初心者でもわかる「生物学的製剤」それぞれの特徴とメリット・デメリット
医師インタビュー | 2023/7/14
昨今、IBD治療薬の進歩とともに生物学的製剤の種類も増え、「主治医からいくつか勧められたけど違いがわからない」「自分の病状や生活スタイルにはどれが合っているの?」など、多くの声が寄せられています。そこで今回、横浜市立市民病院 消化器内科の福田知広先生に、生物学的製剤のメカニズムや製剤ごとの特徴について、あまり詳しくない人にもわかるように、丁寧にご説明いただきました。
もくじ
生物学的製剤ってどんな薬?マウス由来・ヒト由来って何のこと?
――生物学的製剤とはどのような薬なのでしょうか
薬というと、一般的には化学的に合成して作る「化合物」を指すことがほとんどです。これに対し、生物学的製剤は、人間をはじめとする生物の体で作られる「タンパク質」を薬として利用します。特に炎症性腸疾患(IBD)では「抗体製剤」と呼ばれる、特定の炎症を起こしている物質にだけ効くように作られている生物学的製剤が多いです。
IBDの原因はまだ完全にはわかっていませんが、原因の一つに免疫の異常があると知られています。つまり、免疫反応が過剰に起こって炎症が起きている状態なのですが、さすがに全ての免疫の機能を抑えてしまうわけにはいかないので、炎症を起こしている可能性のある特定の物質に狙いを定め、炎症の原因をピンポイントで治療することができる薬剤が生物学的製剤です。
――生物学的製剤にもマウス由来のもの、ヒト由来のものなどあると聞きますが、これについても教えてください
生物の体内で作られる「抗体」というタンパク質は、風邪を引いたら、抗体ができて次から同じ風邪にかかりづらくなる、というふうな仕組みに関わっています。例えば、ウイルス(抗原)が体の中に入ってきたとき、体の中ではそのウイルス(抗原)に対する抗体が作られるような反応が起きています。抗原に対して抗体を作るのはヒトだけではなく、マウスも作ります。ですので、マウスに特定の抗原を与えて作ったものがマウス抗体になります。
しかし、マウスとヒトの抗体は、若干構造が異なるため、マウスの抗体を薬としてヒトの体内に入れると、免疫系が異物と認識しやすく、有害事象が起きたり、効果が減弱しやすいなどの問題があります。そのため、よりヒトに近い形の抗体製剤の開発が進められてきました。医薬品として使われる抗体には、完全な「マウス抗体」と、抗体が薬として作用する部位だけがマウス型で残り全体がヒト型の「キメラ抗体」、キメラ抗体よりもっとヒト型部分を多くした「ヒト化抗体」、そして「完全ヒト抗体」と、大きく分けて4種類あります。そのうち、IBDの治療で現在使われているのはこのうちの「キメラ抗体」「ヒト化抗体」「完全ヒト抗体」です。
――IBD治療で使われる生物学的製剤にはどのような種類がありますか
IBD治療で現在使われている生物学的製剤は大きく分けて2種類あります。1つ目は「サイトカイン」に関連する薬です。ヒトの体には、細胞から分泌されるサイトカインという生理活性物質があります。これは、細胞と細胞が情報伝達をし合う際に使われる信号のようなものです。このような信号が複雑に絡み合うことでヒトの生体機能が維持されています。多くのサイトカインは体の免疫機能を維持するために使われているのですが、その中に炎症に関わる「炎症性サイトカイン」が何種類かあります。この炎症性サイトカイン中で、IBDの生物学的製剤の治療で標的とされているのが「TNF-α」「インターロイキン(IL)-12」「IL-23」などです。
2つ目は「インテグリン」に関連する薬です。IBDの腸の炎症は「血液中の白血球が腸の壁にくっついて中に入る」ことで起こります。ドアの鍵を開けて部屋の中に入るのと同じように、白血球の表面には鍵がついていて、腸の壁にある鍵穴にその鍵が刺さることで腸の中に入ることができます。この鍵の部分にあたるのがインテグリンという物質です。このパーツはαとβという2種類のブロックからできており、「α4β7インテグリン」がIBDの生物学的製剤で標的とされています。
製剤別に徹底解説!IBD専門医から見た印象は?
福田先生から一言
今回は7つの生物学的製剤をご紹介します。生物学的製剤以外にも難治のIBD患者さんに使用できる薬剤は存在し、実際には非常に多くの薬剤が存在することになります。劇症(非常に病気の勢いが強い場合)の潰瘍性大腸炎の患者さんは、ステロイドの大量静注療法かインフリキシマブ、免疫抑制剤のタクロリムスそしてシクロスポリン(保険適応外)が選択肢となっていますが、基本的にはいずれの生物学的製剤も、はっきりとした効果の優劣はないとされています。薬剤の治療効果を比べた臨床試験もありますが、実際に患者さんが治療を受けてみると人によって効果が異なるため、「一人ひとり正解が違う」と言えるかもしれません。ですので、ここからの話はどの薬が良い・悪いではなく、あくまでそれぞれの薬の特徴を端的にご紹介しているだけということを念頭に置いていただければと思います。TNFαの働きを抑える薬(抗TNFα抗体製剤)
インフリキシマブ(商品名:レミケード)/キメラ抗体
- 0、2、6週目に点滴、以降は8週ごとに点滴。1〜2時間以上かけて投与
- 潰瘍性大腸炎・クローン病で使用可能
先ほどお話ししたTNF-αを抑えてくれる薬です。IBDで最も古くから使われている生物学的製剤で医師の治療経験も多く、エビデンスやデータがたくさん蓄積されています。点滴で投与するお薬で、0、2、6週目に投与し、以降は8週ごとに投与します。これは潰瘍性大腸炎、クローン病どちらでも投与スケジュールは同じです。
ステロイドが効かない「ステロイド抵抗性」の方、ステロイドを減らしたり終了したりすると再燃してしまう「ステロイド依存」の方、症状が急激に出ている重症の方、なかなか炎症が取れない慢性持続の方など、いろいろなシチュエーションで使用しやすい薬剤です。劇症の潰瘍性大腸炎で選択肢となっているだけあって、効き目が出るのも比較的早い印象です。
クローン病では瘻孔や肛門病変ができるなど病態が複雑な患者さんも多いですが、他の生物学的製剤に比較してこれらの病状に対するエビデンスが豊富なのも強みです。
IBDの治療で用いられる生物学的製剤は「抗体製剤」です。この抗体というのは、風邪をひいたときにもう一度ひかないように体内で作られる抗体と同じものです。しかし、薬を体内に入れることで体がそれを「異物」と認識してしまって薬に対する抗体ができてしまうことがあります。これを「中和抗体」と言い、中和抗体ができたことで次第に薬の効果が弱まっていくことを「二次無効」と言います。特にキメラ抗体であるインフリキシマブは二次無効が比較的起こりやすいとされています。
クローン病では、この二次無効も含め、効果が弱くなってきた時に投与量を2倍にしたり、投与間隔を8週から4週に短くしたりできるのも、大きな強みです(潰瘍性大腸炎では、このような使い方は認められていません)。
しかし、使用経験のある医師が多く、最初に使う生物学的製剤をインフリキシマブと決めている医師もいるからといって、一概にインフリキシマブが他の生物学的製剤より優れているとは言い切れないと考えます。
特徴的な副作用としては「インフュージョンリアクション」が挙げられます。これは、生物学的製剤を点滴投与中~投与後24時間以内に現れる過敏反応の一つです。一部の患者さんは、気分が悪くなったり呼吸困難を起こしたりなどの症状が出現します。インフリキシマブ投与中はいつでも起こり得ますが、特に1、2回目の初期に起こりやすいので厳重にモニタリングをする必要があります。他の点滴の生物学的製剤もインフュージョンリアクションは起こり得ますが、インフリキシマブに比べると低率とされています。
――インフュージョンリアクションが起こった場合は、使用を中止するのでしょうか
インフュージョンリアクションが確定しているのであれば基本的には使用を中止して他の薬に切り替えるべきだと思いますが、疑いレベルで他の全ての薬で効果が見込めず選択肢がないようなケースであれば、非常にゆっくり投与したり、ステロイドや抗アレルギー薬を前投与してインフュージョンリアクションが起こりにくくしたりするように試すこともあるかと思います。ただ、安全性を考えるなら他の薬に切り替えた方が良いので、インフュージョンリアクションのリスクを背負ってまで投与する必要があるのかについては慎重に検討すべきだと考えます。
アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)/ヒト化抗体
- 2週ごとの皮下注射。自己注射も可能
- 潰瘍性大腸炎・クローン病で使用可能
インフリキシマブと同じ、TNF-αを抑えてくれる薬です。特徴としては皮下注射で自己注射も可能という点にあります。2週間に1回自己注射が必要です。当院では2回目くらいまで注射の打ち方の指導をして、それ以降はご自身で打っていただいておりますが、多くの患者さんはご自身でスムーズに投与できるようになります。忙しくて通院時間の融通を利かせづらかったり、患者さんで、2週間に1回の投与を忘れないのであれば、とても使いやすいお薬だと思います。潰瘍性大腸炎、クローン病ともに、1回目は160mg、2回目は80mg、それ以降は40mgを2週ごとに投与します。40mg製剤と80mg製剤があるので、初回だけ2本打っていただき、以降は1回1本の投与になります。
また、炎症を抑える寛解導入を経て維持療法となった際、症状がくすぶってきた場合に、投与量を調整できます。潰瘍性大腸炎においては、40mlを1週間に1回に短縮もしくは80mgを2週間に1回投与が可能で、クローン病においては80mg2週に1回投与が可能です。
ただ、点滴と皮下注射の違いなのかもしれませんが、効果はインフリキシマブの方が早く得られる気がします。治療指針的にも、急激に炎症を抑えなければならないような重症の潰瘍性大腸炎患者さんに対しては、インフリキシマブが選択される場合が多いです。
また、アダリムマブは固定で160、80、40mgと投与量が決まっていますが、インフリキシマブはその人の体重によって投与量(標準量は体重×5mg)が決まるので、体格による効き目の差は若干あるかもしれません。
一方、皮下注射なので刺した部位が腫れたりするということはありますが、インフリキシマブのようなインフュージョンリアクションは基本的に起こらないとされています。また、ヒト化抗体であるアダリムマブは、インフリキシマブよりも中和抗体ができづらいとされています。
ゴリムマブ(商品名:シンポニー)/完全ヒト抗体
- 0、2、6週目に皮下注射、以降は4週ごとに皮下注射。自己注射も可能
- 潰瘍性大腸炎で使用可能
TNFαを抑えてくれる薬で、現在は潰瘍性大腸炎のみに使用できます。皮下注射で、寛解導入療法は0、2、6週目に皮下注射し、維持療法になると4週間に1回の投与になります。同じ自己注射のアダリムマブと比べ、投与回数が少ないという点がメリットだと言えます。一方で、アダリムマブと違って悪化しても投与量の調節ができないのはデメリットかもしれません。
キメラ抗体のインフリキシマブ、ヒト化抗体のアダリムマブよりも、ゴリムマブは完全ヒト抗体なので、3剤の中では最も中和抗体ができにくく、二次無効になりにくいとされています。同じ「抗TNFα抗体」でも薬剤を変えると効果を発揮することがあるので、一つの抗TNF-α抗体製剤が二次無効になってしまった患者さんに対して、別の抗TNF-α抗体製剤が使われることもあります。
α4β7インテグリンの働きを抑える薬(抗α4β7インテグリン抗体製剤)
ベドリズマブ(商品名:エンタイビオ)/ヒト化抗体
- 0、2、6週目に点滴、以降は8週ごとに点滴。30分以上かけて投与。潰瘍性大腸炎のみ3回目からは2週ごとの皮下注射に変更可能
- 潰瘍性大腸炎・クローン病で使用可能
前述のα4β7インテグリンに作用する薬です。これは潰瘍性大腸炎、クローン病いずれの患者さんにも使用することができます。点滴投与のスケジュールはインフリキシマブと同様ですが、投与時間は30分程度で済みます。
腸にだけ作用し、安全性が高い薬と言われています。一方で、腸にしか効かないというのはデメリットでもあります。IBD患者さんは関節など腸以外の場所に炎症が起こることがあります。しかし、ベドリズマブでは腸の症状が良くなっても関節症状は抑えられない可能性があります(文献によって有効性を示唆する報告もあるので一概には言えませんが)。
また、他の生物学的製剤に比べると効果がゆっくりという印象を持っている人が多いです。もちろん、すぐに効いたという方もいますが、全体で見ると「しばらくしてから徐々に効いてきた」という方が多いので、効いているかどうか早めに判断したい重症の人に使うというよりは、症状に困ってはいるけれどそこまでひどくなく、安全性を重視したいという方に合うと思います。
最近、点滴に加え、潰瘍性大腸炎で皮下注射が適用になりました。開始より6週目(3回目投与予定日)から、2週ごとの皮下注射の製剤に切り替え可能となっています。現状は自己注射ができないので、2週ごとに来院できる人限定ですが、将来的には自己注射できるようになり治療選択の幅が広がると思います。
インターロイキン(IL)の働きを抑える薬
- 抗IL-12/23p40抗体製剤(ウステキヌマブ)
- 抗IL-23p19抗体製剤(リサンキズマブ)
- 抗IL-23p19抗体製剤(ミリキズマブ)
ウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)/ヒト化抗体
- 初回は1時間以上かけて点滴、2回目(8週後)から皮下注射、以降は8〜12週ごとに皮下注射(自己注射不可)
- 潰瘍性大腸炎・クローン病で使用可能
炎症性サイトカインの中に「IL-12」と「IL-23」という物質があります。これは2つのパーツからできており、IL-12は「p35」と「p40」というパーツから、IL-23は「p19」と「p40」というパーツからなっています。どちらもp40のパーツは共通しており、この「p40」働きを抑えるのがウステキヌマブです。ウステキヌマブも潰瘍性大腸炎、クローン病療法に使用でき、ベドリズマブと同様に、安全性が高いと言われています。
初回のみ点滴で、その後は皮下注射する薬剤で、初回投与後は8週後に皮下注射、その後は8~12週ごとという投与間隔になります。この投与スケジュールは潰瘍性大腸炎、クローン病で共通です。投与量はインフリキシマブほど厳密ではありませんが、体重によって3段階に分けられています。そのため、投与量が固定されているアダリムマブ、ゴリムマブ、ベドリズマブに比べると、初回の静脈注射に関しては体格に応じた投与量になると言えます。
皮下注射なので病院の滞在時間が短くて済みます。一方、自己注射ができないので自分で打ちたいという人にとっては面倒かもしれません。また、最大12週まで空けられるので、頻回の通院を避けたいという人にも適していると思います。しかも、8~12週間隔であれば投与可能なので、12週間後に予約していてその間に悪化してしまった場合でも、8週を過ぎていれば投与間隔を早めることが可能です。ただ、初回投与後の2回目の皮下注射が8週後なので、その間は効果が出るのを待つことになるため、初回投与から次の皮下注射までの間の病状をみて、治療を切り替えるのか、効果が徐々に発現する可能性を考えてもう少し様子をみるのかなど、判断が難しくなるケースもあります。(他の多くの薬剤は2~4週で投与のタイミングがあるため)そのため、重症で緊急性を要する患者さんに使うのは難しいかもしれません。
リサンキズマブ(商品名:スキリージ)/ヒト化抗体
- 3回目まで4週ごとに1時間以上かけて点滴、4回目から8週ごとに皮下注射
- クローン病で使用可能
リサンキズマブは、先ほどご紹介したIL-12、IL-23という炎症性サイトカインのうち、IL-23に存在しているp19のみを抑える働きがあります。こちらはクローン病のみに使用できます。
初回~3回目までは点滴で、その後は皮下注射になります。ウステキヌマブ同様、リサンキズマブは自己注射ができません。特徴として、効果が弱くなってきた時に投与量の多い点滴が再び使えるという点が挙げられます。他の生物学的製剤は、定量のベドリズマブを除き、寛解導入時は維持量よりも初回は多い量を投与しますが、その後に初回と同じような量・投与間隔で使用できる薬はありません。クローン病では長期的に病状を見ていく中でまた悪化してくることがよくあるので、病状に応じて投与量をアレンジできるというのはメリットだと言えます。ただ、点滴をしたら次は皮下注射を挟まなければならず、ずっと点滴で維持できるわけではないため、根本的に皮下注射で維持ができない場合は治療を再考する必要があるかもしれません。
ミリキズマブ(商品名:オンボー)/ヒト化抗体
- 4週ごとの投与。3回目まで点滴、4回目から皮下注射
- 潰瘍性大腸炎で使用可能
ミリキズマブは、先ほどのリサンキズマブと同じIL-23のp19に対する抗体製剤です。こちらは潰瘍性大腸炎にだけ使用することができます。最初の3回が点滴注射で、それ以降は皮下注射という点はリサンキズマブに似ていますが、ミリキズマブの投与間隔は点滴の時も皮下注射の時も4週ごとです。また、ミリキズマブは効果が不十分な時には、最初の投与から12週目以降であれば3回の点滴をもう一度行うことができます。まだ2023年の6月に使われるようになったばかりなので、実際の臨床現場における感触はこれからわかってくることと思います。
なお、ミリキズマブは現在自己注射ができませんが、1年ほどで自己注射が可能となります。
生物学的製剤とチオプリン製剤が併用されることがあるのはなぜ?
――生物学的製剤の治療でチオプリン製剤(免疫調節薬)を併用することが多いのはなぜですか
これには先ほどお伝えした「中和抗体」が関わってきます。中和抗体ができることで生物学的製剤は二次無効になりやすくなってしまいますが、チオプリン製剤には中和抗体ができるのを抑える働きがあります。特にインフリキシマブはチオプリン製剤を併用すると中和抗体ができにくくなることがわかっています。しかし、他の生物学的製剤ではインフリキシマブほど明確な併用の効果は証明されていません。
また、そもそもチオプリン製剤はステロイド依存(ステロイドを減量、終了すると再燃してしまう)で難治の患者さんに使われます。つまり、チオプリン製剤自体にも炎症抑制効果があると言えます。そのため、インフリキシマブ以外の生物学的製剤を使っている場合でも、その薬だけで炎症が抑えきれない場合は、現在は生物学的製剤を2つ以上同時に使うことは一般的ではないため、治療効果の上乗せを期待してチオプリン製剤を追加することがあります。
――生物学的製剤の二次無効を心配される方も多いですが、先生は患者さんたちにどのように説明されていますか
どの薬も、長期的に使用すると効果が薄れていく可能性がある、ということは正直にお伝えしています。効いたとしても、その効果がいつまで続くのかは正直誰にもわかりません。ですから、定期的な診察を受け、病状や採血、内視鏡などの画像検査をチェックして、今現在の病状をしっかりと把握し、治療効果がきちんと得られるよう治療を続けていくことが大切だと思います。
また、先ほどお話ししたように、薬によっては投与量のアレンジが可能な薬もあるので、調整しながら、できるだけ長く使えるような方法を探っていくようにしています。このように、長く使うための工夫ができるということを患者さんは意外と知らないので、ぜひこの機会に知っていただけたらと思います。
――今後、生物学的製剤の治療はどのように変わっていくと思いますか
昨今は生物学的製剤に限らず、IBD治療薬が増えてきているので、どれを使ったらいいのかわからないという方もたくさんいらっしゃると思います。正直なところ、治療効果や副作用は個人個人で異なりますので、患者さんが治療選択する際に、絶対に違いがわかるポイントは「投与スケジュール」と「投与方法」になるかと思います。
もちろん根本的に続けられないスケジュール、投与経路の薬を選ぶわけにはいかないので、とても大事なポイントですが、今後はこれに加え、投与前に一人ひとりにとって有効性、安全性が判断できる最適な生物学的製剤を見つけられるようになると良いと考えます。例えば投与前に採血して、「この結果であればあなたにはこの生物学的製剤が合いますよ」と、根拠を持って示せるようになっていくのではないかと思いますし、僕自身もそれを期待しています。
治療に限らず「生活面の困りごと」を伝えることが、より良い治療につながることも
――IBD患者さんにメッセージをお願いします
IBDは一生付き合っていなかなければならない病気ですが、最近では病状のコントロールさえできれば健常人とほとんど変わらない生活ができると言われています。しかし、治療中心に考え過ぎてしまって、学校の行事や就職、妊娠・出産といったさまざまなライフイベントに影響が出てしまうのは悲しいことだと思います。
ですから、治療だけではなく、生活面でも困っていることや要望があれば、遠慮なく僕たち医療者に相談してみてください。例えば「この日に運動会があります」と教えてもらえれば、通院日や検査日の調整はもちろん、当日に万全の体調にするための治療計画や対策も考えることができます。今後もできるだけ患者さんと一緒に考えながら、より良い治療を目指していきたいと思います。
(IBDプラス編集部)
2011年 横浜市立市民病院 初期研修医
2013年 横浜市立市民病院 後期研修医
2015年 慶應義塾大学医学部内科学教室(消化器)入局
2016年 慶應義塾大学医学部大学院入学
2020年 慶應義塾大学医学部大学院卒業
2020年 北里大学北里研究所病院 消化器内科
2021年 横浜市立市民病院 消化器内科 副医長(現職)
〈資格・所属学会〉
日本内科学会(総合内科専門医)
日本消化器病学会(専門医)
日本消化器内視鏡学会(専門医)
日本肝臓学会(専門医)
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