カプセル内視鏡・バルーン内視鏡-正しく知って備える
医師インタビュー | 2022/7/27 更新
飲み込むだけで内視鏡検査ができる「カプセル内視鏡」。奥まで診ることが難しい小腸の観察・治療まで行える「バルーン内視鏡」。どちらも魅力的な検査ですが、これらについて事前に調べて理解することは、なかなか難しいですよね。そこで今回は、香川県立中央病院 消化器内科・部長の髙橋索真先生に、詳しく、わかりやすく解説いただきました。
カプセル内視鏡は通常の内視鏡検査に比べて本当にラク?検査終了までの過ごし方は?
――カプセル内視鏡はどのような検査ですか
飲み込むだけで消化管の検査ができる画期的な検査です。現在、日本では小腸用と大腸用のカプセル内視鏡が保険適用となっています。どちらのカプセル内視鏡も、動きが速い時には多数の写真を撮影し、あまり動かない時にはバッテリーの節約のため、撮影枚数を減らすように設定されています。撮影された写真は腰に装着したレコーダーに無線で送信され、保存されます。いずれのカプセル内視鏡のバッテリーとも、10時間ほどはもつとされています。検査終了後、レコーダーに保存された画像を専用のコンピューターにダウンロードし、画像を解析します。かなり鮮明な画像が得られます。
クローン病では小腸に狭窄(腸管が狭くなっている部分)が存在する可能性が高いことから、検査前に「パテンシーカプセル」という、小腸用のカプセル内視鏡と同じ大きさで、非溶解性のコーティング膜の内部に乳糖と硫酸バリウムが充填されたカプセルを飲んでいただきます。その後、専用のネットで便座を覆った状態で排便していただき、パテンシーカプセルの排出を確認します。カプセルが30時間以内にボディー部分の変形なく排出された場合は「消化管の開通性あり」と判断し、小腸用のカプセル内視鏡検査を行います。30時間以内に排出されてもボディー部分に変形があった場合は、狭窄が存在する可能性が高いため、カプセル内視鏡検査は中止します。30時間以内に排出されなかった場合は、腹部X線・CT検査などを行います。パテンシーカプセルが変形なく大腸に到達していることが確認できた場合は「消化管の開通性あり」と判断し、小腸用のカプセル内視鏡検査を行います。
ただし、高度の狭窄が存在する場合は、パテンシーカプセルでも腸閉塞を発症することもあるため、パテンシーカプセル検査自体を避ける必要があります。
――他の内視鏡検査と比較しての特長はありますか
特に小腸は、成人では長さが6〜7mあるうえ無数の屈曲もあり、通常の内視鏡での観察は困難です。その点、カプセル内視鏡は、飲み込むことができれば比較的簡単に消化管の観察ができるというのが大きな特長だと考えます。
一方、大きくて飲み込みづらいこと、狭窄がある患者さんではカプセル内視鏡が通過できず腸閉塞などを発症するリスクがあること、体外に排出されるまではMRI検査を受けることができないことも、知っておいていただきたいですね。
――カプセル内視鏡の大きさはどのくらいですか?飲み込めない場合はどうするのでしょうか
臨床現場で使用される頻度の高いコヴィディエンジャパン株式会社のカプセル内視鏡で説明しますと、小腸用のカプセル内視鏡は、長さ26.2mm、直径11.4mm、重さ3.0gで、カプセルの片側にカメラが内蔵されており、1秒間に2~6枚の写真撮影が可能です。大腸用のカプセル内視鏡は、長さ31.5mm、直径11.6mm、重さ2.9gで、カプセルの両側にカメラが内蔵されており、1秒間に4〜35枚の写真撮影が可能です。
飲み込めない場合は、鎮静薬で眠っていただいた状態で、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)のスコープを使用して、カプセル内視鏡を胃・十二指腸まで届けることもあります。
――カプセル内視鏡を飲み込んでから検査終了までの所要時間、流れ、過ごし方の注意点などについて教えてください。排出されたか否かは、どのように判断し、排出されない場合はどうなるのでしょうか
小腸用・大腸用とも、カプセル内視鏡検査の当日朝は絶食となります。
小腸用カプセル内視鏡の場合、検査開始後は帰宅することが可能です。出勤される方もおられます。また、検査開始4時間後からは食事も可能です。当院では就寝前にご自身でレコーダーを外し、翌日持参していただいています。
カプセルが排出されるのは、翌日〜数日後が多いです。トイレに流せる数枚の紙や紙のスプーンなどが入った回収用のセットをお渡ししますので、ご自身で排便時に便器の中にその紙を敷いて、その上に排便してカプセル内視鏡が排出されたかを確認し、排出されていれば紙のスプーンで回収し、医療機関に持参していただきます。万が一、カプセル内視鏡が流れてしまった場合でも、トイレが詰まることはありませんのでご安心下さい。
大腸用カプセル内視鏡の場合、大腸の便を洗い流し、かつバッテリーの駆動時間内に全大腸の観察を終了させる必要があるため、カプセル内視鏡を飲む前日から飲んだ後にかけて、2~5リットルの腸管洗浄液と下剤を内服します。また、小腸用カプセル内視鏡と同様の回収用セットを用いてカプセル内視鏡の排出を確認し、回収する必要があります。このため、検査中は医療機関内で過ごしていただく場合が多いです。
カプセル内視鏡が数日経っても排出されない場合は、腹部X線・CT検査などで確認します。カプセル内視鏡が大腸に達していれば自然排出を待ちますが、小腸にとどまっている場合は狭窄が存在する可能性があるため、後述するバルーン内視鏡を用いて回収を試みます。それでも回収できない場合は、外科手術を検討します。
シングルバルーンとダブルバルーンの違いは?バルーン拡張術の特長は?
――バルーン内視鏡はどのような検査ですか
先ほども述べましたが、小腸は長さがあり屈曲もあるため、通常の内視鏡での観察は困難です。この問題を解決するために、バルーン内視鏡が開発されました。「オーバーチューブ」という、先端にバルーンがついた透明の柔らかい筒の中に、2m前後の長さのある内視鏡スコープを通した状態で使用します。オーバーチューブ先端のバルーンを膨らませ、腸管を支えておくことで、屈曲した腸管が引き延ばされることを防ぎ、小腸への挿入を比較的容易に行うことができます。また、「観察」するだけではなく、組織検査や、拡張術、ポリープ切除といった「治療」も行えるという特長があります。
――シングルバルーンとダブルバルーンがあると聞いていますが、2つの違いを教えてください
先に誕生したのは「ダブルバルーン内視鏡」で、私の母校である自治医科大学の先輩の山本博徳先生が数年かけて開発した、日本生まれの技術です。内視鏡スコープの先端にもバルーンがついていて、オーバーチューブのバルーンと内視鏡スコープの先端のバルーンを時間差で拡張させることで、尺取虫のように小腸の奥深くまでスコープを進めることができます。スコープを操作する人、オーバーチューブを持つ人の2人での挿入が基本になります。
「シングルバルーン内視鏡」は、内視鏡スコープの先端にはバルーンがついていません。このため、ダブルバルーン内視鏡に比べると挿入できる範囲は短くなりますが、操作性はシングルバルーン内視鏡の方が高く、医師1人で挿入できる場合もあります。
高価な機器であることから、どちらか一方のみ置いてある医療機関がほとんどだと思います。
――口と肛門、どちらから挿入するのでしょうか。検査には入院が必要ですか
目的とする病変が口に近い場合は口から、肛門に近いと予想される場合は肛門から挿入します。口から挿入する場合は、十二指腸にある膵臓で作られる膵液の出口をスコープが圧迫するために、検査後に膵炎を発症するリスクがあります。肛門から挿入する場合は、大腸の便を洗い流しておく必要があるため、検査の直前に腸管洗浄液を飲んでいただく必要があります。
検査時間は1〜2時間要する場合が多いため、口から挿入する場合は鎮静薬・鎮痛薬を使用し、眠った状態で検査を行います。前述の通り膵炎を発症するリスクがあるので、検査当日の夜は絶食の上、一泊入院していただいています。肛門から挿入する場合は当院では鎮痛薬のみを使用する場合が多く、当院では観察のみの場合は外来で行っています。腹腔内の癒着が強い方では小腸の挿入時に痛みが出現しやすく、スコープ操作によって穿孔(せんこう、穴があくこと)をきたすリスクがあるため、注意が必要です。
――バルーン拡張術について、患者さんにはどのような手技だと説明されていますか?
内視鏡を狭いところまで進めて風船で広げるような治療だとご説明しています。手術をしなくて良いという特長もあります。
――手術ではなくバルーン拡張術を選択するケース、手術でなければダメなケースについて教えてください
クローン病の方では小腸に狭窄が出現し、腹痛や腸閉塞の原因となる場合があります。狭窄を認めた場合は、ガストログラフィンという造影剤を用いて狭窄部の前後を造影し、狭窄の長さなどを計測します。数cm以上の長さの狭窄の場合は、バルーン拡張術は困難で、外科的に狭窄部を切除したり、形成術を行う必要がありますが、数cm以内といった短い狭窄の場合は、バルーン内視鏡下のバルーン拡張術が有効です。拡張後に出血・穿孔をきたすリスクがあるため、当院では検査当日の夜は絶食の上、入院していただいています。短い長さの狭窄でも深い潰瘍を伴う場合は出血・穿孔のリスクが高いため、外科手術を行うか、薬物治療で潰瘍を治してから拡張術を行います。
――バルーンで拡張させた狭窄は、拡張された状態がずっと維持されるのでしょうか
バルーン拡張術は、外科手術と比べると痛みも軽く、短い入院期間で済みますが、再狭窄になりやすい点は注意が必要です。再狭窄になってしまった場合でも、バルーン拡張術が有効です。直接的に再狭窄を予防する方法は今のところありませんが、まずはクローン病に対する適切な治療を続けることが大切です。
――最後に、医師としての想い、IBD患者さんへのメッセージをお聞かせください
私は中学生の時に父を白血病で亡くしたことがきっかけで、医師を志し、自治医科大学に入学しました。また、私自身が過敏性腸症候群(IBS)で、トイレに駆け込むような経験を多くしていることから、患者さんの数が急増しているIBDに興味を持ち、自治医科大学卒業生の義務である離島での勤務を修了した後、岡山大学の大学院に入学し、IBDについて学びました。アメリカ・ミシガン大学に留学する機会もいただき、IBDの基礎研究で学位を取得しました。そして、2014年から故郷にある香川県立中央病院で、IBDを中心とした消化器疾患の診療に従事しています。2017年には四国初となる「IBDセンター」が設立されました。現在、内科・外科・小児科などの医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、地域連携室のスタッフが連携し、約420人の潰瘍性大腸炎患者さん、約170人のクローン病患者さんを診療しています。
IBD診療の最終的な目標は、患者さんが家庭や社会で輝けることだと考えています。安定した状態を保てるようにすることはもちろん、合併症や薬の副作用で患者さんが困らないように配慮しながら治療にあたっています。母校である自治医科大学の校歌に、「医療の谷間に灯をともす」という歌詞がありますが、IBD診療は専門医が少なく、「医療の谷間」の側面があります。コロナ禍でもあり、みなさんも大変な日々をお過ごしのことと思いますが、わからないこと、不安に感じることがあれば、まずは気軽にかかりつけ医療機関の医師・スタッフにご相談下さい。
(IBDプラス編集部)
2000年 香川県立中央病院・研修医
2002年 直島町立診療所
2005年 小豆島町立内海病院 内科
2009年 岡山大学病院 消化器内科・医員
2011年 日本学術振興会ITP研究員として米ミシガン大学病理学研究室に留学
2014年 香川県立中央病院 消化器内科 医長
2017年 香川県立中央病院 消化器内科・部長、IBDセンター・副センター長兼務
2021年 岡山大学 臨床講師兼務
2021年 自治医科大学 臨床准教授(地域担当)兼務、現在に至る
〈資格・所属学会〉
医学博士
日本内科学会 総合内科専門医、指導医
日本消化器病学会 専門医
日本消化器内視鏡学会 専門医、指導医
日本カプセル内視鏡学会 認定医、指導医
日本救急医学会 認定ICLS(心肺蘇生)ディレクター
IBDプラスからのお知らせ
治療の選択肢が広がる「治験」に参加してみませんか?IBD治験情報サービスへの無料登録はこちら会員限定の情報が手に入る、IBDプラスの会員になりませんか?
IBDプラス会員になるとこんな特典があります!
- 1. 最新のニュースやお得な情報が届く
- 2. 会員限定記事が読める
- 3. アンケート結果ダウンロード版がもらえる