IBDとともに歳を重ねる-高齢発症・病歴の長い患者さんに向けて

医師インタビュー2025/3/10

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「若い頃に発症し、長年IBDと付き合ってこられた方」「高齢になってから新たにIBDと診断された方」など、シニア世代のIBD患者さんは近年、着実に増えつつあります。IBDプラス編集部にも「高齢になってもこれまでと同じ治療で良いのか?」などといった質問が寄せられています。そこで今回は、防衛医科大学校 医学科内科学(消化器)教授の穂苅量太先生に、高齢IBD患者さんの治療や生活の注意点について、詳しく伺いました。

    

発病後10年を過ぎたらすべきことは?若い人と治療は同じでいいの?

――IBDとともに歳を重ねていく上で、誰もが注意すべきことがあれば教えてください

クローン病は発症してから年月が経つにつれて、身体のダメージが蓄積されていきます。そのため、年月とともに活動性が下がっても、消化管の機能などが低下していくリスクがあり、場合によっては手術が必要になることもあります。医師は症状が病気の活動性によるものなのか、これまでの蓄積によるものなのかを見分けて治療にあたっています。

潰瘍性大腸炎は発症直後の5年間が最も症状が重く、手術をしなければならない程の強い再燃がこれより後に起こってくるということは減ってきます。それよりも注意しなければならないのは発がんです。いわゆる「colitis-associated cancer(大腸炎関連がん)」が多くなってくるのが一般的に発病後10年以降と言われています。潰瘍性大腸炎患者さんは1年に1回は大腸内視鏡検査を受けることが勧められていると思いますが、特に発病後10年を過ぎたら大腸がんの早期発見のためにも、強くお勧めします。潰瘍性大腸炎の活動性が下がっている人でも、決して油断しないようにしてください。

――潰瘍性大腸炎患者さんの発がんリスクは、症状の重さによらず10年目から危険性が高まるのでしょうか

活動性が高ければ高いほど発がんリスクは高まります。病状のコントロールが悪ければ、それもリスクが高まるきっかけになると思います。また、発がんを警戒しなければならない目安は発病後10年ですが、高齢者の場合は若い人に比べて臨床症状が出にくいという特徴があります。つまり、潰瘍性大腸炎の症状に気付くまでに時間がかかっている人が多いと考えられています。実際に、若い人では医師が診ても病気になりたてという所見の人が多いのですが、高齢者ではどう見ても診断がつく何年も前に発症していたと思われる人が少なくありません。そうなると、発がんの10年目安というのも前倒しになるわけです。実際に、高齢者の方ががん化するまでの期間がやや短いのではないかということも報告されています。その理由として、正確な発症時期が把握しづらいことで、うまく期間を推定できないという可能性がある一方、生物学的に高齢者の方が、がん化が早く起こるという可能性も否定できないと考えられています。

――高齢になるとIBDの症状が落ち着いてくるというのは本当なのでしょうか

これは高齢者だから症状が落ち着くということではなく、潰瘍性大腸炎の活動性が最も高い(手術に至りやすい)のが発症後5年以内で、その後はだんだん落ち着いてくる人が多いというのが正しいと考えます。

――高齢で発症した場合も、治療は若い人たちと同じなのでしょうか

若い人の治療とは変えた方が良い可能性があります。若い人の場合、活動性を徹底的に下げることを治療ゴールとして、どんどん治療を強化していくと予後が良いという意見が普及していると思います。一方で、高齢者で特に難治性の場合、通常は免疫を抑制する薬を使うことが多いので、それを免疫力が下がっている高齢者に若い人と同じように使ってしまうと、さらに免疫を下げてしまうことになり、感染症や帯状疱疹などのリスクが高まります。超高齢者などは、IBDの症状を改善するためにどんどん強い治療を行った結果、感染症などを起こしてしまい、患者さんにとって不利益な状況につながりかねません。ですから、体力の下がった患者さんの場合にはゴールを若い人と同じように設定するのは難しいですし、治療ゴールをある程度活動性が残った状態にとどめ、治療を抑えた方がメリットが大きいこともあります。

また、潰瘍性大腸炎で内科的治療に限界が訪れた場合の手術に関しても、若い人では「とことん治療をやってもダメだったら手術」という選択が多いですが、高齢者にそこまでしてしまうと、術後に亡くなられたり、手術のタイミングを逸して最悪命を落とされる方もいらっしゃいます。そこで、内科的治療にかける時間を短くし、手術に踏み切る判断を早めに設定して、命を守るのを優先することも少なくありません。

――現在の治療が効いている場合でも、ある一定の年齢に達したら治療を変更した方が良いケースもあるということでしょうか

5-ASA製剤とチオプリン製剤を使って15年くらい経つという患者さんなどもおられますが、さすがに75歳を超えたら「今後はチオプリン製剤を加えていくメリットはあまりないですよね」と、相談してやめる患者さんも多いです。基本的には患者さんにとって病気が落ち着いているのが何よりですし、そこで薬を減量や中止するというのはリスクも伴います。ですが、80歳に近くになってくると、今の治療で寛解している場合でも、思い切って治療を中止する選択をすることもあります。

――IBD専門医ではない医師に長年診てもらっている患者さんの場合、薬の変更や中止について、医師に相談した方が良い年齢の目安などはありますか

高齢者の定義は65歳ですが、治療の変更に関して検討するタイミングは個人差があります。例えば65歳になっていなくても、やせ細っていわゆるフレイル(身体的サルコペニア)になっている方もいますし、80歳を超えても元気そのものという方もおられます。そこには明確な個人差があります。実際に病気が悪くなった時の入院する比率とか手術になる比率なども、暦の年齢よりもフレイルの度合いを判断材料にした方が明確に分類できることがわかっています。ですから、あくまで年齢は目安にしかなりません。しかし、フレイルの判断もなかなか難しいので、年齢で判断せざるを得ない部分もあります。ですから、私たちは多くの人がフレイルになっている75歳を目安に、それ以上の年齢になったら治療の変更を提案しています。

運動をして「若々しさを保つこと」が重要な理由

――病歴が長いベテラン患者さんが注意すべきことがあれば教えてください

やはり「がん」の問題が大きいと思います。がんは、そんなにすぐに症状は出てきませんので、定期的に大腸内視鏡検査を受けていただくことが重要です。「もう病気が落ち着いてきたからいいだろう」ではなく、がん化に関しては日頃の症状では全く予測できないという理解が必要です。潰瘍性大腸炎は基本的には臨床症状が出やすい病気なので、それまでの間に薬の調整をしたり、いろいろな工夫を乗り越えてきたベテラン患者さんも少なくありません。ですが、がんに関してはそれだけでは推し量れないものがあります。大腸内視鏡検査は大変なので医師からも言い出しづらい側面もありますので、自身の身を守ると思って、発病後10年経ったら年に1回は「そろそろ内視鏡の時期ですかね」と患者さん側から声をかけていただけたら嬉しいです(笑)。潰瘍性大腸炎以外の病気を見つける機会にもなります。

クローン病も大腸がんが見つかるケースがまれではありません。ただ、クローン病は「どうすればがんになった時に命取りにならないかを水際で食い止められるか」という検査スケジュールが確立していません。特に肛門周囲のがんや小腸のがんに関しては、早期に見つけるのが難しいと言われています。ですから、潰瘍性大腸炎のように年に1回大腸内視鏡検査をすればがんで亡くなるリスクを下げるというところにまでは至っていません。これは私たちの課題です。現状の私の考えとしては、クローン病でも発がんするということを忘れずに、いつもと少しでも違うことがあったら医師に異変を伝え、検査を受けていただくのが良いと思います。

――歳を重ねても寛解期を維持するために、日常生活でできる工夫はありますか

再燃したときに強い治療が受けられるか否かは「身体的な若々しさがあるか」で決まります。身体的サルコペニアの基準は握力歩行速度で測ります。つまり、筋肉量ですね。筋肉量がしっかりある方は免疫力がしっかり保たれているのか、若い人と同じ治療を受けられる可能性があるので、筋肉を保つために運動などをしていただきたいですね。これは再燃率を下げるためではなく、再燃したときに、若い人と同じ強い治療を受けて再び良い状態に戻せるように若さを保ってほしいという意味です。

食事やお酒に関しては、極端に神経質になる方もおられますが「健康的な食生活」を送ることが一番だと思いますので、ご自身の体調が悪化するようなことがなければ、お好きなものをバランスよく召し上がっていただくのが良いと考えます。お酒も絶対にダメとはお伝えしていません。反対に、「これを食べておけば薬代わりになる」「これさえ避ければ大丈夫」というようなものもないので、適度に普通にということを意識していただければと思います。エレンタールも取れる方は、年齢に関係なく続けていただけたらと思います。

――病歴が長くなると大腸がんリスクが高まるという話も聞きますが、リスクを下げるために日常生活でできる工夫はありますか

病気そのものがきちんとコントロールされていればがんになりにくいと想定されていますが、がんリスクを下げるための工夫というのは今のところありません。年に1回の大腸内視鏡検査での早期発見、適切な治療の継続で良い状態を維持していただくのが良いと考えます。

――高齢者で特に命に関わるような合併症はありますか

潰瘍性大腸炎の高齢者で亡くなった方では「治療の結果、合併症が悪化した」という方がほとんどです。具体的には肺炎や心臓病で亡くなる方が多いです。合併症の数が多いほど入院時の治療経過に関係してくるので、年齢に伴って起きてくる生活習慣病などをできるだけ予防する努力をすることが大切です。

歩く速度と握力の目安は?下痢が治らない人はまず原因の特定を

――体力がなく、体調にも波があるため、長く働き続けることに不安があります。年齢を重ねていく中で、IBDと付き合いながら働き続けるためのアドバイスをいただきたいです

とにかくサルコペニアの予防を心がけてください。体力とIBDは、実は非常に関連の強いものです。徐々に筋力が落ちていくのは仕方がないですが、できる限り体力を落とさない努力をすることは、IBDに限らず広い意味でご自身にとってプラスになります。歩く速度は、他の人の歩く速度に追い付けなくなったら要注意、握力は年齢ごとの平均握力を見て、年相応であれば問題ないと考えてください。体力をつけるには食べることも大切なので、運動を心がけるとともに、食事を必要以上に制限しすぎないようにしていただければ幸いです。

――生物学的製剤を投与して15年程経ちますが、痔ろうは良くなったものの下痢が治りません。食事にも気をつけているのに何か他に対策はありますか

腸そのものは良い状態という前提でお話しします。第一に、その状態が起こっている原因を特定することが大切です。二足歩行の動物はS状結腸が水道管のようにループを描いています。そこにものを貯めて直腸にいきなり便が行かないようにしているため、便意が抑えられています。ですが、炎症が長期間続くと腸が短くなってS状結腸のところが真っすぐになってしまう方がいます。そうなると炎症がなくても便の回数が多くなることがあります。また、過敏性腸症候群が原因の場合もあります。最近では、胆汁性下痢も多いですね。場合によっては、生物学的製剤の二次無効なども考えられます。このように、いろいろな可能性が考えられますので、まずは主治医の先生に鑑別していただくのが良いと思います。原因が特定できれば、適切な治療を受けることができ、おそらく症状も改善されると思います。

適切な治療を続けつつ、長い人生を謳歌して

――高齢になってから潰瘍性大腸炎が悪化し内科的な治療で寛解しない場合、大腸全摘手術は何歳くらいまで行うことができるのでしょうか

年齢制限はないと思います。麻酔が全くできない場合などは別ですが、90歳を超えても体力的に大丈夫であればできます。ただし、大腸を全摘し回腸嚢を肛門につなぐというようなことを考えているとすれば話は別で、高齢者になると多くは人工肛門をつけるだけの手術になります。手術後に寝たきりになってしまうような場合は当然のこと、通常の肛門につなぐ大腸全摘手術だと1日に7、8回トイレに行くというのも珍しくないので、むしろ人工肛門の方が満足度が高いと思われる方もいらっしゃいます。

そもそも、何年後に起こるかわからない大腸がんのことを懸念して大腸全摘する必要があるのかという点も、患者さんと一緒に考えながら治療方針を立てています。寿命などを考慮しながら、また、他にかかりそうな病気なども加味しながら、バランスを考えて治療方針を考えます。

――IBD患者さんにメッセージをお願いします

最近のIBD治療の発展は目覚ましく、特に潰瘍性大腸炎に関しては、多くの患者さんが健康な方と変わらない生活を送れると思います。ですから、病気だからとあまりふさぎ込まず、いつまでも若々しく、活発に人生を楽しんでいただければと思います。

(IBDプラス編集部)

穂苅先生
防衛医科大学校内科学 教授
穂苅量太先生
1991年 慶應義塾大学医学部卒業
2013年 防衛医科大学校内科学講座(消化器)教授
2017年 防衛医科大学校病院光学医療診療部長兼任

〈資格・所属学会〉
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医・評議員
日本消化器病学会専門医・指導医
日本肝臓学会肝臓専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医・社団評議員
日本消化管学会胃腸科専門医・指導医
日本消化器病学会理事
日本炎症性腸疾患学会理事
日本消化器免疫学会理事
日本小腸学会理事
日本消化吸収学会理事
日本リンパ学会理事、副理事長
日本微小循環学会理事
日本臨床中医薬学会理事
日本高齢消化器病学会理事
日本消化管学会理事
日本大腸肛門学会理事
日本潰瘍学会理事
日本神経消化器病学会理事
Interventional IBD研究会代表世話人
アレルギー消化器疾患研究会代表世話人

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