正しく知れば怖くない!IBD治療「副作用」の基礎知識
医師インタビュー | 2025/4/11
近年、急速に進歩したIBD治療。治療選択肢が増えたことで、症状が落ち着き寛解した人も少なくないはず。一方で、治療の効果とともに副作用についても正しく理解し、必要な情報を医師に伝えられるようにしておくことが重要です。そこで今回は、岩手医科大学内科学講座消化器内科分野 准教授の梁井俊一先生に、以前特集したステロイド以外の副作用について、詳しく伺いました。
もくじ
副作用はなぜ起きる?薬を減らせば治まるの?
――副作用はなぜ起きるのでしょうか
まず、副作用はあらゆる薬で起こり得ます。一部の薬剤では副作用が起こる理由が判明しているかもしれませんが、基本的にはわからないというものが多いと思います。この記事の後半で、薬剤ごとにお答えできればと思います。
――投与量を減らせば副作用は治まるのでしょうか
薬の量を減らせば治まるというような簡単なことではないと考えます。例えば、IBDの基本薬である5-ASA製剤は寛解期の維持量から活動期の最大量に増量するときに副作用(5-ASA不耐)が出現することがあります。副作用の症状が強ければ5-ASA製剤の中止だけでは改善せず、ステロイドが必要になります。この場合、寛解後に再度5-ASA製剤を投与するのは患者さんの受け入れを含めて難しいかなと思っています。ウパダシチニブの副作用で多い挫瘡(にきび)については、あくまで臨床経験に基づく私の所見ですが、減量すると、にきびが改善する印象があります。
――消化管以外に副作用と思われる症状が出た場合、他科への受診・通院が必要になりますか
消化管以外の副作用として、例えば皮膚にパラドキシカルリアクション(逆説的反応)と呼ばれる乾癬様皮疹が現れることがあります。この「パラドキシカルリアクション」という名称は、インフリキシマブやアダリムマブなどの生物学的製剤が本来乾癬の治療薬として保険適用されているにもかかわらず、IBD患者さんに使用すると逆説的に乾癬のような皮疹を引き起こすという矛盾した現象を指しています。
このような症状が現れた場合は、必ず皮膚科の専門医に相談・受診していただく必要があります。以前は軟膏などの対症療法で対応していましたが、現在はウステキヌマブのような、乾癬とIBD両方に効果のある別の作用機序を持つ薬剤に切り替える選択肢もあります。特に手や足の裏に出現する皮疹は、痛みや歩行困難を伴うことがあり、患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。現在は薬剤を切り替えるという選択肢があることで、患者さんの治療の幅が広がっています。
合併症なのか副作用なのか見分ける方法は?副作用が出にくいIBD治療薬はある?
――出ている症状が、合併症なのか副作用なのか見分ける方法はありますか
大変難しいところですね。薬の副作用であれば、薬剤投与のタイミングと症状の出現に時間的な関連性があることが手がかりになります。例えば、薬を打った後に症状が増悪し、時間経過で改善した症状が再度薬を打つと悪くなれば、薬の副作用を疑います。このように、薬剤投与と副作用の出現を時系列で見ていくのが良いかもしれませんね。患者さんはすごくご自身のことをわかっていらっしゃるので「あの薬を打ったらおなかは良いけど皮膚は悪いです」とか、自ら異変を伝えてくれます。その意味でも、私は患者さんに、積極的に診療に参加してもらっています。自分の状態を自分で判断していただくというか、いつもと違うことに気付いてもらえれば十分だと思います。
帯状疱疹などの皮膚症状は比較的気付きやすいかもしれませんが、関節痛などはなかなか気付けない方も多いようです。クローン病も潰瘍性大腸炎も関節症状を伴うことがあります。これは腸管外徴候と呼ばれる合併症として捉えるべき症状です。副作用なのか合併症なのかを見分けるためには必要に応じて検査も必要になるので、主治医の先生にご相談されるのが良いと思います。積極的な患者さんなどは5つくらい質問事項を書いてきてくれるので、それには全て答えるようにしています。
――副作用や発がんリスクがあるのに、寛解していても再燃予防で治療を続けなければならないのはなぜですか
副作用と今後の発がんリスクを比較検討した場合に治療を続けていた方がより良い予後が期待できるため、お薬の継続をおすすめしています。例えば、チオプリン製剤はリンパ増殖性疾患のリスクがあることが知られています。インフリキシマブは通常、チオプリン製剤と併用されることが多いです。インフリキシマブはマウスを使って作られたキメラ抗体であるため、体内でインフリキシマブに対する抗体が形成され、効果が低下することがあります。実際に2年程度で約10~20%の患者さんで無効になってしまうと言われています。このようなことを防ぐためにチオプリン製剤を併用します。5-ASA製剤については、寛解状態でも服用を継続した方が発がんリスクを低下させるというデータがあります。
これらを総合的に考えると、寛解していた方が再燃しにくく、発がんリスクも低下するので治療は続けた方が良いでしょう。寛解と一口に言っても症状だけでなく、バイオマーカー(採血・便中カルプロテクチン)・内視鏡の全ての状態を良くしていこうとお伝えしています。内視鏡検査に抵抗感を持つ方もおられますが、内視鏡的寛解のメリットをきちんと説明すると、みなさん理解してくださいます。実際に、寛解してしばらく経つと、症状は全くないのに内視鏡的には炎症が見られるというケースも少なくありません。
――副作用が出にくいIBD治療薬はありますか。副作用の予防・抑制法などもあれば教えてください
薬効的には抗α4β7インテグリン抗体製剤(商品名:エンタイビオ)は腸管に特異的に作用するので、副作用は比較的少ないと言われています。副作用を予防・抑制する方法については、現段階では無いと考えます。
――その他、先生が副作用についてIBD患者さんに知っておいて欲しいこと、診療時によく聞かれてお答えしていることなどがあれば教えてください
さまざまな薬を処方しますが、起こり得るすべての副作用を隅から隅まで説明することは現実的に難しいです。例えば5-ASAによる心筋炎や心膜炎などの副作用の頻度は1%程度と報告されています。心筋炎ですから発症すると非常に深刻な事態になります。治療後に少しでもおかしいと感じることがあれば、すぐにご連絡をいただければと思います。また、肝機能障害のように、自覚症状が出ていなくても血液検査で初めて発見されることもあります。
実際に5-ASAの心筋炎の副作用が起きた患者さんが他院から当院に緊急入院したときのことを鮮明に覚えています。この患者さんは潰瘍性大腸炎の増悪疑いで入院となりました。入院後すぐに私が病室を訪れた際、なぜかベッドに横になっておらず座っていました。それで「なぜ、横になっていないのですか?」と尋ねたら「横になると呼吸が苦しい」とのことだったので、すぐに全身を検査したところ、心筋炎が起きていました。ですから、まずは異変があったら速やかにご相談いただくことが最も大切です。この心筋炎の患者さんはまだ十代でしたし、訴えがなかったらおそらく発見が遅れていたでしょう。軽い症状でも私たちは決して怒ったりしませんので、お気軽にお知らせいただければと思います。
IBD治療薬の副作用について、薬剤ごとに徹底解説!
5-ASA製剤
IBDと診断がついて軽症だった場合、多くは5-ASA製剤が処方されます。しかし、5-ASA製剤の服用で、腹痛・下痢・血便といったIBDと同じような症状が出ることがあります。これは「5-ASA不耐」という副作用で、5~10%の人に出ると言われています。最近の報告で5-ASA不耐の患者さんは増加傾向にありますが、はっきりとした理由はまだわかっていません。一方、かつて5-ASA製剤は多ければ多いほど臨床効果が得られると報告されていました。しかし、その考え方の浸透とともに5-ASA不耐も増えてきたという印象がありますので、もしかすると5-ASA製剤の増量が5-ASA不耐の増加に関係しているのかもしれないと私は思っています。
5-ASA不耐の症状は結構激しく出るので、5-ASAを中止してステロイドを使うことが必要になります。また、下痢や血便だけではなく、心臓・膵臓・関節など、さまざまな場所に副作用が起こり得ます。ですから、薬を出す際には5-ASA不耐が起こり得ることをあらかじめ説明し、具合が悪くなった場合は、早めに受診してもらうようにしています。
――5-ASA不耐はどのくらいで出ることが多いのでしょうか
2週間前後で出ることが多いと報告されています。ちょうど初回に出す薬の量が2週間分なので、次の診察で効果が出ていなかった場合は、5-ASA製剤が効かなかったのか、5-ASA不耐なのか鑑別に迷うことが多いです。ですが、5-ASA不耐は炎症反応が高いので血液検査で炎症の値が高く出たり、高熱が出たりすることがあります。このような場合は5-ASA不耐を疑いますね。
――IBD専門医ではなくても5-ASA不耐に気付くことはできますか
非専門医が気付きやすい場合と気付きにくい場合があると思います。5-ASA製剤処方後の典型的な不耐症状は気付きやすいと思います。一方で、5-ASA不耐が軽い場合、追加の薬剤を投与してしまうことで、5-ASA不耐に気付きにくい場合があると思います。私の経験では、5-ASA不耐に1年半気付かず紹介されてきたケースがありました。5-ASA不耐の症状を治療薬の効果不足と思い込み、いろいろな薬を試していたのです。このように長期間経過してからの紹介となると、さまざまな可能性が考えられるため、5-ASA不耐を発見するまでに時間がかかってしまいます。ですから、初回は可能な限り、IBDを診療している病院や、大学病院と連携している病院を受診されるのが良いと考えます。
チオプリン製剤
東北大学東北大学病院 消化器内科の角田洋一先生がチオプリン製剤の副作用を事前に予測できる「MEBRIGHT NUDT15キット」を開発してくださったことで、大変使いやすい薬になりました。かつては患者さんに使用する際、「100人に1人は髪の毛が全部抜けて、白血球が減少する」と説明しなければなりませんでした。実際にこのような症状が出た患者さんを診察した経験もあります。ですが、今はこのような副作用の出る人が事前に特定できるようになったので本当に助かっています。また、薬剤の量を調整すれば使用できる人も約20%いるとされ、これもキットで見分けることができます。ただし、わかるのは白血球の減少と脱毛なので、どの薬剤でも起こり得る吐き気などの軽い副作用については事前に調べることができないため、実際に使用してみて判断する必要があります。
カルシニューリン阻害薬
重症の潰瘍性大腸炎患者さんに対して、多くが入院管理下で使用される薬剤です。入院という管理体制下での使用となるため、外来治療と比較して患者さんの状態変化に気付きやすいという大きな利点があります。例えば、高血圧・腎不全・振戦(震えて字が書けなくなる等)などは、外来診療ではなかなか発見しにくい症状です。しかし入院中であれば、定期的な採血検査や薬剤の濃度設定も細かく行うので、これらの変化を早期に発見することができます。
生物学的製剤(抗TNF-α抗体、抗IL-12/23抗体、抗IL23抗体、抗インテグリン抗体)
大前提として、この薬剤を使用する前にB型肝炎と結核の既往感染がないかチェックします。このスクリーニング検査を行わずに薬剤を使用すると、肝不全や結核になることもあり得ます。これ以外では、インフュージョンリアクション(点滴時反応)が挙げられます。特に点滴製剤の投与で悪寒がするなど、体に合わない人もいます。
JAK阻害剤
内服薬なので非常に使いやすいです。ただし、特にウパダシチニブ(商品名:リンヴォック)とトファシチニブ(商品名:ゼルヤンツ)は帯状疱疹が出やすいです。今は帯状疱疹のワクチンがあるので事前にお勧めすることもありますが、数万円の費用がかかるので実際に接種している患者さんは多くないようです。一部の自治体は費用の一部助成制度があるようなので調べてみても良いかもしれません。これ以外に、血栓症や心疾患のリスクがあるので、使用は慎重に検討する必要があります。特に妊娠中は使用できないので、妊娠の可能性がある女性は、あらかじめ医師と相談するようにしてください。
経口α4インテグリン阻害剤
カロテグラストメチル(商品名:カログラ)はステロイドを使いたくないという潰瘍性大腸炎の患者さんに使用する薬ですが、1日24錠(8錠×3回)服用する必要があるため、副作用以前に患者さんが飲めるのかという実用面での課題があります。また、2004年に海外で発売されたカログラと同じ作用機序をもつナタリズマブという薬剤で、発売後の治験中に数人の被験者が「進行性多巣性白質脳症(PML)」を発症し、生産中止になったという過去があります。そのため現在も「投与期間は最長6 か月まで、6か月以内に寛解に至った場合はその時点で中止する」という明確なルールが定められています。
整腸剤
推奨用量を超えて服用してしまった場合でも、深刻な副作用が生じる可能性は低いと思われますので、過度に神経質になる必要はないと考えます。
自身のチャレンジやスキルアップを諦めないで。医療者も全力で応援します!
――IBD患者さんにメッセージをお願いします
IBDは生涯にわたる疾患ですが、近年のさまざまな治療薬の登場でQOLは向上していますので、上手に付き合っていきましょう。そのために、私たち医療者も精一杯アシストしますが、主役はあくまで患者さんご自身です。
また、引っ越しで病院が変わることを不安に思い、キャリアアップなどご自身のチャレンジを躊躇してしまう方がおられます。しかし、IBDは数ある疾患の中でもかなり医師同士の仲が良く、医師の紹介など連携もスムーズです。ですから、転院のご相談などはどんどんしていただいて、ご自身の可能性を広げていってください。私たちも全力で応援します!
(IBDプラス編集部)

2003年5月 新日鐵八幡記念病院
2004年5月 九州大学病院
2006年4月 福岡赤十字病院
2007年4月 九州大学大学院医学系学府臓器機能医学専攻博士課程
2011年4月 掖済会門司病院
2014年4月 岩手医科大学内科学講座消化器内科消化管分野助教
2019年4月 岩手医科大学内科学講座消化器内科消化管分野特任講師
2019年11月 岩手医科大学内科学講座消化器内科消化管分野講師
2021年4月 岩手医科大学内科学講座消化器内科消化管分野特任准教授
2022年4月 岩手医科大学内科学講座消化器内科分野特任准教授
2022年12月 岩手医科大学内科学講座消化器内科分野准教授、現在に至る
〈資格・所属学会〉
医学博士
日本内科学会(総合内科専門医)
日本消化器病学会(専門医、指導医、東北支部評議員、学会評議員)
日本消化器内視鏡学会(専門医、指導医、東北支部評議員、学術評議員)
日本消化管学会(胃腸科専門医、胃腸科指導医)
日本小腸学会(評議員)
日本炎症性腸疾患学会(専門医、指導医)
日本大腸肛門病学会
日本カプセル内視鏡学会
AOCC(Asian Organization for Crohn’s and Colitis)