなんてと思いましたが、「この病気で死ぬことはないし、病状が落ち着けばアーチェリーも続けられると思う」という医師の言葉で、僅かな希望が持てました。アーチェリー部がある地元の高校に進学することになったのですが、診断後はそのまま入学式直前まで入院し、退院後は5-ASA製剤でかなり良くなりました。

――高校の先生や友人に病気の説明はしましたか

先生には病気の説明をしましたが、友人は理解してくれそうな人にだけ「治らない病気で血便が出たりもするけど、学校にも通えているし、俺のステータスみたいなものだよ」という感じで伝えました。

リサーチに2年。潰瘍性大腸炎になったからこそ誕生した「今時書店」とは?

――無人営業の古書店を始めるに至ったきっかけは何ですか

高校1年生の秋頃、家族が所有する4階建てのビルを丸ごと借りていた税理士さんがお年で辞めることになり、空きビルになってしまったことを知りました。両親とも本業があるので店をやるのは難しいし、人を雇うのもいろいろなコストがかかってしまいます。築50年のビルで水回りの設備も脆弱なので、テナントや居住用として貸すのも難しいし、借り手が見つかるかわからない状態でリフォームするのも費用が掛かり過ぎるという状況でした。最初は雑談として聞いていただけですが、「無人店舗」というアイデアを思いつき、家族に提案してみたんです。その時の反応が悪くなかったので本格的なリサーチを開始し、無人でも成立しそうな商品として最後まで残ったのが古本でした。

――この頃の体調はいかがでしたか

5-ASA製剤を使って体調が悪くなったらステロイドをプラス、それでもダメなら入院して絶食というサイクルで何とかやっていました。しかし、X線検査で肺に穴が開いていることがわかり、それが5-ASA製剤のアレルギーによるものだということがわかりました。すぐに生物学的製剤に切り替えたのですが、それもアレルギーが出てしまって1年も使えませんでした。高校2年生になる前にゼルヤンツが発売になり、それはアレルギーが出なかったので高校3年生まで使っていました。ですが、周期的に悪くなるのは変わらず、夏休みは必ずと言っていいほど入院していました。

――その後、「今時書店」をオープンするまでの経緯を教えてください

高校3年生になり、両親を説得して初期費用を出してもらえることになりました。ここからは「ビジネスとして成立させるためにはどうすべきか?」を考えるために時間を費やしました。無人店舗なので特にセキュリティが重要だと考え、Amazonが経営する無人店舗「Amazon GO」なども研究しました。そして、最終的に会員登録情報と鍵を連動させるようなシステムを作りました。さらに、キャッシュレス決済のみにすることで、無人ですが万引きは一度も発生していません。

店舗デザインは最も費用がかかる部分ですが、僕が大好きな家具屋さんの社長がたまたまライフスタイルのセミナーを開催していたので、飛び入り参加して頼み込み、予算内で素晴らしいものにしていただきました。

――お店の古本はブックオーナーが選ばれているとのことですが、本はよく読まれますか

僕自身はほとんど本を読みません(笑)。なので、最初から選書は誰かにお願いしなければと考えており「ブックオーナー」という制度を取り入れました。これは、自分の蔵書を売りたいという人にお店の本棚を貸し出して販売してもらう制度です。おかげで「今時書店」に愛着をもってくださる人が増え、お店が盛り上がるきっかけになりました。多くは県内のお客さんですが、遠方の方が新潟に用事で来たついでに足を運んでくれることもあって、大変嬉しく思っています。

――今時書店にどのような想いがありますか

今時書店は、僕が潰瘍性大腸炎になったからこそ誕生したと言っても過言ではありません。体調不良が続き、高校に行けたのは半分くらい。補講などで先生たちにたくさんフォローしていただき無事卒業することができましたが、「社会に出て普通に働けるのかな」という不安が常にありました。なので、「病気でも無理のない働き方」のプロトタイプ(試作品)を作りたかったんです。また、地方創生にも興味があったので新しいビジネスモデルを提案し、地元・新潟の起業率を上げるための一翼を担えたらと思っています。

病気を「強み」に、起業にこだわらず小さく始めてみるのがオススメ

――お店をより良くしていこうと考えた時に、患者さんとしての視点を入れることはありますか

あります。本を選ぶときに緊張しておなかが痛くなるという人もいますし、病気で体力が落ちている時に荷物を持ったまま本を選ぶのはつらいので、店内には椅子や机を多めに置いています。今はまだ難しいですが、いずれトイレの問題も解決したいですね。

本棚には個性的な本がズラリ

――同じIBD患者さんから起業したいと相談されたら、どのようなアドバイスをされますか

病気になったことをきっかけに起業を思い立つ方も多いと思うのですが、それを「強み」として最大限に活かすべきだと伝えたいですね。例えば、スイーツのお店であれば低脂質にこだわってみるとか、病気の要素をプラスすることで同じ悩みを持つ人たちの目を引きますし、コミュニティができていくと思うんです。

そうは言っても、いきなり起業するというのは、体力面・資金面でハードルが高いですよね。なので、最初は「副業」として始めてみるのが良いと思います。例えば、ブックオーナーをやってみて、反応が良ければSNSを活用してネット専門の書店を始めてみるとか、小さいところから徐々に大きくしていく感じです。また、本業だけではなく、いろいろな道に種をまいておくのも大切だと思います。僕も最初はアーチェリーだけでしたが、それが種となって広がって、今につながっている感じがします。

アイデアは日常にある。仲間と一緒に自分の「想い」を形にしてみて

――経営者であり大学生でもある平さんですが、これからチャレンジしたいことや夢について教えてください

今時書店のビルの2階でカフェを始めようと、ちょうど話を進めているところです。僕自身はコーヒーをあまり飲まないのですが(笑)、カフェにこういう要素を足したら面白そうというアイデアがあるので、それを実証したいです。将来的には4階全てにお店が入っている状態にしたいですね。

大学は法学部で、同級生は弁護士や政治家を目指す人が多いです。僕自身はもう少し自由に考えていて、4年で卒業するということにもあまり固執していません。「いろいろな社会問題を知りたい」という気持ちを強く持っていて、自分のアイデアで1つでも多く解決したいし、世の中を変えていきたいと思っています。そう考えると、起業家というのがやりたいことに一番近いかもしれませんね(笑)。

――IBD 患者さんにメッセージをお願いいたします

芸人の千原ジュニアさんが座右の銘を「!」と「?」だとおっしゃっていました。「!」は気づきで、それに対してなぜそうなっているんだろうと感じる気持ちが「?」だと。僕も日常の「!」と「?」を探していくことで、人は進化し続けられると思っています。でも、そこでアイデアを思いついたとしても、形にするためには「仲間」が必要です。最初はIBDプラスさんの記事を読んで「こんな人がいるんだ」と知るだけでも十分だと思います。少しずつコミュニケーションの輪を広げて、いつか自分の「想い」を形にできるよう、病気の自分をポジティブに昇華できるよう、みんなで頑張っていきましょう!

(IBDプラス編集部)

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